第十二話 予鈴の鐘
それからアリマとアリトは変わらず2人で話をしていた。だがアリマは表情を一つとして変えずにアリトの方を見ている。
「こんな深刻そうな話をするために呼んだのか?」
「兄様はいつも私たちの事を優先してましたから。父様が亡くなったとき、誰よりも悲しかったのは兄様だったはずなのに……」
アリトは次第に少し表情が暗くなり。それにアリマは呆れるように軽く溜め息を吐いた。
「余に感情を求めるな。今回も少しだけ寄って帰る予定だったんだ。余は手伝ってもらう予定さえ聞いてないぞ?」
「……兄様は完璧過ぎるんですよ」
──その頃、アマネが引き続きフラブをお姫様抱っこで持って移動して2人は屋上に来ていた。連結式の山城だが、何故か屋上に続く階段も設置されていて屋上は鉄格子で囲まれて存在していた。
そして屋上に居る赤毛短髪の糸目で執事服を着た男が先着で1人背を向けて居た。
「お前は……何故居る?」
アマネが驚き警戒する様にそう言うと赤毛の執事服を着た糸目の男はアマネの方をゆっくり振り返る。
赤色の短髪に執事服を着た糸目の男性は手を後ろで組みながらフラブとアマネの方を見る。
「クソ真面目野郎か」
「カナト、俺の悪口は興味無いしどうでも良い。だがフラブさんはシラ家の当主様だ。慎め」
その瞬間、常人では目で追えない速度でアマネからフラブを取り抱き上げる。瞬きをする間にアマネの右手側は居た。それにフラブは理解が追いつかず息を呑みつつ目を大きく見開いた。
──それにアマネも目を見開き冷や汗を流して赤毛のカナトを視線で追い刀を構えようとする。
「動いたらフラブちゃんもお前も殺す」
カナトの一言とそれに込められた殺気にアマネの動きが完全に止まった。それを確認したカナトは挑発するような目つきでアマネを見る。アマネはカナトを見て少し眉を顰めて理解が追いつかずとも警戒していた。
「……カナト!」
アマネはカナトを強く睨みながら圧ある声でそう言い。フラブも黙っている訳がなく右手に短剣を作りカナトの背中を目掛けて刺しかかる──。
だが刃がカナトの背中に当たる前にフラブの動きがピタリと止まり、ナイフの創造魔法が解除されフラブは目を瞑って力が抜ける様にカナトの左肩に凭れた。
「──っ何を!?」
アマネは驚くような表情を浮かべるも直ぐ様に眉を顰めながら警戒する様にカナトに問う。
「ただの魔法だよ、抵抗されるとフラブちゃんを私の嫁にするのに大変だから仕方無い」
「……は?」
「冗談だって。他の分家の人間も含めタイミングを測って本家のゴミカスに宣戦布告をしに来たんだ」
楽しそうに言うカナトは優しく微笑みながらアマネを見る。それにもアマネは強くカナトを睨みつける。
「──っ!」
「お前では役不足さ。フラブちゃんを殺されるのが嫌なら1週間後、分家の本邸に全員で来い。勿論アリマもアリトもね」
「何のために……」
「最後まで聞けよ。早かったり遅かったり、若しくは来なかったりしたら即座にフラブちゃんを殺す」
巫山戯るようにも真剣なその言葉にアマネは怒りを堪えるよう刀を強く握り締める。
「今お前が私を攻撃したらどうなるか、わかってるみたいだね」
そう軽々と言い終わったカナトは転移魔法で颯爽とその場を後にした。それにアマネは拳を握りしめて階段がある右横の壁を強く殴るが、直ぐに真剣な表情を浮かべた。
「何か理由が……? カナトが今俺たちと敵対する理由はないだろう……」
更に20分後、──アリトの部屋にフラブ以外の全員が集まりつつ重たい空気が流れていた。
「先手を撃たれていたか」
アリマは表情を一つとして変えずにそう言いながら皆んなの方を見る。アオイが身体中から酷く出血してギリギリ立って壁に凭れていた。
そしてカケイは右腕が消し飛んで床に目を瞑って眠るように倒れており。アツトは顔の右目に深く傷がついていて床に倒れて眠っている。タナカはカケイに寄り添うようにカケイの横でしゃがんでいた。
「急に人が来て……僕っ、何も……出来なかった……」
アユは悔いて涙を頬へと伝わらせてアキヒロは怒りさえ追いつかずに言葉を呑んでいた。
「私のミスだ……武力行使まではしないだろうと分家を甘く見過ぎていた……」
アリトもどこか表情が暗く、そう言いながら拳を握り締めて俯いていた。
「アマネ、お前が勝てなかった相手は誰だ?」
アリマは表情を一つとして変えず冷静に不思議間そうにアマネを見つめる。
「カナトです」
「……まぁ納得だな。カナトは時空を止める魔法を使ってくる。其れは5段以上の者で無ければ一回で理解さえ及ばないだろう」
アリマは袖に腕を通さず羽織物の内側から腕を組み左手を顎に当てて何かを考え始める。
「っカナトは5段以上の実力者なんですか……?」
「否、3段程度だろう。確か時空魔法は魔力の消費が大きい故に奴では1日に1回までしか使えない筈だ」
「……カナトが言ってました。フラブさんを殺されたくなかったら分家の本邸に1週間後に来いと……」
少し眉間に皺を寄せているアマネは恐る恐るアリマの方を見る。
「……そうか、それで?」
「早かったり遅かったり、来なかったら……直ぐフラブさんを殺すと」
アマネは俯いた状態で恐る恐る答え、それにアオイは嫌そうに眉間に皺を寄せる。それでもアリマは表情を変えずに常に何かを冷静に考えていた。
「余への勝算があると言うことか……其れとも……」
アリマはそう言葉を溢しながらアオイとカケイ、アツトの前まで歩き出す。
「分家は1つ目だろうな。3つ目の当主であるサヤがこんな愚行を起こすワケがない」
そして3歩程前で立ち止まり怪我人に右手を翳す。
──花草魔法「癒厄華」
アリマが魔法を使うとその3人が居る地面に沢山の可愛らしい花が咲いて即座にその3人の傷が消えた。
「──っアリマ兄様!」
アオイは心配するように慌ててアリマに近づくが、アリマは淡々としてカケイの方を見下ろす。
「問題無い。余に肩代わりされる傷がつくのは精々4段以上の者だ」
魔力人形であるカケイの右腕は消えて無くなったままだった。
「……すみません、兄様。私が不甲斐ないばかりに…こんな事に……」
アリトは相当落ち込み悔やんでいて、アリマは元の位置ベッドに左側に歩いて戻った。
「……余はアリトを責めないし庇うつもりもない」
タナカはゆっくり立ち上がりつつ悲しそうな表情を浮かべて少し俯いた。
「カケイ君……何で君も巻き込まれてるん?」
重たい空気ながら関係なしにアマネは立ち上がり無言で部屋から出ようとする。
「……アマネ?」
不思議そうな表情を浮かべて問うアリマだがアマネは暗い表情を浮かべていた。
「……俺は俺のミスを自分で取り返す。俺の方が上の段位で逃げられたんだ……魔法を使用することを惜しんだばかりに……」
暗い表で背を向けたままそう言ってアマネは部屋のドアから出て行く。
「で、策はあるのかしら?」
アオイが真剣な表情でアリマの方を見て問い、それにアリマはアリトの方を見る。
「否。分家と話し合いを試みたい。故に策が必要となればアリトに任せる」
「わかりました。頑張ります」
微かに暗いく見えるアリトの表情だがアリマの方を見て意を決した表情でそう答えた。
「ならば覚悟は要らないな。余が目一杯全員を鍛えてやろう」
アリマは無表情で皆んなの方を見て言うと、直ぐに空気が凍りつく。
「わ、私もですか? 兄様……?」
子羊のように怯えつつ問うアリトだが、それにアリマは容赦もなく優しい表情を浮かべた。
「無論、頭は鍛えられるよな?」
「……っ頑張ります!」
「余はアリトほど優しくはない。タナカ、お前はカケイと居てあげろ。隣の部屋でも使え」
─ どうにも腑に落ちない……タナカは怪しい点が多すぎる……
心の内ではそう考えるも表情は無表情で考えを悟られないように淡々としている。
「わかった。……おおきにな、アリマさん。俺は成る可くカケイ君と動くわ」
タナカは優しい表情を浮かべながらカカイを持ち上げてドアから部屋を後にした。次にアリマはアユたちほ方を見る。
「次にアキヒロ、アユ、アオイ、先に訓練場に行って準備運動でもしとけ。3対1で余と戦ってもらう。アツトが目覚めたらアツトも加入で4対1だ」
「んー? 適当すぎませんもっとエグいのくるかと思ったんだけど?」
「今まで考えていたんだ。兄弟の中で余以外に5段以上が居ない。段位が上がれば国から魔物の討伐依頼を受けやすくなるだろう? 其れに余が見る、これが1番手っ取り早いからな」
淡々してアリマがそう冷静に答えると、アオイは少し呆れたような目でアリマを見る。
「誰しもが怪物級になれるポテンシャルはもってないのよ……アリマ兄様……」
アオイに続いてアキヒロも呆れたような表情を見せるも、その3人は部屋から出てその場を後にした。
「で、アリトは将棋か魔兵士譚どっちが良い? 囲碁でも良いが」
「魔兵士譚でお願いします……兄様」
アリマは収納魔法から灰色のオセロの台らしき物を取り出した。
「久しぶりにやるな、確か300戦中256勝44敗だったか」
アリマはそう言いながら台を広げて小袋に入った兵士駒と民間駒、様々な武器や魔法が描かれている駒より小さい円方のチップらしき物を取り出す。
「本当、久しぶりですね」
アリトは懐かしそうに駒を自身の元へ配り。それにアリマは反対側の壁にある木の椅子を持って来て木の椅子に座る。
「ああ。少し話そう。アリト、今回の奇襲ーーとても可笑しいと思わないか?」
軽々としたアリマの問いにアリトは少しだけ背筋を凍らせた。
「…何がですか?」
「余とアリトの位置がわかってるのか此処には奇襲が来て居ない、それどころか各々アリトが使わせた場所に1人が来て1人だけ無傷で帰らせてるんだ」
「まかさ私が情報を横渡してるとでも?」
深刻そうに問うアリトはニ等兵の駒を1マス動かしながら暗い表情を浮かべた。
「否。アリトに限ってそれは無いだろう…だが少なくとも疑ってはいる。無傷で帰ってきた者の中に分家に内通してる者が居るとな」
アリマは淡々とそう言いながら駒を動かしつつ、それにアリトは手を止め目を見開いてアリマを見る。
「1つの状況でそこまで…」
「ああ、アユの可能性は100%無い、アオイも傷だらけだからな。だから内通してるのはアマネとアキヒロとタナカの中にいると推測出来る」
「──っですがタナカさんも有り得ないでしょう。だって客人で…」
「さぁ、どうだろうな」
アリマはそう言いながらアリトの兵士の駒を爆弾で2体倒し、それにアリトは少しだけ目を見開く。
「あ……それ三等兵だったんですか……?」
「甘いな、アリト。三等兵と決めつけるのは良く無い。いつでも最悪を想像しろ」
淡々としているアリマがそう言うとアリトは小難しい表情をした。
─それから5分後──
「……降参です。それ私の特技兵と二等兵です。あえて囮に使ったんですが見破ってたんですか?」
「囮が分かりやす過ぎるんだ、もっと此処の特技兵を動かして爆弾を使え。そうしたら余には3択が迫られるからな」
アリマは優しい表情でアリトを見て優しくそう説明するとアリトも優しい表情を浮かべた。
「兄様には敵いませんよ。──裏を読んでも捕られて真っ向勝負をしたら裏を読まれて、囮を複数用意しても本隊を見破ってくるんですから」
「否、アリトも年々成長している」
アリマは淡々とそう言いながら腰を上げると羽織物を木の椅子に掛けてドアの方へと歩き出す。
「ではアツト等の方を見に行く。病気が悪化したら直ぐに教えろ」
「……わかりました」
──その頃、アマネは屋上の壁に座って凭れて空を眺めていて右前にアオイが居た。
「俺はフラブが好きだ。多分もう190年前から……」
アマネは右手で心臓の位置を強く握り締めながら微かに苦しい表情を浮かべている。
「知らないわよ。だけどまずはあんたを説得するため訓練場に行く前に奥上へ寄り道した私を褒めてほしいわ」
それでも少し悲しそうな表情にも見えるアマネにアオイは呆れるように軽く溜め息を溢した。
「アマネ兄様、よく聞きなさい」
いつに増しても真剣なそのアオイの言葉にアマネは元気もなくアオイを見上げる。
「フラブちゃんが好きなら頑張りなさい。それに貴方が1番よく分かってるでしょう? あれでもカナトは根っからの優しい人間よ。ただ賢いだけ。だから今回のこともきっと何か裏がある。以上よ」
アオイはそれだけ言ったらアマネに背を向けて転移魔法で颯爽と屋上を後にする。
「情けないな、俺は……」
その頃、──フラブはとある洋風な見た目の屋敷の部屋に居てベッドの上で右膝をつけて警戒するように短剣を構えて座っていた。ベッドの左横にはカナトが居て2人で話をして居た。
フラブは怒りよりも警戒で睨みつけながら短剣の刃をカナトに向ける。だがカナトは悠々として少し手を上げながら優しく微笑んでいた。
「まぁ落ち着いて。別に殺し合いじゃないんだから」
「ふざけるな! 先に名乗れ!」
するとその時──、急に左奥に見える部屋のドアが開いて女性2人が部屋に入って来た。
「こら! カナト! ちゃんと会話をしなさいッ!」
そう怒る1人の女性は長身で長い髪は黒に近い色のストレートで膝まである。そして透き通るような赤い綺麗な瞳。そして何故か執事服を着ているのだが凄く似合っている。
その女性は部屋に入るなりカナトの方に小走りで歩いて来て、それを確認するとカナトはそっとフラブから手を離した。
「カナデ姉様。こちらの情報を与えるには敵が味方か見極めないとでしょう」
用心深いカナトの前で立ち止まる格好良い女性のヨヤギ・カナデは右手を腰に当てながら不服そうに首を傾げた。
「それよりヨヤギ家の分家への待遇について説明しましょう。その方が抵抗されないと思うの」
冷静にそう言うあと1人の女性はフラブの前には来ず部屋に入るなり、フラブから見て前方にある壁に軽く凭れて腕を組んでいる。
「カミサキ姉様」
そう溢すカナトなのだが、フラブがきょとんとするには理由があった。その女性は明らかに140センチという小柄の幼女にしか見えないのだ。
そしてその女性は赤色と黒色の自身の足元にまで来る長いツインテール。当主だと主張しているような黒色の着物に桃色の羽織物を着ている。
「でもまずは自己紹介よ」
そう言うカナデは安心させようと優しい表情を浮かべながらそっとフラブの方を見る。そして自ら率先して自己紹介を始めた。
「私はヨヤギ・カナデ。メイド服は動き難いから執事服を着てるの! であの子は……」
「自己紹介くらい自分でやるわよ!」
自身の元へと視線を移すカナデを見て、幼そうな女性が強い口調でそう言葉を遮った。その女性は少し眉を顰めながら瞼を閉じて自己紹介を始める。
「ヨヤギ・カミサキ。見ての通りカナトとカナデの姉で長女! そして3つある分家のうち1つ目の分家の当主よ」
別にわざと悪態をついているワケではなく低い身長や幼さを気にしているのだろう。そして瞼を開けながら真剣な表情でフラブの姿を確認した。
「よろしくしなさい、シラ・フラブ」
その挨拶で自己紹介を終えると、どうだと言わんばかりの目でカナデの方をチラリと見る。ただカナデは気にすることなく優しい表情のまま軽く頷いた。
「そう、私が次女ね。そしてこっちは3人兄弟の末っ子で長男のカナト!」
カナデは楽しそうに笑顔でフラブを見ながらそう自己紹介をした。だがフラブは警戒を解かず、いつでも攻撃出来るように身構えている。
「他の分家は別に本邸があるんだ、良かったね」
カナトは特別自己紹介をするワケではなく、フラブとの余所余所しい距離を一定に保っている。それにフラブはゴミを見るような目でカナトを見た目ながら不安そうに眉間に皺を寄せる。
「私に何か用があってここに連れて来たのか?」
そう深刻そうに問うフラブは警戒を解かず不安そうにカナデとカミサキの方も見ていた。そしてカミサキと目が合うと同時に、そのカミサキは真剣に「そうよ」と言い話を始める。
「何の説明もせず攫ってきた割にまだ何も説明していなかったカナトは殴っても良いけどね。最初にシラ・フラブ、分家に対してどんなイメージを持ってるのか聞いてもいいかしら」
「アリマさんを嫌って当主の座を狙ってる……そう聞いています」
「……やっぱりね」
そう言葉を溢したのはカナデで、そのカナデは少し浮かない表情で少しだけ俯いた。それを見たカミサキはカナデに変わって躊躇いもなく説明を続ける。
「分家と本家の仲は約300年前までは平穏でいて良好だったの。問題はアリマの父親とその子供の双子、アリマとアリトにあったわ」
「……問題?」
「ええ。アリマの父親、ヨヤギ・アサヒト様。その人は持病を持っていて100年前には亡くなったけれど……順調に当主をやっていれば歴史に名を残す偉人になる予定だった、とても凄い人なの」
「…………」
「だから悪く言えばヨヤギ・アリマ、今の当主の彼は約340年前、皆んなに慕われていたアサヒト様からそれを奪って無き物にした」
深刻そうに説明をするカミサキを見てフラブは真剣な表情を浮かべながら情報を処理する。ただアリマがわざわざ当主の座を奪うなんて強欲さは持ち合わせていない気がしてむず痒くなった。
「でもそこまでは皆んな納得は出来るのよ。だけどヨヤギ・アリマの最大の欠点、それはとても無情でとても頭が良い事だった」
「………」
「約300年前、当主のアリマは誰も信用せずに当主以外の分家の者を使用人として扱い始めた。そして裏切らないようにヨヤギ家の宗家も分家も拘らず全体に結界を張って見張り出した。──それが『客観的に』見た現状よ」
そう冷静にわかりやすく説明するカミサキは表情が次第に曇り始め少し俯いた。
「別に待遇が酷かった訳じゃない。だけれど檻籠に入れられた小鳥は何れ我慢の限界で自由と外を求めて暴れ出すでしょう? そんなくだらない喧嘩で関係が悪化しちゃっただけ」
そんな例えた説明をするカナデは少し笑い誤魔化すようにして重い雰囲気を和ませる。
「……だけどアリマさんが100悪いとは言えない……だから皆さんそんな苦しい表情をしてるんですか?」
そう恐る恐る問うフラブは不安そうに見渡すようにそれぞれの表情を見る。確かにカミサキとカナデは少し悲しそうな表情に見えて、カナトは優しい表情ながら考えが読めない。
「かもね。私はアリマが気に入らないし嫌いだ。だけどアリマより双子の弟のアリトの方が余程タチが悪くて大っ嫌いだ」
そう強い口調で言葉を溢すカナトは優しい表情で何とか感情を押さえ込んでいるのか。ただカナトが言っていた言葉に耳を疑ってフラブは驚きを隠せずに少しだけ目を見開いた。
「どう言う事ですか……?」
「さっき『客観的に』って言ったわよね。──本当の化け物はアリトの方。彼の性根は腐っているわ。ヨヤギ・アリマを唆して冷たい孤独の化け物にしたのは他でもない、彼なのよ」
「ですがアリマさんからアリトさんは持病を持ってるって……」
「それは本当よ。だからこそ当主になる前のヨヤギ・アリマを唆して操った。そしてそれは当主になったあとのアリマも例外なくね」
その説明にフラブは理解が追いつかずに呆然としてしまい大きく目を見開いた。
「どう言うっ」
「アリトは息をするように使用人も誰もかも問わずヨヤギ・アリマのある事ない事悪口を広めて、アリマに優しくしたら取り込めると他家に言いふらした」
「…………?」
「もちろんアリマは目も耳もいい。その行動さえ気づかれることがなければ……アリマは人を信じることを諦めてしまう。それを見事に今日まで、ね。アリトこそ怪物を孤独の牢獄に放り込んだ張本人なのよ……」
そのカミサキの説明で空気が更に重くなり、比例するようにフラブの表情も少しだけ暗くなった。




