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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第一章「ヨヤギの超越者」
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間話「一難去って」

 ──2日後の夜10時頃、本邸の和風な宴会場。

 地面は畳で出来ていて縦に長い長方形型の机が2つ横に並んである。そして襖から入って1番奥、最初に目に入る舞台があり、そこに本家と分家の当主3人がそれぞれマイクを持って皆んなの方を向いて立っていて。だが宴会と言うには重々しい空気で、本家と分家2つの全員と、フラブ、カケイ机を横にして体ごとその3人を見ている。


皆んなから見て左から。

ヨヤギ家 本家当主 ヨヤギ・アリマ

ヨヤギ家 分家当主代理 ヨヤギ・サクヤ

ヨヤギ家 分家当主 ヨヤギ・カミサキ

と並んで居た。


 そのヨヤギ・サクヤは青年ほどの見た目で黒い着物に呉須色の着物を着て紫色の短髪でラウンド型の眼鏡をつけている。身長は170センチ程の男性。


「まずは俺から話しましょう。今回、当主代理という形になってしまったことの説明を……三つ目の分家の当主ヨヤギ・サヤは……」


 怒りを抑えているようにサクヤは話し始めるが、マイクを持つ手が何故か震えている。


「……サヤ姉は泥酔して寝てやが……寝てますので俺が来ることになりましたッ!ーー仕事で3年ぶりにもらえた1時間の休暇が無駄になったッ!」


 サクヤは確かな怒りを堪えているのだが右隣に何故か不気味さが際立つアリマ、左隣に悲しそうにも常に無表情のカミサキが居るという状況に緊張していた。


「場を和ませたいの? 向いてないわよ、あんた」


 カミサキは変わらずツインテールで黒色の着物に桃色の羽織物を着ている。そして冷たくも前を見ながら右横にいるサクヤに心無い言葉を放つ。


「……っ僕は真剣に!」


「そう。ごめんなさいね」


 サクヤは何故か宴会場内に居る殆どの人から哀れみの目で見られた。


「……それより敵方の情報を話し合って纏めている。アマネ、アリト紙を配ってくれ」


 淡々とそう言うアリマは変わらずの着物姿で髪は纏めずに腰まで下ろしている。


 そしてフラブは紫色の着物に白靴下を着ていてとても眠そうにしていた。そのフラブの背後に並んで座っているアマネは変わらずの着物姿だが刀は部屋に置いており腰にない。アリトは完全に変わらずの姿だが、全身にアリマの魔力が覆われていて病気の作用を防いでいた。


 右側の机のフラブの右手側に座ってフラブの後ろ姿を見て頬を赤く染めていたアマネと。左側の机の先頭に座ってアリマを神々しい存在として拝んでいたアリトが直ぐに立ち上がる。


「……フラブ君もアマネを手伝ってくれ」


 アリマは表情を変えずにアマネに気を配ってフラブの方を見てそう言った。だがフラブは家を出てからは毎日21時には寝るようにしていたため、眠そうでウトウトしている。


「起きろ。フラブ君」


 フラブはアリマのその一言に一気に目が覚めて勢い良く立ち上がる。


「世界が終わりましたかッ!? ここはっ!?」


 幼少期に熱が出て倒れるたびにそう言われ体に電気を流されていたトラウマが蘇っただけ。フラブは至って正常だが大体の人々には変人だと思われてしまっただろう。


「フラブ、紙を配るのを手伝ってくれるか?」


 優しい表情を浮かべているアマネは見守るように優しくフラブに問い、それにフラブは恥ずかしそうに顔を赤くしながらアマネの方を振り返る。


「わ、わかった! 全部私に任せておけ!」


「いや、手伝ってくれれば良いんだ」


 その2人の雰囲気は周りに花が飛んでると思ってしまうほど暖かい。そしてそのアマネとフラブとアリトとは大量の紙を1人1枚ずつ配り始める。


「微笑ましいわね、アリマ」


 カミサキは優しい表情を浮かべてフラブの方を見ながらマイクを離してアリマに言い。それにアリマも子を見守る親のように優しき表情でフラブを見ていた。


「ああ」


 そのアリマとカミサキの反応とフラブとアマネの言動にサクヤは不思議そうな表情を浮かべた。


「……あの2人、付き合ってるんですか?」


 不思議そうに問うサクヤはカミサキの方を見てはマイクを離して小首を傾げる。


「さぁね。2人にでも聞きなさい」


 それに何故かカミサキは少し俯きつつ悲しそうな表情を浮かべていた。


「っすみません。僕たちは色んな国からの依頼で仲介すら……助けられなくて……」


 申し訳なさそうにするサクヤだが、アリマは平然と無表情で前を見ていた。


「君たちが気に負う必要は無い。サクヤ、カミサキ姉も今まですまなかったな。余は分家に対して間違った対応をしてしまった」


 アリマの印象操作を360年前からしていたアリトがほとんど悪いのだが周りの人に対しては凄い自責思考を持つアリマは確実に気負っている。


「いえ……! 謝らないで下さい! そのお陰でヨヤギ家の使用人同士でのイジメが無くなりましたし、悪意を疑うことと外からの強襲さえ不可能でしたから」


 サクヤは何処となく前向きでアリマに対して急つつも真剣にそう言い、それにカミサキは優しくも真剣な表情で真っ直ぐアリマの方を見る。


「そう。悪いけど何事も悪いことばかりじゃない。あんたが謝る理由が分からないのよ」


「……だが事が解決したら余は責任を持って当主を降りる気でいる。余に当主は向いていない」


 その優しくも冷たい言葉にカミサキは怒りを表情にまで顕にするよりも先にサクヤがアリマの胸ぐらを掴んでアリマを見上げた。


「[…っ?」


 そのサクヤの行動に少し驚きを隠せないでいるアリマはマイクから離れる。


「駄目ですよッ! 俺は当主のアリマさんに今までずっと憧れて来たんです! 指名手配されたのも俺達分家のせい……任務をこなすだけじゃなくて周りに気を配れる貴方は世界一格好良いッ!」


 サクヤのその言葉は真っ直ぐながら優しくてアリマのマイクによって宴会場全員に届いていた。そのサクヤの言葉にアリトは共感するもサクヤを物凄く敵視して睨んでいる。


「余を誉めるな、何も出ない。其れに今の言葉は此処に居る全員に聞かれている」


 アリマが淡々してそう言うとサクヤはアリマが持ってるマイクに目線を置き、微かに冷や汗を流して恐る恐る宴会場内の方を見る。すると紙を配り終わって席についたフラブもアマネも含めて全員が全員サクヤを見ていた。その見られている目は呆れや驚きが混ざっているような空気が冷たくなるような目。


 それにサクヤは焦ってアリマの裾を離して元の位置に戻り外方を向いた。


「な、なんでも無い! 以上!」


 サクヤは恥ずかしいのか視線を逸らして顔が赤くしつつ恥ずかしそうに冷や汗を流していた。


「五月蝿いわね。フラブが紙を配り終わってくれてるのよ、早く本題に入りましょう」


 カミサキは表情を変えずに前を向いて再びサクヤに心無い言葉を浴びせた。


「……本邸を襲撃して来た馬鹿は三人。一人目は死んだはずのシラ・コウファ。六段ほどの実力がある」


 少し悲しげな口調で説明をするアリマ。それに宴会場の者はうるさいくらいに騒ぎ出しつつもフラブは深刻な表情を浮かべて微かに俯く。


「静粛に。まだ話は終わっていない」


 無意識に圧ある声でアリマがそう言うと宴会場内にいる人々は直ぐに静かに黙り込んだ。そのアリマに呆れるような目を向けるカミサキは手を腰に当てる。


「あんた、アリト関係なくそれだから怖がられてたんじゃないの?」


 その言葉にアリマは無表情ながら何処か申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「そうなのか……善処しよう」


 それでもアリマは直ぐ様に気を取り直して真剣に「そして」と言葉を続ける。


「彼についてはこれ以上の調査が進んでいない。ニ人目は感情がある魔力人形。五段の実力があって人の絶望を願う馬鹿だ」


 再び騒がしくなると思いきやアリマのさっきの一言でそこまで騒がしくはならなかった。


「ココア……」


 会場内の台から見て奥側の壁に軽く凭れて白い半袖に白い長ズボンを着ているカケイは悲しそうにも微かに暗い表情でそう小さく言葉を溢した。


「そして3人目……」


「それは私が説明するわ。良いわよね?」


 カミサキが言葉を遮ってまで真剣な表情でアリマを見ながら確認をとり。それにアリマは無表情で意外にも「ああ」と言いながら軽く頷く。それを確認したカミサキはいつに増しても悲しそうで真剣な表情で前を向いた。


「三人目は私の妹よ」


 それに宴会場内の襲撃の概要を知らない過半数は息を呑んで黙り込んだ。ただ表情を見ただけでも分家の人々も使用人も驚いていることが分かる。


「カナデが敵になった理由は私の私情で何があっても絶対に言わないわ。カナデは推測すると四段以上の実力はある。……そうよ。三人とも要注意の人材」


 微かに悲しそうにも苦しそうに俯いて黙り込んでしまったカミサキを見て、アリマは無表情ながら気を利かせて真剣な表情で前を向いた。


「……そして、彼らの目的は名家の殲滅らしい。それで190年前シラ家を意図的に崩壊に導いて今回ヨヤギ家を狙って来たとか」


 深刻そうに言葉を続けるアリマから目線を外して少し俯くフラブは自身の拳を強く握りしめる。

 それに気づいたアマネは優しく微笑みながらフラブの頭を優しく撫でた。


「安心しろ、とは言えない。だが俺も絶対にフラブの味方だ」


 アマネは優しい声色ながら小声でそう言い。それにフラブは恥ずかしさが勝って顔を耳まで赤くする。


「故にいつ何時でも警戒を怠るな。少しでも何か違和感を覚えたら余に報告を」


 淡々とそう言うアリマは鋭い目ながら常に表情を変えずに冷たく鋭い目で前を向いている。


 そのアリマの姿に最前席にいるアリトは目を輝かせて憧れの眼差しを向けている。そしてアリマの左横に居るサクヤもアリマを見て目を輝かせていた。


「そして可能ならば他の名家とも連絡を取りたい。犠牲は最小限、欲を言えばこれ以上後手に回る事なく1人の犠牲も避けたい」


 淡々としても常に無表情なアリマがそう言い終わると左側の机の男性が立ち上がった。


「俺は当主様の命に従う。怖いが……」


 アリトからの印象操作と本人の冷たさでアリマは周りから怯えられていた。その男性がそう言うと周りも影響を受けるように次々と周りの人も立ち上がる。


 気がつけば全員が立ち上がっていて、アリマを輝いた目で見る。それにカミサキはアリマを見てただただホッとして微笑んでいた。


「静粛に。此れは名家だけの問題ではなく名家に使える使用人にも被害が及ぶ可能性がある」


 アリマの冷たくも冷静な一言で宴会場の者は静かになり怯えるように皆んなが座った。それを見たカミサキは再び呆れるような目でアリマを見る。


「あんた……どれだけ怖がらせれば気が済むの?」


 カミサキの呆れるような言葉にアリマは驚きを隠せずに目を見開いてカミサキの方を見る。


「余は……別に……平和主義者で……」


 だが余計に呆れを顕にしたカミサキはアリマから目線を外して軽くため息を溢した。それに切り替えてアリマは再び前を見る。


「だが余を信じてくれた事にまずは感謝を。其れと今まですまなかった。謝罪は受け取ってほしい」


 アリマの申し訳なさそうな言葉を全員が真剣な表情で受け止める。すると急に右側の最前席に居る女性が台に触れてアリマを見上げた。


「ちゃんと当主してるじゃない、アリマ」


 その女性は様々な国からの依頼を受けて長年家を離れて居た変わらずの姿のアリマの母親だった。とても久しぶりに会った母親の言葉にアリマは優しい表情を浮かべる。だが確かにアリマの微笑みは女性だけでなく男性さえも魅了してしまうだろう。


 それに危機を感じたアリトは勢い良く立ち上がって真剣な表情を浮かべた。


「母様……後で少し話せますか?」


「……ええ。話しましょう」


 母親も真剣な表情でもアリトに優しい表情を見せながらそう言い、深刻な空気に変えたアリト。


「其れで余からは以上だ。他に何かある者は?」


 アリマがそう言うと意を決したフラブがゆっくり立ち上がって舞台に向かって歩いていく。そして1メートル程まで来たらそのまま地面を強く蹴り、手を着いて舞台に飛び乗った。


「フラブにマイク貸してあげて」


 そう言うフラブ以外には大体冷たいカミサキが冷めた目をサクヤに向けている。それにサクヤは惜しむ事なく優しい笑顔で颯爽とフラブにマイクを渡した。


「ありがとうございます」


 微かに浮かない表情をしているフラブは感謝を告げてサクヤは舞台の後ろ壁まで退がる。フラブはマイクを受け取ったあと意を決して皆んなの方を向いた。


「私は……シラ・フラブです」


 そのフラブの単調な自己紹介にもフラブは微かに暗く俯いている。だが場が少しだけ騒がしくなるもフラブは冷静に真剣な表情で真っ直ぐ前を見た。


「私はヨヤギ家も……他の名家も守りたい。私は必ず五段以上に強くなります。身内が殺されたり当の被害者は何があっても増えないでほしい」


 フラブは真剣な表情を浮かべるも、声は微かに震えているも感情を抑えて涙も堪えている。


「私も自分の兄が敵に居る事に完全に理解が追いついていません。敵対してる理由も分からない……すみません、以上です」


 そう微かに悲しそうに言うフラブは場の重い空気を変えようと結果的に優しい表情をしていた。


 それにアマネは危機を覚えて立ち上がると舞台に飛び乗ってフラブの右に立つ。当然ながら、その場にいる全員が突然舞台上に来たアマネを不思議そうに見つめる。


「──フラブ、愛してる」


 恥ずかしさすらも捨ててきた優しいアマネの言葉にフラブは顔を赤くして「は……?」と問いながら大きく目を見開いた。


「あ……ぅ、馬鹿か……? こんなに大勢の! 皆んなの前だ少しは考えろッ!」


 フラブは凄く怒ったような表情でアマネの襟を掴んで引きずりながら左横の階段から舞台を降りた。



 それから1時間が経過した頃、──宴会場にはアリマとフラブだけが残って2人で台を椅子のように座って話をしていた。


「結局、処刑課にアリマさんの家の位置を教えたのは誰だったんですか?」


 フラブは不思議そうに小首を傾げて右横に座っているアリマに問い、それにアリマも淡々としてフラブの方を見た。


「裏切って人殺しに加担したカナデか……だとしてもカナデは余の家を知らないだろう。タナカも処刑課が話してる所を聞いたと言うのは嘘……となると推測する材料がない。わからないな」


「え……それでいいんですか? これからも処刑課が来るかもでしょう?」


「其の時は其の時。余に勝てる者など限られている故に問題はない」


 アリマは表情を変えず説明すると、その言葉にフラブは納得するも呆れるような表情を浮かべた。


「ではアルフェード教会のこととかを教えてほしいんですけど……」


 フラブに教会で起こった事を教えたのは偽のユーフェリカたる処刑課のナラミナだった。だからこそフラブはアルフェード教会の詳しい事実をよく知らない。


「……いつか話そう」


 少し考えた後に暗くギリ聞こえるくらいの小さい声でそう断言した。ただそのアリマから見える躊躇いもフラブは分からず不思議に小首を傾げた。


「……そうですか。確かにカケイが居るときに話した方が1回で済みますからね……」


 残念そうにもフラブは自分に言い聞かせるようにそう言って台から降りて歩いて宴会場を後にした。

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