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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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第三話 氷と土

 カフェを通るついでにカフェの店の窓ガラスをから店内を見て店の前でカケイと話をしていた。


「ここがカフェか。席は空いてるな、私の負けだ」


 少し微笑みながらフラブが優しい声色でそう言うとカケイは嬉しそうに満面の笑顔になった。


「ん! 俺の勝ちだな! だけど機嫌が良いから奢ってやるよ!」


 だがフラブは何故か少しだけ怒ったような表情でカケイを見る。


「私が負けたんだ。だから私が奢る。私だってシラ家の資産だが金はある」


「はぁ? 俺ぁ今機嫌が良いって言ってんだろ? 奢られろよフラブさん」


 カケイも少しフラブを怒るように睨みつけて、フラブは真剣な表情に変わった。


「筋は通す、約束は守る、皆んなに優しく、それがシラ家の家訓だ。人の機嫌で破るものではない」


「そうかよ、じゃあ1番高いの頼んでやる!」


 カケイは太陽のような笑顔でフラブを見て宣戦布告して手を腰に当てた。


「望むところ……ではないが受けて立とう」


 そして店の中に入るとやはりフラブとカケイは多少注目を浴びる。


「いらっしゃいませ! 2名様ですね、席へご案内致します……白い、悪魔!?」


 店員さんはカケイを見て驚くように目を大きく見開いて冷や汗を流し。意外にもフラブは何かを知っているのか微かに冷たい目でカケイの方を見た。


 それにカケイは不機嫌そうというより悲しそうに暗い表情で外方を向く。


「……これだから外は」


「一席しか無いし俺も同席していい?」


 ーー突然聞こえた若々しい男性の声。それはフラブとカケイの背後から。

 だが人が店に入る音などフラブもカケイも聞いていない。それにフラブとカケイは背後に居る男から一瞬ほんの少しの殺意を感じ取った。


ーー創造魔法「短剣」


 フラブは勢い良く背後を振り返りながら右手に短剣を握り、男性の首筋に刃を向ける。


ーー氷雪魔法「逆氷柱」


 同時にカケイは足元から地面に魔法陣を出し、氷柱を男の首元の寸前で止めた。


 それを見た周りの客は呆然とするように静かになり店内は静まり返った。


「ははっ! 怖いなぁ、質問しただけだろ?」


 フラブは男性からの殺意に対して警戒を解かず、真剣な表情で男を強く睨みつける。


「では何故、─」貴様からカケイに対して殺意が溢れ出ている?」


「勘違いじゃないか?」


 悠々として言い返す男性だが、明らかにカケイの表情は曇り空のように暗い。


「2人して勘違いするなんて生きてれりゃ珍しい事もあるんだな。にしても処刑課。まだ俺の命を諦めてなかったんだな? なぁユート」


 カケイが怒ったような真剣な表情で質問すると男性は優しく微笑んでカケイの方を見た。


「──黙れ。君は罪人。嫌悪を抱く人は山ほど居る。なのにまさか変装すらも当てられるとは……魔眼は壊せてなかったんだな」


 その男性は変装魔法を解き瞬きをする間に素顔を現にする。黒と桃色の短髪に桃色の瞳、そして罪人処刑課特有の黒いスーツ。青年程の見た目の160センチ程の身長。


「お陰様で何十年か前に魔眼は壊れてる。当てたのは殺気でだ。不幸にも幸運にも沢山の奴に憎悪を抱かれるほど、それだけで誰か見分けられるようになった」


 カケイは嫌そうな不機嫌そうな声色でそう言いながらも氷柱の切っ尖を向けたまま。


「そうか、それは良かった良かった」


 男性は優しい表情でそう言いながら悠々と一歩後ろに退がり、短剣の切っ尖を向けているフラブの方を見る。


「ねぇ君。白い悪魔の味方をして楽しいかい? それとも洗脳でもされてるのかな」


 その男性の言葉にフラブはそれほど驚く事もなく男性に向けていた短剣の刃をカケイに向けた。


「白い悪魔か、薄々分かっていた……」


「………」


「カケイ、嘘は吐かずに本当の事を答えろ。本当にお前が? お前は私の家族を死に追い遣ったアルフェード教会の事件を起こした関係者なのか?」


 フラブのその言葉に驚く店員と客、そして処刑課のユート・ミスナイ。しかし反対にカケイの表情は微かに曇って氷柱を解除しながら俯いた。


「だけど、信じてくれよ……フラブさん」


 そしてカケイは誰にも届かないような言葉が溢れて小さな声でそう溢した。


「ねぇ今、君さ。私の家族を死に追い遣ったって言った? 確かに似てるね! 超有名な死の教会の事件の加害者であるシラ家の生き残りと会えるとは! 白髪が居ると通報を受けて来たが今日は本当に縁があるなぁ!」


 ミスナイはカケイとフラブへの殺気は無くさないが嬉しそうに微笑んだ。


「ここでは迷惑になる、場所を変えようか!」


 その瞬間フラブとカケイ、そしてミスナイの足元に魔法陣が出現した。


 ーーそして場所は店の中から辺り一面を見渡しても木々が5本しかない草原に変わった。


 あまり驚くことはなく感心するようにフラブは冷静に辺りを見渡す。だが状況が確認でき次第、再び真剣な表情でミスナイの方見る。


「だが失礼、今はカケイとの会話中だ」


 フラブがそう言い魔法を使った瞬間、ミスナイを囲うように牢屋のような小さい鉄格子が現れた。


「は……? 創造魔法だけじゃないのか!?」


 ミスナイは大声でそう言いながらも驚くように目を少し見開いてフラブを見る。だがフラブの視界にミスナイは映ってさえおらずカケイを見ていた。


「ああ。拘束魔法だな。見るに処刑課さんが得意なのは精神系だろう? 適性レベルにはあるが相性が悪かったな。その手の魔法が私に効くと思うな」


「……マジかよ」


 フラブのあっさりと説明した言葉にミスナイは微かに絶望する。するとずっと表情が曇って俯いてたカケイがフラブの方を見上げた。


「フラブさん、間接的に言ぁ本当にアルフェード教会と俺ぁ無関係じゃねぇ。烏滸がましいのは知ってる。でも信じてほしい」


 カケイは子羊のように怯えながら震えた声で問いに答えるも、その瞳に映るフラブは常に無表情だった。


「そうか」



 ーー190年前のこと。アルフェード教会の事件が起こる日の朝。


「なぁカケイ! 俺に魔眼使ってみろ!」


 静かな図書館で机を前に椅子に座って静かに1人で本を読むカケイ。その姿は眼鏡をかけていて白髪で白き肌、白い衣服で美しいとも言える姿、今と変わらない身長に見た目。


「ここでは静かにな、ユート」


 元気に声をかけて来た少年は間違いなく後の罪人処刑5課に属するユート・ミスナイだった。


「そーだった! まぁそれは置いといて、使ってみろ! 俺に、魔眼!」


 ユートのキラキラした瞳と言うことを聞かない性格にカケイは呆れて溜め息を零す。だがカケイは魔眼を使用して両目が白から黒色へと変色した。


「ん? 精神系魔法を鍛えてんのか? 意外だな」


 本来なら魔眼を人に使うと大体の魔力量などを知ることが出来るというだけ。難なく魔眼を使い終わったカケイの眼は元の白色へと戻った。


「そう、そんなんだよ! 俺、精神系の魔法で色んな人を救いたくてさ、将来は医療機関に属するのが夢なんだ!」 


 元気良く言うミスナイだが、そんなミスナイはカケイにとって眩しい太陽のように見えた。


「あっそ、頑張れよ」


 カケイは諦めからなのかミスナイには常に無関心で目線を本に戻す。そのカケイの呆気ない態度にミスナイは怒って少しの怒りを表情に顕にした。


「冷たいな! カケイは夢とか無いのかよ?」


 そして問い詰めるように言いながら机の上に座りカケイを見下ろした。そのミスナイの問いにカケイは少し天井を見上げながら考え始める。


「俺ぁ……ねぇな」


 そして直ぐ再び目線を本へと戻して読み始めたのだが表情は微かに曇っているように見える。


「もう少しは考えろよ! 母さんも言ってたぜ? 夢はあればあるだけ大きければ大きいほど困らないって!」


「そろそろ黙れ。図書館だ」


 一瞬だけ何故かカケイが無表情ながら不機嫌になり圧ある声でそう言った。それにミスナイは驚き目を少し見開いて慌てながらも机から降りる。


「わかったよ! もう昼ご飯だし! 帰る! 読書の邪魔して悪かったな!」


 そうしてミスナイは急ぎ気味で焦りながらも図書館を後にした。


「……帰る所があるだけで幸せだろ……まぁ、良い奴ではあんだけどな」


 カケイは浮かない表情に小言でそう言葉を溢し横にある新たな本を取り読み始める。

 ーーすると突然右背後から声をかけられた。


「カケイさん、少し良いですか?」


 その女性の声にカケイは本を閉じて振り返り優しい表情で「何だ?」と問いながら小首を傾げる。


 カケイにとっても図書館利用者にとっても見慣れた女性である司書さんは160センチ程の身長にストレートの茶髪。その図書館司書の若々しい女性は怯えるように恐る恐るカケイを見る。


「相談、なんですけどカケイさんが常連兼職員になって今日で3ヶ月……その3ヶ月間ずっと図書館宛に手紙が届いてるんです」


 図書館司書さんのその発言にカケイはなぜか驚き目を大きく見開いた。


「どこから?」


「場所は……アルフェード教会です」


 その説明にカケイは安心から胸を撫で下ろし、一呼吸をして落ち着き真っ直ぐな目で再び司書さんの方を見る。


「で、手紙の内容は?」


「──『10月20日、22時頃に街道にて待つ。来なかった場合、図書館の存在も関わる人の存在も皆の記憶ごと消えるだろう』と。この図書館を狙うなんて……そんな大層なところでもないのに……」


 図書館の司書さんは手紙の内容に見るからに分かりやすく怯えていた。


「アルフェード教会からだよな? ……嫌な予感しかしねぇ。まぁ俺が行くから心配すんな!」


 カケイは微笑んでそう言い立ち上がって司書さんの肩をぽんと軽く叩いた。


「え、いえ! そのために相談し……」


「いや、司書さんは魔法に詳しくねぇだろ? もし教会が襲って来たら対処の仕様がねぇよ。少しでも魔法を使える俺が行く!」


 カケイは言葉を遮って太陽のような笑顔で司書さんを見てそう言い。それに図書館司書は驚きと困惑で慌て、目を大きく見開いてカケイを見つめる。


「え、えぇ!? カケイさん確か13歳、ですよね? 知力に優れてるだけじゃなく魔法まで……」


「そういや必要性が無くて言ってなかったか! 俺ぁ人間じゃねぇんだよ」


「え、え!? え、どういう……」


 ますます混乱した図書館司書を見てカケイは笑顔で嘘を吐いた。


「冗談、俺ぁ人間だ。司書さんは少し、人を疑うことを習った方がいい」


 カケイがそう言うと図書館司書は怒るような表情でカケイを少し睨みつけた。


「な、嘘だったんですか! 私は嘘が大嫌いなんですよ!」


「はいはい。でも念にぁ念に、夜中2時までに俺が帰って来なかったら罪人処刑課に通報しろよ」


 カケイは笑顔から真剣な表情に変わり、それの同時に空気が鎮まり返った。


「え……?」


「じゃ俺ぁ、饅頭でも買ってくるわ」


 その空気とカケイの真剣さ、相談してしまった司書さんにはカケイを止められなかった。



 そして今現在、──フラブはカケイに向けていた短剣を降ろしながら創造魔法を解除し短剣は消えた。


「その場に居合わせていたらしいユーフェリカが君と親しいのだから最初から信じている。試してすまない、カケイ」


 フラブの申し訳なさそうにも優しい言葉にカケイは驚いた表情で恐る恐るフラブを見る。


「なんで……本当に信じてくれんの……?」


 怯えるようにもカケイの声は震えており、そのカケイは心が脆い子供のようだった。それを見たフラブはますます申し訳なさそうな表情でカケイを見る。


「本当にすまない。カケイはユーフェリカの連れの私を信じて本当の姿で居てくれたんだろう? その勇気は賞賛されるべきものだ」


「なぜ罪人を許せる? シラ・フラブ!」


 急に声を荒げて言葉を遮ってきたミスナイは明らかに見て慌てていた。


「その相手は憎きアルフェード教会の事件の容疑者の1人だぞ!」


 拘束魔法に掛かっているミスナイが混乱しつつフラブに大声で話しかけた。それにフラブは冷静に真剣な表情でゆっくりミスナイの方を見る。


「貴様と会話すると全てに絶望して判断能力が低下する精神系魔法がかけられるようだからな。そうだ存在ごと無視してやろうか?」


 冷たいフラブの口調で発せられる言葉には怒りも殺意も感じ取れない。ただ言葉通りの意味でしか相手に思うところもないからだ。


「……何故、やはり魔眼を持ってるのか?」


「……アリマさんとの修行で後天的に手に入れたモノだがな。カケイにかけられた魔法を解読したら貴様がかけた魔法が解った。それだけだ」


 フラブの優しくも少し悲しげな説明はミスナイにとってはとても絶望的で。披露する前に仕掛けを見破られたマジシャンくらい致命的だった。

 だからミスナイは冷静に思考を加速させて状況を打破する方法を考える。


「適性魔法が効かない……未完成だが最適性魔法を使うしか……っ!」


 そう焦った口調で発すると同時に、ミスナイは意を決したのだろう。自身にかかった拘束魔法の鉄格子にヒビが入って粉々に跡形なく砕け散った。

 そのミスナイから感じ取れる殺意にフラブは微かに冷や汗を流して咄嗟に鉄剣を創り右手に構える。

 鉄剣は何の特徴もない刃渡り30センチの切れ味が良さそうな鋭い剣だ。


「罪人の戯言に耳を傾け味方をした……終いには俺に剣を向けた。その愚行が何を意味するか!」


 その口調は何故か哀しみと怒りを堪えているようで処刑課としての仕事を成そうとしている。そして微かにフブを強く睨みつけていた。


「カケイ、すまないが手を貸す事は可能か? 1人では相手出来そうにない」


 そう深刻そうな口調で問うフラブは警戒しているためミスナイから視線を外さず微かに冷や汗を流していた。それにカケイは曇っていた表情が微かに明るい表情に変わってミスナイの方を見上げる。


「ああ! 本っ当に! 全部! クソみてぇな運命だ、だが信じてくれた人ぁ絶対に大切にする!」


 今までの出来事を全て呑み込むように声を荒げて大きな声で宣言しながら立ち上がる。


「──それが俺の生きる心得だからな!」


 何度も絶望しているカケイは自身で精神魔法を解いたのか。ミスナイの方を見ながら太陽のような明るい笑顔でそう叫んだ。


「五月蝿いな……なんで正義が悪みたいなシチュエーションなんだよ!」


 ミスナイは地面の一部を片足で破壊し、その破壊したもので大きい土人形を作り上げる。その土人形の大きさはフラブたちを遥かに凌駕していて凡そ10メートルはあるだろう。

 ただそこから伝わる威圧感とミスナイから漂う異常な殺意に更に大きく見えてしまう。


 ──それで躊躇いもなく拳を握りしめて大きい土人形はフラブたちを目掛けて殴りかかる。そして瞬く間に土埃が辺り一面、空気中に舞った。


 ──氷雪魔法「百矢攻防」


 だがカケイは透明に近い氷で自身を守る丸いバリアを作成して耐えつつ、100本にも及ぶ1本20センチほどの氷矢を作り上げる。その氷矢は浮きつつカケイの周りに現れていて、どれも先が鋭い。


 球を投げるように右手を前に出すカケイ。同時に氷矢が躊躇なく勢い良く大きい土人形を貫いて更に土煙が舞う。──だが大きい土人形の胴体を貫いた即座に新たな土で修復されていた。


「マジかよ……」


 その光景を見たカケイは引き気味に言葉を溢しているが苦い表情で大きい土人形を見つめている。そして大きい土人形の背後にいて悠々としているミスナイの視界も次第に晴れ始めた。


「……っ!」


 だがカケイが生成した氷の中にも、ミスナイの瞳にフラブだけが映し出されていなかった。


「シラ家の生き残りは……!?」


 辺りを見渡すミスナイだが、首に冷たい刃が置かれて動きをピタリと止める。


「どこを探してる。私なら居るだろう?」


 その淡々としている口調での言葉。それは背後から聞こえてきた。そう、フラブは既にミスナイの背後に素早く回り込んで首に剣の刃を向けていた。


「どうやって回り込……」


「振り向くな」


 冷静に言葉を遮って圧あるような口調で脅しているフラブだが、覚悟を決めるようにミスナイは拳を強く握りしめる。


「人を殺せるもんならやってみろ……ッ!」


 ーー人殺しへの憎悪か。そのミスナイは瞬時に小さい土人形を5つ生成してフラブを目掛けて殴りかからせる。


「──っまだ出せたのか!」


 その隙にミスナイは咄嗟の判断で右手側に走って凡そ8メートルほどフラブから距離をとる。

 それを見たフラブは瞬く間に5つの小さい土人形を斬り刻んでミスナイを睨みつける。そして躊躇いもなく地面を踏み込むとミスナイの元へと走り出した。



 ──その頃カケイは大きい土人形を見上げては微かに険しい表情を浮かべていた。


「……面っ倒くせぇな」


 そう言葉を溢し、瞬時に多くの氷柱を出して大きい土人形の頭上に大量の雪を降らせた。だが大きい土人形に雪は積もるだけで動きは少しも鈍らず氷も全て大きい土人形を貫通したが即座に修復される。

 このまま戦えば自身の魔力が尽きるのが先だと判断したのか。


「相性が悪過ぎだろ! そうだフラブさんは!?」


 見ていた限りカケイは咄嗟にフラブが戦ってるであろう方向を見る。するとフラブがこちらに走ってくるのが確認できた。


「すまない。カケイは奴を相手してくれ」


「了解! ありがと!」


 走ってくるフラブにすれ違い様に言われたが即座に交代しカケイはフラブが来た方向歩いて向かう。


「俺ぁ魔法専門だからな、小せぇのが得意だ」


 そんな言葉をミスナイの前で明るい表情ながら溢すカケイは軽く右手をミスナイに翳す。


「大きい方が的も大きくて当たりやすい」


 そう淡々として溢すフラブ、そしてカケイは少し距離が離れていても真剣な表情で同時に言葉を放った。


 ただフラブは冷静に、そして大きい土人形を前にしても怯むことなく互いに向かい合っている。


「……処刑課。恨むよ」


 そして創造魔法を使い背後に並ぶように大砲が4台も出現する。その大砲の全てが頼もしいとも言えるくらい殺意が秘められていた。

 次にフラブの右手には鉄剣から大剣へと変わり離さないよう強く握りしめている。その大剣の刃渡りは70センチほどで大きい木すらも両断できそうだ。


「魔力の消費……考えられるほどの余裕はないか」


 険しい言葉を放つフラブが生成した大砲の銃口は大きい土人形に向いている。

 それを確認するまでもなくフラブは地面を強く踏み込み大きい土人形へと向かって全速力で走り出した。

 同時に大砲が起動し土人形に砲弾する。ーーだが弾は土人形のため全て貫いては直ぐに弾が貫通した箇所も修復されていく。


 それを確認したフラブは真っ直ぐ大きい土人形へと走りながら魔眼を使う。それによって大きい土人形の周りがミスナイの魔力で覆われているのが確認出来た。

 だからこそ地面を更に強く蹴って浮遊魔法を活用しつつ高く跳ぶ。その跳んだ高さは大きい土人形より少し高いくらいだろうか。それと同時に大きい土人形を貫通した砲弾へと目掛けて大剣を構える。


 颯爽と砲弾が飛んでいく軌道に現れては全て大剣の刃で大きい土人形を目掛けて刃で弾く。それにより爆発寸前の砲弾。ーーそれが丁度、大きい土人形を貫通しようとした直後に大きく爆発した。



 ──その頃、ミスナイと戦っているカケイは先程よりも何故か余裕が感じ取れる。


「再戦と行くか? ユート」


「前みたいに尻尾巻いて逃げるなよ? カケイッ!」


 少しだけ声を荒げているミスナイは微かに焦りが垣間見えるもまだ余裕が感じ取れてしまう。


ーー氷雪魔法「大雪」


 カケイが魔法を使うと瞬きをする間に膝の位置まで雪が積もった。冷たくも空は快晴で雪とは程遠い天候なのだが雪が溶ける事もない。


 だがミスナイは雪を一瞬で蹴り飛ばした。そして直ぐ様にその場で屈みつつ地面に右手を当てた。


「何をして……」


 その時カケイの足元の地面にカケイを中心としたヒビが入り始めた。

 カケイはそからの殺気に瞬時に気づいて咄嗟に避けるもも遅く。ヒビが入った場所から先程と同じくらいの巨大な土人形が出現した──。

 その大きい土人形がカケイを軽々と片手で鷲掴む。


「──っまじかよ!」


 微かに焦り始めたカケイは目を大きく見開いて微かに背筋を凍らせた。


 ──氷雪魔法「雪崩」


 カケイが魔法を使った瞬間、巨大な土人形の頭上から魔法陣が出現する。そして瞬く間に魔法陣から大量の雪が雪崩のように降り注がれた。──だが大きい土人形はその圧力にも負けることはなく、何事も無かったかのように傷がない。


「だからっ、デケェ奴とは相性悪ぃんだよッ!」



 ──その頃、フラブはただひたすらに大きい土人形を斬ったり爆発させたりで相対していた。地面に着地してフラブはゆっくり大剣を降ろし、大きい土人形を見上げて改めて実感する。


「……大きいな、さすが処刑課だ。なにより手応えがない」


 大きい土人形に再び魔眼を使うも、変わらず大きい土人形はミスナイの魔力で覆われていた。


「……勝てるか、これ?」


 だがフラブは冷静に大剣を解除して創造魔法で両手に短剣を握る。その短剣は刃渡り20センチほどで両手それぞれ同じ物だ。


 そして瞬時に大きい土人形はフラブを踏み潰そうと片足を大きく上げた。だが大きさがあり動きは遅い。


 だからこそフラブは退がらず、地面を踏み込むと大きい土人形に向かって再び全速力で走り出す。

 ──すると大きい土人形はフラブが元々居た場所の地面を躊躇なく力強く踏み潰す。辺り一面、凄まじい量の土埃が舞った。

 大きさ故に威力は大きい。一撃でも喰らったら即死だと誰が見ても理解できるだろう。


 フラブは大きい土人形を貫かないよう手加減をしながら短剣を土人形の背中を目掛けて素早く投げる。

 ──狙い通りに大きい土人形の背中に突き刺さった短剣だが人形というものが土だけあって鈍く地面に落ちようとしている。

 だがフラブは好期を逃さず強く地面を蹴ると再び浮遊魔法を活用し、大きい土人形の背中辺りまで高く跳んで投げた短剣の上に乗る。乗ると同時に短剣は固定したため重さで落ちることもなかった。


「試す価値はある……よな?」


 そう優しい口調で小声を溢すフラブは大きい土人形の背中を軽く両手で触れる。


ーー破壊魔法「粉砕」


 フラブが魔法を使ったその瞬間、大きい土人形が内側から爆破されたかのように全体が粉々に砕け散って地面に崩れる。それを確認したフラブは落ちると同時に創造魔法を解除し、着地に浮遊魔法を使った。


「初めて使ったな、破壊魔法。まぁまぁの威力だ」


 険しいその言葉の通り大きい土人形は直ぐ様元の原型に戻ってフラブの姿を視認するなり殴りかかる。


「本気で持久戦を挑んで来るか……ッ!」


 少し声色からも焦りが見えるフラブは苦い表情をしながら悠々として一度カケイの方を見る。すると大きい土人形がカケイが居るところにも確認できた。


「凄いな……」



 ──その頃カケイは苦しそうにも辛そうで険しい表情を浮かべながらも抵抗している。


 ──氷……魔法「逆氷柱」


 カケイが苦し紛れにも魔法を使うと水色の魔法陣が出現した。魔法陣から土人形の手首を目掛けて勢い良く大きい氷柱が飛び出す。

 ──そしてギリギリ土人形の手が消えてカケイは地面を目掛けて落ちた。だが落ちた地面に雪魔法を展開し、落下した時の傷はつかなかった。


「マジで強くなったな! ユート!」


 明るい声色でそう言うカケイは打って変わって笑いながらミスナイの方を見る。


「お前は成長してないな」



 190年前、──王都の暗い夜の左右に住宅や店がある人通りが少ない場所。


 ─もうすぐ22時か


 カケイはそう考えながら人を待っていると背後から足音が聞こえてゆっくり振り返る。


「初めましてだよな? アルフェード教会」


「やはりお前が来てくれたか! カケイ!」


 暗闇に白いローブに深くフードを被った長身の男が歩いて来ていた。暗闇も相まって一見幽霊と見間違ってしまう程にかなり不気味な男性だ。


「俺のこと知ってんのか? 何者だ?」


「ああ、知ってる。貴様が人間ではないことも、施設の出だとも。なんせ貴様を引き入れるために手紙を送ってたからな」


 その余裕ある男性の言葉にカケイは訝しむような目で男性を見て。男性は気味が悪い雰囲気を漂わせながらカケイを指さす。


「それ知ってんなら俺ぁ今、お前を殺すのを躊躇わないってこともわかんだろーが。これ以上俺に関わんなよ」


 圧ある声色でそう言うカケイは冷静に不気味な男に向かって右手を前に翳した。


 ──氷雪魔法……


「待てよ、馬鹿野郎。図書館に通ってた人全員を人質に取ってる」


 その遮ってきた言葉にカケイは腕を組み瞼を閉じて真剣に考え初めてゆっくり目を開けて腕を下ろす。


「……まぁ良い、本当かどうか分かんねぇし。俺に何してほしい?」


「感情があるってのは本当なんだなぁ? お前に抵抗されねぇ為に場所選んで正解だったぜ。ついてこい」



 そして今現在、──カケイは微かに険しい表情を浮かべながらもミスナイの方を見る。


「俺ぁ今でも後悔してる。もっと他にいい選択があったんじゃねぇかって! ユート……」


「──黙れよ罪人! 友情なんて全部嘘だったんだろ! お前は裏切ったんだよッ!」


 訴えかけるように必死に言うミスナイは悔しそうに少し俯きながらもカケイに溢れる程の殺気を放つ。


「なら……これ以上遠慮はいらねぇな? 構えろよ、処刑課」


 悲しそうにカケイは意を決し、真剣な表情を浮かべてミスナイと完全に敵対した。


「最初からそうしろよッ……! 罪人!」


 ミスナイは大きい土人形を動かし、カケイを大きい土人形の右拳で殴りかかる。だがその腕がカケイに届く事は無かった。そのカケイは氷で傘を作り左手に持っていたのだ。傘を上に持ち上げて土人形の腕を防いで土人形の腕の動きを完全に止めた。


「は……? どうやって……」


 ミスナイは驚き目を大きく見開いた。そして氷の傘から次々と大きい土人形の周りが氷で覆われていく。


「手加減は要らねぇんだよな?」


 完全に凍った大きい土人形。カケイは氷で空中に数えきれない程の大量の小さい釘を作り。ミスナイに向けて右手を翳してミスナイに向けて素早く、勢い良く氷の釘を放つ。──常人の視力では距離もあり到底見えず、近くに来たタイミングでしか避けれないだろう。だがそれが可能な人間は限られる。


 ミスナイは全身に脆に氷の鍵を喰らい。一瞬で血塗れになって痛々しい表情で強く悲鳴を上げた。


「ーーッ!」


 痛々しい表情を見せるミスナイは地面に膝をついて土魔法を解除し、自己回復に力を注いだ。

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