第十話 ヨヤギの兄弟たち
階段を降りて左手側の壁辺りでフラブとカケイ、アオイが話をしていて。アオイの言葉にフラブは驚き目を少し見開くも、直ぐ様微かに強張った表情に変わる。
「……なら尚更、復讐が纏まってやりやすいですね」
明らかに怒りが混ざっているフラブの雰囲気が零度以下に冷たくなる。
「でね、それぞれ名家には担当みたいな物があってヨヤギ家は知恵なの。だから何でも聞いて頂戴ね?」
「……担当……ですか?」
「ええ。魔力発展に大きく影響を与えた部類よ。そしてあとは対魔物においての役割。まぁ詳しくはいつかアリマ兄様から聞きなさい」
フラブの問いにアオイは優しく微笑みながらそう答えた。すると台所側の通路からアリマとアリマの後ろからタナカが歩いて来た。
「朝食が出来た……すまない、話の邪魔をしたか?」
どこか申し訳なさそうに問うアリマはフラブたちに少し心配そうな目を向ける。それにアオイはアリマの方を振り向いて優しい表情を浮かべた。
「全然大丈夫よ、アリマ兄様」
そしてアオイはそう言いながら立ち上がって台所の方に歩き出した。ただアリマの左背後にあるタナカは少し深刻そうな表情を浮かべながらも再び台所がある部屋へと歩き出す。
そんなタナカとは対にカケイは笑顔で嬉しそうにスキップをしながら台所に向かった。
「……自力で立つことも出来ないのか?」
不思議そうに問いながらアリマは表情を一つとして変えずにフラブの3歩ほど前で立ち止まる。
「私もヨヤギ家に行ってみたいです。形上だけでもシラ家の当主として……名家について知らないと駄目だと思いました」
フラブは真剣な表情でアリマを見上げて言い。アリマは腕を組んで左手を顎に当てて考える。
「……教えてなかったか……? 185年6ヶ月と26日前の15時29分辺りに」
「誰しもがアリマさんほど記憶力よくないんですよ……」
そう言うフラブは呆れるような目でアリマを見上げてそれにアリマは困ったような表情を浮かべる。
「……そう、か。すまない」
相変わらず淡々としてそう言うアリマはフラブを軽々と左肩に担ぐ。それにフラブは何とも言えずますます呆れたような目を向ける。
「……毎回これで運ばれるんですか?」
「持ちやすさを重視した」
それだけ言うとアリマはフラブを持ちながら台所に向かって歩き出した。
それから約3時間後の玄関前。
──フラブは黄色と黒色が混ざった着物を着て黄色い帯を着けている。髪は結ばずに解いていて魔力動型の車椅子に座っていた。
「全員着物に着替える必要なんてあったんですか? アリマさん」
そう不思議そうに問うフラブが小首を傾げながら左横に居るアリマの方を見る。そのアリマは変わらずの灰色の着物と白い羽織物で肩辺りで軽く結んでいた。
「ないがアオイの要望だ。兄なら妹の頼みは聞くものだと昔にアオイに怒られた」
淡々としているアリマの言葉にフラブとタナカ呆れるような目でアオイの方を見た。そのアオイはメイド服から着替えて水色の着物に黄色い帯を着ていた。
そしてカケイは真っ白の着物に帯を着ていて短い後ろ髪を整えて1つに束ねている。誰よりも楽しそうに明るい表情を浮かべては目を輝かせていた。
そのカケイの左横にいるタナカは何か考えごとをしながらも黄緑色の着物に帯、濃い緑色の羽織物を着てポニーテールをしている。
「……まぁそれはええとして。どうやって行くん? 向こうはこっちを歓迎してくれるん?」
軽く腕を組みながら真剣に問うタナカだがアリマは微かに悲しそうな表情を浮かべた。
「大丈夫だ。そろそろ転移魔法を使うぞ」
そう淡々として言うアリマ表情を一つとして変えずに微かに俯いている。誰が見ても元気がないのかと思えるほどに気力が感じられない。
「ん! 早く行こーぜ!」
カケイはワクワク感を抑えきれずに目をキラキラ輝かせていた。そして次の瞬間、5人分の大きさの魔法陣がフラブ達の足元に現れる。
** ** * ** **
──瞬きをする間に颯爽と場所が変わり目の前に階段が現れた。後ろにも階段があって階段全体の中間地点くらいに転移していた。
そしてその直ぐ右横側に車椅子用の登り坂があって山なのに辺り左右にさえ魔物が一切見えない。
「フラブ君はあの坂を登れ」
淡々しながらもアリマは階段の横にある段差がない坂を指差す。
「わかりました」
魔動型の車椅子なので操作をしなくても魔力を通して動かす事ができる。そしてフラブは車椅子でゆっくり坂道に向かいながらも少し緊張していた。
「でもアリマ兄様もいるし……分家の人が殺しに来る可能性があるわよね? 直ぐ守れるようにしなきゃ」
少し憂いている表情でそう言ってアオイはフラブの後をついて行った。それを確認したアリマは階段を登り始めるが、タナカとカケイは足を止めたまま『殺しにくるかも』という言葉が引っかかっている。
「何で階段の途中に転移したん?」
しかしフラブたちも上っているため互いに目を合わせるとアリマを後をついていく。
「この上からはヨヤギの魔力阻害の結果が貼られている。結界内で魔法を行使する事は可能だが転移魔法で飛んだり、外からの奇襲は不可能だ」
「よく出来てますね、流石と言いますか……」
右側の坂を登ってるフラブが感心するような目でアリマの方を見てそう言った。
「過去に奇襲して来た馬鹿が居たからな。ちなみに其奴は君の父親だ」
「……え?」
「殺意は無かった、安心しろ。余と戦ってみたいと言って余が花に水をあげてる時、背後にいきなり転移魔法で飛んで来て殴られた」
「……お父様……」
そう頭を抱えながら前を向いて父親に対して呆れるような表情を浮かべた。
** ** * ** **
それから階段の登り終わりが見えた時。
1人の着物を着た185センチの長身の男が階段を登り終えた所で睨みながらアリマ達を出迎えた。
「久しぶりだな、当主様。アオイも居るのか」
そう言いながら階段上から睨んできた男性は水色のハーフアップで右目は微かに前髪で隠れていた。目の色は灰色。そして水色と灰色の着物、灰色の帯を着ている。そして左腰に鞘に納めている刀を置いていた。
微かにアリマは優しい表情を浮かべ臆せずゆっくりと階段を登りながらその男性を見上げた。
「アマネも余の弟だろう。何回言えば堅苦しい呼び方を止めてくれる」
その問いに水色の男性、アマネは答えず開いてる門の前から右手側に移動した。アリマは階段を登り終えて、タナカとカケイもアリマに続いて登り終える。
「アマネ兄様、久しぶりですね」
それに続いてアオイも坂を登り終えて、微かに優しい表情を浮かべているようにも見える。
そのアオイの言葉にアマネはゆっくり深く瞬きをしながら「ああ」と答えて言葉を続けた。
「確かに顔を合わせるのは久しぶりだな」
「まだ当主の座を狙っているのか? アマネ」
そう淡々として問うアリマは右側にいるアマネへと微かに優しい表情を向ける。しかしどうしても無表情には近いのだが喜びと嬉しさを抑えているように見えた。
「当たり前だ。俺は当主になって貴方よりと分家も統率して兄弟を守れると証明したい」
「あの……立ち話もここまでにしませんか?」
そう恐る恐る問うフラブにも嫌というほど歪な空気が伝わってくるが、敢えて水を差すようにアリマとアマネの方をみてそう言った。
──そのフラブの姿にアマネは一瞬だけ驚くような表情を見せるも直ぐに真剣な表情へと変わる。
「…………確かに刀を抜いた方が話が早い」
アマネは門の方を振り返って門の向う側に進みながらそう言うと、アリマの方を振り返りながら左腰にある刀の柄を右手で掴む。
「え……?」
そう溢すフラブはワケも分からず唖然とした。
──門の向こう側には老若男女関係なく、7人の使用人らしき人と3人のアリマの弟がアリマ達を出迎えていたからだ。
「久しいですね、アリマ兄様!」
紫色の着物を着た紫色の癖毛の140センチ程の身長の少年に近い青年の男はそう元気よく言いながらアリマに右手で軽く手を振っていて。
「6ヶ月ぶりの手合わせだ! なぁ当主殿!」
黒色の着物を着た灰色のショートマッシュの髪型に170センチ程の身長の青年の男はそう言いながら準備運動をしている。
「僕は戦えないよ……! 殺したくないからっ……」
青色の着物を着た薄い水色のアシメントリーの前髪のショートの髪型に160センチ程の身長の青年ほどの男はそう言いながら震えて怯えていた。
──だが全員が全員、鞘に収めた刀を腰に置いていて3人以外にも数えきれない沢山の人がアリマに対して敵意を向けていた。
「出迎えだけは一流だな。……面倒くさいから全員でかかって来なさい」
アリマは常に無表情で門の向う側の人全員に聞こえるように言い。直後、大勢が鞘に納めてる刀の柄を掴みながら襲いかかる様にアリマに向かって走り出した。その中で4人は同時に技や魔法を使う。
──刀術「一太刀」
アマネは左足を後ろに引いて姿勢を少し低くし、右で刀を勢い良く鞘から抜き。アリマに向かって斜めの斬撃で斬りかかり。
──毒殺魔法「霜斬り」
紫色の癖毛の男は空中に大量の小型ナイフ型の毒の塊を作り、右手をゆっくりアリマの方に向けてアリマに向かって一直線に毒を投げる。
──変造魔法「魔弾」
灰色のショートマッシュの男性は魔法を使って自身の刀を2つの散弾銃に変形しアリマに向かって発砲した。
──とっ、凍水魔法「滝凍流」
薄い水色のアシメントリーの男は右腕を上に上げて手のひらを上に翳し、空中に大きい水の渦を作り、勢い良くアリマの方に右手を振り下ろす。
「余の弟妹は全員、1段、2段の力は持ってる。アマネだけは4段だがな。アオイ、後ろの3人を守れ」
アリマは全員の技の発動を見ながらアオイに指示して風を左手に渦の様に集めて風の刀を作り。ーーアマネの斬撃、大量の小型ナイフ型の毒の塊、銃弾、大量の水が勢い良くアリマを目掛けて向かって来る。
薄い水色のアシメントリーの男の攻撃の水はアリマの5歩手前まで来ると鋭く尖った氷に変形した。
アリマは左手の風の刀を生成し右上へと余裕綽々と振り上げる。──鋭い風は全ての攻撃とぶつかり合い大きく毒の煙が発生した。
「まぁ余を殺す事に対しては未熟だが、及第点……にも届いてないな」
毒にも怯えることなくアリマは魔法を解除してゆっくり左手を元の位置に下ろす。毒煙は微かにフラブ達の所まで届いていたがアオイがフラブの前で地面に右膝をつけて地面に右手を置いて緑色の結界をアリマの後ろから横縦大きく貼っていた。
「何が……起こった……」
フラブは魔法同士のぶつかり合いに目を少し見開いて少しだけ冷や汗を流している。
すると毒の煙の中から勢い良くアリマに向けて刀を振り下ろすアマネが現れた。
直ぐに右手の素手でアマネの刀の刃を鷲掴んで止めるとアリマの人差し指から刃を伝って血が流れた。
「──流石だなッ!」
それでも容赦なく刀をアマネごと右側の勢い良く壁に叩きつける。
「──っ!」
アマネが強く壁に激突するが痛々しい悲鳴を上げる事は無かった。それからは攻撃が止んで視界を遮る毒の煙が徐々に晴れていった。
「此れで分家の監視はなくなるだろう。毎回思うが魔法まで使う必要があるとは思えない」
アリマの一言にアオイは地面から手を離してゆっくり立ち上がり緑色の壁が消えて行く。
「もう終わり。アリマ兄様が言ってる通りこれは分家の監視を掻い潜るための演技だもの。アツト兄様以外はね」
アオイは優しい表情でフラブとタナカとカケイの方を見ながらそう言いった。
「え……?」
訳も分からずフラブは困惑しながら小首を傾げてアオイに説明を求める。だがそのアオイは優しい表情を浮かべているだけで説明はなかった。
毒の煙が完全に晴れると使用人らしき人は居なくなっていた。アリマに対して魔法を放った3人がアリマの元に歩き出す。
「今回も完敗だ! 流石アリマ兄様!」
アリマから見て左側に位置する紫色の癖毛の髪の男性は頭の後ろで手を組んで歩きながらそう言い。それにアリマは無表情ながら少し優しい表情を浮かべていた。そして次に袖を通していない羽織物の内側から腕を組んで紫色の癖毛の男性、アキヒロの方を見る。
「否。アキヒロの毒も精度が上がっていた。相当練習したんだろう、凄かったぞ」
「それ程で……」
「そしてアツト。刀を最初から散弾銃に変形するなら刀を持つな。魔力の無駄だ」
冷静にもアリマはアキヒロの言葉を遮ってそう伝えながら灰色の髪の男性アツトの方を見る。
「でも散弾銃重いんですよ。肩凝って大変だから…」
アツトは面倒くさそうにアリマの方に歩きながらそう言うもアリマは冷たい目をアツトに向ける。
「魔力ゼロで死ぬとの比べて見ろ。それでも肩凝りを取るのか?」
「アリマ兄様がそう言うなら……」
微かに残念そうに言うアツトは外方を向きながら嫌そうにもアリマの前で立ち止まる。アリマは水色のアシメントリーの男性、アユについては何も言わなかった。そのアユもオドオドしながら無言でアリマの5歩前で立ち止まる。
そしてアリマから見て右の壁から土埃や壁の破片を払いながら頭から少し血が流れたアマネがアリマの方に歩き出した。
「当主様……流石に壁にぶつけなくてもいいだろ。俺だって殺意はないんだ」
「余とて弟を傷つける趣味はない。それにアマネ、余を当主と呼ぶのは良い加減止めろ」
圧ある声色でそう言うアリマは怒り気味でアマネを見てもアマネは何も言い返さない。
「ま、まぁ……ね? 怒らないで、アリマ兄様……?」
空気を戻そうとアユは恐る恐るにもアリマの方を見て微笑みながらそう言い。それにアキヒロも面倒くさそうにしながらもアリマの前で立ち止まる。
その光景に訳も分からず困惑したフラブはアリマの方を見て小首を傾げた。
「えーっと……仲良いんですか?」
「ああ。だからそう言っただろう。少なくとも敵対はしていない」
淡々とそう説明しながらアリマは冷静にもフラブの方を振り返る。それにもカケイは不思議に感じて小首を傾げながらアリマを見た。
「ん? じゃあ何で魔法で戦ってたんですか? 演技にしてはやっぱやり過ぎな気が……」
「まぁ恒例行事って思っといて。俺はアキヒロ! この兄弟の中で末っ子、六男! よろしくね」
優しい表情でアキヒロはそう言いカケイの前まで歩いてカケイに握手を求めるように右手を差し出す。それにカケイは表情が晴れて太陽のような笑顔でアキヒロの方を見た。
「ん! 俺ぁカケイ! よろしくな、アキヒロ!」
「流石やなぁ……フレンドリー過ぎるやろ。カケイ君」
タナカが呆れるようにも感心してカケイの方を見ながらそう言うと、何故かアツトは憧れるような眼差しをタナカに向ける。
「身長大きいな! 俺はアツトって言うんだ! 俺と仲良くしろ!」
そしてアツトは楽しそうに笑いながら、タナカの前で足を止めた。仲良くしろ、というのは友好を築く上であまりにも直球すぎる。ゆえにタナカは一瞬困惑したような顔をしたが、気を取り直してすぐに優しい笑みへと変わった。
「俺はタナカや。まぁよろしゅう……」
そんな光景を見て、目を見開くばかりのフラブは1人状況についていけていなかった。
── カケイとタナカさんがもう仲良くなってる……
そう心の中で節操感を覚えながら、再びタナカとカケイの方を交互に見る。あろうことか、もう既に会話が弾んでる。割り込む余地などどこにもない。
フラブはほとんど己の領地に居たせいで自分から話かける勇気も話題もないのだ。人との関わり方が明らかに未熟で、コミュニケーション能力があきからに欠如している。
その末にフラブは深く瞬きをして、無闇に行動を起こさないことを心に決めた。
「それならアキヒロ、アツト……カケイ君とタナカ君の家の案内を頼まれてくれるか?」
各々の話題も気にせず頼み事をするアリマのその一言で場はしん、と一瞬だけ静まり返った。しかしその静まりを気にする間は短く、すぐにアキヒロが笑みを交えながら口を開いた。
「良いよ、暇だし」
「俺も暫く暇だしな! だけど明日からは少し仕事がある! 明日は無理だぞ! ついて来い!」
アキヒロに続けて答えたアツトは楽しそうに後ろを向くと玄関の方に歩き出した。返事はともかく動いたのはアツトが1番乗りだったため、アキヒロも後ろをついて行く形になった。カケイは子供のように目をキラキラと輝かせ、小走りで2人の後を追う。そしてタナカはアリマに軽く一礼だけを残して、カケイの後を歩いた。
そして案内してくれた2人に大きな声で、
「ありがとう!」
と明るく感謝を述べるカケイを見て、タナカは子を見守る保護者のような優しい表情を浮かべた。
それを確認したアリマは次にフラブの方に目線をやった。しかしどうしてか、微かに困っているようにも見える。
「フラブ君……は余の側に……」
左手を顎に当てて考えるアリマは、フラブの扱いに対して本気で困っているようだ。その困り方が、フラブの心臓に更に針を刺してくる。実際、フラブはどうしたら良いのか分からず、とにかく微笑んでいる。
「俺が案内しよう。アユと話があるのでしょう」
困って無言で微笑んでいるフラブを見て、心情を察してくれたのか、アマネ優しくも真剣な表情でそう言ってくれた。
「だが……大丈夫か? もしまたフラブ君が……」
「俺では役不足か? 本家の兄弟の中では当主様の次には強い自信がある」
アマネはアリマの言葉を遮ってそう提言する。それにアリマは昔を思い出したかのように安心したような表情を浮かべた。
「……わかった。アマネに任せる」
その了承に、アマネは微かに嬉しそうに見える明るい表情へと変わって、フラブの方を向くなり優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。気を遣ってのことではない。少し歩きながら話そう」
「……は、はい。お願いします」
救世主とはまさにこのことか。フラブは緊張からか真剣な表情に変わり、車椅子を動かしてアマネと玄関の方に向かう。だがフラブの敬語にアマネは一瞬だけ驚いていたことにフラブは気づいていなかった。
それを確認したアリマは真剣な表情でゆっくり残されたアユの方を見る。
「それでアユ。久しぶりだな。まだ魔物とも戦うのが怖いのか?」
そのアリマの質問にアユは怯えるように、誰とも目線を合わさずに俯いている。
「こ、怖いよ……僕が……また奴が出て来たら……今度こそ兄様たちを殺して……」
震えた声でそう言うアユは自分に怯えているのか、オドオドしながらアリマの問いに答える。
「余が居る。故に一度出してみろ」
優しい声色でそう言うアリマはアユの頭を右手で優しく撫でた。
「……わ、わかった。死なないでね?」
アユがそう言った瞬間アユの空気がひりつくように冷たくて変わる。そして自身の頭を撫でているアリマの手首を左手で強く掴んだ。
「──ッ! 防がれたッ!?」
圧あるように問うアユは口調が一変し、アリマを強く睨みながら右手を自身の後ろに持っていき。右腕全体に黒い渦を出しては段々と黒さと大きさが増して行ってアリマの顔に勢い良く殴りかかる。ーーそれにアリマはアユの右拳を悠々と左に避けて即座に右拳でアユの腹部を手加減して軽く殴る。
「──っ!」
腹部を殴られたアユは目を見開き大量に吐血してアリマの方に凭れるように倒れた。アリマは拳を引っ込めてアユを優しく支える。
「……軽く3段くらいか。5段には遠く及ばない。アユのは完全に二重人格だな」
アリマが冷静に淡々と言うとアユは涙を流しながらもゆっくり体を起こした。
「……良かった……誰も殺してない……」
「余は強い。安心しろ。それより早くアリトのところに行こうか」
安心させるためかアリマは右手で手加減をするように優しくアユの頭を撫でる。それにアユは着物の袖で涙を拭いながらゆっくりアリマから離れた。
「は、はい。アリト兄様は今デザートを食べてると思うんですが……怒らないで下さいね……?」
アユは恐る恐るアリマを見てそう言うと。アリマは優しく微笑むが怒りが混ざっていた。
「ああ、早く行こう。深刻な病気持ちなのにデザートとは……少し話をしなければな」
「魔法で気配消してたのだけれど気づいてた? 私もアリト兄様の部屋に行くわ。久々に兄弟団欒よ」
突如としてアリマの右手側にいながら気配を消していたアオイが口を開いた。だがなぜかアリマはアオイの方を見るなり悔しそうにも暗い表情を浮かべている。
「アオイの気配を消す魔法……余ですら忘れていた……すまない。妹の存在を忘れるなど……」
「アリマ兄様とアユの話を聞きたくて気配を薄めてきたの。魔法なのだから褒めて欲しいわよ」
怒るようにもアオイは腰に手を当ててて呆れるような目でアリマを見る。
「──っそ、それよりっ! 僕のこと怖がらない? アオイ姉様……」
震えた声で問うアユは怯えるように手足を震わせながらもアオイの方を見る。それにアリマは更に申し訳なさそうな表情を浮かべては悔しそうに俯いた。
「確かに隠していたものだったな……すまない……」
「怖がらないわよ。ごめんね、アユ。それに可愛い弟を怖がるなんて可愛い姉失格でしょう?」
優しい声色でそう言うアオイはアリマを無視しながら見守るように優しい表情を浮かべた。それにアユにそれにアユは肩の力が下りて安心からの涙が頬を伝う。
「良かっ、良かった……僕っ、僕っ!」
アオイは優しい表情を浮かべながら泣いているアユを優しく抱きしめた。
「余は……妹を忘れて……弟の秘密も守れなかった……」
「さ、早く行きましょう」
そう言う落ち込むアリマをその場にいないと思うほどに無視してアオイは本邸の方を見る。




