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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第一章「ヨヤギの超越者」
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第十九話 懇親会は御萩と共に

 ユフィルム家の別邸はヨヤギ家の本邸から山を降りて徒歩5時間程の遠い場所。だがアリマの転移魔法を途中まで使い移動時間は30分で済んだ。


 そこは洋風なお城で平地に位置していながら木々に覆われていた。だが不思議と魔物は見当たらず、草木も手入れされている。

 そしてフラブ以外は着物を着ていて含めた全員が別邸の大きい門の前で立ち止まっていた。


 そしてサヤの着物は桃色の着物に帯は紫色のサヤにしては女性らしく思える格好。

 フラブは髪を結んでなくて1人だけ着物ではなくシラ家の格好良いマントのようなものがついている黒色の男用の貴族のような服装だ。


「今回、余等とフラブ君は基本別行動になる。故にフラブ君の付き人を呼んだ」


「それはカミサキさんから聞いています。確か時間通りならもう来て……」


「はい、既に私は来ております。フラブ様」


 急に門の右上から女性の声がしてフラブとサヤはその方向を見る。

 するとそこには深黄色の瞳に薄黄色の短髪のメイド服を着た身長160センチ程の女性が器用に立って居た。見た目は青年に近くてもフラブよりかは年上に見える。

 ──そしてその女性はフラブの右前に来て、綺麗な着地と同時に右膝を地面へ着けて跪いた。


「私はシラ家の分家の生き残り、シラ・ハジメの年の離れた妹にして今日より貴女様に仕える使用人、シラ・キュサと申します」


 白黒のメイド服を着た者、キュサのその言葉にフラブは驚きを隠せずに目を見開いた。


「お父様の妹……?」


「左様で御座います。貴女様にお使えできる日を待ちに待っておりました」


「え? 私を知って……? どう言う事ですか? アリマさん……?」


 フラブは訳も分からず困惑しながらアリマの方を見て説明を求める。


「キュサ君は処刑課に殺されそうになっていた所を助けて本人の意向で分家で使用人として働かせていた。時間が経過しても気が抜けてドジばかりだったらしいが。まぁ……暗殺ならプロレベルだな」


「え、……?」


 アリマが淡々とそう詳しく説明するとキュサは怒ったようにアリマを強く睨みつける。


「フラブ様の前で私の印象を悪くしないで下さい。それより早く室内に逝かれたらどうですか?」


 何故かアリマに対しては的確な鋭い殺意を向けているようでずっと強く睨んでいる。


「……まぁ良い。2人で話したい事もあるだろう、余等は先に行こう」


 アリマがそう言い門を開けて進み出すとカミサキはアリマの後をついて行く。だがサヤは不安が残るのか少し心配そうにキュサの方を見た。


「フラブさんもだけど、キュサちゃん。もし不安なら私を頼ってもいいからね! 友達でしょ!」


 元気よくそれだけ言い残すとサヤは焦ることなく門の向こう側へと歩き出してその場を後にした。


「え、えーっと……? 本当に…私に仕えてくれるんですか? どうして?」


 フラブはキュサの方を見て恐る恐る問うと、キュサは優しい表情でフラブを見て微笑んだ。


「実を言いますと、私は目が使えません」


 それにフラブは驚いた様に目を大きく見開くも深刻そうな表情を浮かべる。


「え……?」


「私は目が使えません」


「あ、はい。え……? 見えてないんですか……?」


「左様です」


「ならどうやって的確に……」


「音です。この履き物の靴底に盲目用の杖の様な機能が備わっているのです。まぁ詳しく言えばそういう魔道具でしてシルエットでなら分かるのです」


「どうして目が見えないのを……初対面の私に教えてくれたんですか? 私を見えてもないのでしょう?」


 自分の弱みを教える事は何より難しいことで、それも初対面で相手も見えてない状態となると余程の勇気がいるだろう。何となくそう感じたフラブは恐る恐る問うも、キュサは平然として優しい表情を浮かべている。


「私はフラブ様の事はアリマ様やキヨリ様など、色んな方から聞いております。両親を幼くして亡くし190年だいたい山に居て、試験を受けようとする向上心や諦めない心がある」


「そんな……美化され過ぎです。私は指名手配されてるんですよ?」


「それだけでは有りません。芯がしっかりある真っ直ぐな優しい方だと。絶望から前を向いて進める強い方、名家と向き合える責任感があるとかも。それを聞いて仕えてみたくない人は存在しません」


「それは言い過ぎです。それに全部……嘘かも知れまんよ。対して強くなくて友達のお陰で気を保ててるとか、責任感は殺さられる直前にして言い訳に使うかも知れない……」


フラブは悲しそうな表情を浮かべるもその物苦しい言葉にさえキュサは心温かく、優しく微笑んだ。


「だとしても、全て嘘ではない。そうでしょう?」


「あ……う、……はい。そうです、」


 そう言うフラブは照れ気味に微かに外方を向いて目線を逸らした。そのフラブとは対にキュサはずっとフラブに向けて優しく微笑んでいる。


「私に敬語は不要ですよ。私はフラブ様に仕えています。敬語は可笑しいでしょう。フラブ様に忠誠心を持って支えさせて頂きますので何卒よろしくお願いします」


「そう、か。私はシラ・フラブで……よろしく、キュサ、で良いんですよね?」


「はい。では参りましょうか」


「少し待て」


「え……はい。どうかしましたか?」


 門を潜ろうとしたキュサにフラブはある事を思い出して呼び止めた。キュサは立ち止まって首を傾げながらフラブの方を振り返って見る。


「そういえば確かカミサキさんから会合中の当主以外の介入は駄目だと聞いていたんだが……」


「それなら問題有りませんよ。アリマ様が言っていましたでしょう、私はフラブ様の付き人だと。付き人は大体、分家の人がやるんですがね。当主の許可がある付き人ならば問題は無いのです」


「そうか。呼び止めてすまない」


 申し訳なさそうにそう言いながらフラブは優しく微笑んでその別邸の門を潜った。ーー門を潜ると真っ直ぐに玄関繋がる煉瓦の歩道があり、左右には丁寧に手入れされた草や花が広がっていた。


「フラブ様……絵になりますね」


 フラブの後ろを守る様に右後ろから着いて来ているキュサぼそっと言葉を溢す。


「私を褒めるな、何も出せない」


「何か出して欲しくて言ってませんよ。それにしても……相変わらず大きいドアですね」


 フラブとキュサは玄関の4メートル以上はある両開きドアの前で立ち止まる。


「少し緊張して来たな。キュサ……」


 フラブは心臓の鼓動を無視出来ずに安心感がほしいからかキュサの方を振り返る。


「何でそんなに緊張してないんだ……?」


 キュサは緊張している素振りなど一切なく平然として手を前で組んでいた。


「毎回、使用人としての師の前でドジをしたら厳しく怒られていましたので……その時の緊張と比べればこれ程可愛いものはありませんよ」


「そうか……では頼りにしているぞ」


 フラブはキュサに優しく笑いかけながらそう言い、意を決した表情で両開きドアの方を向く。


「有り難き御言葉で御座います。フラブ様」


 ─ …慣れないな


 フラブは優しい表情でそう思いながら両開きドアを押して開ける。中はとても広々としていて、2つ繋がったかね折れ階段があり、その階段に真っ直ぐと続く赤色のカーペットが敷かれていた。──そして靴は仕舞わず、全員玄関に並べて置いていてフラブもキュサもそれを真似して丁寧に靴を並べて置いた。


「シラ・フラブ様でよろしいのでしょうか?」


 急に気配も無く玄関の左手側の段差上に現れた声にフラブとキュサは驚いてその方向を見る。するとそこには丁寧に執事服を着た白髪の少し癖毛で眼鏡を着けている老人が居た。


「はい。シラ家当主の……シラ・フラブです」


 フラブは瞬時に冷静になり堂々と挨拶をして、フラブの後ろに居たキュサは45度のお辞儀をした。


「シラ家の当主様は女性と聞いておりましたが……」


「はい。え、あ、私は女性です!」


「それは失礼致しました。どうかこの老耄をお許し下さいませ」


「いえ、誰にだって間違いはありますからっ……」


「許して頂けるとは。本日お越しいただき誠に有難う御座います」


 優しい声色でそう感謝を言う執事服を着た老人は優しく微笑みながらフラブの方を見る。


「こちらこそ、わざわざ玄関まで御足労頂きありがとうございます! 素敵な家ですね」


 緊張が解れてきたのかフラブは明るい表情をして邸の中を見渡した。


「左様で。それでは案内致します、会議室へ」


 他人事みたいに言う老人はフラブに背を向けて階段へと歩き出す。フラブとキュサは辺りを見渡しながらその後を歩いてついて行った。


 階段は左側へ進むとそこには綺麗な廊下があり、階段側を見ると階段を囲うように広々とした間がある。


 もちろん階段の右側にも廊下があって左右対称の心地よい空間だ。左手側の廊下を老人に着いて行く様に歩きながらフラブは口を開く。


「他の当主の方々はもう来てるんですか? 使用人も見ませんが……」


「会合中は建物に残る使用人は最低限の私だけとなっております。対魔物を含む全ての議論が飛び交う場、それほど世間を騒がせるものですからね」


「そんなに……」


「ええ、左様。そして現在、貴女様の他にヨヤギ様、我が主ユフィルム様が会議室に来ております。サトウ様は少し遅刻するとの連絡が10分前に入りました」


「そう……ですか、詳しく教えて頂きありがとうございます」


「いえいえ、では案内はここまで」


 老人が丁寧に優しい声色でそう言うと右手側に他と変わらない普通のドアがある。


「他と大差無い部屋なんですね。……緊張でどうなるかと」


「意外でしょう。室内に入れば雰囲気も変わると思いますが、ドアは敢えて普通に作ってるんですよ。暗殺向けではない構造でしょう。キュサさん」


「ええ。とても。私が暗殺目的でしたら蹴ってしまう程に気持ち悪いですね、ゴミ師匠」


 少し口が悪くなったキュサは咄嗟に「コホン」と言って誤魔化しつつ何事もなかったかのように外方を向いた。


「え、お知り合いだったんですか……?」


 フラブは戸惑いながらもキュサの方をみて老人の方を確認する。


「左様です。たまに口が悪くなるキュサさんの方からアリマ様を通してお願いされまして。もしキュサさん粗相をしたら私にお申し付け下さい」


 そう言う老人は大人しい口調で優しく微笑みながら冷たい目をキュサに向ける。


「だとしても使用人たる者、仕える主人の前で口が悪くなるというのは……まぁこの辺にして。では私は失礼致します。どうぞごゆっくり」


 そしてそう言って執事服を着た老人は来た道を戻ってその場を後にした。


「とても丁寧な方ですね……所作も含めて見習いたい点が多い……」


 感心するような眼差しを向けながらそう言葉を溢すフラ部を見て、キュサはゴミを見るような目を執事服を着た老人の背中に向ける。


「ただの鬼ですよ」


 そしてフラブは難しい表情をしつつも意を決してゆっくり部屋のドアを開けた。

 ──すると室内はドアからじゃ想像が出来ない程にとても広くて、中央が空いてる大きくて丸い机に向かって椅子が4つ配置されている。


 ドアから見て1番左手側にアリマが座り、左右後ろにカミサキとサヤが立っていた。そして1番奥にユフィルム家の当主らしき男性が座っている。


 その男性は160センチの長身で橙色の短い髪の毛に水色と橙色のオッドアイで、マントがついている白い貴族服を着ていた。


「不思議だねぇ、今の当主って600歳以上のジジイいないらしいよ? アリマ」


「ラサス。良い加減に口が悪いのを治せ」


 アリマは呆れるような目をラサスに向けるも、ラサスは呆れさえ無視している。それにフラブはただ無言でドアから見て1番右側の椅子に座り、キュサはフラブの左後ろに立ち止まった。


「って君、多分シラ家の当主だよね? 男の子? 女の子?」


 興味本意にもフラブの方を微笑みながら見て楽しそうに問うラサス。それにフラブは無表情で冷たい目をラサスに向ける。


「後者ですが。最初に聞くのがそれですか?」


「そう。良いね。気に入った」


 それにフラブは人間性を察したのか冷たくも呆れたような目をラサスに向ける。


「……当主としてどうなんだ? 家の風格に関わるぞ」


 その冷たいフラブの問いにラサスは少し驚くも直ぐ様に再び楽しそうに微笑んだ。


「あっははは! 良いね、ますます気に入ったよ!」


「……そう。勝手にしろ」


 呆れたように目線を逸らすフラブはこれでも幼い頃に礼節がなっている親を見てきた。だからこそ軟派な人が生理的にも苦手で、ラサスにつく悪態には何の企みも嘘もない。


「なら手を出しても問題無いわけだ! 僕はラサス・ユフィルム。僕は挨拶したよ?」


「シラ・フラブ」


 そのラサスの自己紹介にフラブは冷たく名前だけ伝えて外方を見る。


「そう良い名前だ! 君に似合う可愛いさがある!」


 そして冷たくもフラブはラサスを無視してアリマの方を見た。


「……それよりアリマさん、質問良いですか?」


 だがアリマの左後ろにいるカミサキは嫌そうに敵意丸出しでラサスを強く睨みつけていた。


「何だ」


 アリマは相変わらず無表情でフラブを見るも机の上で軽く手を組んでいる。


「この部屋、無駄に広くないですか? 私とアリマさんとの距離5メートルはありますよ」


「其れは同感だ。無駄が有り過ぎる」


 フラブとアリマの冷静な棘のある言葉にラサスは機嫌を損ねたように頬を膨らませる。


「別に良いじゃん……広い方が開放感あるしさ。もう僕拗ねちゃうもんねー!」


 ここはユフィルム家の別邸、つまり全てはラサスの指示通りに設定されている。


「アリマ、あんた相手に的確にナイフの先みたいな言葉をたまに投げ掛けるわよね……」


 腰に手を当てているカミサキは呆れる様に椅子に座ってるアリマを見て言い。アリマは少し目を見開くも直ぐ様に無表情へと変わり少し俯いた。


「そうか……善処しよう」


「カミサキちゃん、僕を慰めてよ。サヤちゃんも……」


 ラサスの言葉にカミサキとサヤは名家の仲をこれ以上悪くしないために黙秘して、無視を続ける。


「来たみたいですよ」


 フラブがそう言いながら目線をドアへ移すと、ドアがゆっくり開いた。


 そこに来た者は185センチ程の身長で緑色のスーツを着ており、髪型は白色のオールバックで短い髪。そして中年程の見た目の男性でボストン型の色付きサングラスをつけている。


「すまんな、遅れた……見ない顔だな?」


 その男性はフラブの方を見ると不思議そうに問いながら椅子の後ろへ進んだ。


「シラ家の当主……シラ・フラブです」


 少し余所余所しくもフラブは真剣にそう言いながら立ち上がって丁寧に挨拶をして。それにアザヤは疲れたように無表情でドア側の椅子に座りながらフラブを見ている。


「そうか君が。俺はサトウ・アザヤ。見た目はこれだが……サトウ家の当主をやっている」


 それを確認したフラブは自分の席に再び座りながら机の上で手を組んだ。


「此れで全員揃ったな。早速始め……」


「いや、新しい方も居る。懇親会が優先されるべきだ」


 真剣にそう言いアリマの言葉を遮って机の上で手を組みながらアザヤ。それにアリマは納得したのか腕を組んで左手を顎に当てて考え始める。


「……そうか。其れなら其方で任せよう。そう言う事柄は得意ではない」


「ねぇそれより僕お腹空いたー!」


 ラサスの元気があって適当すぎる言葉にアザヤは冷ややかな目でラサスを見る。


「ラサス、良い加減に子供じみた言動は止めろ。目に余る」


 面倒くさそうにしているラサスだが、フラブは存在ごと無視して真剣にアザヤの方を見る。


「懇親会の概要を聞いても?」


「分からん。だが懇親会は懇親会だ。取り敢えず質疑応答でもすれば良いだろ」


「あー! なら僕からフラブちゃんに質問!」


 突然ラサスがフラブの方を見て元気よく言うも、フラブは冷たい目をラサスに向ける。


「は?」


「好きなタイプは?」


「人間」


「そっかー! なら僕も入るね!」


 それにフラブは呆れを呑んで表情には出さないように瞼を閉じていた。


「もう仲良くなったのか?」


 そう感心するように問うアザヤだが、アリマは何処からか出した御萩が入った箱4つを机の上に置く。


「其れより御萩食べるか? かなりの名店のものなんだが……」


 そのアリマの淡々とした問いに、アザヤは少し目を輝かせてアリマを見た。


「名店……? ならくれ。俺は名店の物しか食わねぇ」


 それにラサスは椅子に凭れながら背伸びをして微笑みながらアリマを見る。


「僕も貰おうかな! 甘いのすごく苦手だけどお腹空いたし!」


「私も貰います」


 フラブも微かに前のめりにそう答えて、アリマは簡易型の転移魔法でその3人の前の机に一箱分置いた。


「そして今回の議題だが……」


 配り終えたアリマは本題に入ろうとするも、そのアリマを呆れるような目で見るアザヤ。


「待てアリマ。懇親会は終わってねぇぞ。フラブさん、段位は?」


 そしてアザヤはフラブの方を見て真剣に問い、それにフラブは御萩が入った箱を守るように抱きしめた。


「先程測定したら3段でした」


「フラブ君は妥当だろう。処刑課長と3対1で相対して1人を殺せる迄に持って行ったからな」


 無表情ながらどこか誇らしげにアリマは補足をするもフラブは警戒するように御萩の箱を守っている。


「その若さでか。凄いな」


 優しい声色ながら感心するようにそう言うアザヤは驚きを含めた表情でフラブの方を見て。

 ──目線の先に居るそのフラブは常に深刻そうにも真剣な表情をしていた。


「ありがとうございます。まだまだ未熟者ですが」


 それに何かを疑問に思ったのか右手を顎に当ててフラブを見るラサス。


「ねぇフラブちゃん。僕と他との態度違くない? 何で?」


 そのラサスの質問にフラブは不機嫌そうに「は?」と問いながらラサスを睨みつける。


「ほら冷たいじゃん! まぁそんなとこも良いんだけどね」


 そう楽しそうに言うラサスをフラブは諦めてラサスから目線を外した。


「その辺にしとけ、ラサス。それ以上は本当に家の風格に関わるぞ。アリマも何か言ってやったらって……相変わらず甘いもん食べると人が変わるなぁ……」


 そう呆れるように言葉を溢したアザヤは冷たい目でアリマの方を見て言い。そのアリマは御萩を左手に爪楊枝を持って幸せそうに食べていて。周りに花が咲いてると錯覚する程までに雰囲気が優しかった。


「ん?……余の御萩を奪うのなら余に命を奪われる覚悟も当然有るんだろうな?」


 アリマは急に珍しく敵意を剥き出しにしてアザヤの方を少し睨みつける。


「面倒くせぇ……奪わねぇからそんなに敵意剥き出しにすんな。すまねぇな。フラブさん、って……」


 呆れるようにフラブの方を見るアザヤだがフラブも右手に爪楊枝を持って御萩を幸せそうに食べていた。


「久しぶりの御萩……毎日食べたい……」


 だが御萩は一箱五つ入りで、甘味が好きなアリマとフラブは直ぐに食べ終えた。


「此れが……虚しいと言う、概念……?」


「もっとっ……食べたかったっ!」


 残念そうに言うアリマは物凄く落ち込み、フラブは表情からも見て取れるほどに物凄く悔いていた。


「まぁなんだ……本題に入ろうか……」


 そのフラブとアリマに呆れたアザヤは軽く目を瞑りながら疲れたようにそう溢す。──それにアリマは切り替えて御萩の空の箱を魔法で燃やして一瞬で灰すらも消した。続けてフラブも切り替えて御萩の空の箱は机の上に置いたままにする。


 ─ 御萩を食べると190年前の日を思い出す……


 フラブは少し暗い表情になり背中からお前は幸せになるなと後ろ指を指されてる気がした。その指を指すのは母親や父親、自分のせいで死んだ者ばかり。


「では本題に入ろう。まず余の弟がアリト以外殺された」


 淡々としているアリマの突然の言葉にこの場の空気が冷たく静まり返る。事を知らない者は当然のように理解が追いついていない。だからフラブとカミサキ、サヤ以外の全員が驚くように目を見開いてアリマの方を見る。


「は……?」


 知らなかったのかアザヤは恐る恐る問うもアリマは常に冷静だった。


「此れから話そう。安心しろ、嘘ではない。其処にフラブ君も立ち合わせている」


 安心できないその言葉に恐る恐るアザヤがフラブの方を見て確認を取る。


「はい。本当です」


 いつに増しても真剣な表情で答えるフラブだが何かに気づいたように、直ぐ驚きを隠せずに大きく目を見開いた。


「まさか……その証言をさせるために私を会合に誘ったんですかっ?」


「否。其れもあると言うだけだ。本命は君の父親との約束だな」


 冷静にして淡々として説明するアリマ。するとカミサキが急に口を開いた。


「ここからは私が話しましょう。ヨヤギ家に起こった強襲と裏切りを」


 カミサキは時間をかけて分かりやすく皆んなに向けて説明を始めた。時折アリマやサヤが口を挟みつつ全員がただ黙って話を聞いていた。

 ──話が終わると会議室に物苦しい空気が暫く流れて恐る恐るアザヤが口を開いた。


「アリマ……質問良いか?」


 深刻そうなアザヤの表情を見てアリマも真剣な表情へと変わり「ああ」と答えながら軽く頷いた。


「お前の跡継ぎはどうする気だ? お前結婚する気すらねぇだろ」


「……今か?」


 呆れるように問うアリマだがアザヤは真剣ながら微かに暗い表情を浮かべている。


「これも大事な話だ。弟が居ればそいつに当主を譲れば済んだ話。だが酷いことを言うが死んだんだろ?」


「……すまない。少し、否。何でもない。この手の話は苦手故に違う時に話そう」


 何故か腕を組んで左手を顎にあてて真剣に考え始めるアリマを見て。ラサスは楽しそうに微笑むも常に面倒くさそうに椅子に凭れていた。


「僕が紹介しようか? そしたらアリマも結婚する気なるって!」


「見た目の話では無いだろう。それに妻が8人居る君に紹介出来る人は居ないと思うが?」


 そう嫌そうにもラサスの方を見て小首を傾げて問うアリマだが、その会話を聞いていたフラブはラサスを引くような目でみる。


「8人……?」


「全員了承済みだよ! 仲良いしね。どう? 9人目にならない? フラブちゃん?」


 明るい表情で聞いてくるラサスだがフラブは再びゴミを見るような目でラサスを見る。


「五月蝿い雑音だな」


 圧あるようにも本心しかないフラブのその言葉にラサスは落ち込んで机に顔を伏せた。その光景を見たアリマは呆れよりも驚きが勝ち少し目を見開いてフラブの方を見る。


「フラブ君、口が悪くなってないか……?」


「弁舌力が上がったと言って下さい」


 その会話にアザヤは驚いたような表情でアリマの方を見て直ぐにフラブの方を見た。


「アリマと仲良いのか? 機能していなかったシラ家……そもそも今になって……」


「……アリマさんは鬼ですが恩人です。その鬼は人の気持ちを考えた事があるのでしょうか? ね? アリマさん」


 急に圧あるように問うフラブの表情は常に優しく、それにもアリマは無表情だった。


「余も人だ。それに鬼だって人の気持ちを読み取る時もあると思うが。3日前、泣いてる君を励ましたのは誰だ? 忘れたのなら君は重度の認知症だろう」


 アリマの挑発するような言葉の数々にフラブは怒りを堪えて引き続き優しい表情でアリマの方を見る。


「私の弁舌力はアリマさんから受け継がれたもののようですね。3日前、私は守られたく無いと言ってるのに対して私を守る判断をしたのは誰でしたっけ?」


「結果それは無くなっただろう。そもそもあの時の君のメンタルは脆く凄く号泣していた。そう対応しない方が鬼だと思わないか? そう思わないのなら倫理観が崩壊してると思うぞ」


「……! これで103戦中0勝103敗ですかっ!」


 そう言うフラブは悔しそうにも少し楽しそうな表情を浮かべている。アリマは無表情ながらどこか誇らしげな表情を浮かべていた。


「え……流石に負け過ぎじゃない? フラブ……」


 カミサキが驚きのあまりフラブを見てそう言葉を溢すも、アザヤは面倒くさそうに詳しくは聞かず呆れたような目でアリマの方を見る。


「お前もお前だぞ。何でそこまで誇らし気な表情をしている……」


 アリマは殆ど変わらない表情だが、やはり微かに誇らし気な表情が混ざっていた。


「余は御萩を食べて幾分と気分が良いからな。君が余に勝とうなど烏滸がましいと思わないか? フラブ君」


「必ずいつかアリマさんを全てに置いて超えて見せます。それより本題に戻りましょうか」


「ああ。切り替えよう」


 そのフラブとアリマは同時に気持ちを切り替え真剣な表情を浮かべた。それにラサスは楽しそうに笑い、アザヤは呆れるも諦めて心の内に仕舞った。

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