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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第二章「休暇の沙汰」
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第二十三話 1日目の王都

 20時頃、王都の正門。

 ──辺りは暗くなっていて変わらず魔物の姿は見えず一定位置に警備員が確認できる。フラブとアリマは多々あり正門へと続く沢山の人が歩いている通行路を歩いていた。


「丁度ここの門番に用があって尋ねる予定だったんですが……私はバレない方が良いですよね」


「ああ。確かヨヤギ家の分家の者が門番で働いていたな。大丈夫だろうか……職を失っている可能性がある」


「その人達がお母様に救われた恩があると言ってましたので聞きたい事があったんです」


「成る程、確かに其れは是非とも聞きたいな」


「あ、もう私たちの番ですよ」


 アリマとフラブは門番の前に来ると、門番の甲冑を着たコハルとコハハが居た。フラブはそれに胸を撫で下ろして門番のその2人に呼び止められた。


「身分証明書は?」


 門番コハルの問いにアリマは左手でパーカーのポケットから敢えて偽りのない証明書を取り出してコハハに見せた。


「この子は連れだ、俺だけで充分だろう」


 それにコハハとコハルは甲冑の中からでも分かる程に驚く様に目を大きく見開いた。


「アリマ様……? その瞳……その髪色……間違いない……」


 コハハはアリマの顔を確認してそう言葉を溢し、冷や汗を流した。それにアリマは右手の人差し指を立てて自身の唇の前に持ってくる。


「静かに、後ろに人が居るのでな」


 優しい声色ながら真剣にアリマがそう言うとコハハは不思議そうにフラブの方を見る。


「貴方は……?」


 コハハの問いにフラブは人見知って緊張していてアリマの後ろに隠れて何も言わない。


「当主様……今更助けを乞うのは無礼も承知の上、どうか私達をお助け下さいっ」


 コハルは一滴の冷や汗を流して険しい表情を浮かべながらそう言ってアリマに頭を下げる。


「コハルっ……俺からもお願いします、アリマ様」


 コハハも勢い良くアリマに頭を下げてお願いし、アリマは軽く頷いた。


「話は22時。其の時に聞こうか。後ろの方の記憶は操作でもしといてくれ。聞かれてる可能性がある」


 淡々としているアリマのその言葉にコハハとコハルはそっと頭を上げる。


「かしこまりました……っ、どうぞお通り下さい」


 コハハがそう言うと2人は道を開ける。アリマは前に歩き出してフラブもアリマの後をついて行く。


 王都は変わらずの風景で、20時過ぎで暗くても周りには沢山の人で賑わっていて目の前に店が左右に並んでいる。


「アリマさん……少しだけ目立ってますね……」


 フラブはアリマの右横に並んで歩き出し、周りを見ると背丈からかアリマは少しだけ注目を浴びている。


「取り敢えず和菓子の店を回ろう。王都は広い、故に沢山の店があるからな」


「そうですね! まずはアリマさん行きつけの店ですか? でも時間的にやってますかね?」


「愚問、店の大抵は24時間やっている。王都だからな、売り上げの為だろう」


「売り上げのために24時間労働ですか。そうですか……世も末ですね……」


「人を入れ替えてに決まっている。それより一軒目の和菓子屋だ」


 アリマはそう言って右手側の店に歩き出し、フラブも後を着いて行って2人は店の中に入る。


 店の中も和風な感じで右手側にレジがあり、左手側には色んな和菓子が商品棚に並んでいた。フラブは目を輝かせて直ぐ様に商品棚に向かって行った。


 だがアリマは何かに気づいたように一度レジに歩き出してレジの人に話しかける。


「こんばんは。お婆さん」


 アリマは行きつけの様で優しく微笑みながらレジの白髪のお婆さんに話しかけた。


「お前さん……ああ、服装がいつもと違って分からなかったわい、和風で不気味な常連さんか」


「其れで覚えて頂いたのか、光栄だな」


「……イメージが変わるなぁ、着物じゃなかったら普通とまでは行かないが不気味な若者じゃな」


「不気味さは消えないのか……あと若くはない。そして本題に入ろう。どうしてここまで人が居ない? いつもなら4、5人は居るだろう。1人も居ないなんてことはあったか?」


「お前さん目と記憶力を表に出せば貴族に出世が出来るかもしれんのに……残念な常連さんじゃな」


「御託は良い。この程度誰でも覚えられるだろう。話は聞かれたくない故に早く終わらそう」


「……一塊の常連に店の事情を心配される筋合いは無いわい。買わんなら去れ、馬鹿者」


「……そうか。其れなら店の商品全て俺が買おう」


 淡々としてアリマはそう言いながらお婆さんに背を向けようとするとお婆さんは「待て!」と言って呼び止めた。


「お前さんに金があるのは知っておる……毎日のように来るからの。じゃがこれ以上わしのボロ臭い店に肩入れするな! わしはお前さんに対価になるお礼は出来ん!」


 焦ったような言葉にアリマは呆れて軽く溜め息を溢して再び真剣な表情でお婆さんの方を見る。


「対価ならこの店の和菓子で事足りる。故に肩の力を下ろして俺に話せ。和菓子が好きでこの店を助けたいだけだ」


「……分かった。だがお前さんの考えは一つ破られとるぞ」


 お婆さんはそう言ってアリマの左側の下に目を置き、アリマも左下を見る。するとそこには沢山の箱、和菓子を両腕に抱えて真剣な表情で話を聞いていたフラブが居た。


「なっ、いつから居た……? フラブ君……?」


「ずっとです。私に聞かれないうちにって、どう言うことですか? アリマさん?」


 フラブはアリマを問い詰めるように前のめりにアリマに近づき、驚きを隠せないでいるアリマは少し目を見開いた。


「本当にずっと聞いていたのか……絶対君は面倒ごとに巻き込まれやすい体質だろう?」


「どういう体質ですか。大体言いましたよね? 面倒ごとは大歓迎だと!」


 自信満々に胸を張って言うフラブだが、アリマは困惑が混ざったような表情でフラブを見下ろしていた。


「初耳だが……」


「あれ、確かに初めて言いました」


 悩ましげな表情でフラブは腕を組んで右手を顎に当てて考え始めた。


「それなら御言葉に甘えて相談させてもらおう。店から客が居なくなった理由をな」


 空気を重くしないためかお婆さんが笑ってそう言うとアリマとフラブは真剣な表情でお婆さんを見る。


「結論から言うと商品に毒が盛られていたのさ」


 フラブは驚いた表情でお婆さんを見て、アリマは少し深刻そうな表情に変わる。


「毒か。珍しいことでもない」


「最後まで聞け。その毒はとても猛毒でね、人1人死んでる。疑われて今は保留になっててな」


「話を聞く限りお婆さんはやってないんですよね?」


 真剣なフラブの問いにお婆さんは困ったような表情をして軽く溜め息を吐いた。


「わしどころかお手伝いさんも無実だ。怪しい行動は1つも無い人柄も良い奴らなんじゃ」


「つまり客人の中に魔法で毒を仕組んだ者が居て警備課や処刑課が無能過ぎる故にその者を特定出来ていない、と言う事か?」


「……そう言う事じゃ。だから言ったんだ、お前さんに根本から事を解決出来る力はない。買うなら買うで買わんなら去れ」


 お婆さんの言葉にアリマは腕を組んで左手を顎に当てて考える始める。


「魔法って厄介ですね……商品は全て袋か箱に包まれているのに魔法を……毒を使えるなんて……」


 そう不思議そうに言うフラブだが、気にすることもなくアリマは収納魔法を使い左手を魔法陣の中に入れて自身の名刺を1つ取り出した。


「お婆さん、此れを」


 アリマはそう言いながら自身の名刺をお婆さんに渡して、お婆さんは名刺を受け取って確認した。


「便利屋……」


「俺に依頼をしてくれ。フラブ君が持ってる和菓子を全て無料にしてくれれば俺が引き受けよう」


「もしだ、わしがお前さんに依頼をして、お前さんが依頼を遂行出来る保証は無い。こう言う事は信用を築いた相手としか儲からんよ」


「だが此のまま時間が過ぎるのを待つのなら店の売り上げも赤字、最悪お婆さんが犯人としてなる可能性も有り得る。故に悪い話では無いと思うが?」


「……意外に食えない奴じゃな、お前さん。わしにメリットを押し付けないでデメリットを押し付けるとは…好けない常連客じゃ」


「結構だ。この条件で依頼する、其れで呑んでくれるか?」


「…分かった。この子が持ってる菓子以上に好きなだけ持っていけ、全く」


「なら私も手伝わないとですね。任せて下さい、便利屋の助手で役に立って見せますよ!」


 明るく元気よく言うフラブは眩しく誇らしげな表情で胸を張る。


「フラブ君、少し外で待っておけ。それが君の最初の仕事だ」


「分かりました。早くして下さいね!」


 機嫌が良さそうなフラブは機嫌良く商品を持って出入り口から店の外に出た。


「元気があって良いねぇ…お前さんを省いて最近の若者は」


 お婆さんは揶揄うようにアリマを見て言い、アリマは収納魔法から2つの紙を取り出してレジの上にお婆さんの向きで置く。


「此れに依頼料等のサインを。今回は和菓子の無料で手を打った。俺のサインは既にしている」


 冷たい声でアリマがそう言うと、レジの内側からペンを出して紙に記入し始めた。


「商売は子供にはまだ早いだろう」


「……お前さん強いのか?」


 話をしてる内にお婆さんは2枚の紙に書き終わってペンを止め、アリマの方を向く。


「終わったか」


 アリマはそう淡々として言い無視しながら1枚の紙を収納魔法を使って仕舞う。


「本当に……この店を助けてくれるのか?」


「愚問だな。俺は依頼を破った事は一度も無い」


 アリマはそう言いながら歩いて店の出入り口から店の外に出た。フラブは店の入り口のアリマから見て右側に屈んでぼーっとしていて、アリマはフラブの方を見下ろす。


「フラブ君、歩きながら話そう」


 アリマがそう言うとフラブはビックリした様にアリマに気づき、急いで立ち上がる。


「アリマさん、急に驚かさないで下さい」


 フラブは怒りながらアリマを見てそう言い、アリマは来た道とは逆の右手側へ歩き出す。フラブもアリマの右横に並んで歩き出した。


「余は宿を取って暫く王都に滞在する事にした。休暇がてらにな。フラブ君は転移魔法で本邸に戻るか?」


「私も面倒ごとに巻き込ませて下さい。面倒ごとを好む人も居るんですよ?」


「変人だな」


「随分と言ってくれますね? 自分の宿は自分で取るので好きに行動させて頂きます」


「其れは駄目だ。フラブ君の宿も余……俺が取ろう」


「どこまで過保護なんですか? それに一人称慣れてないにも程がありますよ」


「忘れるな、フラブ君。俺は君のその和菓子を取り上げることも出来るんだぞ」


 淡々としてアリマがそう言うとフラブは警戒するように沢山の和菓子を強く抱きしめる。


「そう警戒するな。其れは最終手段として用いる」


「……確かに文句は言えません、けど。ありがとうございます……」


「礼は要らない。だが1つだけ守れ。王都や外出してる間は俺の側から離れるな、絶対にだ」


 嫌な予感からかアリマは念を押すように真剣な表情でフラブを見下ろした。


「分かりましたよ。私も処刑課と戦えるのに……」


 聞こえないような声でそう言いながらフラブは怒るように拗ねて外方を向いた。



 日が暮れた頃、とある宿屋、──対して他と比べる所が無いがホテルに近い新品な宿屋のフロントでフラブとアリマは宿の部屋を取ろうとしていた。


「部屋は同じで成る可く下の階で頼みたい」


 アリマが札束で出してそう言い、受付係の男性は見るからに困っていた。札束もあれば金貨もある。国によって通貨は多少異なるのだろう。


「かしこまりました。何日分でしょうか……?」


「無期限で足りなくなれば追加して払う。故に御釣りが出ても返さなくて良い」


「え、どれだけ滞在する予定ですか……!?」


 驚きを隠せずにそう大きな声で問うフラブだがアリマは何かを考えているのか返答はなかった。


「え……っと、ご利用ありがとうございます、部屋の鍵です……」


 受付係の人は困りながらもそう言ってアリマとフラブに部屋の鍵を渡す。


「フラブ君、何をしてる。早く行くぞ」


 フラブはアリマがそう言っても呆然として立ち止まっていて。アリマはフラブを左肩に担いで左手側にある階段を登り初める。


「わ、降ろして下さい……! これ痛いんですよ……! この鬼!」


 フラブは沢山の和菓子を頑張って落とさないように抱えながら抵抗する。


 アリマは折り返し階段を登り終えると冷静に右手側に歩き出す。その廊下の左手側は外でずっと賑わっている王都の景色が見えた。


 1番奥から3番目の203の部屋に渡された鍵を使って入った。部屋も普通な部屋でベッド2つに窓、洗面所に机と椅子が1つずつある。


「早く降ろして下さい、もう良いですから……!」


 アリマは靴を脱ぎ、フラブを玄関の段差に座らせるように降ろして部屋の辺りを確認している。無表情ながらに警戒しているようにも見えた。それにフラブも和菓子を一度地面に置いて靴を脱いで玄関に並べ、アリマの右後ろで立ち止まる。


「アリマさん、どうかしましたか?」


「……否。其れより和菓子を早く持って机の上に置け。地面に食べ物を置いて放置するのは成る可く止めた方が良い」


 アリマの言葉にフラブは地面に置いた沢山の和菓子を持って室内の机の上に置く。


「何を買ったんだ?」


 そう言いながらアリマはフラブが買った大量の和菓子を確認する。


「全部御萩と饅頭……?」


 全て御萩の箱や饅頭の箱や袋にアリマは少し驚いて言葉を溢した。


「だって仕方無いでしょう。美味しいって分かってるもの意外は食べるの勇気が要ります」


 フラブは堂々と真剣にそう言い、アリマは呆れさえバカらしくなり置かれている和菓子を見る。


「……明日また買いに行くか」


「え、また買ってくれるんですか!? 和菓子祭りですね!」


 フラブは目を輝かせてアリマを見て、アリマは優しく微笑みながら左手でフラブの頭を優しく撫でる。


「其れより、夕飯はどうする? 余は3日くらい何も食べずとも平気だがフラブ君は違うだろう」


「確かに……私料理とかご飯とかも詳しくないんですよね。殆ど領地に居て調理しないで魔物の肉か果物を食べてましたから」


「適当に買ってくる。フラブ君は風呂でも終わらせとけ」


 アリマはそう言って玄関に向かおうとするとフラブが「アリマさん」と言って呼び止め、不思議そうにアリマはフラブの方を振り向いた。


「着替えるものって……」


 アリマは察して腕を組んで左手を顎に当てて考え始める。転移魔法でフラブだけを家に戻すか考えているのだろう。


「君の荷物は余の家に置いていたな。5秒待て」


 アリマが腕を下ろしてそう言い終わった瞬間、転移魔法を使って居なくなり、丁度5秒後にフラブの荷物を持って元の位置に現れた。


「さすが……土地勘がないと転移魔法は難しいでしょう……」


 アリマはフラブにフラブの大きいバッグを渡し、フラブは両手で受け取った。


「ありがとうございます」


 フラブは呆然としたような表情でアリマに感謝をして45度のお辞儀をした。


「其れなら良かった」


 優しい声色でアリマはそう言い、右手を壁に当てて一瞬で部屋全体を自身の魔力で覆う。


「何か有れば事前に渡しておいた魔力通信機で余に連絡をしろ。10分後には戻る」


 アリマはそう言ってゆっくり壁から手を離し玄関へ向かって靴を履いた。


「アリマさんも気をつけて下さい」


 フラブは真剣にもそう言ってアリマを見送り、アリマは部屋を後にした。


「それにしても何でも出来過ぎだろう……」


 そう言葉を溢して自身の帽子を取り、机の上に置いて壁に掛けられた時計で時刻を確認する。



 その頃アリマは宿を出ていて左右にある道を右側に歩き出した。


 ─ 王都に着いた辺りから誰かに尾行……否、見られている……諦めてもらうまで宿に滞在するしか……


 面倒くさそうに軽くため息をこぼして転移魔法を使用して既に適当な近場のスーパーに入っていて買い物籠を右手に持ち、お弁当コーナーを見ていた。


「お兄さん、こんな夜遅くから夕ご飯ですか?」


 突如、左隣に居た処刑課の黒服を着て買い物籠を右手に持って弁当を見てる男。何かの因果か偶然か、ユート・ミスナイがアリマに話しかけて来た。


 だがアリマは少したりとも処刑課のミスナイを警戒する素振りは見せない。


「生憎多忙だからな。その服装的に処刑課か?」


「はい、良く分かりましたね。処刑課に追われてた事があるんですか?」


「まさか。今時有名だろう、処刑課は」


 アリマは臆せず魔肉野菜弁当を手に取り自身の買い物籠に入れる。


「そうですよね、最近とても忙しくて……すいません、急に話しかけて……」


 確かにミスナイはお疲れのようで目の下に薄くクマが出来ている。


「別に迷惑ではない」


 アリマはそう言いながら魔揚げ弁当を自身の買い物籠に入れる。


「ありがとうございます……お2人分……連れが居るんですか?」


「違う、1人分では足りんからな」


 勘付かれたくないのかアリマは淡々とそう言ってレジに向かって歩き出した。その会計を直ぐに終わらせて外に出ると、やはり王都だからか沢山の人が店の前を行き来していた。


 ─ 丁度10分くらいか……だが。転移魔法を使用しても見られているとは……嫌な予感が的中したか……?


 アリマはそう考えながら転移魔法を使って、宿泊している203号室の部屋前に跳んだ。パーカーのポケットから部屋の鍵を取り出して鍵を使って部屋の中に入る。


 そして靴を脱いで玄関に並べて机に向かうと、ベッドの上に座っている簡素な長袖長ズボンを着ているフラブと目が合った。


「無事でしたか。お帰りなさい、アリマさん」


 少し残念そうにもフラブは裸足で楽しそうに待っていて第一印象は無邪気な子供だろう。


「ああ。ただいま」


 アリマは淡々として言いながら帽子を脱いで椅子に掛けて左手に持った袋を机の上に置いた。


「それにしても初めて見たんですけど浴衣の白さって凄いですよね……アリマさんの心とは正反対の色です」


「余の心は黒いと?」


「お節介な鬼ですから」


 その清々しいくらいに真っ直ぐなフラブの言葉にアリマは呆れるような目を向けた。


「……其れはそうとコハハ等に呼ばれて居るだろう。まだ眠るなよ」


 アリマはそう問いながら掛けていた眼鏡を取って机の上に置き、髪を結んでいた紐を軽々と解いてパーカーのポケットに仕舞う。


「大丈夫です。私をみくびらないでください……アリマさんって格好を変えたら第一印象も凄く変わりますよね……さっきまでは好青年みたいな感じでしたが今はただの不気味な人間です」


「一言余計だ。其れより2つの中から好きな物を選べ」


 それにフラブは目を輝かせながら机の前に急いで来てビニール袋の中身を取り出す。


「わぁ……! 2つとも食べたい事がないです! ありがとうございます、アリマさん!」


「割り箸もついている。……割り箸の使い方は知ってるか? 知っているよな?」


 アリマの優しくも真剣な問いにフラブはきょとんとして小首を傾げた。


「分かりませんよ。アリマさんの家で食べてる時もスプーンを使ってました。それに領地に住んでる時は素手で食べてましたので」


「……鉛筆を使った事は?」


「何ですか? それ?」


「そこからか……」


 アリマは呆れるように言いつつも自身が使う割り箸を手に取った。


「アリマさんも弁当食べるんですか?」


 フラブは珍しいものを見るような目で不思議そうにアリマに問い。それにアリマは相変わらず無表情でフラブを見ながら気を抜いて割り箸を上下に割ってしまった。


「……まぁ買う予定はなかったのだが、処刑課の者と会ってな。気が動転してしまって2つ買ってしまった」


 そしてアリマは割って無かったと言わんばかりに割り箸を机の上に置いた。だがフラブは割り箸ごときで驚く事はなく小首を傾げたままアリマを見ている。


「私は2つも食べれませんよ?」


「ああ。余……俺も食べよう」


 そしてその弁当は食べ終えると消滅魔法を使ってアリマが一瞬で消したとか。


「なんか昔を思い出しますね」


 楽しそうな笑顔でそう言うフラブは楽しそうにも笑顔で椅子から立ち上がり大きく背伸びをする。それにもアリマは子を見守る親のように微かに優しい表情を浮かべた。


「そうだな」


 単調に答えたアリマだが微かに感慨深そうにも見えて外へ出るために玄関で靴を履いていた。


「ですが……思ったんですけどアリマさんが眠ってるところ見たことないんですよね。常に起きて周りを警戒してくれていましたから」


 フラブはアリマの右背後で立ち止まって楽しそうに言いながら微笑んで手を後ろで組んだ。


「気づいていたのか。まぁ気にするな。明日も夜は1人で和菓子屋を見て回る予定だ。君は同行しなくて良い」


 靴を履き終えたアリマはゆっくり立ち上がりながら右手でドアノブを掴む。だが手加減を誤ったのかドアノブを粉々に破壊し、アリマとフラブは驚いて目を見開いてドアノブへ視線を移す。


「相変わらず……人間辞めてるんですか……?」


 呆れるようにアリマを見て、恐る恐る問うフラブだがアリマは悲しくも優しい表情を浮かべてドアノブを見つめていた。


「……人間だ。と思いたい」


 そう補足をしつつも右手をドアへと着けて力で無理矢理ドアを開けたアリマ。フラブは苦笑いをして呆れるような目でアリマを見るが直ぐに靴を履いた。

 アリマとフラブは無事に外へ出る事に成功した。

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