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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第二章「休暇の沙汰」
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第二十七話 願いは消えない

 ──意を決しながらフラブが放った矢は見事に処刑課に的中した。


「は……?」


 アオトは状況が理解出来ず、ただ呆然として後ろに居たはずの仲間の方を見ていた。だが直ぐ様アオトは警戒するようにコクツを強く睨んで銃を向ける。


「罪人がっ……!」


 そう険しく言いながらコクツに銃を発砲しようとした時、持っている銃の銃口から花が現れた。桃色の綺麗よりも可愛さが勝つ花だ。


「は……? 花……?」


 銃口以外にも、銃に沢山の可愛らしい様々な花が咲き始めた。


「何が起こってんだ……?」


 コクツでさえ驚きを隠せずにアオトが持っている銃を呆然として見つめる。


「会合では世話になったな。処刑課」


 その声の方向を恐る恐る見るアオト。視線の先には上空に茎の無い花を咲かせて、その花の上に立っているアリマがアオトを見下ろしていた。そしてそのアリマは左手にミトウの胴体から切断された頭の髪を掴んで持っている。


** ** * ** **


 少し前、──サフィウムを消したアリマの元に4課長ミトウが距離を開けてアリマの左横に現れた。


「見つけた。ヨヤギ・アリマだな?」


 アリマはその声が聞こえた方を振り向いて、無表情ながら微かに深刻そうな表情をする。目線の先にいる者が処刑課の服を着ていたからだ。


「処刑課……来ていたのか」


 瞬時に躊躇いもなくアリマは風刃でミトウの首を刎ねて一瞬で息を絶えさせた。

 処刑課、広く言うのなら6段以下の相手ならば無傷で息の根を終わらせられるだろう。そして6段以上の相手というのは世界中を探してもそう多くない。

 ──そのままアリマはミトウの首を拾ってフラブの背後に転移した。



** ** * ** **


 そして今現在、──険しい表情を見せるアオトだが意外にも他の銃を構築して撃つことはしない。


「なっ……ヨヤギ・アリマ……ッ!」


 それでもアリマを視界に移すなり、死を悟るかのような険しい表情を浮かべている。そしてアリマが乗ってる花の上にはフラブとミリエも居た。高所が怖くてしゃがんで震えているミリエをフラブは優しく抱きしめて背中を摩っていた。


「ああ、余だ。其れで君は……」


 だが危険を感じたアオトはアリマの言葉を遮って拳銃を解除して機関銃を作った。そして躊躇う事もなく恨み続けるようにアリマの頭に銃口を定める。


「魔法で作ったマシンガン……君、さては馬鹿だな」


 そう独り言を溢すと同時にフラブとミリエ、コクツの地面に魔法陣が生成された。そして強制的に転移魔法を使って反対側の観客席へと送る。そこはまだ人の胴体から首が切断された死体が多く転がっていた。


 ──それと同時にアオトはアリマに向けている銃口から当たれと思いつつ銃弾を乱射させる。だがアリマは魔法を使う素振りすら見せずアオトの視界から消えた。そして刹那の間にアオトの左横に移動する。


「……っ!」


 銃弾の発砲を止めてアリマの方を向こうとする頃には身動きが取れなかった。決して拘束されている訳ではない。恐怖で身体が微動だに動かないのだ。


「銃を扱うのなら援護射撃なり凡その距離を相手とは保った方が良い。的確に撃てる腕を腐らせる気か?」


「何なんだッ! お前は……!」


 嫌そうに左横にいるアリマを強く睨みつけるが逃げるにしろ抵抗するにしろ、もう手遅れだ。

 こんな状況で唯一冷静さを保っているアリマは右手を軽くアオトの左肩に置いて、優しい表情をしながら反対の観客席に送ったフラブを見つめている。


「ああ、君は殺すのが惜しい人材だと判断した」


「は……?」


「此処までも被害が大きくなってしまった。処刑課について詳しい情報を吐いてもらわねば得る物が少ないと言うものだろう?」


 悠々として問うアリマは全くの隙がなく何も出来ずに言葉を詰まらせる。何となくアリマがやろうとしていることを察したから。


「要するに……君等が会合中に撃つという愚行を成功させたこととその真意。此処最近の動き全てが当てはまる。其れ等を吐いて貰いたいんだ」


「っ吐くくらいなら……っ!」


 自身の頭に機関銃の銃口を向けて引き金を引く。

 ──しかし音も鳴らず、撃ったはずの銃弾が頭を貫いてくることもなかった。


「……?」


 それを不思議に思いながら自身が手に持つ銃へと恐る恐る視線を移動させる。なんと銃内部を含む全体に花が咲いて銃が用途使用不可になっていた。

 それに目を見開くアオトだがすぐに左横にいるヨヤギ・アリマの花草魔法だと理解する。


「残念だが君には吐くという選択肢しかない。諦めろ」


「化け物がっ……!」


「其れなら無理矢理吐かせてしまおうか。段階としては質問から……否、面倒だ。故に拷問から始めよう」


 悠々としている優しくも冷酷なアリマの言葉にアオトは少しだけ青ざめた。アリマが横に居る間は死ぬことも死なないことも全て、そのアリマに決定権が回ってしまう。


「だがこんな会話をフラブ君に聞かせる訳にはいかなくてな。彼女がの前でこんな死体を見せたあの子等の処遇も考えなくてはいけないんだ」


 淡々としてそう言いながら辺り一面に転がってる人の頭や死体を見渡す。常に冷静であるアリマにとって人の死というのは見慣れているものだ。


「お前も首を持ってるだろ……?」


 恐る恐るアオトが引き気味にそうツッコミを入れると空気が冷たく静まり返った。そして暫くの間ができた後にアリマは自身の左手へと視線を変える。そこには殺したばかりの処刑課、ミスウという名の者の首が掴まれていた。


「あ……しまった、証拠品として必要だろうと……」


「そうか……」


 そして残念そうにしながら左手に持つミトウの首を一瞬で燃やして灰にする。殺した人の首を持つことが慣れているせいで全く意識していなかった。


「……無かった事にはならないだろうか」


「……過保護過ぎないか?」


 そんな言葉を聞いたアオトは怪物の域に慣れてないため普通にアリマに話かけてしまう。

 そして処刑課としてではなく、アオト自身の目的はアリマを殺すことでもフラブを殺すことでもない。だから何やかんや「まぁ大丈夫か」なんて思いながら一周まわって平常心を保っている。


「ああ、自負している。少し話をしよう」


「は、あ……?」


「フラブ君の中に怪物が居るんだ、其れについて君が知ってることは?」


「……知ってるも何もアレは……怪物の段階に居ていい者ではない。お前、あの時アレをどうしたんだ?」


 これを何よりもアリマに問いたかった。

 フラブが突然あんな化け物になった訳だから不思議且つ恐怖を覚えるのは当然だ。

 それを問われたアリマは懐かしそうに反対の観客席にいるフラブを未だに見つめていた。


「気絶させて強制的にフラブ君の状態にした。余とて殺さないよう手加減をした状態でアレを相手にするのは面倒だからな」


「……だからお前はあの子の側に居るのか?」


 真剣な顔をするアオトはそう問いながら反対側の観客席に居るフラブに目線を置く。そのフラブは警戒しながらもミリエやコクツと親しげに話をしていた。


「フラブ君は余が尊敬出来る程に強い子なんだ。大切な者を幾度と失っても前を向いて他者の為に怒れる強さがある。あの幼さで誰よりも重荷を背負っているにも関わらず何度も前を向いて立ち上がったんだ」


「……っ」


「昔にハジメから死んでも守れと依頼されて実際に守っても良いと思える程の子だった、其れだけだ」


「……だが少しでも吐く事は絶対にしない。それが俺が出来る死んでいった者たちへの敬意だ」



** ** * ** **


 そしてフラブとミリエとコクツは反対側の観客席に飛ばされたあと地面に座って話をしていた。


「バケンモンだろ。アイツ」


「確かに人間は辞めてるだろうな。矢を撃ち終わった瞬間、急に背後に来て話しかけて来たんだ。ホラーよりホラーが似合う鬼だろう」


「それで、どうする、戦うの?」


「私はそれでも良いんだが……」


 高いところにいてまだ震えが止んでいないミリエは力強くフラブに抱きついていた。まるで生まれたばかりの子犬のように、可愛らしい弱い生き物のように。


「君たちは何なんだ? 人を殺した殺人犯だと思えば……」


「はぁ? 知らねぇよ。俺たちゃ人を殺す殺さねぇ以前に依頼されたモンを遂行してるだけだ」


「私は、フラブと敵対しない」


 そのフラブに抱きついているミリエは誇らしげにそう宣言すると少し離れてフードを脱ぐ。そこに現れたのは白に近い銀色の胸下までの長さの髪に赤と桃色が混ざった薄黒く綺麗な瞳でかなりの色白。


「綺麗、だな……」


 それはフラブでも目を見開いて見惚れてしまうくらいの人形らしい美しさで、無意識に綺麗という言葉を溢してしまう。それを聞いたミリエよりも何故かコクツの方が誇らしげな明るい顔をした。


「だろ? コイツ強ぇんだぜ、マジで」


「うん。コクも、敵対しない?」


 そう問いながらジト目でコクツの前に来ては優しく頭を優しく撫でるミリエ。何かと幼いと思えるミリエの方が立場的にコクツよりも上なのだろうか。


「ミリエがしねぇならしねぇよ」


 そんな呆れるような優しい言葉を聞いたミリエは聖母のように優しく微笑んだ。その光景にフラブは何とも言えない気持ちを抑え込んで暖かく見守る。

 するとゆっくり再びフラブの方を向くミリエは冷静に


「フラブ、信じるかは、別」


 確かにそれはそうだ。今さっきまで、お互いに敵対していたのだから、すぐに信用しろとか助力しろなんて話は無理だろう。

 するとコクツは次第に思い詰めてるような表情をして下を向いた。


「……俺らだって人を殺す以外の仕事をして生活出来んならそうしてぇからな」


 どうやら容易く人を殺した理由とかまで踏み込んではいけないような気がする。生い立ち的にこうするしかなくて、それでもコクツなりに考えながら今まで人を殺していたのかもしれない。

 多分、そんなコクツの意見に何も口を挟んでこないミリエも同じなのだろう。


「…………」


 ──すると突然フラブの背後に気絶したアオトを左肩に担いでるアリマが転移して来た。


「其れなら余の仕事を手伝え」


「っびっくりした……アリマさん、怒りますよ? これ何回目ですか?」


 急なことで肩をビクッと震わせるフラブは恐る恐るアリマの方を振り向く。そのフラブの顔は怒りと安心が混ざっていたのだが、視界に映るアリマは表情一つとして変えない。


「……っと誰?」


 そう恐る恐る問うコクツは驚きよりも警戒が勝ってアリマを睨んでいる。そして幼いミリエは静かにアリマを警戒して、いつでもナイフを取り出せるように隙を見せない。


「手伝う、どういうこと、ですか?」


「人手は余だけで足りてるんだが、この現状を作ったのは君たちの殺しの技量だろう? 殺し屋で留まらせるのは勿体無いという事だ」


 冷淡としている説明をしながら優しい表情をしているアリマは見渡す流れでコクツを見やる。そんなコクツはあからさまに警戒してアリマを強く睨みつけていた。


「……どうせテメェも俺たちゃ捨て駒みてぇに考えてんだろーが。それに俺たちを助けたって他にも助からなきゃ行けねぇ奴も居んだよ」


 それを聞いたアリマだが表情を変えることも同情する素振りさえ見せない。


「君たち、歳はいくつだ?」


 急にコクツとミリエに年齢確認をするアリマは既にこの場の主導権を握っている。強者であれ頭が回るアリマにとってそれは息をすることと同じくらいの容易い。


「あぁ? 俺ぁ123。なんか文句あんのか?」


 その問いにコクツは怒り気味で答える。

 コクツが答えただけで十分だろうと感じたミリエはただ無表情で何も言わなかった。何より見た目年齢的にも身長的にもコクツより年下なのは明らかだろうから。


「そうか。まだ子供だな。フラブ君、君はこの者たちをどうしたい?」


 突然話を振られたフラブは多少困惑するも少し言いづらそうに言葉を考える。そして3秒ほどが経つと真剣な表情を浮かべてアリマを見上げた。


「アリマさん、私は今日……誰も守れなかったのに人を殺しました」


「そうか。それで?」


「殺した人間のうち1人は帝国の者らしく、他は知っての通り大勢の処刑課です。人を殺すのは一瞬でした」


 殺した者の報告──そしてフラブの性格からも何となく心情を察する。人を殺したことで今まで通りに生きづらくなる人だって見てきたから。


「わからないんです。会合を中断してきたお兄様が私は既に人を殺していると言ってきました。出来るのなら否定したかったんです。でも出来ませんでした」


 微かに暗い声色で眉間に皺を少し寄せながら答えると悲しそうに言葉を続ける。


「人の死体に気が動転していて、他にも選択があったのならそうするべきでした」


 そしてフラブはゆっくり視線を移動させるようにミリエの方を見る。ミリエはただ話を聞いて、心配も同情も表情に出さずフラブを見つめていた。


「ミリエたちは他に選択がなかった、そうだろう?」


 その問いにミリエは躊躇いながらも「うん」と答え軽く頷いた。それにコクツはどこか浮かない表情をして話を聞いている。


「私はもう判断を間違えない。だけどその自信があるわけではない……」


 続けようとしていた言葉が喉の奥に詰まって眉を顰めながら下を向く。そんなフラブを見つめているアリマは暖かく見守るかのように優しく微笑んだ。


「勘違いするな、フラブ君」


 アリマの優しい声色の言葉にフラブはゆっくりとアリマの方を見上げる。人を大勢殺したことで酷く責め立てられるかと思っていたから。


「余は君の私情を聞いているんだ。正しい判断など未来を見ねば誰にも分からない。予知魔法というものに頼れば話は別だがな」


 想像を超えるそんな優しい言葉にコクツは怒りを顕にしてアリマを強く睨みつけた。


「待てよ。コイツの意思は聞いといて、俺たちの意思は関係ねぇって言ってんのか?」


 しかしアリマはその言葉すら聞こえていない、というより存在すら認識していないかのような無視をしてフラブに耳を傾け続けている。


「……敵対はしたくないです。私はミリエたちの事は何も知りません。ですがどうしても悪い人に見えないんです」


 懸命な顔をしていながら声は微かに震えていた。

 そんなフラブは不安が蠢きながらも少し優しい表情でミリエとコクツの方を見る。

 ──すると突然、


「相変わらず君は優しいな。少し眠っとけ」


「え?」


 それと同時に容赦の欠片もなくフラブの体に気絶するほどの電流を流した。──途端にフラブは電流により気を失ってパタリと横に倒れる。


「え?」


 その光景にミリエとコクツも口を揃えて疑問符を声にしながら呆然とした。しかしアリマやフラブにとってこれは変なところもない慣れっこなのだ。


「君たちの名を教えてくれるか?」


 優しい表情でミリエたちの方を見ながら問うアリマの視界に映るその2人は状況についていけず未だ呆然としている。


「……私、ラーラ・ミリエ。コクはコク」


「違ぇよ。俺ぁコクツってんだ」


 少し荒げ気味に答えるコクツは相変わらず睨みつけてアリマを警戒しだした。しかしアリマは変わらないそんな警戒すらも予想の範疇。


「そうか。では先ほどの君の問いに答えよう、コクツ君」


 悠々としているアリマとは対にコクツは拳を握り締めて「あ?」と圧ある声で喧嘩腰に問う。


「余は君たちの意見など心底どうでもいい。フラブ君が君たちと敵対しないと言った、故に余は君たちを容易には殺さないだけ。フラブ君に沢山の惨い死体を見せておいて君等が現在、余に恐怖出来ていること事態もフラブ君の慈悲でだ。感謝しておきなさい」


 そんなことを淡々と述べるアリマはこれでも心の底からフラブを想っている。どれだけフラブから嫌われていようとも180年もの間、常に心配していた。


「だが余が君等に怒ってることも事実。帝国の者が来ていた、故に今や会場外では王国と帝国の戦争が始まろうとしてる」


「は……?」


 少し目を見開くも息を呑んでそう問うコクツの声は微かに震えていた。ミリエはただ少し表情が険しくなる程度でコクツよりかは余裕がある。


「余もフラブ君も名家の人間、戦争とは無関係だが、王国の端くれのスラムに住む君等は違う。そうだろう?」


「んでそれをテメェが知ってんだ……?」


「合っていたか。殺しを自ら望まずに生活の為と言うのなら其れなりに貧しいのだろう。其れにミリエ君は指名手配をされている、余は一目見たものは忘れる事が出来ないのでな。概要は大抵皆知っているさ」


「……それであなたは、私たちを、どうしたいの?」


 急に口を挟んでくるミリエはもしもの場合に備えてコクツを守れるように構えた。それでもアリマは冷静にも冷たく一度アオトを地面に放り捨てるように置く。


「言っただろう。余の仕事を手伝ってもらうと。仕事と言っても名家としてのものではない」


「……概要は?」


「便利屋。依頼されたものを対等な金で請け負って遂行する、謂わば何でも屋だ」


「……私たちに怒るにしては、普通……?」


 少し力を抜いて疑念を抱きながら首を傾げて問うミリエだが、その真意を理解したコクツはますますアリマを強く睨みつけた。


「拒否権は無ぇ、要するに仕事も断れねぇ下っ端として雑用しろって事かよ」


「ああ。逃げても君たちの魔力に少しだけ余の魔力を付着させた、其れがどう言う事か分かるか?」


「……私たちの命が、あなたに握られたということ……」


 悲しそうにミリエはそう溢して自身の心臓の位置に右の手のひらを当てる。ほんの僅かに痛みとまではいかないが違和感というものがあった。


「……っ! 確かに違和感が……テメェッ!」


「其れを君等が取ることは不可能……抵抗する気か?」


 ミリエは少し睨みながらも短剣の刃の鋭い切先をアリマへ向けている。そしてコクツは右手に光った印が現れ無い魔力で無理矢理、魔法を使おうとしていた。


「だが、君等にとって悪い話ではないだろう。要点を纏めると君等は他の仲間を見捨てる代わりに無闇な殺人はしなくても良いという事だ。必要がなくなれば捨てるがな」


 ミリエは短剣を持った右手を挙げてアリマに勢い良く斬りかかり──コクツは自身の右手のみに魔法を使用して素早くアリマに殴りかかる。

 ──だがミリエは全力にも関わらずアリマの身体には鉄のように刃が通らない。


「っ化け物……」


 コクツの襲いかかってくる拳は悠々としたアリマの右手の甲で軽々と受け止められた。まさに殺せる未来が見えない怪物。


「何なんだ……テメェは……」


「案ずるな。嫌な事を強要すれば当然としてフラブ君に怒られる。故に君等にさせる事は主に余の手駒としての活躍だ」


「俺たちぁテメェに命握られてんだぞ……! 安心出来るわけねぇだろーが!」


「君等は余に生かされることを噛み締めて言う事を聞け。余は助けを必要としている。君等2人の強さは3段に匹敵するだろう。其れが使い捨ての手駒として手に入るんだ。雑には扱わない」


 アリマの優しくも冷たい言葉にミリエは短剣を仕舞い手を元の位置に下げる。


「もう手遅れ。私たちが依頼を選ばなかったから」


 悲しそうに溢すミリエは拳を握りしめて現実を深く受け止める。それにコクツは暗い表情で手を下げて崩れ落ちるように地面に座った。


「そんなに嫌か? 余の役に立ってくれるのは」


「……違う。貴方が信用出来るかは別。とても不気味で、髪も長い。人の首も持ってた。フラブに電流を流した。命も握られた」


「……確かに信用は出来ないだろう。だが君等に決定権は無い。其れに君等に寝込みを襲われようと余は死なない。フラブ君や余の身内に傷をつければ余は死ぬまで君等を精神的にも肉体的にも痛めつける」


「……っ分かった。反抗したら、死期が早まる」


「ああ。だがいつかテメェをブッ殺してやる……」


 2人の言葉にアリマは優しく微笑み、転移魔法を使用してその場を後にした。



** ** * ** **


 193年前シラ家の本邸、──豪華な庭で貴族のドレスを着た幼いフラブは大の字で横になり暗い夜空を眺めていた。


「フラブ、何してるの?」


 シラ家の黒い貴族服を着た好青年、コウファがそう優しく問いかけながら幼いフラブの右横に座る。


「いちにちがおわるの」


「……え?」


 その発言に少し困惑しるが優しく微笑みながら寝転がるフラブを見つめていた。


「もうきょうはこない、だからさびしくて」


「フラブは本当に4歳……?」


 コウファの困惑した問いにもフラブは無表情ながら悲しそうに空を見たまま。


「フラブは、さびいのです」


「可愛いね、フラブ」


「……かわいくないっ」


 フラブは照れるように両手で顔を覆って隠してコウファに背を向ける。


「フラブは頭が良い。あと6年経てば学校に通って直ぐにでも皆んなに好かれる。対魔物の要である名家だから言い寄ってくる輩が居るかもだけど、その時は僕がそいつを排除するよ」


「がっこう……? めいか……? やから……? はいじょ……?」


 フラブは不思議そうに問いながらゆっくりコウファの方に体を向ける。


「後半の2つは分からなくて良いよ。前の2つも学校で習うと思う。今教えても大抵は忘れるさ」


「ふらぶ、がんばる。みんなでわらって、さびしくなくなりたい」


 フラブのやる気に満ち溢れた言葉にコウファは嬉しそうに優しく微笑んだ。


「今日も妹が可愛い……」


 そしてコウファは感動するようにも天を仰いで涙を流している。


「お兄さま、へんなひと」


 フラブはそう言いながら立ち上がって右手側にある室内に戻ろうと歩き出した。



** ** * ** **


 今現在、真昼頃──フラブはヨヤギ家本邸ではなくアリマの家のお馴染みのベッドで目を覚ました。服や姿はそのままで瞼を開けながらも白い天井を見上げて眺めていた。


「……お母様……」


 悲しそうに呟くフラブは無意識に一滴、涙を流しながらゆっくり上半身を起こす。部屋の中にはフラブ以外誰も居なくてフラブは座った状態で蹲った。

 心地良い風が小窓から入って来ていて外は太陽が眩しいくらいに晴れている。


「また誰も護れないのか……私……」


 フラブは震えた声でそう言葉を溢しながらも次々と涙が溢れ出してくる。その涙は止まる事を知らず、溢れるに溢れ出しフラブは俯いて両手を苦しそうに胸に当てた。


「守りたい。皆んなで笑って……でも誰も守れない。無力だから……人を殺す」


 ── だったら何のために戦う……私は何のために私は生きている……? 何のために私は……


 無理矢理にでも涙を止めて頬に伝われた水滴は軽く指で拭う。しかしそれでも胸が締め付けられて、死体が頭から離れなくて。


「死ぬために生きたら、お母様とお父様に失礼だろう……だから、理想のために生きろ……」


 ── 理想の中で笑い合って過ごしたい『皆んな』が死んでいるのに……?


 最悪にも1つの考えが脳裏を過り、それにフラブは悲しそうな表情を見せる。


 目の前にいた人すらも護れず沢山の人の首が切断された瞬間。赤い血が吹き飛んで転がる人の頭とそこにあるだけの分断された胴体。そして初めて人を殺したたこと。──その全てから感じてしまう後ろ指と自己嫌悪、皆んなを護れる強者への憧れが強く現れる。


「でも人を殺すならせめて悪い奴であってくれよ……」


 苦しくてもそう考えてしまうフラブはベッドから降りて大きく背伸びをする。そしてフラブは優しい表情を浮かべて苦しさを仕舞いながらも歩き出した。

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