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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第一章「ヨヤギの超越者」
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第十八話 名家という重荷

 あれからフラブはただ暗い表情ながら最初にアリトの部屋を訪れた。


「失礼します」


 暗い声色でそう言いドアを開けたのだが和風な外観に囚われず相変わらず病室みたいな部屋だった。


 そしてアリトは変わらず白いベッドの上にいて右手にスプーンを持ちながらパフェを食べている。だがフラブの方を見るなり驚くように大きく目を見開いた。


「どうしたの? 君が私に用があるなんて……」


 フラブの姿を見れば状態がおかしい事は誰が見ても明らかだった。フラブはずっと暗い表情で冷たい目でアリトを見ながら、そのベッドの横で立ち止まる。


「アルフェード教会、それと魔力人形について知ってる事があれば教えて下さい」


 フラブのその姿は着物の袖が涙で濡れていながらも表情は暗く曇っていて1つとして変わる事はない。


「……何があったの?」


「アユさんとアマネが殺されました」


 フラブの単調にも酷な言葉にアリトは再び驚いて大きく目を見開いた。そしてフラブを見たままパフェを食べていたスプーンをパフェグラスの中に置く。


「……っ本当に?」


「アリマさんから聞けば嘘ではないと分かりますよ」


「……そうだよね。わかった」


「ですが殺された場所も殺した奴でさえ誰も知らない、だから教えて下さい。教会と人形について、知っている事があるなら」


 フラブの圧ある言葉にアリトは少し天井を見ながら腕を組み、瞼を閉じて真剣に考え始めた。


「……ごめんね、今の君に話したらきっと兄様に怒られる。だから無理かな」


 そしてフラブの目を真っ直ぐ見ながら答えを出したのだが。フラブはますます苦しそうに俯いてしまい拳を強く握りしめていた。


「……ではどうしたら良いんですか? 私は……」


「本邸に居なよ。ここから出てもまだ君は行く宛が無いだろう? それに敵は名家を確実に狙って来ているらしい。私が考えるに……その敵がアマネを殺した可能性が現状とても高いからね」


「……良いんですか?」


「私は歓迎するよ。この言葉に裏はない。兄様ならどう判断するか、それで判断する事にしたんだ。カケイ君も暫くここに居るらしいからね」


「……ありがとうございます」


「私が感謝を受け取る資格はないよ。だけど君が背負ってる事を教えてほしい。こう見えて私は聞き上手で有名だから」


 優しい表情でフラブを見ながらそう言うも、フラブの表情には常に気力がない。


「私が知らないうちに大切な人が……知らない人でも何でも殺される事が嫌なだけです。……だから1人を選びたい」


「そう。なら君は自分を大切にしてくれた人は絶対に自分が知らないうちに絶対に死ぬって思ってるの?」


「当たり前です。殺すか殺されるか、それなら私が敵を殺して無関係になった人をただ守り続ければ誰も傷つかない」


「志し的には良いと思うよ。だけれどそれは本当に昔の自分に面と向かって言えることかな? それなら別に良いんだけどね」


 アリトの優しくも鋭すぎた的確な言葉にフラブは目を少し開いて言葉を詰まらせる。


「フラブさん、君は私と違って頑張れば強くなれる。だけど多分、強くなるのは弱い人を救うためでも自分のエゴのためでも無いだろう? ……ね? カケイ君も」


 アリトが優しい声色でそう言うと、フラブは目を少し見開いて勢い良く後ろを振り向こうとした──。

 だがそれよりも先にカケイが背後からフラブを勢い良く抱きしめる。


「フラブさんは言ってた……! 俺ぁ優しいって! 人形なのに受け入れてくれた……!」


「っカケイ……」


「何で俺を頼ってくれねぇんだ! 俺ぁそんな頼りねぇのか? 俺ぁタナカが殺されても前を向いてんだぞ! フラブさん!」


「……っ!」


 カケイの訴えかけるような優しくも必死な言葉にフラブは驚いて大きく目を見開いた。


「俺ぁフラブさんが死んだら悲しい! とても! 悲しいんだ……! 俺ぁフラブさんを独りになんてさせねぇッ! だから俺を1人にするなっ!」


「……っカケイ、すまない。手を離してくれ。痛い」


 カケイはそれでもフラブに力強く抱きつくのを止めなかった。すると急に部屋のドアがゆっくり開いて、それにフラブはドアの方を見る。


「大……丈夫そうだな……」


 アリマとカミサキが部屋に入って来ていて、その後ろからあと1人女性が着いて来ていた。──だがカミサキは泣きそうな表情でカケイごとフラブに抱きついたのだが。安心からか少しだけ涙を流していて何も言わずに必死に抱きついているようにも見える。


「サヤ、来てたんだ?」


 アリトが優しい表情を浮かべながらも小首を傾げながらその女性、ヨヤギ・サヤを見てそう質問する。


 サヤは髪色は濃い紫が大半で所々に薄い赤が混ざっていて髪型はショート。目の色もそんな感じで青年程の見た目の女性。服装は黒いパーカーとジーパンを着ていて身長176センチの格好良い人だった。


「当主さんもアリト兄も私を何だと思ってるの?」


 だがサヤは呆れるような目をアリトに向けながらも直ぐに優しい表情でフラブとカケイの方を見た。


「それは置いといて! フラブさんとカケイさん! 初めまして! 3つ目の分家の当主! ヨヤギ・サヤ! よろしく!」


 フラブはカミサキとカケイに抱きつかれたままで状況が上手く読み込めていなかった。カケイはカミサキを掻い潜り、フラブからゆっくり離れてドアの前に佇むサヤの方を明るい表情で見る。


「俺ぁカケイ! 感情がある魔力人形だ!」


 それにカミサキもゆっくりフラブから離れて、優しい表情でフラブを見た。


「ねぇ、フラブ? 木々の中になるけれど、少し私と2人で話をしましょう」


 安心からかカミサキは優しい表情で。それにフラブはカミサキを見て優しい表情を浮かべた。


「……はい。わかりました。では失礼します。ありがとう、カケイ」


「おう! 悩んだらいつでも頼れ!」


 カケイは太陽のようにも輝いている子供らしい満面の笑みでフラブを見送る。


 そしてカミサキとフラブは楽しそうにも部屋を出て廊下を右手側に歩き出した。


「フラブ……私と友達になるって言ってくれてありがとう」


 カミサキの真剣にも優しい言葉にフラブは少しだけ目を見開いて左側にいるカミサキを見る。


「……え?」


「だって私、友達なんて居たことないのよ。フラブが初めてで……だからなんて声をかけたら良いか分からなくて……」


 優しくも少し俯いているカミサキは見るからに落ち込んでいて。それに気づいたフラブは優しく微笑みながらも前を向いた。


「すみません。カミサキさん。どうしても気持ちに行き場が無くて……友達を1人にするところでした……」


「……私もフラブの友達、そう……友達なのよ」


「そうですね。友達です。私、事が終わったら自分の領地に戻ろうと思っているんです……家と向き合うために……」


 フラブも優しい表情でカミサキを見てそう言い、カミサキは優しく微笑んでフラブを見る。


「良い考えだと思う。フラブに笑顔が無くなるのはとても似合わないもの」


「ありがとうございます」



 その頃アリマは無表情ながら微かに困ったように腕を組んで左手を顎に当てていた。


「其れで重要な話をしたかったんだが……カミサキ姉まで居なくなってしまった……」


 だがそのアリマの姿をアリトは尊敬するような眼差しを向けながら目をキラキラ輝かせる。


「兄様は今日も美しい……何でそんなに格好良いんですか……」


 そのアリトにサヤは呆れるようなゴミみたいな冷たい視線を向けた。


「相変わらず……いや、アリト兄の当主さんを想う気持ち……って日に膨れ上がってない……?」


 だがアリマはアリトの言葉もサヤの言葉さえも聞いてないかのように考え事をしている。


「……カケイ君。君に頼みたい事がある」


 アリマは腕を下ろしながら無表情でカケイを見下ろして優しい声色でそう言った。それにカケイは不思議そうにも小首を傾げてアリマを見上げる。


「ん? 何ですか?」


「3日後から少しの間だけ3つ目の分家の本邸で留守を頼みたい」


「分家の? 何か用があるんですか?」


「名家の当主が集まる会合が開かれる。それに伴い敵の警戒、ここは開けて一箇所に固まる方が他の者の安全もとれるだろう」


「会合……なるほど…! でも当主の会合って普通今やります? 襲撃来たばっかでしょう?」


「だからこそだ。今回の襲撃、敵の目的は名家の破壊なのだろう? ならば其れを話し合わなければ後手に回る。敵の強さを見ただろう」


「なるほど! 任せろ! 俺ぁ友達思いで有名だからな!」


 カケイの元気ある明るい言葉にサヤは驚くように目を少し見開いてアリマを見る。


「……え、当主さん友達いたの?」


「らしいな。それよりアリト、余が居ない間……」


「兄様を枯渇して死ぬ心配ですか?」


「違う。敵はアリトも殺しに来る可能性がある。アリトは自分に結界を張って守っておけ」


 優しくも淡々としているアリマは目を輝かせているアリトを見てそう言い。それに流石にアリトも真剣な表情へと変わって真っ直ぐアリマを見る。


「わかりました……その会合っていつどこで開かれるんですか?」


「今回は3日後、ユフィルム家の別邸で開かれる。今回は流石に余も出席する。故に色々心配なんだ」


「そーそー! 私もカミサキ姉も行くの! 私は行く必要なかったんだけどね! 楽しそうだから!! にしてもカケイ君可愛い!」


 サヤは楽しそうに笑顔を見せながらカケイの両脇を掴んで上に持ち上げて。それにカケイは顔を赤くして怒りつつ不機嫌そうに暴れ出した。


「俺ぁ可愛くねぇ! 格好良いんだ!」


「……其れよりフラブ君がシラ家当主として出席するかが問題なんだ」


「その辺カミサキ姉が聞いてますよ。それより兄様、当主の仕事は順調ですか?」


「書類なら15年分は片付けた。余は指名手配されているから国からの依頼で魔物排除の仕事があまり回ってこない。殆ど暗殺等の処刑課と警備課の残り仕事しかこないんだ。故にそれは後回しにした」


「さすが兄様! 仕事中の姿を拝見出来なかった事は悔しいですがポニーテール姿も美しい」


 アリトは目を輝かせてアリマを見ていて、サヤは呆れる様な目でアリマを見る。


「うん……ヨヤギ家の評判……いや、まぁ良いか! 酒飲んでくる!」


 元気よくサヤはそう言ってカケイを地面に下ろしドアから部屋を出た。


「俺も酒飲む! なんだ酒って!」


 カケイは興味津々で目を輝かせながらサヤのあとをついて行った。


「カケイ君……いつか誘拐されないか?」


「はは、それは確かに」


 アリマはアリトの様子に異変を覚えたのか、真剣な表情を浮かべながらアリトの方を見る。


「……アリト、切り替えろ。今回の襲撃で深手を負った原因はアリトにもある。だが頼りにしてるんだ、アリトの適性魔法と結界術をな」


「……私にはそれしか取り柄がないですから。私のせいで弟は死んだ。私が殺したみたいなものでしょう。理解ってますよ」


 アリマはアリトの元気の無さに気づいて真剣にも優しく声をかける。だが既にアリトは過去の出来事を強く反省しているように見える。


「それならアリト、アルフェード教会と魔力人形についてもっと深く探れるか?」


「分かりました。ミスはその分、絶対に自分で取り返します」


 アリマの問いにアリトは直ぐ様頷き、いつに増しても真剣な表情を見せた。



 その頃、──フラブとカミサキの2人は本家 本邸の直ぐ側にある同じ木の上に登って話をしていた。


「フラブ、名家って知ってるわよね?」


「知ってます、私は名家の当主という肩書きを背負って進む事に決めました」


「そう。なら深く質問する必要はないわね。名家の当主の会合って知ってるかしら?」


「分かりませんが……名前だけで予想がつきますね」


 フラブは真剣な表情を浮かべながら右隣に座ってるカミサキを見て言い、それにカミサキは優しく微笑んでフラブの方を見る。


「ふふっ! そうね。ヨヤギ家、サトウ家、ユフィルム家、そしてシラ家。その当主が出席する会合の事よ。主な内容は基本的に対魔物のこと。対策とか今後の連携含めた活動方針!」


 明るく教えてくれるカミサキの言葉にフラブは真剣ながら優しい表情を浮かべて話を聞いていた。


「それが3日後にユフィルム家の別邸で開かれるの」


「そうなんですか……3日後!? 私が森を出てまだ2週間も経って無いのに色々ありすぎでしょう……」


 だがフラブは突然ある事を思い出して焦り気味で少しだけ目を見開いた。


「それより魔導士試験って……」


「魔導士試験? それなら終わってるわ。もしかしてその為に領地を出たの?」


「はい……そうです。無断欠席、になりますよね。申し訳なさが……」


「フラブ指名手配されてるから多分元から欠席扱いよ? 指名手配犯が出れるわけないじゃない」


「そうですか……」


 それはそれでとフラブは苦い表情を浮かべて自身の胸に手を置いた。


「大丈夫よ。ヨヤギ家はフラブの味方だから。処刑課なんて来たら私は戦えないけけどね」


「前々から思ってたんですが……聞いても良いですか?」


 申し訳なさそうにも恐る恐る問うフラブを見てカミサキは何かを察したのか優しいような、少し悲しそうな表情を浮かべた。


「私が戦えない理由?」


「は、はい! よく分かりましたね……」


「私ね、頭脳と引き換えに魔力も体力も生まれつき無いのよ。心臓も弱くてね……どんなに頑張っても少し歩けば疲れるし、魔法はまず何も使えない。だから魔道具に頼って基本部屋から出られないの」


「………」


「私は案外、気に入ってるのよ。アリマほど五感も良くないけれどアリマ以上の頭脳もある……いや、あってほしい。断言したくても出来ないわね、彼の本気なんて誰も知らないもの」


「え……? どう言う……」


「アリマは魔兵士譚をやっても将棋をやっても囲碁をやっても本気を出さないの。それで私が全勝。アリマには遊びで勝つ必要がない。必要が無いことは基本しない、アリトとやっても勝ち負け関係なしに全部手を抜いてるのよ」


「なら、わざと負けてみたらどんな顔をするのか楽しみですね」


 フラブは楽しそうにも優しい表情でカミサキの方を見てそう言い。それにカミサキはそれに驚くように少しだけ目を見開くも直ぐ様に微笑んだ。


「そうね。フラブは面白いわ、毎回予想外の言動をとってくるんだもの」


「そんな事っ……面白いなんて……」


 フラブは恥ずかしそうにも嬉しそうに少し顔を赤くして外方を向きつつ顔を隠す。


「そこ? まぁ良いわ。本題に戻りましょう。フラブは名家の当主の会合、出席する?」


「もちろん! と言いたいんですけど指名手配されてる私を他が受け入れる訳が無いので難しいですね……」


 フラブは残念そうに微かに俯いて軽く腕を組み右手を顎に当てて考え始める。


「それなら問題ないわ。当主会合の最中は当主以外の人の介入は禁止されてる。それは絶対のルールで処刑課も同じこと。それにアリマも指名手配されてるのに今回は出席するらしいの」


「そんなに名家って権力があるんですか……?」


「当たり前よ。魔力発展に大きく影響を与えた、それは今の世の中とても大き過ぎる功績なのよ。──あとは大抵の魔物が3段か5段以上でしか殺せない魔物を主に名家が扱っているから。まぁ名家の立ち位置も関係あるんだれけどね」


「え……そうなんですか……?」


 フラブは少し驚きながらも腕を組んで右手を顎に当てながら真剣に何かを考え始めた。


「名家の人々は国々からの依頼を請け負うのが主な仕事なの。大体の依頼が対魔物関連ね。だから名家は何かあればその国の後ろ盾を止めることも出来る。そうなればその国は1番に考えたい魔物の対処が難しくなるのよ」


 優しく説明するカミサキは「でも」と言いながら微かに明るく説明を続ける。


「名家は国からの魔物討伐の依頼が主な仕事だから国がないと困る。まぁ魔物がいる限り名家に生まれた人間に暇なんてないのよ」


 カミサキは真剣にも誇らしげに詳しく説明し、それにフラブは優しい表情でカミサキを見ていた。


「凄いですね……」


「ええ。それで出席するの? しないの? してもヨヤギ家はフラブの味方。ユフィルム家やサトウ家からもし何か言われてもされても盾にも矛にもなるわ」


「それはとても心強いです。ですがアリマさんやサヤ……さんは私を庇う事に賛成ではないでしょう。私は名家の権力なんて知らない、最近まで山奥に居た人間ですから」


「何言ってるの? 最初提案したのはアリマよ?サヤも前のめりに了承済みだし……あ、これ言っちゃ駄目なことだったわね……」


「え……? アリマさん殴ってきても良いですか?」


「え……?」


 カミサキは困惑したような表情でフラブの方を見たのだが、そのフラブは表情でも見て取れる程に怒りを抑えていた。


「取り敢えず後で殴ってきます。守られるのは嫌と話してそれはないでしょう。私からお願いする程にとても嬉しいですし光栄な話ですがアリマさんからの提案は流石にない」


 圧あるフラブの言葉にカミサキはかける言葉が見つからず、とても焦りながらフラブに抱きついた。


「〜っ! 落ち着いて、フラブ!」



** ** * ** **


 カケイとサヤはドアから部屋を出ると2階の廊下を左手側に進んでいた。


「なぁ! 酒ってなんですか?」


 サヤの後ろから元気よく着いて行ったカケイはサヤの左側まで来て横並びで歩き出す。


「ん? 飲みたいの? でもカケイ君にはまだ早いかな〜! 魔力人形でしょ? まず飲めるの?」


「ん! 魔力人形は魔力で出来てるから何でも飲めるんですよ! それに例え飲めなくても飲みたいから飲めます!」 


 遊び半分で揶揄うように問うと、カケイは更に明るい表情になってそう答えた。確かに魔力人形には好き嫌いさえなければ飲食できないものはない。


「はは、良いね! そう言うの嫌いじゃない! 何事も思い込みだよね!」


「うん! 思い込みって何です?」


「まぁ私について来て! ここの地下に酒を沢山置いてるから!」


「地下なんてあるんですか? 見た事も聞いた事もないですよ?」


「私が当主さんに我儘言って増やしてもらった! 当主さんは押されるのに弱いから!」


 ── 押したらめんどくさがって了承するんだよね!


 なんて気楽に考えながらサヤは前を見て楽しそうに優しく笑みを浮かべる。


「なるほど! 押されるのに弱いのか! アリマさんの弱点なんだな!」


 ── 今度アリマさんをボタン押すみてぇに指で押してみよ! 勝てる気がする!


 変に食い違う考えだが自由人なサヤと子供みたいなカケイは何かと気が合うこともあるのだろう。



** ** * ** **



 ──アリマは変わらずアリトの部屋にいてアリトと他愛もない話をしていた。


「……今、1つの所から怒らられてあと1つの所からはナメられた気がする」


「6感が良いのも良い事ばかりじゃないですね」


 見るからにアリマは無表情でもわかるくらい落ち込んでいるのだが、それを見つめるアリトは楽しそうに微笑んでいる。



** ** * ** **



 その頃、──コウファたちは塔の広々としている部屋にいて、そこには白いフードを深く被った5人が居て、その中にコウファがいる。

 その5人全員が5メートル程離れた位置に居る身長130センチ程の者に対して人に跪いていた。


 その者は白色の大きい翼が背中から生えていて、白と桃色が混ざった髪の毛を後ろで緩く1つに束ねている。そして天使みたいな見た目をしているが威厳が強く感じ取れていまう少年程の見た目。


「今回、貴殿らに集まってもらったのは計画を大きく進めるためだ」


「心得ています。ルル様」


 そのルルと呼ばれている者の言葉に1番左端に居るコウファが丁寧に優しい声色で返事をした。


「よろしい。では本題に入ろう。シラ・フラブを更に這い上がれない程の絶望に落としてみせよ」 


 そう命令する言葉には優しさなんて少しも感じ取れないが逆らえば殺されるかもしれない恐怖がある。


「今回、落とせたのでは? 失礼ですがそれ以上は何のために?」


 コウファは微かに冷たい目をしながらルルと呼ばれている者を見上げてそう問い。それにルルと呼ばれている者は優しく微笑んでコウファを見る。


「話とこうか。今回、名家を滅ぼすに至った原因はシラ・フラブにある。理由は知ってるよね。確認するけど何だと思う?」


「僕の妹の死に際に出て来た異物。それの排除でしょう?」


「そう。完全に覚醒するピースが揃ったらアレは世界を壊し始める。そしてシラ・フラブを絶望に落としたら其奴が現れる仕組みなんだよね、多分」


「それで其奴を殺したら……フラブもやっぱり死にますよね?」


「死ぬね。だけど彼奴じゃなくてシラ・フラブの状態で殺すのは駄目なんだ。彼奴自体の死じゃないからね。彼奴はフラブの遺体を使って世界を壊しにかかる」


 そのルルと呼ばれている者の説明に、コウファは微かに悲しそうに苦しそうに俯いた。


「それで考えたんだ。ヨヤギ・アリマとか目的のフラブの身内を無意識にでもフラブ自身の手で殺したら今度こそ立ち直れない程、深く絶望してくれるかなって」


 それにやはりコウファの顔色は少し悪く険しさが垣間見える。


「アリマ、彼は異常なんだ、とても。知ってるなかで話すけど常人よりも筋肉の密度が13倍以上。それに魔力量もその練度も怪物の域すら超えている。更に成長途中っていうね。彼も化け物だよ。それに読めないんだ。彼の適性魔法と最適性魔法が」


「……計画練れる? ワク君」


 コウファが丁度左右から3番目に居る白いローブを着ている男性に声をかける。


「ふふっ、このメイ・ワクにお任せあれ。このメイ・ワクは4段ですが、頭脳だけは負けるわけありませんので」


 その男性メイ・ワクは楽しそうにも優しく微笑んでルルと呼ばれている者を見てそう宣言する。


「そう。ならシラ家やヨヤギ家を追い込んだ策を考えた君に今回もお願いしようかな」


 そう返答するルルと呼ばれている者は優しく微笑んでメイ・ワクの方を見た。


「かしこまりました。この世界一の頭脳をもつメイ・ワクにお任せください」


「ねぇワク君、それフラグじゃない? 止めた方が良いよ。ワク君、弱いんだから」


 そう優しい表情で目だけメイ・ワクの方を見るコウファだが、微かに悲しそうな表情が混ざっている。


「ヨヤギ・アマネとヨヤギ・アユを強制的に呼んで直ぐにでも殺せと言った私の考えはシラ・フラブの精神を考えると的中しましたよね? 感謝が足りないでしょう。コウファくん」


 そのメイ・ワクの言葉は強くも優しさが感じ取れる声色だった。


「こら、そこ喧嘩しない。仲良くね」


 ルルと呼ばれる者がそう言うと、コウファとメイ・ワクは微かに冷や汗を流して喧嘩を止めた。


「心得て」


 それでもルルと呼ばれている者の姿は詳しく視認することが出来ない。ただコウファの表情は優しくてもどこか悲しさが垣間見えてしまう。


 ただルルと呼ばれる者の強さだけは圧倒的に分かるほどに、この場で逆らおうとする者はいなかった。

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