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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第一章「ヨヤギの超越者」
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第二十一話 兄弟

 ユフィルム家別邸で兄コウファと対面して話しているフラブ。それとは別にヨヤギ家3つ目の分家の邸に居るカケイ。


 木々に囲まれた3つ目の分家の家は白いローブを着た数名に囲まれていて。室内は和風と洋風が混ざった場所、廊下は和風な本家と殆ど変わらず、玄関前の室内でカケイとココアは対面していた。


「今回は挨拶だよ、弟。元気してた?」


 ココアは変わらずの白いローブを着てフードは脱いでいて。優しく微笑みながらカケイを見ている。


「他の分家の人間は国からの依頼に行ってる人が殆どだ。居る人も避難を優先させた。ココア、お前は殺す。俺が死んでもお前を殺して殺し続ける」


 カケイは白色の半袖に藍色のズボンを着ていて。怒りを顕にしながらも険しい表情でココアを強く睨みつけていた。


「そんな憎まないで、カケイ。本当は分かってるんだろ? お前の友達が死んだのも全部、お前が悪いんだよ」


「……は?」


 カケイは怒ったように圧ある声でそう問うも、ココアは変わらず微笑んでいる。


「お前が存在したせいで何人死んだ?誰が死んだ?良く考えてみなよ、カケイ」


「……俺ぁ殺してねぇ……だから……!」


 悠々としているココアとは対にカケイは次第に表情が険しくなった。


「馬鹿ゆーなよ。だって同じだろ? 僕もカケイも」


 ココアの言葉にカケイは目を大きく見開き、光が無くなって瞳孔が小さくなる。


 ─ 俺の存在は白い悪魔ピッタリ……結果的にフラブさんを巻き込んだ……俺と会わなければ……俺の味方をしたせいで義母さんもユーフェリカも……タナカも死んだ……


 苦しそうに考え続けるカケイは次第に表情が曇って暗い表情で地面を見つめる。


 ─ 俺ぁ人形の中でも魔力人形、生きてれば当然周りを巻き込む。俺じゃフラブさんやアリマさん…皆んなの横に並んじゃ駄目なんだ……


「……っ考えるな! タナカはココアが殺した!」


 カケイは必死にも声を荒げて自分に言い聞かせるように言い直ぐ様にココアに右手を翳した。


 ─ 俺は……生きてない……存在したら駄目なんだ、人じゃ無い……じゃあ何で……感情がある……?


 そう考えてしまいカケイの表情から険しさが消えていき同時に白い瞳から光も消えた。


「なぁカケイ。お前が疑問に思ってることは僕らに着いて来たらきっと分かるよ」


 ──ココアは変わらず笑みを浮かべながらカケイの目を真っ直ぐ見ていて。対にカケイは暗い表情でゆっくり右腕を元の位置に下げる。


「カケイ、良い表情だッ! ──お前には……それがとても似合う!」


 だがカケイはただ暗い表情で立ち止まって身動き1つ取らなかった。ただ呆然と光も瞳孔も無い真っ白の絶望した目を、絶望を顕にしているだけ。


 ─ 俺は俺を恨む、俺はここに居ちゃ駄目なんだ……


「カケイ、こっちに来い。そしたら全員無傷で見逃すし……──言うまでもなくここにお前の居場所はない。お前の居場所じゃねーよ」


 ココアの提案にカケイには嫌でもそれに頷く、それが最善だった。


 ─ 俺のせいで皆んな……ここで俺がココアの要求を否定したら俺は俺の存在を否定し続ける……


 ──ココアへの恨みより自身への怨みの方が大きくなってしまい。人形不相応に優しいカケイは周りの人の幸せを考える選択を取る。


「分かった、俺を連れて行け。ココア」


 カケイは暗く苦しい表情でそう言いながらココアの方に歩き出した。


「うん。歓迎するよ。ようこそ、カケイ。絶望へ」



 その頃、──ユフィルム家別邸にある会議室でフラブと兄コウファは右手で力強くフラブの右手を掴んだ状態で、2人で向かい合って話をしていた。


「何、言ってるんですか……? 選択……? なんの……? 味方って……そんなの私が決める事では……」


 フラブは突如として涙で頬を濡らしたコウファに困惑して問うも。それにコウファは我に帰るように来た目的を思い出した。


「フラブ、僕はお兄ちゃん失格だね。妹にそんな顔をさせる事しか出来ない……今回はもう帰らなきゃだから。長居するのはダメなんだ」


 コウファはフラブの右手を離して「だけど最後に」と言ってフラブに耳打ちをする。


「……僕は君の幸せを最後まで諦めたくない。必ず上には逆らわない範囲で探してみせる」


 コウファはフラブから離れてそのまま真っ直ぐ進みながら銃弾で穴が空いてる壁に歩き出す。

 ──だがフラブは理解が出来ずに呆然とコウファを見つめて立ち止まっていた。


「……今回は挨拶だ、フラブ。1年後にでも……シラ家の跡地で……」


 コウファはそう言って強い電気で壁に大きい穴を開けててそこから素早く飛び降りる。それに理解が追いついたフラブは目を大きく見開き、走ってその大きい穴に向かい下を覗いた。

 ──だがそこにコウファの姿はなかった。


「アマネを殺しといて私の幸せを……? 結局、何がしたいんだ……お兄様は……」


 外から銃弾を撃ってきた者の姿も無く、木々や庭が見えるだけ。──フラブは取り敢えずドアから会議室を出ると目の前にキュサが平然として立っていた。


「フラブ様、何があったかは聞きません。一度シラ家に帰られますか?」


 キュサは優しくも真剣にフラブの方を見て自身で決断しつつ問う。フラブは表情が少しだけ暗かった、兄から告げられたアマネを殺害した事への行き場の無い感情。それと同時に悲しめない程の自分への怒り、兄から告げられた意味が分からない言葉の数々。


「帰っても意味がない。正体を隠してでも会いたい人が居る。……王都の正門、そこに向かう」


「かしこまりました。ですがその前に……」


「処刑課を撒く方法……か。銃弾を撃ってきた者は処刑課で間違い無い。キュサ、何故……何かあったと分かっていて部屋に入って来なかった?」


「……仕える人は主の命令に背けません。私の忠誠は死んでも……」


「分かった。だがキュサとは今日が初対面、まぁ魔眼を使えばキュサが偽物かどうかは分かることだが……信用は築く前に崩壊しない事を祈ろう」


 冷たくも淡々としてフラブはそう言いながら部屋のドアを閉じて廊下の左右を見渡す。そこに人影は見当たらずに感じる殺意すらない。


「ありがとうございます。アリマ様達は転移魔法を使用して既に移動しております。フラブ様は転移魔法お使えで?」


 優しい表情でフラブを見ながら問うキュサは手を前で組んでいて。それにフラブは軽く首を横に振りながら「いや」と否定して言葉を続ける。


「使えない。キュサは?」


「使えますが……今、習得しときますか?」


「可能なのか……?」


 フラブは少しだけ驚きつつ足を止めてキュサを見てそう問い。それにキュサは優しく微笑んだ。


「左様です。魔法と言うものは基本的に人それぞれ向き不向きが御座います。転移魔法など日常で使われる物も例外なく。それこそ転移魔法が適性や最適性の人間も居るでしょうね」


「転移魔法の適性……? 想像がつかないな……」


 その時、キュサがフラブを勢い良く右腕で抱えるように軽々と持ち。地面を勢い良く蹴って壁に足を置いて支えるように天井に左手を置いた。目が見えないキュサが重力を無視して壁に立って居るのだ。


「わっ? 何が起こって……?」


 少し驚いているフラブの言葉と共に見慣れた姿の方々が廊下に繋がる階段を登って来た。


「足音的に大勢……処刑課でしょうか? 他は入る度胸などないと思います」


「ああ、処刑課らしい」


「左様ですか。バレる事は避けたい。失礼ですが、今転移魔法の習得は無理……」


 キュサは腕に持っているフラブを見ると腕を組んで右手を顎に当て、真剣な表情で考え事をしていた。


「……やってみるか」


 フラブはその言葉と共に瞼を閉じて5秒後、場所が草原へと変わった。──あの日に偽のユーフェリカ……ナラミナと話した木の上に転移した。

 目の前には通行路があり、沢山の人が歩いて王都に向かって歩いている。


「出来た……! どうだ? キュサ、凄いだろ……」


 フラブが喜びながら楽しそうに微笑んでキュサの方を見ると。キュサは驚きを隠せずに目を大きく見開いてフラブの方を見ていた。


「空気で分かります。場所が変わりましたよね……どうして……教えてもいないでしょう……?」


「感覚だ。魔力の流れを感覚的に掴んだらそれを辿って魔法を使えば良い。昔にアリマさんから教えてもらったんだ!」


 フラブは少し楽しそうに嬉しそうに微笑みながらキュサにそう伝えるも、キュサは驚いたままだった。


「いえ……その、魔力の流れは教えてもらわないと普通は掴めませんよ。フラブ様」


「え……? だが……だがっ!」


「だが何ですか?」


「…………」


「まぁフラブ様も流石と言う事でしょう。頑張れば6段くらいには強くなれると思いますよ」


 キュサは優しく微笑みながら子を見守るように保護者のようにフラブの頭を撫でる。だが我に返るように直ぐ様に撫でる手を止めて腕を元の位置に下ろした。


「す、すいません、フラブ様。つい……」


 そへれにフラブは驚くも小首を傾げて呆然としてキュサを見ていた。


「……わた、私が? 名家を名乗っても良い実力はあるんだな? そう思っても良いのだな?」


 フラブは突然、嬉しそうに前のめりになって明るい表情でキュサに問い掛ける。


「はい……勿論です。ですが自分が生きてる事に嫌悪を抱かないでほしい。フラブ様が生きてるお陰で私はフラブ様と出会えました。それをフラブ様に否定してほしくありません」


 優しい声色でそう言うキュサは微笑み半分、真剣半分な表情でフラブを見ていて。それにフラブは申し訳なさそうに少し俯いて拳を優しく握りしめた。


「キュサ……少しでも疑ってすまなかった……私に仕えてくれるなど……想定の範疇を超えていて……」


 それでもフラブは嬉しいのか一滴だけ涙を流して直ぐに服で拭って涙を止める。


「疑う……? よく分かりませんが私はとても嬉しいですよ」


 その当然かのように言うキュサをフラブは理解出来ずに目を少し見開いて「え……?」と問いながらキュサを見る。


「疑うということは……これからフラブ様から信じようと歩み寄ってくれると言うことでしょう? ならば仕える者として嬉しい以外ある筈ないではありませんか」


 キュサは心の底から嬉しそうに微笑みながらフラブにそう言いながらフラブを優しく抱きしめた。


「キュサ……」


 ─ 忠誠が狂気的だぞ……初対面だろう……


 そんな事を面と向かって言える筈もなく胸の奥にしまって苦笑いをした。そしてキュサはフラブからゆっくり離れて優しくも真剣な表情でフラブを見る。


「一度サトウ家とユフィルム家の本邸に行きましょう。情報収集が先、ヨヤギ家は最後に。その後にフラブ様の訪ねたい方を訪ねる。どうですか?」


 その提案にフラブは腕を組んで右手を顎にあてて真剣な考え始めた。


「……だが王都の門は直ぐそこだ。これからの方が……」


「変装、してませんよね? 処刑課に通報されて終わりですよ」


「……分かった。キュサに任せる」



 ─その後にそれぞれ尋ねて分かった事──


ユフィルム家の本邸

7段相当と思われる敵1人とその他大勢の襲撃

使用人12人死亡


サトウ家の本邸

8段相当と思われる敵1人 

数ある分家の当主、使用人2人死亡


ヨヤギ家の3つ目の分家 

ココア推定5段、その他大勢の襲撃

死亡数0、行方不明数1


ユフィルム家の別邸

コウファ推定6段 

死亡数0、行方不明数0


 アリマの魔力のお陰でこれで済んだと喜ぶべきか絶望するべきか。処刑課は名家全ての人間を指名手配とし名家を襲った敵が口を揃えて言った言葉。


 ──「1年後にシラ家跡地で」


 1年という間は余りにも長い。ただの宣戦布告が目的なのか否か。死人が出ていることから事の深刻さを胸に刻んで各々進み出したとか。



 それから1時間後。──ヨヤギ家本邸の玄関の直ぐ前の室内でアリマが庭側の壁に背を向けて。フラブが玄関のドア側に背を向け互いに向かい合っていた。


「何が起こったか。カミサキ姉は他の名家との連絡を取ってサヤは……」


「聞きたい事はそれではないです。アリマさん、カケイは?」


「……カケイ君は連れ去られたか殺された。そう考えるのが妥当だろうな。余の失態だ。だから……」


 フラブは暗い表情を浮かべ「カケイ……」と言葉を溢すも直ぐ様に真剣な表情に変わった。


「アリマさん、まさか自分を責めたりはしませんよね?」


「ああ。敵が宣戦布告して来たんだ。1年後と言うのにわざわざ今、宣戦布告をしてきた理由は定かではないが……絶対に失態は取り返そう」


「失態……? そうですか。アリトさんの動きは?」


「今回は怪しい行動はしていない。全て本気でミスを取り返す気で敵の情報を調べている」


「……処刑課が敵に回る、つまり名家以外の者全員が敵になった……それに対する案は?」


「常に家には余が結界を張っておいた。外部からの侵入は殆ど不可能だろう」


「アリマさんの負担が大きい気がしますが、それは大丈夫なんですか?」


「……大丈夫だ。敬語を使ってない時に思ったんだが……フラブ君、余の口調が多少移ってないか……?」


 アリマの言葉にフラブは腕を組み、右手を顎に当てて今までの言動を考え始める。


「……まぁアリマさんとは昔からの付き合いですからね。気にしないで下さい」


「……っすまない……余が女性らしい口調を使えば君はもう少し女性らしかっただろうっ」


 そう謝るアリマは無表情ながら少し申し訳なさと後悔が混ざっていた。


「は? 今は男性らしさが勝つと? 大体アリマさんが女性らしい言葉を使ったら……ふふっ、ははっ! 結構ありですねっ!」


 フラブは笑いを堪えきれず右手を軽く口の前に持って来てもっと笑い出す。──そのフラブを少し呆れるような目で見るアリマだが直ぐ様に優しい表情を浮かべた。


「フラブ君……だがやはり緊迫した表情ではなく笑ってる方が君には似合う」


 フラブは頑張って笑いを止めて、笑いででた涙を右手の人差し指で優しく拭う。


「褒め言葉が単調過ぎるんですよ、アリマさん。まぁ雑談もここまでにしましょう」


「ああ。それで本題だが、余は君がキュサ君と2人で行動する事を反対しよう。もしもがあったら取り返しのつかない事に成り得る」


 アリマの優しくも冷たく冷静な言葉にフラブは表情が微かに曇った。


「ですが今はそんな事を言ってる余裕はないでしょう。敵の宣戦布告が罠でなければ私は足手纏いになります」


「言ってる余裕がないからこそ駄目なんだ。処刑課の指名手配を甘く見過ぎるな」


「180年前はアリマさんから急に居なくなりましたよね? あの時と今、比べても過保護ですよ?」


「……理由は言えない。君が重荷を背負うかもしれないから……」


 ──アリマの言葉を遮る様にフラブは両手でアリマの胸ぐらを強く掴む。それにアリマは驚いてフラブを見下ろし、フラブは真剣な表情でアリマを見上げた。


「それが過保護って言ってるんですよ! 私が重荷を背負うかどうか、アリマさんが決められますか? 無理ですよね? 私を信用して下さい! 私だって昔よりとても成長しています」


 フラブは確かに怒りをうちに堪えており、アリマは気負けして微かに悲しそうな表情を浮かべた。


「……っ分かった」


 アリマのその言葉でフラブはアリマから離れて、腕を元の位置に下ろした。


「ついて来い、フラブ君。茶でも飲みながら話そう」


「分かりました。キュサは2階でサヤさんと話してる最中ですよね? 居なくなって大丈夫でしょうか……」


「そうなれば探しに来る」


 アリマはそう言ってフラブに背を向けて、フラブから見て右手側の廊下を歩き出す。フラブはアリマの後を着いて行き、アリマの右横に並んで歩いた。



 ──その頃サヤとキュサはヨヤギ家本邸の2階、アリトの部屋に来て話をしていた。サヤとキュサはドア側の壁に背を向けて、ベッドで本を読んでいるアリトを見ている。


「アリト兄、会合は中止した。話は当主さんから聞いてる?」


 サヤは真剣にも軽く腕を組みながら問い。それにもアリトは本を読み続けている。


「聞いているよ。私も指名手配されるのか、それともスルーされるのかな」


 アリトは面白そうにも本を読みながら優しい口調でそう言い、キュサは真剣な表情でアリトを見る。


「アリト様、事の重大さをご理解ください。私どもが聞きたい事は1つ……」


「私の調査進捗かな?」


「……左様です。それとその調査方法等、知ってる事があるなら吐いてください」


「私の最適性魔法と適性魔法を使っているだけ。其々だと弱いけど組み合わせたら調査する事くらいは出来るんだ。私は魔力も弱いからそれで手一杯だけどね」


「アリト兄は当主さん以外の命令で動く気は無いと?」


「……確かに兄様以外からの命令は興が乗らないけど……内容次第」


 優しい声色でそう言うアリト本を閉じて優しい表情でサヤの方を見て言葉を続ける。


「私に頼みたい事が?」


「うん。単刀直入に言うと宣戦布告された日。その日にアリト兄はカミサキ姉と動いてほしい」


「なんだ、そんなこと。私は兄様の側に1番長く居たから。断言するけど兄様の思考の癖を兄様以上に知っている。全て肯定したら私が居る意味がない」


「つまりアリマ様以上の策を……アリト様は提案した。そういう事でしょうか?」


 慎ましそうに問うキュサだが、アリトはどこか悲しそうな表情をみせる。


「それは謙遜しようか。そして提案内容はまだ皆んなには秘密」


「……その理由は?」


「私と兄様だけが知る秘密、それほど心が締め付けられるのは無いからね」


 アリトは嬉しそうに薄らと微笑みながら仰向けに天井を見上げた。


「……まぁ良いか! 行こ、キュサちゃん!」


 サヤは何故か笑顔になり不思議そうにキュサは首を傾げる。


「本当に良いのですか情報不足も極まれりですよ?」


「良いの良いの! アリト兄、信じてるから。期待させてもらう!」


 サヤは笑顔でアリトを見てそう伝えると、キュサの腕を引いて後ろのドアから部屋から出た。


「期待か。責任重大だ」


 アリトは優しい表情でそう言葉を溢して本を開いて再び読み始める。



 その頃、──フラブとアリマはアリマの執務室内に来ていて対面に配置されたソファーに、ドアから見てフラブが右側で机を挟んでアリマが左側に向かい合って座る。机の上には2つの和風な湯呑みが1つずつフラブとアリマの手前に置かれていた。そして中には緑茶が注がれていて、フラブは右手で湯呑みを持ち一口分飲んで元の位置に戻す。


「其れで話を始めるが……」


「少し待って下さい。台所みたいな部屋で湯呑みにお茶を注いで、ここまでアリマさんが使う分まで持たせて……しかもこれ高いでしょう、絶対!」


「ああ。税抜き、湯呑み1つで5万5800円、茶は349万だ。金貨だと面倒だからな」


「……っ落としてなくてよかった! ですけど私の気持ちを考えて下さい! お茶を飲む事が349万を失ってる感じがして凄く怖い……!」


「気にするな。茶も湯呑みも余の好みで買った品だが壊しても無くなっても買えば良い」


「金銭感覚が狂ってしまうっ!」


「フラブ君、金は使わねば只の要らない荷物だ」


「……ッ! それよりお茶苦過ぎる! 何でこんなに苦いんですか!?」


「愚問、茶が苦いのは苦ければ苦いほど甘味が引き立つ。──故に、語彙力がなくなる」


 いつに増しても真剣な表情でそう言うアリマは手を膝の上で組んでいる。その言葉にフラブは真剣な表情へと変わり右手を机について少し前のめりになった。


「つまり。アリマさんは甘味に詳しい、と言うことですね? 本題の前に語りませんか? 甘いものについて詳しく!」


「望むところだ。まず甘味の中で何が好きか、聞いても良いか? フラブ君」


「御萩、饅頭、その2択!」


 フラブは堂々と真剣にアリマを見つつ前のめりにそう答え。それにアリマは優しく微笑んだ。


「良いと思うぞ。御萩は置いといて饅頭は種類が多く奥が深い」


「それしか食べた事ありませんから」


「なっ……! まさか今川焼きや甘納豆、三色団子に大福に茶通も知らないのか……?」


 フラブの言葉に見るからに驚きを隠せずにいるアリマだが、フラブは驚いている理由すら分からず小首を傾げた。


「そんなに甘味には種類があるんですか?」


「……ああ。余は和菓子専門だが今言った物以上に種類はある。フラブ君、奢ってやる。今直ぐ買いに行くぞ」


 アリマは右手で自身の湯呑みを持ち、入っているお茶を全て飲んでゆっくり立ち上がる。


「なっ……! 奢ってくれるんですか、行きましょう。和菓子を求めて!」


 フラブはそう言い右手で自身の湯呑みを持ち、入ってるお茶を全て飲んで立ち上がった。



 それから20分後、──ヨヤギ家本邸の玄関前、フラブとアリマは着物から着替えて庭側に背を向けて、キュサが向かい合って2人の姿を確認している。


 フラブは服は白いオーバーサイズシャツを着て、ズボンは灰白色のカーゴパンツを着ていて白靴下の姿。そしてハット型の藍白色の帽子をつけている。


 アリマは服は灰色のパーカー、ズボンは銀灰色のワイドパンツを着ていて白靴下の姿。そしてキャップ型の灰白色の帽子とウェリントンタイプの伊達眼鏡をつけて髪はパーカーに隠すように後ろで結んでいた。


「私は目が見えません。でも歩く時の音が微小に軽かった、つまり着物では無いと言うこと。変装の心得は良いと思います」


 キュサは見守るように優しく微笑んで堂々としているフラブの方を見る。


「本当凄いな、キュサ……人の位置も正確に見えてるみたいだ……」


 フラブはそう驚きつつ感心するように褒めて、それにキュサは嬉しそうに微笑んだ。


「それは気配や音で読み取ってます。靴底もありますが。それでフラブ様にもしもがあれば頼みますよ、アリマ様」


 キュサはそう言って2人を玄関に通し道を開けるようにフラブの横へと避ける。


「ああ。だがフラブ君は目立たないか? 王都に行くんだ。特定されないよう黒い髪は成る可く隠した方が……」


「いえ、無駄に隠そうとすればそれこそ怪しいと言うものでしょう。フラブ様の黒髪は目立たせてなんぼ、アリマ様は身長で目立つので姿は目立たない方が良いのです」


 キュサは冷静にアリマの問いに答えて優しい表情でフラブの方を見る。そのキュサの説明にフラブは不思議そうに小首を傾げてキュサを見た。


「詳しいな、キュサ」


「ありがとうございます。私は指名手配になりませんでしたが王都や町に出かける時は友人にならって多少の変装をしてましたので」


 それにアリマは腕を組んで左手を顎に当てて何故か真剣に考える。


「成る程。余は毎回変装をせずにで出かけていたから処刑課にも声をかけられたのか……」


「アリマさんってたまに馬鹿ですよね」


 アリマはフラブの方を見下ろして「……まぁ良い」と言いながらキュサの方を見て言葉を続ける。


「名前で呼ぶのは大丈夫なのか?」


「……アリマ様もフラブ様も珍しい御名前で目立つかも知れません……ですが盗み聞きされても問題ないでしょう。殺せば良いので」


「キュサ……」


 フラブはその言葉に呆れるように苦笑いして玄関に向かって歩き出す。

 アリマもフラブの後をついて行こうとしたがキュサが「最後に、アリマ様」と呼び止めた。

 その呼び止めにアリマは足を止めてキュサの方を不思議そうに「ん?」と問いながら振り向く。


「王都では一人称を変える事をお勧めします」


「……そうか」


 アリマは単調な返事をしてキュサに背を向けて玄関へと歩き出した。


「アリマさん、大丈夫ですか? 珍しく浮かない顔をされてますが……』


 フラブは心配そうにアリマを見ながら少しだけ小首を傾げる。


「否、気の所為だ」


 フラブは藍色の靴を履き終わってアリマの方を見て立っていて、アリマも白い靴を履いて立ち上がりドアを開けた。

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