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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第一章「ヨヤギの超越者」
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第十三話 人はヒトとして

 ──343年前。ヨヤギ家本邸の畳部屋。

 そこには座布団が4枚が敷かれていて、それぞれ1人ずつ上に正座して座っている。


「兄様、元気だして下さい。今日は兄様が当主になる誕生日でしょう!」


 アリトは束ねてない長い灰白色の髪に灰白色の着物を着ていて左横に正座をしてるアリマに元気良く言い。それにアリマは冷静ながら真剣な表情で対面に正座をしている父親の方を見る。


「ああ。だが本当に俺が当主で宜しいのですか? 父様」


 アリマは薄黒く短い髪に灰色の着物を着ていて既に目に光は宿っていない。


「良いに決まってる……でもすまない、私の持病が酷く悪化してるからって19歳で継がせてしまって……」


 父親は灰色の短い髪に黒色の着物に灰色の羽織物を着ていてアリマに優しい声色でそう伝えた。


「それは大丈夫です。俺はまだ未熟者なので至らぬ点があれば……」


「僕が兄様の補佐をします。だから大丈夫ですよ、兄様」


 アリトは優しく微笑みながら食い気味でアリマの言葉を遮る。


「いや、アリトはまだ……」


「僕では不安ですか……? そう、ですよね……」


 アリトはまたアリマの言葉を遮る様に話し悲しい表情で俯き、それに呆れたアリマは軽く溜め息を溢す。


「……わかった。アリトに任せる」


 アリマのその一言でアリトは瞬きをする間に表情が明るくなった。


「本当にアリトはアリマが大好きね? 微笑ましいわ」


 アリトの対面に正座をしてる母親は水色のお団子1個で髪を束ねていて青色の着物を着た女性。


「そうだ忘れる所だった。誕生日の2人にプレゼントを用意したんだ」


 父親は収納魔法を使い、アリマとアリトに手のひらサイズのプレゼント箱を渡す。


「わぁ! 開けても良いですか?」


 嬉しそうにもアリトは表情を凄く明るくして父親の方を見て問う。


「ああ。もちろん。私たち2人で考えたんだ。喜んでくれると嬉しい」


 父親はアリトの方を見て優しく微笑み。アリトは箱のリボンをとって箱を開けて中身を取り出す。


「これは……! 髪飾り……ですか?」


「アリトは持病のせいで魔力量が少ないだろ。だから髪飾り型の魔道具にしたんだ」


 優しい声色でそう言う父親は威厳という印象よりも優しい印象の方が強い。


「嬉しい、嬉しいです! ありがとうございます!」


 明るい声色で嬉しそうに言うアリトはそう言いながら自身の右側の前髪に飾る。


「似合ってるわよ。アリト」


 母親はアリトを見て微笑みながらそう言うも、アリトは直ぐにアリマの方を見る。


「兄様は? 僕と同じのですか?」


 アリトは前のめりにアリマの方を見て問うも、アリマは常に冷淡としている。


「俺は後で開けます。俺が休んで良い時間は終わりましたのでこれで失礼します」


 アリマは右手に箱を持って立ち上がり、何処か悲しげな表情を浮かべながら襖を開けて部屋を出る。


「……確実に無理をさせてしまってるな……アリト、すまないが様子を見て来てほしい」


 父親は少し体調が悪そうに咳き込みながらも真剣な表情でアリトを見てそう言うも。アリトは言われるより先に早く動いて既に居てその場には居なかった。


 ─ 今も何処かで俺の悪口を言ってる人が居る……俺が未熟者だからか?


 深刻そうにもアリマはそう考えながら和風な廊下を歩いていた。左手側には窓があって庭が見え、右手側には部屋が並んでいる。


 すると背後からうるさいくらいの早い足音が聞こえてアリマは呆れたように目を閉じる。


「ばぁーっ!」


 驚かすように言いながらアリトが背中に飛びつきアリマの背中に飛び乗る。


「びっくりしましたか? 兄様?」


 それをアリマは前に転びそうになるが何とか耐えて再び前を見る。


「びっくりしたよ。体が弱いんだから廊下を走るな、アリト」


 アリマはそのままアリトを軽々おんぶしてアリトは背中に凭れる。


「んー、僕は兄様の味方だよ」


「……そうか」



 ──今現在、ヨヤギ家分家の本邸。

 カナデは俯いたまま少し歯を強く食い縛り、微かに悔しそうにしていた。


「待って下さい……それが本当なら……何でアリマさんに言わないんですか……?」


 フラブは怪しむような目に真剣な表情で恐る恐る問う。


「言えないのよ……ずっと寄り添ってるヨヤギ・アリトと敵対してる私たち、証拠があってもどっちを信じるかは明白でしょう」


「──っその話を私が信じると?」


 そのフラブの解かない警戒にカナトは嫌そうな深刻そうな表情を浮かべて軽く腕を組んだ。


「……思ってないさ、だけど証拠はある。それを捏造してないっていう物もね」


 カナトは執事服の内側から1通の封筒を取り出す。その封筒はかなり古く色褪せていた。


「これに入ってる紙を読め。昔にアリトから頑張って盗んだアリトの日記の1ページだ。アリトのアリマへの依存性が気持ち悪い程に伝わってくる」


 カナトはその封筒をフラブに渡してフラブは右手で受け取る。


「私は出来るならシラ・フラブ、あんたとは仲良くしたいのよ……ってシラ家の当主様とは良好な関係が好ましいからだから勘違いしないで!」


 カミサキは何故か照れ気味でそう言いながら部屋のドアまで歩き、それにカナトもついて行く。

 それにカナデは躊躇うも後を着いて行ってドアから3人がその場を後にした。


「……逃げるのは向き合った後で……」


 フラブは決意を込めてそう言葉を溢し封筒から折り曲げられ色褪せた手紙を取り出して紙を開く。



 ─アリトの日記の内容──


4月9日 晴れ 


 今日も兄様は私の様な常人が見ても許されるのが不思議なくらいに美しかった。花に水を上げてる時、兄様の美しさは神様さえ魅了してしまいます。何れ兄様を孤独に追いやって私だけが兄様に寄り添う、それが現実味を帯びてきました。明日は私達の誕生日…私がずっと兄様の隣に入れる唯一の日、嬉し過ぎて死ぬかもしれません。


 と気持ち悪いくらいにアリマの事が書かれておりフラブは気持ち悪そうに右手で口を覆う。


 そして日記の紙に魔眼を使った。だが日記には魔法が使われておらず、それは分家によって改変されて無い事実と言う事を意味していた。


「マジか……そこまで? 普通……」


 ──その時、部屋のドアから御膳に2人分の丼とお箸を乗せたカミサキが入って来た。


 ただ丼は見るからにお金持ちや貴族のご飯というよりは庶民の昼ごはんに見える。

 ただそんなの関係ないと言わんばかりに美味しそうで見ているだけでもお腹が空いてくる。


「ちゃんと読んだの、随分と気持ち悪かったでしょう?」


 心無い事を言うカミサキは優しい表情でフラブの方へと歩いて向かう。


「は、はいっ……」


 戸惑いながら返事をするフラブのベッドの横にカミサキは椅子を出して腰を下ろした。


「私の分も……持って来てくれたんですか……?」


 そう恐る恐る問うフラブは椅子に座ったカミサキを見ながら目を少し見開いた。


「な! ち、違うわよ! ついでよついで! 空腹で餓死されたら後味悪いのよ!」


 カミサキは何故か顔を赤く染めながら自分の分の丼とお箸を取り、丼を御膳ごとフラブに渡した。


「ありがとうございます。これは……?」


 フラブの初めて見たような反応にカミサキはぽかんとして小首を傾げる。


「魔肉の丼よ? 食べた事ないの……?」


「ない……ですね。それより私の怪我……」


 胸や頭、腹部も何処も痛くない事に気がついたフラブは咄嗟に自身の怪我していたお腹を軽く撫でる。


「ああ、それはカナデの回復魔法。妹も弟もとても優秀でね!」


 そう嬉しそうに言うカミサキはとても誇らしげに胸を張っている。ただ初めて会って話したときの空気よりほんのりとしているからか、カミサキの表情も声色も優しく豊かで更に幼さが際立っていた。


 それを見たフラブは気がかりになり心苦しそうに微かに暗い表情で俯いた。


「……私はアリマさんにも恩がありますし優しいカケイを敵にはしたくない……だから本家と争うことには賛同出来ません……」


 思い詰めるフラブのその言葉にカミサキは前みたいに真剣な表情を浮かべた。


「それで?」


「分家の方々の敵にもなれません。あの赤い髪の糞野郎は置いといて敵にしたい理由がない……」


「勘違いしないで。私たちの目的はアリトの今もある間違った行いを正すこと。つまり分家と本家の仲を取り戻す事よ」


 カミサキの表情が微かに暗くなりながら「そして」と言葉を続けた。


「それをアリマに信じさせる事が出来るのは同じ名家という家の当主でアリマが気にかけてるシラ・フラブ、あんたが1番『確実』なのよ」


 その言葉にフラブの表情が微かに晴れて目を少し見開いた。


「……わかってる、反省してるわ。ヨヤギ内部の亀裂に部外者を3人も巻き込んでしまう形になってしまった……凄く申し訳ないわよ……」


 カミサキの表情は暗くなる一方で。だがフラブは不思議そうにも少し小首を傾げた。


「アリマさんは私が介入せずとも多分大丈夫だと思いますけど……」


「……彼は怪物だもの、知ってるわ。だけれど今回の作戦に失敗は許されない。失敗したらそれこそ大きな亀裂をうむ。貴女は私たち分家が残す万が一の保険だと思ってほしい……」


「……そうですか、わかりました。カミサキさんもヨヤギ家のためを想っての事でしょう。分家に恩を売るという建前で私も協力します」


「建前……?」


「はい、建前です。本音はくだらない只の私情、困ってる人を放って生きて後悔しないほど、私は鬼じゃないんですよ」


 フラブは優しい表情で微笑んでそう言い、その言葉にカミサキは呆然として涙を一滴頬に流した。


「……え、泣かないで下さい……! すみません、会話が苦手なので何か悪いことを……」


「違うわ。ただびっくりして、嬉しいだけ……って別に嬉しくなんかないから!」


 カミサキは急に我に返って頬を赤くし着物の袖で優しく涙を拭う。それを見たフラブは優しく微笑んだ。


「カミサキさん、私の友達になってくれませんか? カミサキさんが居たら毎日が楽しい、身勝手にもそう確信してしまいました」


 フラブの裏表がない真っ直ぐな優しい言葉にカミサキは驚くように大きく目を見開いた。


「……どうしてもって言うのなら良いわよ」


「はい、どうしてもです」



 多々ありそれから3日後、──フラブが使用してる部屋でカナトとフラブは言い争いをしていた。


「本当に反省してるんだ。あれはアマネを挑発するためだから……」


 そう必死に弁解するカナトだが、フラブはゴミを見るような目でカナトを見ている。


「は? 頼むから私のテリトリーに入らないでくれ。目障りだ」


 ドアの前に居るカナトに簡素な長袖長ズボンを着たフラブは常に冷たい目を向けていた。


「挑発しないとアマネは来ないんだよ……クソ真面目だから……」


「だとしてもだ。説明くらいはしてくれてもいいだろう。それが出来ないお前はゴミカスの思考を持ってるって事を理解した方がいいのではないか?」


「反省してるから……」


 その言葉通りに反省している素振りを見せるカナトだが、フラブは負けずと常にゴミを見るような目でカナトを見て軽く腕を組む。


「嘘だな。私を攫っておいて詳しい説明も直ぐにしないだけではない……説明しない理由が信用に欠けて情報を伝えるのを躊躇ったから? 躊躇うくらいなら攫わないでほしいな。笑えない冗談は好まない」


「そこまで……?」


「なんならお前は私に殺されて海の生き物の餌にされても可笑しくはない。誰も文句は言わないくらいだぞ」


「えぇ……?」


 そのカナトの反応にフラブは腕を組んで呆れるように軽く溜め息を吐きながらも外方を向いた。


「……つまり言いたい事は1つだ、私に戦い方を教えてくれ。悔しいが攫われた時、お前の動きを読めなかったし力でも負けた……」


「今までの話に1つも繋がってないんだけど? 私は時間を止めてるだけだし……なんなら魔法だったらカミサキ姉様とカナデ姉様の方が……」


 カナトの平然とした説明にフラブは驚き目を大きく見開いてカナトを見る。


「時間を止めるなんて……嘘だろう!? そんな魔法があるのかっ!?」


 そう驚いているフラブを呆れるような目で見るカナトだが納得が追いついた。


「あるよ……少し授業をしようか。はい、正座」


 カナトが淡々とそう言うとフラブは嫌そうな表情を浮かべながら地面に正座をする。


「よく出来ました。それで魔法って言うのは時間が経つにつれ人々が多くの細かい種類を開発しているのは知ってるかな?」


「ああ。貴様はムカつくけどそれは知っている」


 そう言うフラブだが嫌そうな素振りはなく真剣にカナトの方を見上げて説明を聞いていた。

 それでも2人の距離は5歩ほど間があり、フラブはカナトを毛嫌いしているのが分かる。


「一言多いね。だけど魔法の種類によって消費する魔力量に違いが有るのは?」


「そうなのか……だから創造魔法を使ったらすぐ魔力が……」


「うん、それが良い例だよね。もちろん人それぞれ持つ魔力量は異なる。だけどそれよりも種類が大事なんだ。まず適性魔法と最適性魔法って何だと思う?」


 カナトは悠々と軽く腕を組みながらフラブを見下ろしている。ただフラブはカナトを強く睨みつけて精一杯の対抗の意を表した。


「各々が他より秀でて持つ魔法だろう。自身には使えないのと種類を問わずに多くの魔力を使うというデメリットがある。だがメリットが大きい」


「そう。そのメリットが威力や範囲、それが確実に上がること。魔力量には比例するけどね。フラブちゃんの適性と最適性魔法は?」


 そう優しい表情で軽く腕を組みながら質問するカナトだが。フラブは少し外方を向いて2秒ほど考えたのちに再びカナトの方を見上げた。


「……私はまだ……ずっと便利な創造魔法と敵の動きを封じられる拘束魔法しか使ってないからな」


「そっか、なら目標が見えたね。フラブちゃんが強くなるには適性魔法と最適性魔法を習得しよう」


「簡単に言ってくれるが……それは才能を見つける以上に難しいだろう。数多ある魔法の中で1つ1つ確かめる気か?」


「そんな面倒くさい……1日あれば発見可能だよ。最新魔道具の技術、それを使う」


「と、言うと?」


「少し待ってて、カナデ姉様を連れて来る。あの人は魔法を専門特化として副業をしてるから私よりもエキスパートだよ」


 カナトは優しく微笑んでそう答えると小走りで部屋のドアからその場を後にした。


「……不思議だな、敵だった予定なのに仲良く話をしている……」


 そう言うフラブはどこか悲しそうな表情を浮かべて微かに俯いていた。──すると急にフラブの目の前にある部屋のドアが勢い良く開いた。


「あっ、やっぱここだ! カナトの奴とすれ違ったからそうだと思った! シラ家の当主ってあんただよね?」


 そう部屋に入って来た者は青色のワンサイドアップの髪型に水色の花柄の着物を着ている。目の色も澄んだ青色で110センチ程の低身長、幼女の見た目の女の子だった。


「控えおろう! 僕様のおな〜り〜!」


 その女の子の後ろから入って来た者は赤色の短い外ハネの髪型で桃色の着物を着ている。110センチ程の低身長の青色の女の子と同じく幼い子。


「……ん!? あ、えーっと? シラ・フラブ……です….…」


 フラブは状況に追いつかないまま青色の子コヨリの方を見てそう言い。それにコヨリは謎に自信満々に明るい表情をして「そう!」と答えた。


「良かったわ、私はコヨリ。こっちのはキヨリ、誕生日が私の方が1日早いの、双子じゃないわ」


 青色の子コヨリは優しい表情を浮かべ大人顔負けに話していて。赤色の子キヨリは明るい笑顔でフラブに勢い良く抱きついた。


「あ、えーっと? 分家の方……ですか……?」


 その抱きついてきたキヨリの方を見て問うフラブは混乱しつつも理解しようと頑張っている。それにキヨリももっと明るい表情へと変わり楽しそうに元気良く笑っていた。


「うん! そうなのだ! 僕様は高潔して……何だっけ……そう! 唯一無二の存在! ヨヤギ・キヨリである!」


「只の厨二病よ」


 よく分からない自己紹介に冷静に説明を付け加えるコヨリだが、フラブは上手く理解出来ていない。


「……はぁ、? なるほど……2つ目の分家か? それとも3つ目か?」


「3つ目! 2つ目は人が居ないわ。既に壊されているのよ」


 そう言うコヨリだが悲しそうな素振りはなく常に優しい表情で自信満々にフラブを見ていた。


「……どう言う事だ?」


 深刻そうに問うフラブだが、コヨリとキヨリからは深刻さが上手く見えてこない。


「2つ目の分家は1年前にアリトに壊されたのだ! 詳しくは知らないし知りたくないのだ!」


 明るい表情で言うキヨリだがフラブは驚くように大きく目を見開いてコヨリの方を見る。


「……っ! それは本当か?」


「そんな事より今日会いに来たのは協力の感謝のため、それと私たちのお姉ちゃんになりなさい!」


 突然として勇気を振り絞って言い出したコヨリだが自信満々さは消えていない。


 それにフラブは「…え?」と戸惑いを隠せずに目を少し見開いて言葉を溢した。


「遂行な僕様達は甘えたいお姉様がほしいのだ! カナデちゃんは忙しいしカミサキちゃんは塩対応! つまり、そう言う事なのだ!」


 キヨリがそう言うとコヨリは恥ずかしそうに頬を赤くしながらフラブの左側に抱きついた。ただ何よりも分かりやすく、カナトは選択肢にすら入っていない。


「……お父様とかお母様は? 居ないのか……?」


「……うん」


「遠くに行って帰って来ないのだ……」


 2人は悲しそうな表情を浮かべながらフラブに強く抱きついた。それにフラブは少し暗い表情を浮かべるも直ぐ様に優しい表情に変わる。


「わかった、好きなだけ甘えろ。君たちの甘える対象にならなれる」


 フラブは優しく微笑みながらそう言い、2人の頭を両手を使って優しく撫でた。すると急に勢い良く部屋のドアからカナトが入って来た。


「フラブちゃん! 急いで手を貸して! 一刻を争う事態になった!」



 ──その頃、アリトは自室でアリマに言われた通り時々休んで1人で魔兵士譚をやっていた。ただ手を止めて駒を崩しながら寂しそうに軽くため息を溢す。


「飽きたな……兄様が居ないと何もない。何もかも面白く感じない……」


 アリトはぼそっと独り言を言ったその時ーー身体中に雷のような激痛が走って、痛々しい表情を浮かべつつ必死に両手で強く胸を押さえる。


「……っ持病の進行か。思ったより早いね」


 そう余裕ぶって言ったとしても赤い血を吐くことは案の定と変わらない。身体の痛みに耐えながらアリトは手の甲で溢れ出る血を軽く拭う。


 そして安心しようとアリトはアリマの羽織物に視線を変える。そして体と手を伸ばしてアリマの羽織物を手に取り優しく抱きしめた。そのアリトの表情は眉間に皺を寄せながらも嬉しそうに落ち着いている。


「私に幸せと安心をくれるのは兄様だけ……」


 だがその時、急に部屋のドアがゆっくり開いてアリマが入って来た。


「アリト……」


 アリマは自身の羽織物を持ってるアリトを呆れるような目で見る。


「少し肌寒くて借りてました。兄様」


 動じることなくアリマの方を見て優しく微笑みながらそう言うアリト。だがアリマはアリトの口に付着している血を見て大きく目を見開いた。


「……っすまない。直ぐ来れなくて。大丈夫か? 痛いところは?」


 少し焦りが見えるアリマは表情を一つとして変えずにアリトの横で立ち止まって寄り添うように優しくアリトの背中を撫でる。


「大丈夫です。どうせ一定の痛みは常に身体中に響いているので慣れっこです。それより今日のアオイたちの訓練は終わったんですか?」


 アリトは変わらず優しく微笑みながら目を少し輝かせてアリマを見て問う。それにアリマは「ああ」と言いながら軽く頷いた。


「またすぐ音を上げてな。特にアキヒロは毒の精度は良いが戦いに慣れて無さ過ぎる。故に毎日でも余が見た方が……」


「それだとアキヒロは直ぐに訓練に飽きてしまいます。飴と鞭です、兄様」


 アリマの言葉を遮る様にアリトは微笑みながら口を挟んだ。それにアリマは少し目を見開くも直ぐ様に表情を変えて優しく微笑む。


「……確かに其れは大事だな」


 だがそれを見たアリトは何故か表情が次第に暗くなっていき微かに俯いた。


「……兄様、私が兄様を敬愛し始めたのは2歳の物心が付き始めた辺りでした」


「急に何の話を……」


「兄様は病弱な父様や忙しい母様の代わりに良く私の遊び相手までしてくれた。憧れで済ますには烏滸がまし過ぎる……」


 アリマは目を少し見開き咄嗟にアリトに向かって右手を翳した。だが異常を感じでも家族に、持病を持ってる弟に魔法も術も使うのを躊躇ってしまう。


「別に兄様に助けられた、とかじゃないんです。学ぶ姿も美しい、何をしても格好いい。そう。ただ単に思ってしまったんですよ。美しい、すごく誇らしくて格好良いな、って……」


 アリトは微笑みながら右手を自身の目の前に持って来て人差し指と中指を立てた。


「アリト……?」


 アリマは攻撃を躊躇ったせいで対応に遅れ、次第に場所が変わる様に壁が灰色と水色が濁った色に変わっていく。窓が消え、椅子も消え、ベッドも消え、物が無くなりそこは完全の密閉空間。

 アリトはベッドが消えたと同時に立ち上がり、微笑みながらアリマの方に歩き出した。


「……兄様、これは私が362年間溜めに溜め込んだ魔力で私が作った空間です。ここでは老いも病気も無くなるんですよ?」



 ──その頃、フラブは険しい表情を浮かべながらも真剣にカナトの方を見る。


「どう言う状況か……分かりやすく簡潔に」


 フラブはドアから入って来たカナトを見て真剣な表情で冷静に問う。


「予想よりも進みが早い……! ヨヤギ・アリトが行動を起こしたってタナカさんから連絡が入った!」


「タナカ……? 知り合いだったんですか!?」


 フラブは驚きつつ問い、それにカナトは焦りながらも真剣な表情を浮かべる。


「彼は君達の所に来る3日前、処刑課から逃げてる所をヨヤギの分家で意図的に匿って取り引して私達と内通してもらってたんだ。そして、アリトに近づいて奴の部屋に魔動発信機を取り付けてもらってたんだ」


「近づく……そうか……アイスのゴミを燃やさずにわざわざゴミ箱に捨てた時に……」


 普通ならゴミはゴミ箱は使わずに誰でも使える炎魔法などで燃やす。当然ながらフラブはその事を知らないが、何となくで違和感を覚えていたのだろう。



 ──3日前、襲撃後のタナカとカケイ

 アリマに言われた通り、タナカはカケイを運んで右側の一室に移動していた。そこは2段ベッドが1つと小机2つ、本当にそれしか無くて素朴な寮の部屋みたいな場所だった。

 タナカはカケイを1段目のベッドに寝かせて着物から小型の魔力通信機を取り出して右耳に掛ける。ーータナカが通信をかけた相手はカミサキだった。


「…………終わったわ。あとはアリトの動きを待てばええ?」


「ありがとう、タナカさん。だけど声色が良くないわ。カケイ君の腕もちゃんと次期に治るのよ」


「大丈夫や、心配してへん。処刑課に追われてるところを拾ってくれたし、結果的にカケイ君の場所も教えてくれて……利用されとっても文句は言えへんよ」


「利用……確かに否定は出来ない……引き続きアリトの監視を。だけれどアリマの誘導をここまでも上手くやってくれたのは事実。私情を挟んでも文句は言わないわ」


 カミサキがそう言うと通信が切れ、タナカは小型の魔力通信機を着物に仕舞う。


「……偶然で済ませる方が可笑しいわ。なんであんな都合良くヨヤギ家当主の所にカケイ君とシラ家の当主が居るん……」


 ただ深刻そうな表情で安眠しているカケイを優しく見下ろした。


「……嫌な予感がする……」



 そして今現在──、フラブは困惑より培われた冷静さで真剣な表情を保てた。


「今は急ぎだろう。だから理解はしておこう」


 すると急に開いてるドアの前に転移魔法で颯爽とカナデが現れた。


「ついでに今、アリトが弟全員を結界と同時に洗脳をしてると報告が入った。だからカミサキ姉様から策の伝言よ。私とカナトは……」


「誰か、アリマさんの弟さんの誰かと通信先を交換してる人は?」


 フラブは話を遮って常に冷静で真剣な表情で問い、カナトが口を開く。


「え……一応アマネとは交換してるけど、フラブちゃん何する気……?」


「有無を言わずお前の魔力通信機をアマネと繋げて貸せ」


 そう言うフラブには頼れるような、後ろを任せれるような安心感があった。


「わかった……けど早くしてね」


 カナトはそう言いながら小型の魔力通信機をフラブに渡して、それをフラブは右手で受け取り軽々と右耳に着ける。


「私だ、アマネさん」


「……そうか、カナトの通信機から……分家に……アリト兄様が言ってた通り本家を裏切ったのか……? フラブさん」


 魔力通信機はちゃんとアマネと繋がるも良い空気とも呼べない現状で。


「今のアマネさんに何を言っても効かないだろう。だから一言だけ言わせてくれ。私は私が正しいと思った方につく」


「そうか、俺はその君の真っ直ぐさに惹かれてしまったんだ。恥ずかしいけどな。屋上で君を迎え撃つ、逃げるなよ」


 そう言って通信が切れて、フラブは小型の魔力通信機をカナトに返した。


「ありがとう、これで1人の安否と情報の確実性が持てた」


 フラブの冷静な言葉にカナトとカナデが驚き目を少し見開いた。


「なんか……頼りになるねぇ、フラブちゃん」


「ええ……凄く。予定通り、私たちは殺さない程度に本家の兄弟共を止めながらアリトとアリマの場所に行く。現状不利、それを埋める活躍を期待するわ」


 2人は感心するような表情でフラブを見るが、フラブはどこか浮かない表情をしていた。


「弱いなりに頑張ります。傍観するのは嫌いなので」

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