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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第四章「笑顔のために」
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第三十六話 命大事に

 フラブが目を覚ますと既に日が登っていて、アリマが左側のソファーに座っている。そして左手に本を持って読んでいて机の上にはお茶が入った湯呑みが2つ置かれていた。


 アリマは変わらずのポニーテール、変わらずの灰色の着物に変わらずの白い羽織物を肩に掛けるように着て変わらずの白靴下を履いていた。


「目を覚ましたか?フラブ君」


 フラブは和風な被り布団を被って、ソファーからゆっくり体を起こす。


「………」


 フラブは寝ぼけていて眠そうな表情でアリマを見ると、アリマは少し首を傾げてフラブの方を見ていた。


「……アリマさん?」


 フラブはそう言いながら周りを見渡して、目を少し見開いて表情が微かに曇る。


「本は!? 確か探してる最中で……私は寝た、のか……」


「案ずるな。昨日の書類がある程度片付いた後、余も書庫に行って情報をサヤと探した。今は当主としての仕事の休憩中だな」


 フラブはとても眠そうに背伸びをして再びソファーに横になった。


「情報は見つかりました?」


 フラブはアリマの方に体を向けて眠そうに問う。


「全て確認したが確実な情報は得られなかった。呪い系統の魔術の線は濃くなったがな。後は全てラサスに任せている、故に安心して良い」


「……え? いま全て確認したって言いました……?」


「ああ。全て確認した。余は眠気が殆ど無い故に寝なくとも平気だからな。昨日の20時に風呂を終わらせて其れから朝の6時まで書庫に居たんだ」


 そう当然のように淡々と説明するアリマをフラブはドン引くような目を向ける。


「だとしてもですよ? あの量ですから全て見れないでしょう……」


「何を言う。昼に君とサヤが確認した場所と重要かもしれない本の内容はサヤから聞いた。故に見てない場所の本の位置を全て見て覚え、全て一気に取り出して確認後に全て一気に戻せば然程時間は取らない」


「……そうですよね、もう流石という言葉さえ出ませんよ……聞いても意味が分かりませんから……」


 フラブは諦めて瞼を閉じて二度寝を試みた。


「二度寝は睡眠の質を下げるぞ。茶を飲め、苦いから目が覚める。あと少し相談したい事があるから起きろ」


 そんな説明を聞くように面倒くさそうにして体を起こして再びアリマの方を見る。


「何ですか? 頭に爆弾が仕掛けられたとか?」


「店が閉まってる和菓子屋、コヨリ達の容体、捕虜としたアオト君の家系、帝国と王国の戦争、細かい事だが此処最近の其れ等を偶然で済ませていいのか……どうにも嫌な予感がするんだ」


 アリマは無表情ながら何処か深刻そうな表情をしていて、フラブは腕を組んで右手を顎にあてて深刻そうに考え始める。


「……他は確かに同感ですが、和菓子屋の件は些細な事でしょう。そして追加で帝国が王国へ攻め入る際に殺し屋を雇った理由が気になります」


「指名手配は全国共通……其れも疑問に思うが帝国へ赴けば分かる可能性はある。君がミリエ君たちを生かした理由は其れか?」


「はい。聞き出せる程に信用を得れば知れる可能性はあるでしょう。悪い人には見えなくとも人を殺してる事に変わりは有りません。私もですけどね」


 アリマは本を机の上に置いて少し深刻そうな表情で腕を組んで左手を顎にあてて考える。


「……今もミリエ君等にはアオト君の見張りを任せているんだが雑用で済ますには勿体無い人材だな。手荒な手段を用いて情報を吐いてもらうか……」


「そうですね。その判断はアリマさんに任せますよ」


 フラブの冷静な言葉にアリマは驚きを隠せずに目を少し見開いた。


「フラブ君、君は人を殺した事で自分を追い詰めてるのか?」


 アリマの真剣な表情の真っ直ぐな言葉にフラブは悲しそうに俯いて目を細めた。


「私は……カケイとまた笑って話したいし、カミサキさんともっと一緒に居たい。だけど過去は変えられない……だから幸せを考えるのが怖い……どう考えても矛盾してしまうんです」


「君が其処まで気負うな。味方は少ないだろうが余もカミサキ姉もサヤも君の事を気にかけている。……サヤは自由人だがとても優しいんだ。今回サヤが君を誘ったのは気分転換がてら君の化け物の情報を見つけて助けたいからだろう」


「……私に出来る事はありませんか? 行動でアリマさんにもサヤさんにもカミサキさんにも感謝を示したいんです。私は復讐ではなく、選択を間違えたくないから生きて生き抜いて戦います」


 フラブは意を決した真っ直ぐな目でアリマを見て、それにアリマは優しく微笑んだ。


「ああ。命大事にだ、フラブ君。早速だがコヨリ達に寄り添って容体の悪化があれば教えてほしい。キュサは些細な変化には疎いからな」


「分かりました。全力で」



 ーーそれからフラブは準備を終わらせてアリマに転移魔法を使ってもらいコヨリとキヨリが寝てる部屋に転移した。フラブはシラ家の男用の黒い貴族服を着ていて風呂上がりで髪が微かに濡れている。


「キュサ、容体は?」


 キュサはキヨリの体を少し濡らした白いタオルで拭いていたが驚いた様にフラブの方を見て手を止める。フラブは真剣な表情でキュサを見て襖に背を向けてキュサの方に歩き出す。


「フラブ様! いらしたんですね! 私は気配を読むことしか出来ないので何とも言えませんよ」


 キュサは悲しそうな表情に変わり、フラブはコヨリが寝ているベッドの前で立ち止まる。容体に変化は無いが苦しむ素振りさえしていないキヨリとコヨリ。


「……キュサ、コヨリちゃんとキヨリちゃんは呪い系統の魔術を掛けられた可能性が高いらしい。酷だよな」


 フラブは浮かない表情でコヨリを見ていて、キュサは苦しそうな表情を浮かべてキヨリを見る。


「幼い子に魔術…ですか。許すに値しない下賤な行いですね」


「ああ。だが確実ではない。近しいだけの不確定な情報だから言うか考えたんだがな」


「……っフラブ様の命とあらば私は何でもしますよ」


「そうか。だが諦めろ、命令はしない」


「……何故ですか? フラブ様なら今直ぐにでも、この子達をこんな状態にした者を特定してくれと言ってくれるはずです!」


「キュサ。分かれ」


 慌ててフラブを見て問うキュサに対し、フラブは冷静に単調な言葉に真剣な表情でキュサを見て言った。


「っ結局アリマ様と同じくフラブ様も冷たい人間なんですか。それなら私は1人で勝手に行動します」


 キュサは吹き終わったタオルを転移魔法で飛ばし、部屋を出ようと襖の方に歩き出す。


「私は判断を間違えない」


 フラブは真剣な表情でキュサの方を振り返らずに言うもキュサは襖から部屋を後にした。


 ー 冷たい……か。その通りかもな。だが意思を存分に利用させてもらうぞ



 その頃アリマはーー自身の執務室で椅子に座り机に向かって右側に山積みになってる書類を片付けていた。白い羽織物は脱いで椅子に掛けている。


「右手の甲に青い刺青、か……360年振りだな。写真を見る限りこれは青い蝶の刺青……」


 アリマは紙を右手に紙を持ち、左手を顎に当てて怪しむように資料に目を通していた。


「偶然にしては此方の出を誘っている……其れは言い過ぎであってほしいが……


 ー 化け物関連でなくとも今の冷徹なフラブ君から長時間離れる事は避けたい……


「だが何としてもフラブ君をこの件からは遠ざけたい……どうしたものか……」


 資料には右手の甲に蝶の刺青が彫られた者の写真が右上に貼られていて。様々な国への殺人やテロの犯罪件数の概要と共和国からアリマへの協力依頼の資料だった。その詳細が書かれた紙は机の左側に置いて右手で次の紙を手に取る。


「だが其れだと……面倒だな……」


 ー 共和国自体、表向きは観光に良いが裏は犯罪件数が多く危険な国……遊園地か……


 机の右側に山積みとなっている書類は共和国からきた仕事の数々だった。


 アリマが手に取った紙は共和国にある遊園地でのテロ予告の概要が書かれていた。殺人、爆発、それが関連ワードとして出てくる大規模なテロ。

 それが魔法で行われるので犯人の特定も避難誘導も時間がかかる。


「本当に魔法は何でも有りの面倒な便利な道具だな……」



 ーーその頃、フラブはどこか深刻な表情でずっとベッドの間にある机に座ってコヨリとキヨリの容体を見ていた。


「私の適性魔法……失敗したら悪化させかねない……」


 ー カナトさんに言われた時は怪しんで嘘を吐いたが適性魔法も最適性魔法も使える……だが……


「……自分に使えないからとてもハイリスクハイリターン……だから……」


 フラブは浮かない表情をしていながら壁にある時計を見上げる。時計の針は10時36分を指していて部屋はとても静かだった。すると突然襖が開いて変わらずの姿のサクヤが部屋に入って来た。


「あれ……シラ家の当主様ですか?」


 サクヤはフラブの方を見て不思議そうに問いながら襖を閉める。


「ああ、代理の人ですか」


 フラブのあっさりとした言葉にサクヤは少し残念そうな表情を浮かべる。


「それで覚えられたんですね……まぁ良いです。僕は公国からの仕事を終えて来たんですけど貴女は?」


 そして真っ直ぐな目でフラブを見て問うも、フラブはどこか悲しそうな表情をしていた。


「……キュサには別の事を頼んで容体の監視をしているだけです」


 それでもフラブは真剣な表情でそう言うも、サクヤは何処か疑うような目でフラブを見た。


「半分嘘で半分本当らしいですけどーー僕の最適性魔法は真偽魔法。僕に嘘は通じませんよ」


 サクヤの真っ直ぐな言葉に、フラブは苦し紛れに優しく微笑んでサクヤの方を見る。


「だから何ですか」


「は……?」


「嘘が通じないのはアリマさんも同じです。私は別にコヨリちゃんたちを殺すなんて考えていない。誰にも害は及ばさない」


 フラブの言葉にサクヤは驚いて目を見開くも、直ぐ様に納得し真剣な表情を浮かべた。


「遠回しに言ってくれますね。僕の真偽魔法を利用してその重要な事を嘘では無いと確かめさせた……当主様にも同じような事をしてるんですか?」


「……判断を間違えない為に利用出来るものは利用しなければ人は容易く死ぬでしょう。だから私に協力してほしいんです」


 そう言うフラブは少し悲しそうな真剣な表情でサクヤの方を見て。それにサクヤは驚きを隠せずにフラブを見て目を大きく見開いた。


「私の中にいる化け物は知っていますか?」


「……はい。サヤ姉から詳細まで聞いています」


 フラブから来るの謎の恐怖は心の内に仕舞うようにサクヤは再び真剣な表情でフラブを見る。


「キュサは冷静な私に失望して自分勝手に行動するでしょう。そのキュサの重力魔法の練度は相当な強さがあった。私に仕えて私の命令を待つには惜しい人なんです」


「よく分かりませんが……」


「ここまでは良いんです。大事なのは間違ってもキュサをもしもの時の戦力から外したくない」


 それでもフラブは常に少し悲しそうな表情でいて微かに俯いた。


「もしもって……まさか化け物が出て来たときのですか? でも5段以上でなければ戦力にならない程の強さだと聞きました」


「だが塵も積もれば山となるらしい。その塵が化け物を殺す決定打になる可能性はあるでしょう?」


 冷たいフラブの冷静な言葉にサクヤは慌てるように大きく目を見開いた。


「まさか……自分が死ぬ前提なんですか……?」


「私の中に居るのが容易に人を殺す化け物ならば躊躇わないで殺してほしい。それで私も死ぬかもしれない。でも私が死ぬのは怖くない。必要の無い犠牲は足りない犠牲であってはいけないから」


 フラブは優しい表情を浮かべるも常にその目は暗く真っ直ぐな目で。そこに嘘も偽りも存在せず本心ということが分かるだけだった。


「……覚悟があるんですね。悪意がないと分かりましたし、僕に出来る事があれば最大限やりましょう」


 そう優しい声色で言うサクヤは明るい表情を浮かべていて、それに安心したフラブは机から降りてサクヤの前で立ち止まる。


「ありがとうございます。でも何があっても仕事や私生活を優先してください。それは貴方にしか出来ない事だから」


「文句無しですね」


 フラブとサクヤは互いに優しく微笑んでその後にフラブは再びコヨリとキヨリの容体を見て。サクヤとは別行動をとった。コヨリとキヨリは変わらず痛そうな素振りも苦しそうな素振りも無く、瞼を閉じて動かなかった。



 あれから2日経過した日の早朝4時ーー辺りはまだ暗く11月というのも相まって肌寒さがある時間帯なのだが、フラブは簡素な服でアリマの家の庭を借りてまた休まずに鉄剣を振っていた。


「フラブ君、止めなさい」


 そう言いながらアリマは玄関の方からフラブの元へと歩いて来る。それにフラブは剣を止めて魔法を解除しつつアリマの方を見る。


「なんですか? 今日も8時からコヨリちゃんたちの側に居ないとなので今のうちに終わらせたいんですけど……」


 少しだけ息を切らしているフラブの3歩ほど前でアリマは立ち止まった。


「其れはサヤに任せた。故に共和国に息抜きがてら行こう、フラブ君」


「ミリエたちは?」


「ミリエ君にもアオト君にも暫く眠ってもらう」


「アリマさんにミリエ達の活殺は任せます。殺しても帝国に聞けば分かる可能性はあるでしょう」


「……命は容易に捨てて良いものではない。宝石よりも価値があるからな」


 冷静に判断した冷たいフラブにアリマは少しだけ表情が曇る。だがフラブは悲しくも優しい表情でアリマから目線を外し微かに俯いた。


「ーー命の価値ですか……人の命が平等に価値があるならどうして皆んな寿命で死ねないんでしょうね」


 明らかなフラブの異変、アリマはどこか悲しそうな表情を見せるも上手く言葉が出なかった。


「……フラブ君、朝食も1人分作ったから早く準備して来なさい。今の処刑課に共和国なら変装をしなくとも大丈夫だ」


「ではこのままでも……」


「汗を流してこい」


 それから40分後、フラブとアリマは準備を終わらせて玄関の外に居た。アリマは変わらずの服装で髪は下目に変わらずの紐で結んでいて下駄を履いており。フラブも変わらずの簡素な動きやすい長袖長ズボンで髪は結ばずに靴を履いていた。


「待って下さい、また歩いて向かうんですか?」


 フラブは嫌そうな表情で左隣に居るアリマを見て問うも、アリマは前を見てどこか浮かない表情を見せていた。


「君の意向で良い。今回は和菓子を求める訳でも無いからな。戦争には巻き込まれたくはないが……」


「でしたら共和国の手前まで転移魔法で行きましょう。剣を振って上手く腕に力が入らないので」


「歩くのに腕の力は関係ないだろう」



 アリマがフラブを連れて転移魔法を使い、共和国の前まで来た。共和国は高い建物がとても多く、かと言ってオシャレで都会と呼ぶより芸術品の方がしっくりくる。共和国も王国と同じく魔物の対策に高く壁で囲われていて正門があって警備課の門番が居る。

 外見からは王国と然程変わらないのだが行き交う人々は様々な服装で笑顔が絶えなかった。


 フラブとアリマは帝国の通行路の外れ、右側の草原に転移した。一応通行路も見えて右手側には共和国の大きい壁があり魔物はアリマを避けて居なくなった。


「草原……ですか。正門の反対側って確か砂漠なんでしたっけ?」


「ああ。一度話をしておきたくてな。ここは勢力を持ってる平和な国だが裏社会が活発な国でもある。故に絶対に余から離れるな。分かったか?」


 アリマは念には念を押してフラブの高さまで屈んで真剣な表情で言う。


「裏社会……ですか……つまりアリマさんは仕事で来たんですね」


 フラブは明るくも優しい表情でアリマを見て言い、それにアリマは少し目を見開く。


「アリマさんって考えてること分かりやすすぎませんか……? 心配になりますよ……」


 フラブはアリマを見て心配そうな表情に変わり、アリマはゆっくり立ち上がった。


「分かりやすくなどない。君はもう少し分かりやすく居てほしいがな」


「そうですか? 分かりやすいと思いますが……安心して下さい。仕事の邪魔はしません」


 フラブは優しく微笑んでそう言いきるとアリマも肩の力を下ろして優しく微笑んだ。


「君の強さも信頼している。気づいているのなら仕事を手伝ってくれるか? かなり人の死と立ち会う可能性がある仕事だ」


「はい。私もアリマさんを信用してますし信頼もしています。ですので困ったら何でも言って下さい」


 そうしてフラブとアリマは帝国へ入る通行路へと向かった。共和国は観光に良く観光目的の人々が多く訪れるのだが死者は王国や帝国、他の国よりも多い。

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