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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第一章「ヨヤギの超越者」
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第十七話 絶望は待ってくれない

 昨夜の宴会場の件からは1日経ち、フラブはヨヤギ家本邸、1階の部屋で寝泊まりしていた。フラブが寝泊まりしてる部屋は3畳間で窓と敷布団と押し入れと時計しかない。

 

「まだ寝てるのか?」


 フラブはその一言に驚くように目を覚まして勢い良く敷布団から慌てて体を起こす。


 着物も姿もいつも通りに整ってるアマネがフラブが寝ている敷布団の左横に屈んでいた。対にフラブは髪も少しだけボサボサで完全に寝起きで驚くように周りを見渡している。


「な、な? な……?」


「な……? ……ともかくアリマ兄様が呼んでいた」


「……今、何時だ……?」


 フラブは恐る恐る時計を見上げると腹は10時23分を指していてフラブは少し目を見開いた。


「すまない……起こしにきてくれてありがとう。それより……大丈夫か?」


 暗い声色で問うフラブは浮かない表情をしては心配そうにアマネを見る。だがそれにアマネは平然として優しい表情を見せた。


「正直に言えばアツト兄様もアオイ姉様も弟も全員殺されたのは……少し辛い。だからこそ耐えるしかないだろう」


「……すまない」


「謝らないでくれ。それはさて置き昨日の宴会、フラブ……無理をしていただろ?」


 ーー心配するにも優しい表情でフラブを見ながら問うアマネ。それにフラブは辛そうに少し目を見開いては布団を強く握りしめる。


「……無理をしてでも元気に振る舞わなければ自分を見失ってしまいそうな感じて……」


「安心しろ。俺は…フラブを置いては死なない。最後まで一緒に戦う。それを気に負う必要もない。俺が決めた選択だ」


「だがっ……私の味方をしたら……私は指名手配されてるから……」


 訴えかけるようにも震えた声色でそう言うフラブは辛そうにもアマネの顔を直視できずにいた。


「処刑課と敵対する事になる。それでもフラブが好きなんだ。仕方ないだろ?」


「……っだがそれでも私がアマネを好きだと言う事はやっぱり出来ない……言ってしまえば……」


 フラブは苦しそうな表情を浮かべるも、アマネは表情を変えなかった。


「大丈夫だ。俺はフラブが好き、真っ直ぐな所も優しい所も、色々考えて人の為に行動出来るところも。今はそれが事実としてあればそれで良いんだ」


「……っすまない……」


「だからフラブだけは絶対に幸せになってくれ」


「……え?」


 微かに冷たくも何ともいえない空気が流れる最中もアマネは優しい表情を浮かべている。ーーそれがどこか悲しいさが混ざっていることにフラブはまだ気づかなかった。


「まぁそれは置いといて、早くしないと不味いんじゃないか?」


 アマネの優しい言葉にフラブは慌てながらも再び時計を見る。


「……アリマさんの所に案内してほしい。当主としての話をしなければならない」



 ーー昨日の夕方、アマネに聞いてアリマの部屋にフラブは少し浮かない表情をしながら訪れた。アリマの部屋は4畳間で本棚に本が隙間なく入っていて窓と敷布団、時計や押し入れがある。


「アリマさん、居ますか?」


 フラブはそう問いながらドアを3回ノックして部屋のドアをゆっくり開けた。ーーアリマは窓から外の景色を悲しそうにも無表情で眺めていて、ゆっくりフラブの方を振り向く。


「何の用だ? フラブ君」


 だが涙は流さずに淡々としているようにも見えてしまうが決して元気はなかった。


「……私の右足の脹脛の傷を治してほしくて来たんですが……可能ですか?」


 申し訳なさそうに問うフラブはここに来るまで右足を引きずって歩いていて。脹脛のズボンに1つの穴が足をも貫いて空いていた。


「ああ。可能だ」


 アリマが単調にそう言うとフラブの足元から沢山の可愛らしい花が咲き、フラブの傷が治って行く。

 傷が治り血が止まると可愛らしい花々は瞬きをする間に無くなっていた。ーーそれにフラブは驚くように目を見開き、左膝を地面につけて自身の右足のズボンを巻いて確認した。


「本当に……ありがとうございます……」


「これくらいなんて事はない。其れより少し話をしよう。フラブ君」


 少し優しい表情を浮かべているようにも見えるアリマはそう言って窓側にフラブを手招きする。


「話……ですか? わかりました」


 不思議そうにもフラブは頷いて立ち上がりながらアリマの右横で立ち止まった。窓から見た景色は山だけあって静かで、ヨヤギ家の領地の広さはシラ家と同じくらいに大きかった。


「今回の襲撃、記憶がない時はあるか?」


 アリマの変にも真剣な質問にフラブは不思議そうに小首を傾げて「え?」と問い言葉を続ける。


「ありませんが……」


 その答えにアリマは安心したかのように優しい表情で景色を眺める。


「そうか。良かった」


「……アリマさん。落ち込んでます?」


 フラブの優しくも真剣な問いにアリマは驚いてフラブの方を見ながら少し目を見開くも直ぐ様に元の表情に戻った。


「……今回の襲撃、余が当主として適切な判断が出来てれば深刻な状況になどなっていなかったからな」


「……そんなに怒ってほしいなら私がアリマさんを怒ってあげますよ」


 微かにもフラブは呆れたような目でアリマを見上げながらそう言うも優しい表情を浮かべる。それにアリマは驚いた様に少し目を見開いて右手で優しくフラブの頭を撫でた。


「君はいつ人の励まし方を会得したんだ?」


「知りませんよ。推測ですが誰もアリマさんを責めないんでしょう? 無理もありません。敵はアリマさんを強く警戒してるそうですから」


「……ああ。だが本来、名家で今回のような事があれば当主は責任を追及される。故に皆んな余に怯えているのか、と考えてしまうんだ」


「……そんなこと……ない、う……ん……」


 怯えているという点で完全には否定できずに言葉が詰まるも、フラブは言葉を続けようとしたが我に返ったかのように直ぐに言葉を変える。


「こ、こら……! え〜っと……怒りました!」


「……まさか其れで怒ってるつもりか?」


「……怒る理由がないですから。それにアリマさんに対して怒るのは難しい、同じ人間として見れる人になら簡単に怒れるんですが……」


 そう言いながらも腕を組んで右手を顎に当てて難しそうに考え始めるフラブ。ーーそれにアリマは呆れるような目をフラブに向けるも直ぐに優しい表情を浮かべた。


「まぁ良い。御萩でも食べるか?」


 アリマの優しい問いにフラブは意外にも浮かない表情を見せて腕を元の位置に下ろす。


「いえ、大丈夫です……」


「……どうかしたのか?」


 フラブの異変に気づいたアリマはフラブに優しく声をかけたのだが。フラブは静かな景色を眺めながらも微かに表情が曇っている。


「……私は本当に名家の……シラ家の当主を名乗れるのでしょうか?」


「何を……」


「たかが守られて生き残った分際で名家として、それも当主という肩書きは私にはとても重すぎるんです。形上だけだったとしても……」


 深刻そうに考えているフラブを見てアリマは無表情ながら不思議そうに小首を傾げた。


「其れなら肩書きを背負える程に強くなれば良いだろう」


 アリマの簡単にも優しい言葉にフラブは驚くように少し目を見開いてアリマを見る。


「簡単に言ってくれますね….…」


「フラブ君が死ぬまで名家の当主という重荷は追って来るだろう。酷にも君の親も他界してシラ・コウファが敵としているからな。逃げても消える事などない。其れ程までに重過ぎるものだ」


 アリマは外を眺めて自身が持つ領地の広さと重さを確認しながらフラブに言い。それにフラブはますます悲しそうにも確かに重苦しい表情を浮かべた。


「対魔物において名家は欠かせない。獣魔物は3段ほどの強さ、他は大抵5段でなければ殺さない。そして名家の血族からしか5段以上のポテンシャルを持つ者は生まれにくいんだ」


「………」


「故に責任感とそれに伴う一定のメンタルがなければいけない。名家の当主になって世情に耐えられず自殺した者も少なくない」


「………」


「そして書類業務と他の名家や国々との仕事。魔物が居る場所には人が居たりする場合が多々ある。人が死ぬの事に見慣れるレベルにな。だが決して悪い事ばかりでは無い」


急に優しい声色でそう言い出したアリマにフラブは驚くような表情で「え…?」と言葉をこぼした。


「収入が多い。名家である以上は対魔物がメインの仕事ばかり。其れ等は命懸けだからな。だからこそ甘い物をたくさん食べれるし権力だって持ち合わせている。前までなら処刑課は手出しさえ出来ない程にだ」


「………」


 それでもフラブは再び浮かない表情をして外の景色を眺めていた。


「明日にでも余の執務室に来い。其処で名家の仕事を教えよう。それで背負って進むか乗り越えて進むかを選択すれば良い」


 酷にもアリマは優しい表情でフラブを見て言い、フラブは辛そうに言葉を呑んだ。


「わかり……ました……すみません。これで失礼します」

 

 フラブは悲しそうにも真剣にそう言ってアリマの部屋を後にした。



 そして現在アリマの執務室前ーー本邸にあるアリマの執務室は庭の向う側の2階の隅にあって襖では無くドアで閉ざされていた。


「俺はここまで。大事な話なんだろ?」


 優しい表情で右側にいるフラブを見ながら問うアマネはやはり微かに悲しそうに見える。


「ありがとう。アマネ」


 浮かない表情をしてるフラブを見てはアマネは言葉を呑んでフラブに背を向けた。


「……互いに頑張ろう。フラブ」


 それだけ明るい声色でそう言ってアマネは真っ直ぐ左手側の廊下を歩き出す。


「……っありがとう」


 それにフラブは拳を強く握りしめるも意を決して襖を開けた。


「失礼します……」


 その執務室の部屋は畳部屋で和風な部屋だが7畳間程の広さがある。客人用の木で作られた机と、その机を挟むように黒いソファーが左右に配置されていた。

そして1番奥に少し大きい机があり、オフィスチェアーらしき椅子にアリマが座っていて書類を片付けてる。


 アリマは変わらずの着物に羽織物を着ていて、髪型は珍しくもポニーテール。


「来たか。少し待て」


 フラブの方を見ずにそう言うアリマは書類を整理して立ち上がりフラブの元に歩き出した。


「髪型1つで印象変わりますね……」


 フラブは笑顔で言う気でいたがかなり思い詰めていて表情からは笑顔が消えていた。


「……話してみろ。当主の件だけではないだろう。何が君を其処まで追い詰める?」


 真剣に問うアリマはフラブの前で立ち止まって心配そうな目つきでフラブを見る。


「私はお母様とお父様が死んで当主というものを良く知らずに生きて来ました……」


「…………」


「ここに来て、急に事が進んだと思ったら人が…アオイさんもタナカさんも殺されて、その敵の中にお兄様が居る……ですが敵って言って良いんでしょうか……」


 フラブの声は苦しそうにも震えていて、泣くのを我慢してるような泣く事さえ元から出来ないような表情をしていた。


「余の前で泣くのを躊躇うな。昨日の宴会も無理していたんだろう、無駄に元気があったからな。それはアマネも気づいている」


 アリマは無表情ながらに寄り添うように優しい声色でそう言い。それにフラブは恐る恐る話を進める。


「いつか大事な人が……アマネが……カケイが……アリマさんも……皆んな死ぬんじゃないかって……怖いんですよ……」


 フラブはゆっくり涙を流し始め、着物の袖で拭くが次々と涙が零れ落ちる。


「私だって……戦えば直ぐ死ぬかもしれない……だけどそれは怖くない。守られて、守ってくれた人が死ぬのが1番嫌だ、最悪の想像しか出来なくて……」


「……トラウマになってるのか、母親と父親が自分を守って亡くなったのが」


「幸せへの選択を……そう言ってる気がしたんです、お母様が……でも私には到底無理で……! 全てやり直すことも出来ない……それがとても苦しいんです」


 震えた声でそう言うフラブは少しだけ地面を見て右拳で自身の胸に苦しそうに当てる。


「余は死なない。アマネやカケイ君は其々で言質を取ってほしいがな」


「……っ」


 それでもアリマは子を見守る親のような優しい表情を浮かべた。


「フラブ君、君が進む先を深く想像しろ。君はどんな未来を望む?」


「……私は誰にも死んでほしくないっ! お兄様を殺したくもないっ……皆んなで、笑って、笑顔で……っ」


「その理想を叶えるために今はどうする?」


「……誰も殺させない強さもっ、守る必要がないって思ってくれる以上の強さがほしい…………私、強くなりたいんです」


「其れなら答えは出ただろう。未来を動かせる程に強くなれ、それが君に言える言葉だ」


「強く……」


「ああ。面倒故に出来るなら処刑課は皆殺しにしたいんだがな……」


 すると急にフラブの背後にある部屋のドアがノックもなく勢いよく開いた。


「ーーそれは駄目よ。処刑課は殺しても殺しても人がいつでも交代できるシステム。殺しすぎたら次の人材がもっと強くなる様に仕向けられてるの」


 ドアの向こう側から部屋に勢い良く足を踏み入れたのは1つ目の分家の当主であるカミサキだった。それにフラブは後ろを振り返ってカミサキの方を見るもカミサキは少し目を見開いてフラブの方を見る。


「……っ泣いて……フラブ、大丈夫?」


 カミサキはフラブの左背後で立ち止まっては寄り添うように右手でフラブの背中を優しく摩る。


「カミ……サキさん……? 何でここに……?」


 驚いているフラブだがアリマは無表情で常に平然としながらカミサキの方を見た。


「余が呼んだ。フラブ君に言っただろう。当主としての仕事を教えると。サヤも呼んだはずなんだがな……」


「フラブ。無理しないで、どうしたの?」


 カミサキは優しくフラブに声をかけるが、そのフラブは少しだけ頭を横に振る。


「強くなりたいからです。アリマさんに話を聞いてもらってました……」


「アリマ……羨ましいわ! フラブに泣くほどの相談をされるなんて……っ!」


 突然カミサキは怒りを込めながらも眉を顰めてアリマを睨みつける。


「は……?」


 突然カミサキから向けられた怒りに混じっている殺意にアリマは少し困惑してそう言葉を溢した。


「って、違うのよ! これはっ…」


 カミサキは多少頬を赤くしてフラブの方を見る。するとフラブは泣き止んで優しく笑っていた。


「私はアマネに好きだと……面と向かって言えませんでした……」


 フラブの悲しそうな言葉にカミサキは驚くように少しだけ目を見開く。


「好きだと言ってしまえばもっと自覚してしまうでしょう。お母様達みたいに失ってしまった時が怖いんです」


 それにカミサキは悔しそうにも悲しそうな表情で言葉を呑んだ。


「それで?」


 優しく問うアリマの視線の先に映るフラブは強く決心した真っ直ぐな目をしている。


「私は立派な名家の……シラ家の当主になってアマネと肩を並べれるまで強くなります。そして胸を張ってアマネに好きだと言います」


 フラブは頑なに決心しつつも真っ直ぐ明るい表情で前を向いてカミサキとアリマにそう宣言した。



 ーーその頃アマネはフラブと別れた後、本邸の門の階段を降りて強制的に転移させられていた。


 そこは辺り一面地獄みたいな場所で目の前に忌々しい謎の塔がある。そして白いローブを着てフードを深く被った十人程に剣の切っ尖を向けられて囲まれていた。その一人フードを脱いでいる者が前からゆっくり歩いて来るとフードを被ってる者は潔く道を開ける。


「強制転移魔法の実験良い感じだね?本当に時間通り来たんだ?」


「シラ・コウファ…!」


 アマネはコウファを警戒するように睨みつけるが、コウファは優しい表情をしたままだった。


「約束通り。フラブに近寄らない選択を取ってくれたのかな? 雑草」


「貴方の要求は呑まない。何があってもな」


 圧ある声色でそう言うアマネは意を決してそう言い鞘から刀を抜いて右手に強く握る。


「おかしいね。魔力を伝って昨日の夜中、君も脅した筈なんだけど?」


「君も……? だとしても俺は命も恋も諦める事はしないッ!」


 ーー真っ直ぐにもコウファを睨みつけているアマネだが、それにコウファは優しくも少し悲しそうな表情を浮かべた。


「そっか。あの襲撃で君と二重人格の奴も実は殺すつもりでね。これ……そいつの首だよ」


 優しくも悲しそうな声色でそう言うコウファはアユの残酷に斬れた首を右手で持ってアマネに見せる。その光景にアマネは驚きと怒りで大きく目を見開くも刀を力を込めて強く握る。


「あの時は予想より早くアリマが来たから撤退せざるを得なかったからね。で、これで降参してくれる?」


「するワケがないだろうッ!」


 急つつも少し荒げた声でそう言いながら自身を囲っている者の胴体を斬りかかった。


 ー どうする……敵でもフラブの兄だぞ? 殺せるわけが……例え殺しても帰れる保証すら無い! だが毒を消してくるんだぞ……?


 アマネは深刻そうにも考えながらも目に見えない速さで胴体を斬り終えて真っ直ぐコウファを見る。


「君、思った以上に面倒だね。ーー諦めてさっさと殺さてほしいんだけど」


 優しく微笑んでいたコウファだが急に鋭い殺気をアマネに向けて睨みつける。それにアマネは怯むことなく意を決して地面に刀の刃を突き刺した。


ーー破壊魔法「地割」


 アマネが殺意を込めて魔法を使った瞬間、コウファに目掛けて地面が強く二つに割れ始めるーー。それを確認したコウファは驚きつつも咄嗟に地面を強く蹴って後方へ避けた。


 それを見たアマネは瞬時に地面から刃を抜き取り、コウファの方へ走り出した。そして同時に左手で小型魔力通信機を取り出して左耳に掛ける。通信を繋げようと試みた相手はアリマだ。


 ー フラブに嫌われればっ……いや、その方が何倍も良かったッ! だがフラブに嘘を吐くのだけはッ!


 それでも物苦しい表情を浮かべていてコウファの地面への着地と共にコウファへと刀を振り上げる。


「あんたはフラブの兄なのだろう! なぜ妹を泣かせるッ!」


 怒りを顕にしているアマネ。コウファは電気を右手に纏ってアマネの刀の刃を右手で掴んで受け止めた。


「……フラブは幸せになれない。これは誰にも変えられない決定事項なんだ。僕はフラブに謝る資格さえ持ってないからね」


「どう言う意味だ……?」


 コウファはアマネの刃を勢い良く投げ飛ばし、アマネは3メートル付近で受け身を取る。


「それより増援を呼ぶのかい? あのアリマでも……直ぐにここには来れないよ」


 それにアマネは物苦しい表情を見せるもアリマと通信が繋がり安心したような表情を浮かべた。


「どうし……」


「聞け! 俺は殺されるッ! アユも殺された! フラブに伝えろ!ーー自分から敵と関わるな! 復讐は絶対に止めろと!」


「なっ……?」


 ーーその瞬間、アマネは大量に吐血しながらも両腕が斬り落とされるかのように胴体から離れた。そして更に八つ裂きにされて誰か分からないほどのアマネの死体が体が地面に落ち息を絶つ。

 ーーだがコウファは微かに冷や汗を流していて悲しそうにアマネの死体を見つめていた。


「最後までっ……嫌な奴だ。…………ごめんね、フラブ」



 ーーその頃、アマネからの通信を聞いたアリマは驚きを隠せずに目を見開くも、直ぐに深く瞬きをしてカミサキの方を見る。


「通信、誰から?」


 そう問うカミサキは冷静にも深刻そうな表情でアリマを見上げる。


「アマネからだ」


 アリマの深刻そうな表情にフラブは目を少し見開いて息を呑みつつ恐る恐る口を開く。


「内容は……?」


「録音機能で今から流す」


 そしてアマネからの通信内容を聞いたフラブは次第に表情が曇って大きく目を見開いた。

 通信の切れ方も環境音も全てがそれは嘘ではないと証明しているようで重たい空気が流れる。


「フラブく……」


 アリマは心配するようにも直ぐにフラブを見るも言葉を喉に詰まらせた。フラブは苦しそうに状況が上手く追いついていないように見える。そして何も言わずにドアを開けて部屋から出た。

 だがこの空気の中で人と関わることが苦手なアリマとカミサキが暗いフラブを止められるはずもない。



「フラブも普通の女の子でしょっ……」


 カミサキは絶望したにも悲しそうに足が崩れ落ちて現状に少し涙を流してただ俯いている。


「……カミサキ姉。サヤを呼んでくれ」


「何であんたはこんな時も……」


 カミサキは怒ろうとしてアリマを見たが、アリマは無表情ながら分かりやすく怒りを抑えつけていて言葉を失った。



 ーーその頃フラブは廊下をただただ俯いたまま歩いていて曲がり角で蹲った。


 ー アマネは死なないって言った……本当に死んだのか……? アマネはあんな冗談を言ってふざけるような人では……


 フラブは考えを纏めようと必死で表情が曇っていても少しだけ俯いている。すると前方から足音が聞こえてその足音はフラブの前で止まった。


「大丈夫か? フラブさん……?」


 変わらずの白い半袖に白い長ズボンを着ている真っ白なカケイだった。そのカケイはフラブを心配するように声をかけてフラブはカケイを見上げる。


「……っ何があった!?」


 カケイはフラブの異変に気づき目を大きく見開いてその場で屈みフラブの両肩を強く掴んで問い。それにもフラブは無表情ながら俯きながらカケイから目線を外した。


「……アマネが殺されたんだ」


 そう言うフラブの声は怯えるように微かに震えていて手も震えているように見える。そのフラブを見たカケイは驚きを隠せずに少しだけ目を見開いた。


「嘘だって思いたい……嘘であってほしいっ……私はまた誰も守れないのか?」


 それにカケイは悔しそうにも直ぐに寄り添うように勢い良くフラブを強く抱きしめた。


「落ち着け……っ! フラブさん……!」


 ー 私がアマネの言葉を気に留めていたらアマネは死ななかったんじゃないか……? 違う。アマネの死体は確認できていない。死んだかどうか分からない。それなら私が取るべき行動は……


「……そう、私は落ち着いてるんだ。怖いぐらい落ち着いているぞ、カケイ。だから殺した奴は誰であろうと殺す。殺して何回でも何人でも殺して……」


 フラブはゆっくり立ち上がり、カケイもそのフラブを抱きしめた手を離す。


「じゃあ何でそんな苦しそうなんだよッ!」


 それでもフラブはカケイの声すら聞こえていなくて背を向けて廊下を歩き出した。

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