第二十八話 戦後の平和
フラブが起きる少し前、──アリマは自身の家の玄関にコクツとミリエ、アオトとフラブを巻き込んで転移した。
「……ここぁどこだ? テメェの家か?」
コクツは家の辺りを見渡していて、アリマは気を失ってるフラブの靴を脱がす。
「ああ。ミリエ君とコクツ君はこの黒いスーツの者の監視を頼みたい。処刑課だから気をつけろ」
淡々とそう言いながら瞼を閉じてうなされているフラブを自身の左肩に軽々と担いだ。
「それは、頼んでない。命令」
ミリエがそう言うがアリマは無視して気にせず自身も靴を脱いで家の2階へと向かった。
「逃げれるかどうか試してみるか? ミリエ」
コクツは悪そうな顔でミリエに問い、それにミリエは冷静にも首を横に振る。
「駄目。もし失敗したら、確実に死ぬ」
「そーかよ。まぁそーだわな。あのバケンモン野郎だ」
コクツは呆れて溜め息を吐き、ミリエと一緒にアオトの監視を始めた。──10秒経った頃。
「……なぁ、監視って何すりゃ良いんだ?」
「私に、聞かないで。多分、見てればいい」
続いてコクツとミリエは気を失ってるアオトを無言で見つめる。
「……なぁ、この時間無駄じゃねぇか?」
「私に聞かないで。多分、無駄じゃない」
そしてミリエとコクツは再びアオトを無言で6秒ほど見下ろした。
「……なぁ、アイツ遅くねぇか?」
「私に……聞かないで。多分、遅くない」
その頃、アリマはフラブをお馴染みの部屋のお馴染みのベッドに運んで横たわらせていた。
「アレになるのは気を失ったらでは無いな。可能性が高いのは……フラブ君が絶望した時か。だがアマネが殺されてもアレにはならなかった……」
アリマはそう言いながら悲しそうな表情を浮かべ右手の甲でフラブの右頬を優しく撫でる。
「君も只の人間なんだ……余が早くアレを理解して君を解放して……でも君はそうなっても自分から幸せを外すのだろう。本当に、ハジメと良く似ている……」
そして転移魔法を使用して宿の部屋に戻り荷物も全て転移魔法で瞬きをする間に全て移動させた。
「和菓子屋……余が出来る事は処刑課に吐いてもらう事のみか……」
その頃、──アオトの監視をしているミリエとコクツは変わらず悲しそうに話をしていた。
「なぁ、今頃スラムに居る奴らって死んでんのかな?」
「分からない、考えたくない」
ミリエが淡々とそう答えると暫く無言が続いてコクツは冷たい目でアオトを見下ろす。
「これからどーなんだろうな、俺たちは」
「……運がなかった、それだけ」
「そーだな、生まれた時から……きっととっくに神様に見捨てられてんだ」
その後しばらく無言が続いた。すると階段からアリマが降りて来てミリエ達の方に歩いて来た。
「君たちにお願いしたい事があるんだが」
「お願いじゃねぇ、命令だろーが」
アリマは表情一つとして変えず、コクツはアリマを強く睨んで、ミリエはかなりアリマを警戒している。
「君たちはフラブ君の側に居てあげてほしい。フラブ君が目を覚ましたら余はヨヤギ家の本邸に行ったと伝えろ」
「分かったけど、フラブ、どこ?」
ミリエは変わらず警戒したまま無表情で首を傾げてアリマに問う。
「2階の手前側の部屋で寝ている。もしフラブ君に手を出したら只では殺さない」
「だろーな! 早く行くぞ、ミリエ!」
アリマからの脅迫にコクツは怒り気味でそう言い、2人は家に上がって2階へと進もうとする。
「待て、君たちはずっと裸足だろう。風呂場で足を洗ってからにしろ」
「どこ、?」
「右側の洗面所の奥にシャワー室がある」
アリマがそう説明するとミリエとコクツは洗面所の方に歩き出す。そしてアリマはアオトを連れて本邸へと転移魔法を使った。
そして今現在、──目を覚ましたフラブは部屋から出ようとドアを開けた。すると目の前に足が水で濡れてるミリエが立っていて無表情でフラブを見上げる。
「フラブ、目、覚ました」
「ミリエ……よかった、アリマさんに殺されてない」
安心したかのようにフラブは優しく微笑んでミリエの頭を右手で優しく撫でる。
「ん、よかった?」
「ああ。とてもよかった。それでミリエたちはアリマさんの仕事を手伝うのか?」
「手伝う、脅されたから」
「は……? 脅された……?」
フラブはミリエを撫でる手を止めてそう問うと、左側の階段から足が濡れてるコクツが登って来た。
「命握られてんだよ、あのバケンモン野郎に」
「……それは本当か?」
フラブは少し訝しむような、アリマに怒るような表情でそう言い。それにミリエは表情を変えずに頷く。
「聞けばわかる。アリ……マは、ヨヤギ家……ほん、てにいる」
ミリエは頑張って思い出しながらフラブに伝えると同時にフラブからは怒りと殺気が漂う。
「そうか。私からアリマさんに言っておこう。あの鬼……」
「テメェは何だ? 何であのバケンモン野郎と一緒に行動してる? テメェはバケンモン野郎程バケンモンじゃねぇだろーし……」
「私の名前はシラ・フラブ。3段で形上シラ家の当主、そしてアリマさんは恩人みたいな化け物だ」
「自己紹介なら聞いた……ってシラ家って聞いたことあんな……何だ?」
「アリマさんのヨヤギ家と同じく名家だ」
「あ、あのシラ家か」
「……どのシラ家は知らないが……それは置いといてコクツだったか。私より年下だよな?……身長高いな」
フラブはそう言いながらコクツを見上げるとミリエもコクツの方を見上げる。
「コク、巨人」
「違ぇよ、人間だわ。フラブさんは小せえな。ミリエよりぁでけえけどよ」
コクツの軽々とした言葉にフラブは恐ろしく微笑んで冷たい空気が漂う。
「そうかそうか。ミリエ、コクツの苦手なものを教えろ。今度苦手祭りにしてやろう」
「えっと、アリマ……」
「確かに苦手……ってか嫌いだわ。俺より身長でけぇし」
「そこか? ……まぁ良い。よろしく、ミリエ、コクツ」
不思議そうにするフラブだが直ぐに優しい表情で2人を見てそう言った。
「うん、よろしく、フラブ」
「別によろしくする必要あるか? テメェは良いやつかも知れねぇけどよ、俺たちにゃ関わるメリットが無ぇ」
「メリット? 私が君たちと仲良くなりたい。それでは駄目か?」
不思議そうにフラブが問うと情報処理の時間で4秒程静まり返る。
「……良いけどよ、その、なんか照れんな」
コクツは頬を少し赤くして照れてるように外方を見ては腕を組んだ。
「フラブ、人たらし」
「人たらし? どう言う意味だ?」
フラブは不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げてミリエに問うとミリエも首を傾げる。
「わからない」
「分かんねぇで使ってんのかよ。だけど使い方あってるし、凄ぇなミリエ」
驚くようなコクツの褒め言葉にミリエは誇らしげな表情で両手を自身の両腰に当てて胸を張る。
「少し席を外そう。2人で何か話でもしといてくれ」
優しい声色でフラブはそう言ってドアを閉めて再び部屋の中に入る。そして右耳につけておいた小型の魔力通信機でアリマに通常をかけた。
「アリマさん」
「目を覚ましたのか、フラブ君」
淡々としているアリマの声。だが何故か通話の先からアオトの痛々しい悲鳴が聞こえた。
「何を……してるんですか……?」
フラブが少しだけ眉を顰めて恐る恐る問うと途端に悲鳴は止んだ。
「何でもない。其れより何の用だ?」
「ミリエたちの命を握ってると聞いて、アリマさんを殴るための許可を取りに通信をかけました。あと暇です」
「仕方無いだろう。彼等は殺し屋、余が信用するに値出来ない」
「……信用出来た時には解放してあげて下さい。あと風呂場を借りて良いですか?」
「……風呂場か、良いが何かされたら余に教えろ」
「──殺されそうになれば私が殺します。それより宿はチェックアウトしたんですか?」
「ああ。君の荷物も君のベッドの横に置いといた。洗濯する物は洗面所の洗濯機に掛けておけ」
「ありがとうございます。え……っと、私はここに住む感じなんですか?」
「文句は無いだろう。衣食住も揃っている、余も大体は本邸より家に居るから其の方が良い。まぁだが、名家としての仕事がな。つまり日によっては本邸に泊まってもらうこともある」
「至れり尽せりですね。アリマさんが帰って来た時にアルフェード教会と魔力人形の施設、それと王都に向かう前の本題を話してほしいんですが……」
「ああ。フラブ君、余と居るのは嫌か?」
急な寂しそうにも淡々としているアリマの問いにフラブは不思議そうな表情を浮かべた。
「……急にどうしたんですか?」
「余は君と居る事が嫌ではない。其れに居なければならない理由もある。だが君の意見を無視することは不本意だ」
「あっさりと嬉しい事を言ってくれますね。勿論アリマさんは鬼で好けない人ですけど、私は山を出たら生活力が皆無ですのでお節介な所は有難いんです」
少し昔を思い出すように優しい声色でそう言いながらフラブは優しく微笑んだ。
「そうか、良かった。キュサ君は今は一度別邸でキヨリとコヨリたちの精神的な恐怖に寄り添っている。何があったのかは君は知らない方が良いだろう」
「……分かりました。今度私もコヨリちゃんたちの所に行っていいですか?」
「……良いがお勧めは出来ない。もし責めるなら余を責めろ、余が守れなかった責任だ」
アリマの言葉にフラブは呆れて深く溜め息を吐き、軽く腕を組む。
「あのですね、アリマさん。アリマさんがコヨリちゃんたちに守ってくれとお願いされてアリマさんが守れなかったのならそれはアリマさんの責任です。ですが違うでしょう? 周りの人に傷ついてほしくないという気持ちは大切ですがそれと自己責任は違いますよ」
「……だが……」
「会合中の出来事でしょう。それなら私の方が責任がありますよ、誰にも教えられなかったんですから。それでもアリマさんの自己責任が勝つのなら私が怒ってあげましょう」
叱りつけるように言うフラブだが声色からも優しさが感じ取れる。
「……分かった。其れと20時には帰る。夕食は余が帰るまで待っておきなさい。其して昼食は冷蔵庫に作り置きしたものがあるから自由に食べろ」
「急にいつものアリマさんに戻りましたね。では切ります、ご飯ありがとうございます」
変わらず優しい口調でそう言って通信を切り、小型魔力通信機を外してベッドの上に置いた。
「体を動かしたいな……風呂の前に走りに行くか」
そう言葉を溢してドアから部屋の外に出る。
「フラブ、コクを止めて」
ドアを開けたら先ほどと同じようにミリエが居て、ミリエは無表情で焦り気味でフラブにそう言った。
「どうかしたのか?」
「コクが、風呂場で、暴れてる」
「え……?」
フラブは言われるがまま心配しながらも洗面所の奥の風呂場にミリエと来た。
「大丈夫か? コクツ」
心配するように大きい声でそう問いながら洗面所のドアをノックする。
「あーはっはっはッ! 水道代! 大量に払わせてやるぜぇーーッ!」
大声でそう言うコクツの声から聞いて分かるほどにとても楽しそうで。だが大量の騒がしい水の音、それにフラブは呆れるように軽く溜め息を溢す。
「アリマさんのお金が無くなればきっと仕事が増えるなー」
呆れを隠しながらもフラブは棒読みでコクツに聞こえるようにそう言い。瞬間コクツの声が無くなり、騒がしい水の音が小さくなる。
「仕事が増えたら大変そうだー、きっと雑用も増えるんだろうなー」
その瞬間、──水の音が完全に消えた。
するとミリエがフラブの服を両手で掴んでジーッとフラブを見つめる。それにフラブは不思議そうにミリエを見下ろす。
「フラブ、遊んで、ひま」
「遊ぶ……? すまない、遊ぶのは得意ではないんだ」
「いや、遊んで」
ミリエは年相応に駄々を捏ねてフラブに縋りつき、フラブは腕を組んで右手を顎にあてて考える。
「何して遊びたい?」
「一狩り、いこ」
「魔物の狩りか、良いがこの山に魔物は居るのか?」
「ここ、山?」
ミリエの不思議そうな問いにフラブは右手をゆっくり元の位置に戻す。
「ああ。アリマさん自身が保有している領地の1つらしい。アリマさんが狩り尽くしてると思ってな」
「魔物は狩っても、増えるよ」
「そうだな。だがアリマさんの事だ、増えないような結界とか張ってそうだろう?」
「フラブは、アリマのこと、とても知ってる」
「それはない。取り敢えず行ってみようか、ミリエ」
フラブは優しい表情と口調そう言い、ミリエは頷いて2人は靴を履いて外へ出た。
その頃、──アリマは本邸にあるあまり使わない自身の部屋に訪れていた。
フラブからの通信後、小型魔力通信機は仕舞わずに着けたまま返り血を浴びていた。目の前に血だらけで壁に凭れて手足全てが茎で拘束され口にも茎が巻き付いているアオトに目線を置く。
アリマは無慈悲な目でアオトの口の茎は解除して消してアオトは時間を稼ごうと必死だった。
「っ着物は着ないのか?」
アリマは上は着ておらず黒いズボンを着て無慈悲な目でアオトを見下ろしていた。
「汚すワケにはいかないからな。君は吐いてはくれないのか?」
「っ誰が……っ!」
アオトは取り敢えずとてもグロい姿で血塗れていてアリマに強く反抗する。
「そうか。ヨヤギ家は名家の知恵だ。故に余は拷問の知識や人の心を壊す知識も嗜める程度には蓄えている。だが余とて人を傷つける趣味は無いからな」
「……っよく言う! 俺の姿を見て言え……っ」
アオトがアリマを睨んでそう言い。アリマは無慈悲にもアオトに右手を翳した。その瞬間アオトの全身に一瞬で電気が走る。
「──ッガァあああッ!」
痛々しい悲鳴を上げるもアリマは表情を一つとして変えずに右腕を元の位置に下ろした。
「……っ! 無駄だッ!」
アオトは強くアリマを睨み。アリマは腕を組んで左手を顎に当てて考える。
「確か処刑課は、いつ誰が死んでも直ぐに交代できる人が居るようなシステムだろう。次の人材は今よりも強い人が選ばれるとか」
「……っ! 止めろっ……それ以上言うな……ッ!」
アリマの淡々とした言葉に一瞬でアオトの表情が血の気が引いたように曇りつつ険しくなる。
「其のおかげで今も絶滅してないんだ。考えた者は天才だろうな」
「……っ」
アオトは耳を塞ごうにも手足が強く茎で縛られており強く目を瞑る。
「余が言うのも何だが、君の存在は処刑課にも必要とされていない。其れに君は家からは冷遇されて育ったらしいな」
「止めろ……っ止めろと言ってるだろっ!」
アオトは表情が険しくなり、必死そうにも聞きたくないように焦って言葉を荒げる。
「代々処刑課に勤めている実家、親にも誰にも君は期待されず見返したくて処刑課になった。だが君より弟さんが有能で、次の第一課長又は最高管理者は君の弟さんが就任する予定……合ってるか?」
「……っ」
「──だが君は無能だ。あのシラ・ミハの後継者とも言える地位に着けたのは良いものを君にその地位はまだ早かった。生まれから死ぬまで君は誰にも必要とされないだろう」
「……っ! 違うっ、俺はっ……」
必死にも否定できずにアオトは暗く俯いていて、目から光が消えていく。
「君の価値は其れ迄だな。余は君を必要とした筈なんだが此処迄弱いとは……君は本当に何の価値もない要らない人間だな。興が逸れた」
淡々としているアリマはずっと無慈悲な目アオトを見下ろしていて。アオトはアリマを見て恐怖で声が出せず、アリマに怯えて手足が震えていた。
「また後で来る。余は君と違って多忙なのでな。アリトの所へ行ったあと着物を着て別邸にも行かねばならない」
──それからアリマは部屋から出て2階へと進みアリトの部屋まで来てドアを開ける。
前と変わらず病室みたいな部屋、ベッドの上でアリトは幸せそうにアイスを食べていた。
「アリト」
アリマの一言でアリトは何よりも早い物凄い速さでアリマの方を見る
「兄さ……!」
それでも急に言葉を止めて手を合わせながらアリマを拝んだ。
「血も滴る良い男とは兄様の事だったんですね!」
アリマがそう言うとアリトは拝むのをやめてアリマに優しい表情を向ける。
「そんなもの滴りたくはない。其れより本題に入ろう」
アリマはずっと無表情で冷静に淡々と言って話しを終わらせた。
「兄様! 駄目ですよ? 血だらけで廊下を歩いたら。未使用のタオルが幾つかあるので私が兄様の体を拭きましょう」
「安静にした方が良いだろう。血は後で洗い流す」
「兄様のお身体を拭く、そうしたら私の寿命もきっと伸びる……」
アリトは残念そうな表情で少し俯き、それにアリマは呆れるような目を向ける。
「寿命は伸びないだろう……其れで本題だが調査進捗は?」
真剣なアリマの問いにアリトは真剣な表情に変わってアリマの方を見た。
「敵に尾行させた私の人形ですが……西の空遺跡付近で魔力が途絶えました」
「西の空遺跡か………」
アリマは腕を組んで左手を顎に当てて真剣に考え始める。それにアリトは不思議そうな表情を浮かべた。
「何か覚えが?」
「ああ。昔に帝国からの依頼で余とハジメとアザヤ、その3人で魔物の討伐を受けた場所だ」
アリマは何処か物苦しい表情でそう言い、アリトも不安めいた表情をする。
「名家の当主が3人でですか? そんなに危険な……」
「ああ。あれは地獄絵図と言っても過言ではない。5段の魔物が基本で6段以上の力を持つ魔物も多い。故に4段以下なら基本入る事さえ自殺行為だ」
「私も兄様の側で戦えたら良かったのに……」
「アリトも一緒に戦っている。アリトの人形のお陰で今回、敵の位置が少しだけ掴めたというものだろう」
「っ兄様〜っ!」
アリトは嬉しそうな感情が昂った笑顔で強く被り布団を掴む。
「今のところ持病はどこまで進んでいる?」
アリマは真剣な表情でアリトを見て問い。アリトは深刻そうな表情を浮かべた。
「……案ずるな。余は病気でアリトを死なせない。大切な弟だからな」
真剣ながら優しい声でアリマはそう言って右手でアリトの頭を優しく撫でる。
「もぅ、兄様は完璧過ぎますよ……! 私の兄様への敬愛をどこまで強くすれば気が済むんですか?」
「知るか。あといい歳して人にデレるのは止めろ」
急にも冷たい表情へと変わったアリマだがアリトは関係なしに目を輝かせている。
「兄様限定です!」
「其れでも止めろ。来年でアリトも365歳だ、其の年齢を考えての言動をとれ」
アリマの棘のある言葉にアリトは苦しそうにして両手を胸に当てる。
「わ、私の年齢は兄様の前では無くなり、ます……」
アリトは腕を下ろして余所余所しく外方を向いて少し目を泳がせた。
「願望も此処までくると幻覚となるのだな。余はアリトに調査進捗を聞きにきただけ、故にもう行こう」
「……っ! 兄様に後光がっ!」
アリトは眩しくて目が開けられず翳すようにアリマの方に手で覆う。
「本当に幻覚まで見るようになったのか」
呆れながらもアリマはそう言って部屋のドアから部屋を出た。
「兄様の人を拷問してるとこ見たかったなぁ……」
アリトは残念そうに言葉を溢しながら、体勢を元の位置に戻した。
その頃フラブとミリエは、──アリマの家から出て木々を走りながら其々で魔物を倒していた。
フラブは大剣を両手に持ち、走りながら大きく振るいながら獣魔物を狩りまくっていき。ミリエは短剣を右手に持って持ち前の力で魔物を斬り刻みつつ狩ってフラブと競争している。
「これで5匹目だ、ミリエは?」
「私は4匹目、フラブ、凄い」
フラブとミリエの距離は然程遠くは無く、2人で話つつ競争心を高め合って次々と倒していく。
「ミリエの方が凄いだろう。私とは100以上も歳の差があるんだ……っ」
フラブは追加で1匹殺し終わり、木々の間を走って次の魔物へと向かい出す。
「そんなの、関係ないっ……」
ミリエも倒し終わり、フラブと同じ方向に次の魔物を求めて走り出した。
獣魔物は基本的には魔法を使わないが主に物理攻撃が強い。だから大抵は魔法を駆使して倒すのだが、フラブは190年殆ど森に居たため狩慣れていて。ーーミリエはただ力が強いため、短剣を駆使して攻撃を避けながら何度も切り刻んで行った。
「あ、それより勝手に魔物を狩って良かったのだろうか……」
フラブはふと疑問に思い、地面を蹴って高く上に跳び木の上に着地する。
「魔物は永遠に湧き続ける、だから、バレない」
ミリエは変わらず魔物を斬って攻撃を避けての繰り返しをしながら倒していく。
「それもそうだな」
フラブもそう言って足元の木を蹴って次の魔物へと向かい、その勢い良く獣魔物を真っ二つに斬る。
「魔物の血は基本的に青色、その理由は何だと思う?ミリエ」
フラブは真っ二つに斬って青い血が出ている魔物を見ながらミリエに問う。
「……たくさん、魔力を吸収、してるから…?」
ミリエも魔物を斬る手を止め、フラブの方を見て首を傾げながら問いに答える。
「それもあるだろう。だが湿った所に居る毒菌魔物の血は紫色だ」
フラブもミリエの方を見て問い、ミリエは右手の人差し指を唇の下に持ってきて考える。
「環境……?」
「ああ。凄いな、ミリエ……」
フラブはミリエの頭の良さに感心を覚え、ミリエは誇らしげな表情をした。
「これは例だが魔力は環境によって黒く澄んだり白く綺麗になったりするんだ。私は勉強とかはしてないが、アリマさんから教えて貰った事と魔眼を持ってるから何となく理解したんだ」
「じゃあ、私、凄い?」
「ああ! とても凄いぞ」
フラブは微笑みながら楽しそうにそう言ってミリエの方に歩き出した。
「そろそろ家に戻ろうか、コクツが暴れてないか心配だ」
そう言いながらミリエの前で立ち止まり、ミリエは無表情で頷いた。




