第二十二話 王都への雑談
本邸の門を出てフラブがアリマの右側、横に並んでゆっくり階段を下る。
「あの、何故歩いて向かうんですか? 転移魔法を使えば直ぐに着くでしょう?」
「余もそう考えたんだが、歩きながら君の事について話した方が時短だ。それに歩けば王都に着く頃には19時頃、昼よりは人目に付く可能性が減るだろう」
アリマの淡々している冷静な言葉にフラブはとても驚くような目を向けた。
「え、途中から転移魔法を使うとかでもなく!?」
「ああ。1年後と敵に宣戦布告されたんだ。ついでに体力くらいつけろ」
「ま、鬼……王都って遠いですよね? アリマさんの家を超えてさらに真っ直ぐ進んだら到着するくらい……19時って……」
そう考え込みながら右手を自身の手前に持ってきて指を使って数を数える。
「えぇ、5時間歩きますよ……つく以前に体力持ちますか? ああ、アリマさんなら持ちますか」
そう自問自答をするフラブは既に疲れた様な表情で少し下を向いて階段を下り続けた。
「ああ。余は余裕だな。フラブ君も頭脳は置いといて体力なら足りると思うが?」
「私は人ですから体力にも限界はありますよ」
「余も人だ」
何回も人を辞めていると言われていたアリマは食い気味に人だと否定した。ただフラブは信じられないものを見るような目をアリマに向けたあと、少し悲しそうに地面を向く。
「頭脳は置いといて……という点はいく私でも否定は出来ませんよ。学校とか……そういうの無関係で190年間、村に3回ほど行ってそれ以外はずっと山で生きてましたから……」
顔を上げて空を見上げるフラブの表情は何処か悲しさを紛らわしているようにも見えた。
「学校、行きたかったのか?」
それに気づいて不思議に問うアリマに明るい笑顔を向けながら
「いえ、憧れというだけです。皆んなで授業と言う物を受けて皆んなで食を囲って皆んなで遊ぶ……」
また気持ちが沈みそうだったために咄嗟に慌てて顔を逸らして俯いた。出来ない後悔ばかりを抱えているからこそ過去を思えば何ともいえなくなる。
「全て私とは、別世界の話……」
「同じだ」
即答するそんな優しい言葉に目を見開いて恐る恐るアリマの方を見る。それでもアリマは表情を一つとして変えずに下りている階段の方を見ていた。
「フラブ君は名家の人間で生まれは良い。だが育ちが駄目だった、故に余の責任だ。すまない」
自責で淡々としている言葉だ。
しかし育ちの面でいえば10年は見てくれたアリマに悪いところなんてない。そう否定しようとしたが無表情ながら、どこか暗く見えるその表情に言葉を詰まらせた。
「ずっと君の側に居てあげられなかった。10年間だけしか……幼くも魔法すらまともに使えない非力な君を、余は置いて行った」
色々と置いていった理由も事情もある。
しかしアリマは過去の自分が下したその決断も判断も快く許せていないのだろう。それにフラブは息を呑むも覚悟を決めて優しい表情をしつつ前を向いた。
「──終わったことです。アリマさん」
短い言葉だがそれは過去の判断を許しているのと同じような気がして。そのため動揺も交えた驚きが珍しく前に出ていながらフラブの方を見る。
「魔法は脅威ですから、学ぶために学校に通う……それが普通ですよね。そしてアリマさん、私が普通で収まる人間だと思います?」
「……確かに君はシラ家の血を濃く継いでる。キュサ君に言われた通りだな」
問いを無視をして答えたアリマの表情はやはりどこか悲しさが感じ取れる。しかしそれよりも──血を継いでいるという言葉を気に留めたフラブは表情を明るくして足を止めた。
「血を濃く継いでるって……!」
嬉しさいっぱい胸に秘めながら高揚したまま再びアリマの横に並んで歩き出す。
「アリマさんも私が名家の人間だって認めてくれたと受け取ってもいいんですか?」
「ああ。こんなことで騒ぐな。低くても5段程の力を得ねばすぐに殺されるだろう。3段以上──その壁は厚いぞ?」
「分かってます。それこそ処刑課を圧倒する実力ということですからね」
そんな優しい会話を交わすフラブとアリマは話してるうちに階段を下り終えた。階段の下には辺り一面草原が広がっていて遠くにまた山が見える。
そして草原に出現する可愛らしくも凶暴な小さい獣魔物も居るがアリマを怯えて逃げていった。それを確認したフラブとアリマはそのまま真っ直ぐに草原を歩き出す。
「1段は一人前、2段と3段は師を名乗れるほどの実力者、4段はまだ常人、5段以上は怪物の域。私が3段なのは何かの間違いだと思ってますよ……」
「君には才能があって、その上で成した努力は無駄にならなかった。其れだけだろう。才能ある者でも努力を怠れば常人止まり、それに常人が努力をしても頑張って2段だからな」
浮かない表情をしているフラブを励まそうとしていても不器用なアリマは淡々としている。そのため上手く励ましは出来ず、そのフラブは不思議そうに
「珍しいですね。アリマさんが憧れているであろう常人を下に見るなんて……」
「否、下に見たワケではない。段位に1番影響を与えるのが魔力の量だからな。練度や魔法の適性有無は2番目、知識や学術、故に頭脳が3番目に該当する」
「え? 私はそこまで魔力の量多くないと思いますが……」
「何を言う。創造魔法を3回使って魔力切れを起こしてない時点で常人の域を超えている」
平然としてそう返されて驚いたのかフラブは言葉探しのために無言が5秒ほど続いた。言葉探しの理由は珍しく褒められたことと褒められた内容にある。
「カナトというクソ野郎も言ってましたがそんな魔力消費する部類の魔法なんですか? 創造魔法って」
「カナトと何があったんだ……其れはそうと創造魔法は魔力の消費量のランキングで3、4位を取得するくらいには多い」
フラブにも分かりやすく説明をする。
その説明に理解を示すフラブは目をキラキラ輝かせて嬉しそうに再びアリマの方を見た。
「そんなに……まさか私って凄いのか……!?」
ここまで元気よく嬉しそうに喜んでいるフラブに対して優しく見守るように微笑んだ。
「ああ。凄い。君が適性魔法と最適性を使えて、練度を上げれば余を超えることは不可能でも6段にはなれるだろう」
「6段!! あと……そうだ、アリマさん」
あることを思い出して暗い声色に変わったフラブは真剣な表情に戻って前を向く。
「何だ?」
「アユさんやアマネを殺したのは……お兄様でした。そして……確実にアマネは生きてない……」
報連相は大事だと理解しているのだが勢い任せの空気もあって中々言い出せなかった。そして今、こんな空気で言い出したのもフラブなりにかなり勇気を振り絞っている。
「……そうか。処刑課の事もだが君が断言する材料を教えてほしい」
真剣なアリマの問いにフラブは不思議そうにアリマを見て小首を傾げる。
「断言する材料……? どう言うことですか?」
「処刑課は既に敵と手を組んでいる、などの事だ。余でさえ考えられなかった事だからな。処刑課が全面的に敵に回っているのは」
「簡単ですよ、推理です」
「推理……? 君にそんな力があったか?」
「すみません、嘘です」
「……嘘は吐かないように」
少し呆れたような表情をしつつ前を向いて歩いているアリマ。それにもフラブはどこか楽しそうに優しい表情を浮かべた。
「魔眼を使ったんです。銃で撃たれたでしょう? 咄嗟に魔眼を使って魔力を見た。そしたら以前戦ったアオトと呼ばれる者の魔力でした」
「余でも其れくらいは分かる。だが其れでも直ぐ断言するまでは出来ないだろう?」
「それと魔力を伝ってお兄様から合図が来たんです」
真剣な表情に変わってそう説明されたアリマは少しだけ目を見開いた。
「合図……? 何故君にそんなことを……?」
「屋上に居る時、言われたんです。合図をしたらコヨリちゃん達をいつでも殺せる状況にあると」
「……すまなかった。あの戦いの後だ、思い空気で言えなかったんだろう」
「多分、敵はそこまで想定していたんだと思います。私が言わない選択をして宣戦布告をしに来るまで1つのレールの上で決まっていたこと」
少し懸念しているフラブの言葉にアリマは腕を組んで左手を顎に当てて考え始める。
「だが其れだと敵の策を練る者は相当手強いぞ。未来の先までも見据えれる力があると言う事になる」
「相手にとって不足なし! ですよね」
明るい笑顔でアリマを見てそう言うフラブは再び明るい空気に戻そうとしていた。いつまでも暗い空気のままだと精神までも必要以上にすり減ってしまう。
それを察したアリマは優しく微笑みながらフラブ頭を右手で優しく撫でる。
「キュサ君が君に仕えると言った理由が理解出来た。そうやって笑っとけ」
そう優しく言ってフラブを撫でる手を止めると元の位置に腕を下した。考えるところは考えて、後は能天気なフラブが少し好ましく思えたから。
「アリマさんも笑った方が良いですよ。私が断言しますが──アリマさんにも情はある」
「……君が言うのならそうなのかもな」
そう小さな声で答えるアリマは無表情ながらどこか浮かない顔をしていた。
** ** * ** **
──その頃カミサキは自身の分家本邸の自室に戻って他の名家の人と連絡を取っていた。
そのカミサキの自室は3畳間ほどしかなくて大きな机が半分をしめている。そして大きい机の上にはモニター3つが横並びに置かれていた。そして椅子がドアに背を向けて配置されいる。後は数少ない本棚しか見当たらない。
──そして最初に小型魔力通信機を左耳に付けてラサスと通信をしている。
「ええ。アリマの魔力……囲われてる魔力は壊されてたぁっ!?」
「カミサキちゃん静かにね? 僕の耳が壊れちゃう」
「ま、まぁ……そうよね。それで? 他には?」
急つつも冷静を取り戻そうとしているカミサキは少し疲れているようにも見える。
「壊されてたのはそれだけ。他はちゃんと機能したままだから、まぁカミサキちゃんとアリマに感謝だよね。これが無ければ被害も大きかったと思うよ」
「そう。アザヤさんとは話したの?」
「ああそれなんだけど、アザヤは誰かが殺されても落ち込むような人じゃない。でも嫁さん含めて家族を3人失ったときは正直堪えてたから人間味はあるよね」
「そう。まぁ今回の件で娘さんが死んでないのならまだ安心ね。でも私も後で通信してみるわ。だからラサス、あんたは強がらなくて良いのよ。だけど敵が1年待たずに来るかも知れない、それだけは注意しなさい」
「分かってるって。てかさ、思ったんだけど敵からの宣戦布告を無視したらどうなるんだろうね」
「それも1つの手かも知れない。だけど今回のが宣戦布告目的だったらと考えると悪い想像しか出来ないわ。その宣戦布告にも穴がありすぎるしね」
「確かにねぇ。だけど穴があったとしても現状はやっぱり事の主導権は敵に回ってしまってる。僕も指名手配されて100万からのスタートをしちゃったし。処刑課は警戒して損はないかも」
「大丈夫。処刑課の動きは世間から見ても反感を買ってる、それに今回はアリトも味方って考えると肩の力は多少抜けるわ」
「ははっ! アリトさんはお兄ちゃん大好きな人だからねぇ……ヨヤギ家内部の抗争ってそんなに大変だったんだ?」
「大変だったわよ。勘違いが起こりまくって……大体はアリトが340年以上アリマの印象操作をしていたことが原因。それで本家と分家で対立して……アリトは正真正銘の策士よ。なんせ子供の頃にあのアリマを孤独に追い込む事に成功した化け物なの」
「それが本当ならアリトさんの処分はヨヤギ家から追放でもおかしく無いんじゃない? 僕だったらそうする」
「アリマは身内にはとても優しいから……無自覚っぽいけどね。それに私たちがアリトの能力を買ってるのも事実なのよ」
「まぁ正しい判断だったのを祈るよ。僕の嫁が呼んでるから切る、今度ユフィルム家おいでよ?」
そう気楽そうに言いながらラサスは通信を切る。
それを確認したカミサキは真剣な顔をしながら次にアリマに通信をかけた。
** ** * ** **
──その頃アリマとフラブは変わらず草原を歩いていたのだがフラブは見るからに疲れかけている。
「……カミサキ姉から通信が来た。フラブ君、少し座って休め」
アリマはそう言ってパーカーのポケットから小型魔力通信機を取り出して左耳に装着した。
「わかりましたっ……」
見るからに疲れているフラブは息を切らしながら腰を下ろして腕を上に伸ばして背伸びをする。そして生きてることを実感しながら心地良さそうに空を眺めた。
そしてアリマは少し真剣な表情をしながらカミサキと通信機で話をしている。
「アリマ?」
「ああ、余だ」
「今ユフィルム家の当主さんから通信してたのよ。あんたに感謝してたわ」
「そうか。それを伝えるためだけに通信して来たワケではないだろう」
まだ本家の当主と分家の当主としてカミサキとの間には亀裂があると思い込んでいる。だからこそアリマはフラブにまで不安を感じとらせないように背中を向けた。
「そうね、本題に入りましょう。ラサスが敵からの宣戦布告を無視したらどうなるのかって聞いて来たの、あんたはどう考える?」
「確かに其れも1つの選択肢だろう。凡そ彼等の目的は先にあると仮定しても別にあると仮定しても……とても用意周到だからな」
相手の力量を考えながら話すアリマとカミサキは思考速度が近しいのだろう。考えてから言葉を発するまでの間がかなり似ている。
「同意見よ。それよりあんた、今外に居るの? 少しだけ風の音が聞こえるわ」
「ああ。フラブ君と王都に歩いて向かってる、和菓子を買いにな」
「はぁ!? 何で人間にその距離を歩かせるの!? あんたと違ってフラブは人なのよ! 理解して!」
急にカミサキからも人ではないと言われたアリマは肩の力を落として少し悲しい顔をした。
「余も人だ……」
「ええ確かにそうだったわね! でもやっぱあんたにフラブは任せられない! 私も行くわ!」
「駄目だ。カミサキ姉はフラブ君より体力が無いだろう」
「……っ言い返せないじゃない!」
「其れなら安静にしていろ。切るぞ」
「あ、待っ……」
アリマは返事を待たずして通信を切る。そして小型の魔力通信機を着ているパーカーのポケットの中に仕舞った。
「アリマさん、魔力通信機ってどうやって通信してるんですか?」
通信が終わったのを確認したフラブは座りながらアリマを見上げて問う。それに振り向いて目線を合わせるためにアリマもその場でゆっくり屈んだ。
「人が使う魔力以外に空気と同化して魔力も溢れている。技術課が其れを活用して通信するシステムを作ったらしい」
「なるほど……まず何で魔物って現れたんでしょうか? 昔アリマさんから借りた本に書いてた表記通りなら人が魔法を使えてる理由も不思議です」
「其れは今も解明されていない。元から有るワケでは無く急に現れる物は大抵学者が解明している。故に知りたいのなら学者にでもなれば良い」
「……考えてみます」
淡々としているアリマの言葉に、フラブはどこか浮かない表情で微かに俯いた。それでも切り替えてゆっくり立ち上がると大きく広々と背伸びをする。
「行きましょう、時間が惜しい」
真剣な顔をしてアリマを見下ろしながらそう言うフラブは優しい目をしていた。そしてアリマも続いてゆっくり立ち上がりながら「だが」と言葉を続ける。
「夢を語るのは許された一部の者のみ。余からみれば君もまだ子供、変に大人振るな」
「……アリマさんって、髪、綺麗ですよね」
「……は?」
髪が綺麗だと褒めているフラブはまじまじとアリマの長い髪を見つめていた。急に変なところを褒められたアリマは不思議に思いながらフラブを見て、しかし深く気にも留めず前へ歩き出す。
「それに……すごく長い、どうやって手入れしてるんですか? 大変でしょう?」
興味津々に問いながら再びアリマの横に並んで歩くフラブはまだ髪を見つめていた。
「……特別な事はしていない。風呂に入って乾かしているだけだ」
「そうだ、前から思ってたんですが……なんで髪切らないんですか? アリマさんほど長い髪の男性は珍しいでしょう」
「……面倒だろう、切る暇が有れば仕事をして金を稼いで甘いものを食べたい」
アリマの切実な願望が込められている返答にフラブは気が抜けたかのように優しく微笑んだ。
「確かにそれは同感です。アリマさんのその仕事って確か名家の?」
「否、其れは違う」
名家のでなければ何なんだと思いながら「え?」と疑問符を声に出す。
「余は独自で便利屋をしている。頼まれた仕事を対等な金で請け負う仕事だ」
「例えば?」
「例えば……? 急に多くを質問して来るが変な物でも食べたのか……?」
恐る恐る問うアリマは心の底から得体の知れないものを見るような目をフラブに向けた。それが少し不服に思ったのか前を見て
「そんなワケないでしょう。アリマさんは本題を言いづらそうですし話題を振ってる私に感謝してほしいくらいです」
「気遣いか、すまないな。余の仕事は大抵子供には聞かせられないものばかりだ」
そんな謝罪と共に発せられた説明に対して、不服からくる怒りのまま目を細めてアリマを見やる。そんな怒りにも気づかないアリマは平然と前を見て歩いていた。
「さっきから……私を子供だとよく言えますね。私は怒ったら世界一怖いですよ、知ってますか?」
するとアリマは急に立ち止まって軽く微笑んだ。
どこか悪い顔をしているアリマを珍しく思いながら続いてフラブも足を止める。
「其れなら少しだけ話してやろう」
そう揶揄うように言うアリマはフラブの左耳に顔を近づけて耳打ちをした。アリマから話された内容に次第にフラブの顔は血の気が引かれていく。
そして耳打ちで話し終えたアリマはゆっくりフラブから顔を離した。
「ア、アリマさん……」
話された内容にフラブは青ざめたまま恐る恐るアリマを見上げる。するとアリマは左手の甲で軽く口を覆いながら「ははっ!」と笑っていた。
それにフラブは少し赤面しながら
「本当に怒りますよ……!? 本当……、? アリマさん笑えるんですね……驚きで怒りが飛んで行ってしまいました」
フラブの言葉にアリマは驚き息を呑んで目を見開きながら左手を下ろした。
「生まれて初めて……こんなに笑った……」
「そんな赤子が初めて息をしたみたいな……」
アリマとは対にフラブは呆れ信じられないような目を向けている。しかしアリマの笑みから変わった時の反応から見るに到底、嘘とは思えない。
「否、本当だ。表情を作らないで笑ったのは初めてだ……」
そう驚きを隠せないでいるアリマは誤魔化しも含めて前へと再び歩き出した。その背中を見て後をついて行くフラブはまだ呆れたような目を向けている。
「アリマさんが変な嘘を吐くのは無理……ですよね。良かったですね、アリマさん感情あるみたいで」
「……そうだな」
暗い声で答えるアリマは何処か気にかけるような浮かない表情をしていた。その浮かない顔をしている理由とかまでは踏み込んではいけないような気がして。
それを直感で感じ取ったフラブは気を遣ってか話題を変えようと違う話を始める。
「……そうだ、あと1つ聞きたかったことがあるんですよ。ヨヤギ家の本邸って基本和風でしたが部屋の入り口がドアだったり、アリマさんの執務室も畳でしたが洋風でしたよね?」
「ああ、其れなら和風を嫌う者たちへの配慮だ。客人も多い故に親戚筋の分家の数も其れに比例して使用人も多いからな。カミサキ姉等分家の家も洋風よりだっただろう」
「和風……私は結構好きですけどね。洋風もですが」
「お陰で中途半端だがな。余の家は異端児とされる者が多い。叔父殿もその1人で……まぁ余も大概人の事を言えないが名家の中で1番不安定だと言われている」
その情報に対してアリトやアリマと言った変人を頭に思い浮かべながら同感を示す──が、フラブはハッと我に返って「あ!」と声を上げながら再びアリマの横に並んだ。
「私が聞く前に話さないで下さい、話題が減ります」
「ならば余がフラブ君に質問する番だな……」
そう溢すアリマは真剣な表情で腕を組み左手を顎に当てて真剣に考え始める。しかし十数秒が経過してもアリマから質問されることはなかった。
「特にない。何故だ……」
だが考えても思いつかない様で少しだけ眉を吊り上げて瞼を閉じる。
「もう少し私に興味を持って下さいよ……」
フラブがそう言うとアリマは思いついたのか腕を下ろしてフラブの方を見る。──だからこそフラブは期待の眼差しでアリマを見つめていた。
「思いつかない、故に諦めた」
アリマは優しく微笑みを溢しながらそう言うと何事も無かったかのように前を向く。それに呆れ疲れたような目でアリマを見たあとは諦めて再び前を向いた。
** ** * ** **
その頃、──王都にある郊外のスラム街、廃墟の様な殺風景で机と椅子と1つの小窓と出入り口のドアしかない部屋の中で男性1人、幼女が1人、女性1人が話をしていた。
「それで? 依頼は引き受けてくれるのかしら? 殺し屋さん?」
そう聞いた女性は綺麗な朱色の膝までくるストレートの長髪に朱色の瞳、綺麗なスタイルの良い貴族のような服を来た女性だった。
「私は内容的に賛成、コクは?」
茶色いフードを深く被った身長130センチ程の幼女は単調な言葉で左手側に居る同じフードを被った身長180センチ程の男性に問う。
「引き受けてやる。だがな貴族の。俺達の殺し屋の組織は根深くて人も多い。依頼って建前で探りに来たんなら……」
男性は右手で持った小型のナイフを貴族服を着た女性の首元に向ける。それはいつでも殺せるという姿勢と意思を相手に示すためだ。
「只じゃあ死ねねぇからな?」
「生憎、私は腐った王国が嫌いなの。だから近々開かれる魔項武楽御前試合をぶっ壊してほしいだけ。それは国王陛下さんも現地で観にくるわ」
貴族の女性はナイフを向けられているにも関わらず余裕そうに笑みを浮かべて答えた。ただ何か裏があるような予め用意された台本を喋っているようにも聞こえる。
「そう、嘘を吐いてる様には見えない。ナイフを下ろして、コク」
茶色いフードを被った女性は右隣に居る男にそう言うと、男はナイフを素早く何処かに仕舞って手を元の位置に戻した。
「約束しろ、俺達を売ったら問答無用で殺す。お前の個人情報は裏じゃ余裕で掴めんだぜ」
「野暮ね、信頼を築いてこその依頼でしょう?」
「他国だろうと貴族の服を着てる人は信用出来ない。それが私たちの意見」
「そう? まぁ良い働きを期待してるわ」
貴族服を着た女性はそれだけ言い残して転移魔法で颯爽とその場を後にした。




