第三十八話 死ぬ覚悟
あれから1時間が経過した。遊園地内は既にかなり人が多く老若男女が笑顔で行き交っていた。
フラブとアリマは変わらず白い丸い机の椅子に座り向い合って周りを見渡しつつ真剣な表情で話をする。
「変わった人は特に居ませんね」
外の席も既に満員で、アリマは本を仕舞って机の直ぐ横で屈んで真剣な表情で地面を見ながら地面に左手を当てていた。
「ああ。だが油断は命取りだ。せめてテロの時刻が分かれば容易いんだがな」
そのアリマをフラブは不思議そうな目で見る。
「何をしてるんですか?」
そしてそう問いながら椅子から立って机の左手側に居るアリマの前で右膝を地面につけてしゃがんだ。
「地中に爆弾が仕掛けられている可能性は否めないだろう。故に地中に根を生やして確認している」
「凄いですね……それと大丈夫ですか? 人既に多いですけど」
心配そうな目をアリマに向けるも、仕事だと言い張るアリマは表情さえ変えなかった。確かに怪しい人を見るような目つきで周りに居る遊園地の客はアリマを見ていた。
「正直に言えばかなり五月蝿いな。耳が良すぎるのも記憶が残るのも考慮すれば余に此の場は不向きだろう」
「強がらないで下さい。人命に関わる状況とは言えアリマさんが苦しむのは嫌です」
心配が勝って真剣に言うフラブだが、またしても心配を振り払うようにアリマは地面から左手を離しながらゆっくり立ち上がる。
「余は大丈夫だ。テロの方をもっと気にした方が良い」
そして左手側のカフェ店内にある時計を見ると、時計の針は10時5分を指していた。
「余が予想を立てた中の1つの時刻の真っ只中だ。急ぐぞ、フラブ君」
アリマは優しい声色でそう言っても人の命が関わっている限りは真剣な顔をしている。それにフラブもますます真剣な表情に変わりながら立ち上がる。
「どこへ?」
「いつでも下へ降りれる且つ上から見下ろせる観覧車かジェットコースターだ。何処が良い?」
「いつでも降りれる……ジェットコースターは怖いので観覧車でお願いします」
それから多々あり、フラブとアリマは観覧車のゴンドラへと向かい合うように乗った。アリマは右手側にある窓から遊園地内の景色が見える位置に座り、ずっと下を見ている。
「……見えるんですか?」
「ああ。余は厄介な事に目も良い。故に人の姿や表情も見える」
きっとそれは観覧車のこの席が1番上にいっても変わらない。しかしフラブが下を見ても服装などがわかるだけで表情までは細かく見えない。
「……化け物ですね」
だがゴンドラが頂上まで来た途端に突如として観覧車が急に停止した。それでもアリマとフラブはこれも予想の範疇にあり常に冷静だった。
しかし窓から外を見下ろしているアリマが少し深刻そうな表情を浮かべて急に、
「フラブ君、ビンゴかもしれない」
「ビンゴ? ビンゴカードがあるんですか?」
「今は君の馬鹿に付き合う時間はない。創造魔法で弓矢を」
冷静にフラブを見て簡潔に指示を出すと、すぐに理解したフラブも真剣な表情に変わって創造魔法で弓矢を一瞬で作りアリマに渡した。
「観覧車を停止すれば余を止められる訳では無い。今度こそ絶滅してもらおうか」
アリマは少し微笑んでいて左手で弓矢を持ちながら簡易型の転移魔法でそのゴンドラの上へ転移した。
コーヒーカップ前に左手の甲に青い蝶の刺青を掘ってる男性をアリマは見つけており。そして立ったまま左手で矢を引いて綺麗な姿勢で構え、その刺青を掘ってる客に紛れている者へ放った。
アリマが放った矢はやはりとても人離れしていて的中するまでの速度は0.1秒にも満たない。風圧も込みでその秒数。そして命中地点には大爆発が起きたかのように煙が舞った。
「……やり過ぎたか?」
だが直後、アリマは背後から殺気を感じ振り返って蹴りを右腕で受け止めた。アリマを蹴った者は左手にあの刺青がある、アリマが矢を放った標的だ。
「やり過ぎでは無かったか。良かった」
安堵したかのように言うアリマは優しく微笑んで男性の姿を完全に視界にとらえた。その男性は全身から血が溢れ出ていて既に満身創痍の状態だった。
「化け物がっ……!」
「何を言う。余の矢を喰らって生きてるだけでお互い様だろう」
しかしその直後、標的の男性の足元から徐々に全身へと上るように──その全身を覆いつくすような可憐な花が咲き始めた。それは服やズボンの布からではなく確実に服を突き破っている。つまり──身体に直接、皮膚からだ。
「……っ!」
男性は目を大きく見開いて冷や汗を流し、咄嗟にアリマから離れてバク転で1つ後ろのゴンドラへ移動する。だが途端に男性の体を埋め尽くす程の無数の花が咲いて男性の体は枯れた花のようになり息を絶えた。
「だが不味いな……」
アリマはそう言って簡易型の転移魔法でゴンドラ内部の元の位置へと戻り。するとフラブは真剣な表情でアリマを見ていて創造魔法を解除しアリマが持っていた弓矢が消える。
「私に出来る事は?」
「──フラブ君、死ぬ覚悟はあるか?」
アリマは真剣な表情でフラブを見て覚悟を問う。
それは対人間であれば重要な覚悟なのだ。
相手の段位がわからない且つ、対して強そうでもない奴ですら相手はアリマの矢を一撃喰らっても命を賭していない。
フラブは少し目を見開くも腑に落として、再び真剣な表情に変わった。
「当たり前です」
「其れなら別行動をしよう。君は南の入り口に……転移魔法は使えるか?」
「やってみます」
──直後、フラブは南の入り口の中央へと転移することに成功した。
** ** * **
だがそこは既に惨状と呼べるくらいにはとてつもなく酷いものだった。そしてフラブの視界の中には沢山の人々の血塗れた姿が目に入る。血濡れた人々は全員が全員、腕や足が胴体からかけ離れて地面に転がっていて、息をしていない。
しかしフラブは意外にもここで唖然としたら我を忘れたりはしていなかった。これに近い、いやこれ以上の惨状を御前試合の際に目にしていたからだ。
── また守れなかった……
そう暗く考えるも、そして1人だけ明らかに異常な殺気を放つ女性が遊園地の入り口に居た。その女性は入り口の中央、より少し奥側にいるのだがフラブを見て笑みを浮かべて立ち止まっていた。
それにフラブも向かい合って怒りを顕にした鋭い目つきで女性の方を見る。
明らかにフラブよりも身長の高く、見てわかる程にスタイルが良い女性。呂色のおさげヘアが特徴的な紺色の目で白いマントのようなローブを着ている一際目立つ姿。
「私、貴女を知ってますよ。確か化け物を内に秘めてるシラ・フラブさん、ですよね?」
その女性の言葉にフラブは驚くような目をするが直ぐ様に訝しむような目に変わった。
「……何者だ?」
「私の名はニベ・ユール。以後お見知りおきを」
女性、ユールは優雅な口調で言いながら楽しそうに微かに笑みを浮かべている。それに対しフラブは心の底からの怒りを剥き出して鉄剣を右手に握り、ユールに鋭い刃先を向けて構える。
「お前が殺したのか?」
2人の距離は4メートルはある。だがその4メートルを短く感じてしまう程に、フラブの怒りは止むことを知らなかった。
「私と戦うことはあまり勧めしません。私は5段以上の力がありますので」
それは段位から見ても否定しない面からみても肯定と受け取ることができる文句だ。
それでもフラブは怒りが途絶えてくれずに彼女に向かって地面を踏み込んだ。全力で走り、だんだんと視界が彼女に近づく。これでも魔法でいつ何時も死ぬ可能性があるこの世界では、日常茶飯事と言えるのだろう。
「聞こえてなかったんですか?」
ユールはフラブの動きが見えていないかのように微動だにせず常に笑みを浮かべていた。怒りで我を忘れるくらいに、フラブは剣を上げてユールを目掛けて力強く勢い良く斬りかかる。
しかしそれは、ユールの左肩に居る可愛らしい超小型の魔獣によって受け止められた。
「──は?」
その光景に目を大きく見開くも、ユールは左足に力を入れて地面を蹴り、フラブの横腹を目掛けて右側の壁に勢い良く蹴り飛ばした。
だがフラブは衝撃で痛々しそうに目を瞑るも歯を食い締めて悲鳴一つとして出さず、蹴り飛ばされても大きな距離が空くことは事はなかった。
すぐに受け身を取ると──地面を蹴って更に元の位置より3メートルほど距離をとる。そして剣を強く握りしめながらユールを強く睨んで警戒するように構え直した。
「何故獣魔物が……?」
「特別な事は何もありませんよ。ただ最適性魔法が魔獣操作というだけ」
ユールが微笑みながら丁寧に教えたその直後のことだ。フラブからみて左後ろの方向、北東側から大爆発の音が聞こえた。
フラブはその方向を勢い良く振り返る。──何が起こったか聞くまでもない程に大きく煙が登っていて、目を見開いて呆然とした。
「間に、合わなかった……?」
今回のテロは爆発を用いられると、事前にアリマから説明を受けていた。フラブにとって人が殺される事は避けたい現実に変わりはない。
しかし、それよりも爆弾らしきものはフラブの視界の中にも止まらなかった。と、なると考えられる可能性は1つだけだ。──それがテロリストの中の1人が扱う《魔法》だということ。
「これでも私と戦いますか? 人命救助を優先する事をお勧めしますよ」
優雅な口調で言葉を発するユールという女性に、フラブは想像を絶する程の殺気をこめながら強く睨みつけた。怒りのあまりに言葉が上手く出てこない。何のためにテロを起こす? 何のために人の命を奪う? そこに理由なんてあるのか?
「そうだ、先程の問いに答えましょう。私は今回、当たり前ですが人を大量に殺しに来たんです。左手の甲に青い蝶の刺青、それが仲間の印。昔にお母さんが隠していた物でもあります」
ユールは優雅に微笑んで優しい口調で説明する。そしてそのユールの背後からは沢山の獣魔物がゆっくり歩いてきた。数えるに直ぐに全ては数え切れない量でフラブは意を決して創造魔法を解除して腕を下ろす。
「……何で人を殺す?」
「私は人が死ぬ時の痛々しい悲鳴が好きなだけ。死ぬ瞬間と死ぬまでの痛みの恐怖、それがとても美しい。戦う気が失せましたか?」
「…………」
ユールはずっと笑みを崩さずに悠々と優雅に微笑みながらフラブを見つめていた。フラブは目の前にいる愉快犯という種類のユールという者の頭がよく理解できなかった。
テロに対する答えが、それか? 人の命を奪う行為が、そんな簡単なもので許されるのか? ──そんな理由で人に笑顔を与えてくれる遊園地を選んだのか?
「……守りたい」
フラブは暗い表情で微かに震えた声色でそう言うも前を向き左手を前に出してユールに翳す。ユールは小首を傾げるも直ぐ様に目を大きく見開いて慌てるような素振りで冷や汗をかいた。
──創束魔法『一万ノ槍』
冷淡としてフラブが魔法を使用した直後、魔物もユールも一万の槍で円を描くように囲われた。この時、フラブは魔力の配分なんてものは視野の中に全く入っていなかった。
「あはっ! いい殺意ですッ!」
ユールはフラブから溢れる冷たく鋭過ぎる殺気に微動だに動けなかった。だが意を決しローブの中から右手でタガーナイフを取り出して左腕を刺した。
「恐怖は痛みで殺せる……!」
その箇所から血が流れ、ユールは痛みに顔を顰めるがフラブを一瞥して笑みを浮かべた。
「貴女はどんな恐怖を持って、どんな悲鳴を上げるのか! 楽しみです! ふふっ……!」
フラブはひたすらに無表情で目には微かに怒りと無慈悲が混ざっていた。ユールは地面に複数の魔法陣を出して獣魔物や毒菌魔物を出現させる。
「死を、痛みの恐怖を愉しみましょう!」
直後として一万の槍がユールを目掛けて襲いかかるが全ての槍に毒が通って刃が廃れた。
「……死んでくれ」
フラブは鉄剣の魔法を解除した後に両手に大剣を握って暗く無表情でユールへと全速力で走り出す。フラブにとって、初めて心の底から死んでほしいと思える人間が目の前に現れた。
それと同時に牙を立てている獣魔物はフラブへ襲いかかるが、フラブは両手に持った大剣で斬り刻んで速度を変えずに進む。
──だが直ぐに獣魔物がフラブに襲いかかりフラブは沢山の返り血を浴びては斬ってを繰り返した。
「人を殺すな、人を笑うなッ!」
フラブはユールの元へ辿り着いて右手に握る大剣を上から振り翳すも。ユールは右手に持った血がついたタガーナイフで体験を受け止めた。
「無理です。悦びを覚えてしまったので」
ユールはフラブの大剣を弾いてナイフを回しフラブの腹部を軽々と刺した。
「──ッ!」
腹部を貫かれて背中に刃先が見えて──フラブは物凄く吐血するも、左手に持った大剣を握りしめて下からユールへ斬りかかる。だがユールは刺したナイフをフラブの腹部から勢い良く取取った。
フラブは悲鳴も上げず表情も曇らずに真っ直ぐな目で下からそのまま斬りかかる。──だがそれはユールが召喚した毒菌魔物によって刃が一瞬で毒で廃れた。
ユールはナイフを持った右手を後ろに引きながら「良い悲鳴でした」と笑みを浮かべたまま言う。
フラブの心臓を目掛けて勢い良くナイフを前に出して刺しかかった。だがフラブは直ぐ様、創造魔法で左手にハサミを出してナイフを挟んで止めた。
「死んでくれよ……っ! お前みたいなやつは! 生きていたらダメなんだッ!」
何か理由があってほしい。人を殺すのならせめて納得のいく理由がほしい。それなのになんだ、このユールという人間は。快楽で人を殺しているというのか?
フラブはハサミごとナイフを弾いて放り捨てた。
「勝手に決めつけないでくれませんか?」
──そして剣を持ったフリをして右手を上へ上げてユールの胴体を目掛けて振り翳しながら、途中で剣を創造してユールを斜めに斬った。魔物の毒が剣に回らない間合いで斬ればなんの問題もないのだ。
「……っこれが痛み……もっと、恐怖を!」
ユールは狂ってるように大きく見開いて楽しんでいるのか笑っている。フラブはバク転で3メートルほど後方へ距離を取って元の位置に戻った。
──混沌魔法「命血」
フラブが魔法を使ったその瞬間──いつの間にか空中に浮いて複数あった血の尖頭がユールと魔物全てを目掛けて常人ならば目に見えない速さで襲いかかった。フラブが斬った沢山の獣魔物の血だった。
「──ッ!」
魔物は全て血を出して地面へ倒れるように一瞬で死んだだろう。ユールは悲鳴を上げるもフラブは無慈悲な目で、ユールの身体を貫通した血すらも尖頭をUターンさせて再びユールへと鋭く襲わせる。
「抵抗するな! 早く死んでくれ。人を殺すなッ!」
ユールはバタリと地面に倒れ、フラブは右手を少し上に翳す。すると鋭く細かい魔物血が集まり、1つとして青色の大きい氷柱のような血の尖頭が完成した。
「お前は何人、殺したんだ……っ」
フラブは創造魔法を解除して誰にも聞こえないような声でそう言い。大きい血の氷柱で勢い良くユールの身体を貫かせた。だがフラブは息を切らし地面に膝をついて、右手で心臓の位置を強く握る。
── 最適性魔法は魔力の消費が……っ
一つ一つの魔法の威力は魔力の量と質で大きく左右される。フラブは強く息切れを起こして大量に血を吐くも刺された腹部を右手で優しく触った。
「良い痛みでした。ですが残念な事に恐怖は感じられませんでしたけど」
フラブは目を少し見開いて前を見ると、ユールは血塗れで、しかも傷だらけでも立ち上がっていた。フラブは刺された腹部を抑えながら、ゆっくり立ち上がるも視界が揺らぐ。
「──さすが5段か……ッ!」
フラブは大勢を崩して再び地面に膝をつき、痛々しい表情で大量に吐血した。
「もう終わりですか? 回復魔法があれば傷なんて直ぐに治るんですよ。貴女を回復させたら第二ラウンドも殺り合って今度こそ死と痛みの恐怖を味合わせてくれますか?」
フラブは満身創痍で踏ん張って立ち上がり、右手に鉄剣を握ってユールの方へ歩き出した。少しずつ、速度を上げて。
** ** * ** *×
──その頃、アリマは颯爽と転移魔法を使ってカフェへの前へと移動していた。
沢山の客は楽しんでいたのだが、外の席に1人で優雅にコーヒを飲んでいる白いローブを着た老人が居た。その白髪の老人の左手の甲には青い蝶の刺青があり、アリマはその老人の机の前で立ち止まる。
その老人は微笑んでいたが、右手側にいるアリマに対して殺気を全面的に出して強く睨みつける。
「初対面で殺意を向けられるなど……昔を思い出す。来た目的、本当にテロを起こすためだけか?」
悠々としてとうアリマだが老人は何も言わずにゆっくり席から立ち上がる。そして瞬く間に地面を強く蹴ってカフェの屋根上へと移動した。それにアリマは特に驚く事もなく淡々として屋上に居る老人を見上げ、その老人はアリマを強く睨んで見下ろしている。
「……復讐、とでも言いますか」
だが直後として老人は急に現れた槍を右手に掴んでアリマに向けて構える。直後──カフェ店内から大爆発が起こって店は跡形無く、爆発で外まで勢い良く吹き飛んだ。アリマ以外の外に居た客は爆発で死んだか、爆風に巻き込まれて飛ばされたか、咄嗟に逃げるで大きく分かれていた。
──だが老人は爆発の煙の中からアリマを目掛けてアリマの前に現れ襲いかかる。だがアリマは槍の刃先を右手の人差し指と中指で挟んで悠々と受け止めた。
「……っ」
老人は眉間に皺を寄せるも、アリマも爆風の影響を受けずに悠々と無表情で老人を見る。そして右手を自身の元に引き寄せ、老人も槍と共にアリマの元へ引き寄せられた。
「弱いな」
アリマはそう言葉を溢して刃先を離し、左手で老人のローブの襟を掴んで地面に叩きつける。誰が見てもその実力の差は天と地ほどの差があってしまうものだ。
「──ッ!」
老人は吐血するも、アリマは右手を握りしめて拳をつくると強く勢い良く老人の頬を殴った。その一撃だけで殴られた箇所から顔全体の骨が砕けて首や頭蓋骨までもひび割れた。
一方的に痛ぶるというには聞こえがいいもので、それには拷問に近いものがある。
「粉砕骨折、次はどこが良い?」
冷淡としているアリマは慈悲を捨てて痛めつけるという宣言をして問うも、顔の骨が全て砕けた老人は既に死んでいる姿だった。呆気なかった。ここまでもアリマからしたら弱い人間が、テロを起こして人を殺めた? ここまでも弱い人間に、命を奪うチャンスを与えたというのか?
「…………」
その事実にアリマは老人を離すと体勢を起こして、冷静に老人を炎で燃やす。その老人は骨や灰すら消えてこの場にいたという跡形さえも無くした。
「死人はまだ千三十人程度、五千は超えない……」
アリマは辺りを見渡しながら風魔法を使用して煙を全て上空へ上げた。爆発に巻き込まれた酷い死体が転がっていて、爆風に巻き込まれ壁に衝突して潰れた死体も多くあった。
「……酷いな」
アリマはボランティアになる事よりも懸念していた状況が起きてしまった事に少し暗い表情を浮かべた。だがその状況を呑む暇もなく無数の白いローブを着た人が距離をとってアリマを囲んで居た。
「死にたい者はこんなにも多いのか。世も末だな」
その白いローブを着た者たちは一斉に素早くアリマに襲いかかる。
──花草結界術「囲楽園」
アリマが術を使った瞬間、遊園地の北半分が緑色の結界に囲われた。そして地面から可愛らしい様々な花が咲き結界内の壁にも沢山の花が咲く。
白いローブを着た者達はその結界をを見て一瞬、動きが止まって、直後白いローブを着た全員の体に電気が流れ気を失うように地面に倒れた。
だがアリマは違和感を覚えて深刻そうな表情を浮かべて考える。──その時、アリマを目掛けて後方の上空から榴弾が投げられた。アリマはその手榴弾からくる殺意を察知し転移魔法を使用して上空へ転移した。
──そして颯爽と足元に茎の無い花を咲かせて悠々とその上に立つ。手榴弾はアリマが元居た場所で辺り一面巻き込んで爆発を起こした。
「当たれば腕は吹き飛んでいたな……」
アリマは背後を振り返りながら呟くと、そこには白いローブを着た左手の甲に青い蝶の刺青を彫っている中年程の見た目の男性が空中に立っていた。
「死んでねぇのかよ。面倒くせぇ……」
その男性は茶色の肩上まである髪を後ろで結んでいて、光が無い黒い瞳に白い十字線がある目で表情を変えず煙草を口に咥えたまま面倒くさそうにアリマを見ていた。
「其れなら家にでも帰れば良い。面倒くさいのは余も同感だからな」
「帰れんならそうする。だけど許してくれんのよ。同じ8段同士頑張ろーぜ」
その言葉にアリマは表情が更に曇って警戒ばかりの目で男性を睨む。
「8段……名は?」
男性は「ん?」と言葉を溢しながら腕を組んで考えるように右手で頭を抱える。
「俺は……何だっけ、確か。そう、メフェイルだ」
面倒くさそうに思い出すと腕を下ろして表情を変えずに再びアリマを見やる。
一方でアリマは名家の生まれでありながら人を殺すことにはかなり慣れているが、《殺し合い》には慣れていない。しかも相手が8段というのに対して、ポーカーフェイスがなければ苦い表情をしてしまうほど。
「そうか。聞いた事がない名前だが……其れだけ化け物だと考えよう」
だがアリマもメフェイルも警戒している素振りは一切として互いに見せずに悠々としていた。




