第八話 化け物
フラブはナラミナの至近距離に入ると速度は落とさずにナラミナを上から斬りかかるが。それはナラミナの左手で刃物を直に鷲掴みされて止められ。ナラミナの左手から刃に血が伝った。
ナラミナは後ろに引っ込めていた右拳でフラブの顔を目掛けて殴りかかる。──それをフラブは瞬時にそれを右手側に頭を逸らして右拳を避けた。だがフラブの左頬に擦り傷がつく。
フラブは歯を食いしばり左手を握りしめ、下から上へナラミナの顎を狙って殴りかかる。だがナラミナはフラブの頬を掠った右手に短剣を出してフラブの背後から左肩に突き刺した。
「──っ!」
フラブは痛々しそうな表情で拳を止めて軽く悲鳴を上げるも、かなり深く刺されている。──フラブはせめて右手の短剣を回収しようとするが、ナラミナが深く強く捕まえており。フラブは短剣を手放し、左肩を刺してきたナラミナの右腕を捕まえる。
その頃、──観客席にいるタナカは真剣にも深刻そうな表情でフラブの方を見て立ち上がる。
「そろそろ助けに行った方がええな」
「まだだ」
アリマは表情を一つとして変えずにフラブを見ながら冷静にタナカにそう伝え。タナカは呆れるような溜め息を軽く吐きながら椅子に座る。
「だけど流石に気が引けるってもんだ!」
とカケイがアリマの方を見て怒って言うが、アリマは表情を一つとして変えない。
「余は無理だと判断したものはフラブ君には任せない。故にまだ動くな」
──その頃ナラミナがフラブの左肩に深く刺したナイフを勢い良く取る。
「──ッ!!」
痛々しそうな表情を浮かべるもナラミナは容赦無くフラブの腹部を正面から蹴った。
──それに後ろに飛ばされそうになるが2メートル付近で受け身をとる。そして地に足が着いた状態で自身の左肩を庇う様に右手で触りながらナラミナを強く睨みつけた。
その視線の先にいるナラミナはフラブの血が着いたナイフの創造魔法を解除して、フラブの愛用の短剣を右手に持つ。
「これが魔法や技量を測った階級の決定的な差よ。シラ・フラブ。投降したら楽に逝かせてあげるわ」
ナラミナにそう言われたがフラブは言葉が喉に詰まって反論が出来なかった。
─ 魔力量、魔法、武術、頭脳……全部において負けていたか……
フラブは悔しそうに考えるもナラミナを見る目は死んではいなかった。ナイフも向こうの手に渡ってる、魔力も無いから魔法も使えない、左肩がやられて思うように拳も振えない。
「だけどっ、私に、何もできない私だけど……二度の敗北だけは駄目なんだ……」
フラブは表情が暗くなり、歯を食いしばりながら息を切らしつつゆっくり立ち上がる。
だが治療を終えた茶髪の男の子と、傷が完治しているアオトもナラミナの横に立ち止まる。
「駄目……なんだよ……もう、皆んな私が護らないと……強くないと……」
──すると突如、フラブは魔力量が空腹のようにゼロにも関わらず何故か右腕全体に赤く燃え盛る炎が纏わりついた。同時にフラブは髪の下半分が黄色に変わり目の色がドス黒く濁って光を通さなくなる。
──明らかに誰が見ても『異質』。
「……どう言う事っ?」
ナラミナでさえ一瞬で笑みが消えて、驚きを隠せずとも警戒するようにフラブを見つめている。
──その頃、観客席にいるタナカは微かに冷や汗を流して背筋を凍らせた。
「なんや……急に。物凄い殺気がここまで来とる……」
冷たい殺意からカケイはタナカに捕まって、物凄い殺気に腕が震え怯えていた。
「……少し席を外す」
アリマは変わらず無表情で冷静にそう伝えるとゆっくり立ち上がる。
「え……今ですか?」
「妹に電話するだけだ。直ぐ戻る」
その頃、ーーフラブは冷たい何も映し出さない目でアオトの方を見ていた。
「っ炎魔法? どこまで似てるんだ……シラ・ミハに!」
アオトは冷や汗を流しながらフラブに魔法拳銃を2丁片手ずつ構えてフラブに銃口を向ける。
そのフラブは常に無表情でいて表情を変えずに処刑課3人の方へと歩き出した。
それを見たツヅヤは眉を顰めて瞬時に避ける様に左手側に走る。アオトはフラブから後ろに距離をとりながら躊躇いもなく5発撃つ。──ナラミナはアオトの邪魔にならない様に射線を避けて右側に一度逸れた。
だがフラブは銃弾を避けずに、掌を銃弾に向けて3発殴って燃やす。だが右目がほぼ見えていないため弾は2発だけフラブの胸を貫いた──。
それでも不気味に悲鳴さえ出さず痛々しい素振りさえなく動きが止まった。
その直後──フラブの身体中が電気に覆われる。
「マジで何が起こってんのよ……! 罪人!」
ナラミナは冷や汗を流してフラブを強く殺気を向けて睨んで右手を翳す。
──妖火魔法「狐炉火焔」!
瞬時にフラブを円型に囲う様に10匹の狐が現れたのだがフラブは避けない、避ける必要が無いからだ。
──狐が現れたと同時にフラブに覆われる電気の範囲が拡大し、狐10匹が瞬時に爆散した。
「──っえ? なんで? 魔法を壊すなんて、聞いたことが……」
弱々しい声を出すナラミナは驚きを隠せず大きく目を見開いて唖然とする。
そんなものも関係なくフラブは左腕を横に上げて左手をナラミナへと向けた。──すると瞬間にナラミナの全身に物凄い強さの電気が流れた。
「────ッ!」
地面に倒れるナラミナだが、死すらも覚えさせないかのようにフラブの頭上に大きい影が現れるが、フラブは避けずに堂々と立ち止まっている。
そして直前に右腕を上に上げて巨大なハンマーを手のひらで軽々と破壊した。信じられないものを見るようにツヅヤは大きく目を見開きながら地面に落下する。──だがフラブは存在ごと気にせずアオトの方に歩きだした。
その頃、ーー観客席にいるタナカは目を大きく見開いて呆然としながらも立ち上がる。
「どうなっとるん……? 夢でも見てんの?」
濃い霧の様に溢れ出る程の殺気にカケイは唖然とフラブを見つめて少しだけ冷や汗を流した。ーーするとアリマが部屋のドアから部屋に戻って来た。
「……状況は? 分かりやすく簡潔に」
ドアから部屋へと戻ってきたアリマがタナカの方を見ながら問う。
「分からんわ。暴走しとる……」
タナカはアリマの方を振り返らず、フラブの方を呆然と見ながらできる限り説明した。
「……そうか。説明は後でしよう」
微かに悲しそうにもアリマは淡々とそう言いながらフラブの方に歩き出す。
その頃、──アオトはフラブに8発の銃弾を撃つ。
だが全てフラブの体に当たる前に、纏われている電気で弾かれた。
「急になんなんだッ! お前は! シラ・フラブッ!」
声を荒げるアオトは怯えるようにに2歩退がり、フラブはゆっくりアオトの方へと歩いていく。
それでもアオトは歯を食いしばってフラブに銃弾を撃つ。──だがやはり何度やろうと電気で弾かれた。
すると背後から茶髪の男の子が普通サイズの魔法のハンマーをフラブの背中に打つも。フラブの周りについてる電気でハンマーが壊れ、怒りもなくフラブはツヅヤの方を右目だけ振り向いた。
「だからなんで僕のハンマーが壊れんの!?」
──直後、ツヅヤの全身が炎で燃えて悲鳴を上げる間もなくその場で地面に倒れた。
フラブは足が震えているアオトの目の前まで来ては右拳でアオトの左頬辺りを強く殴る。
その速度は常人には目に追えるはずもなくアオトごと殴った方向にある木が6本壊れた。
「…………」
それでも何も言わずに表情すら変えないフラブは気を失っているアオトの元へと歩く。
そしてアオトの目の前まで来て今度は左拳で殴りかかるがその拳はアオトの頬には届かなかった。
──左手側から来た者の左の掌よって軽々と受け止めたられたからだ。
常人では目に追える速度ではないにも関わらず受け止められた手には余裕が見える。
「フラブ君、意識は?」
アリマの受け止めた掌に電気からの煙が立ち上るが痛々しい素振りなどは一切無かった。
だがフラブは無視をするというより、元から聞こえてないかのように燃えてる右拳でアリマの顔を豪速球の速さで殴りかかった。
それをアリマは寸前で顔を右手側に避けるも、髪を結んでいた紐が切れて雑に解ける。
「……なさそうだな」
そしてアリマの後ろから着いて来たタナカとカケイは木々には入らず家の周辺で冷や汗を流した。
「アリマさんも化けもんやろ……なんで軽々と森の中に入れんねん……」
タナカとカケイはアリマに着いて来たは良いが、フラブの鋭い殺気が広範囲に漂い、その場からは一歩も動けなかった。
アリマは容赦なく右手でフラブの左手首を掴み自身の家の方向に強く投げる──。
それは常人にも天才にも目で追える速度では無く、アリマが投げて手を離した時からフラブは0.5秒の間には勢い良く2階の壁に衝突した。そこから物凄い量の壁の破片と共にフラブが地面に落下する。
そのフラブの方というより音の方をタナカとカケイは目で追う。
「嘘やろ……? 化け物かい、死んだんとちゃう?」
木々から家までの距離は凡そ5メートルは確認出来る。だがフラブは平然と落下地点からゆっくりと立ち上がって無表情でアリマの方を見た。
「否、まだだ。本当に手がかかる子だな、フラブ君」
アリマはそう言いながらカケイの横まで来て。カケイに自身の羽織物を優しく掛ける。
「電流や炎に巻き込まれて死にたくなければ其れを着とけ」
アリマは無表情でカケイにそう言いなが立ち上がってフラブの方を向く。
カケイはぶかぶかの羽織物を羽織るとタナカと一緒にフラブが居た木々の方へと距離をとった。
──フラブはアリマの方に勢い良く走って右拳でアリマの顔に殴りかかる。だがアリマは冷静にフラブに左手を翳した。
──花草魔法「花死拘束」
アリマが魔法を使うとフラブの足元の地面から綺麗な花が咲いている大きい茎が伸びる。瞬く間にフラブの体に沢山の茎が纏わりつき、空中に上げるように強く拘束した。それにフラブは必死に抵抗するも、植物の弱点である炎でさえ茎と花は焼けなかった。
「──190年ぶりだな、今の君と戦うのは」
アリマが無表情でそう言うと急に茎に電気が流れ、やっとの事で炎で燃えて無くなりフラブは地面に綺麗に着地する。そしてフラブは一つとして表情を変えずに右の掌を地面に向けて炎球を作る。
「莫大な量の魔力、答える気のない無視……と言うより意識すらないのだろう? だが君が余に勝つなど烏滸がましいと思わないか、フラブ君」
フラブは直系1メートルの火球を下で作ると、その火球に電流を混ぜる。熱々している火球が直系8メートル程の大きさにまで膨れ上がった
だがアリマはいつの間にかフラブの背後に回り、フラブの背中を右手で触る。
──それにフラブは瞬時に振り返ろうとするがその前にフラブは気を失ったかのように前方にパタリと倒れて魔法が解除される。
それを見たタナカとカケイは目を合わせるとアリマとフラブの方に向かい横で立ち止まった。
「どいういう魔法なん……?」
タナカは屈んでフラブの右手首の脈を測るが当然のように脈は動いている。
「身体中に電流を流して気絶させた」
簡潔に説明するアリマだが、それにカケイは羽織っている白い羽織物をアリマに渡しながら不思議そうに首を傾げた。
「フラブさんも電気、体に纏ってませんでした? 効くんですか?」
それをアリマは優しく丁寧に受け取ると暖かくフラブに軽く被せる。
「これが魔力と魔法の練度の差だ」
──10分後 アリマの家 室内 階段下の広い前
多々あり壊された部屋はアリマが魔法で修復して直した。──そしてナラミナ、ツヅヤが死亡。
生き残ったアオトだけは証人としてアリマが癒厄華を使い無傷の状態にして転移魔法を使った。
アリマは客室部屋のドアの前でフラブを左肩に担いで玄関の方を見ていた。玄関には女性がいてタナカとカケイはその女性を見ながらきょとんとしていた。
「ヨヤギ・アオイ! 年齢234歳、独身! 可愛い女の子が三度の飯より大好物です!」
決めポーズをとり大きい荷物を背負いながら大きい声で自己紹介した女性、アオイは水色のおさげヘアで身長は160センチくらい。そして何故かメイド服を着ていた。
「その服は……?」
そう不思議そうに問うアリマは表情を変えずに小首を傾げながらアオイを見る。
「趣味! そんな事はどうでも良いのよ!」
元気良くそう言いながらアオイは瞬きをする間に靴を脱いで家の中へと足を踏み入れた。
「問題なのは1つ! アリマ兄様! フラブちゃんに乱暴して無いでしょうね!?」
そう言いながらアリマの一歩手前まで来てアリマを強く睨んだあと。
「あんたたちもよ!」
タナカとカケイを敵意を丸出しで強く睨みつけながら威圧する。その敵意と伝わる怒りににタナカの背筋が微かに凍り、微かに肩が上がった。
「余が野蛮な人間に見えるのか?」
アリマの問いにアオイは瞬時にアリマの方を見ながら右腕を曲げて右手の人差し指と親指をピンと立ててアリマを微かに睨む。
「見えないわ! アリマ兄様は昔使用人に色仕掛けされた時も存在ごと無視してたもの!」
「では……」
「アリマ兄様に質問したのは、フラブちゃんに暴力振るって無いわよねって質問よ!」
「してないが……」
勢いのあまりアリマでさえ気負けして、アオイはタナカとカケイを強く睨みつける。
「あんたたちは!?」
「してへん。アリマさん説明を……」
「なんだ? 友達に暴力振るうなら俺が倒してやる!」
困惑しているタナカはアリマの方を見ながアリマに助けを求めて、カケイはあまり状況が理解しておらずアオイに拳を構えていた。
「ふん! なら良いのよ! アリマ兄様、フラブちゃんは私が持つわ。担ぐなんて女の子には乱暴よ!」
常に何を考えているのか分からないアリマだが意識が無いフラブをゆっくりアオイに渡す。
「部屋に案内……アリマ兄様の事よ、多分この子に1人用の部屋は無いわよね?」
深刻そうに問うアオイはフラブの背中に腕を回してお姫様抱っこをしながらアリマの方を見る。
「無い、が。余の部屋を空けるか?」
「そうして頂戴、でも安心して。私は夜はフラブちゃんと寝るから私の部屋は良いわ」
「なら着いて来い」
アリマはそう言って2階に進み、アオイはアリマの後をついて行った。
アリマの自室は簡素な一室で、ドアから見て左奥にベッドがある。そして右手側の壁には本棚があってびっしり本が収納されている。真正面、ベッドの横にガラス扉があってドア側の壁には時計があり針は12時30分を示していた。
「洗濯なら今朝終わらせた。だから心配は……」
「お礼を言っとくわ。ありがとう、アリマ兄様。私を頼って、部屋まで使わせてくれて。少なくとも仕事はあるけれど……あの本邸は退屈だもの」
アオイは真剣な表情でアリマを見上げながらお礼を言うと再びフラブの方を見る。
「余の知り合いに女性で君以外に頼れる者は居ないからな。仕方なかったんだ」
「その一言で全部台無しよ。フラブちゃん、傷だらけ……直ぐ処置をしないと」
微かに険しい表情を見せる。それにアリマは冷静にも収納魔法を使い、魔法陣に左手を入れて救急セットを取り出した。同時に魔法陣は初めから無かったかのように消える。
「此れを使え。──あのフラブ君の傷を余が『癒厄華で肩代わり』したら余に倍になって肩代わりされる」
「ありがと……アリマ兄様の寝床は?」
アオイは感謝をしながら救急セットを受け取り不安そうにアリマの方を見る。
「余は昨日3時間寝た、故にあと1ヶ月は寝なくても平気だ」
アリマが平然に言うとアオイは心配そうな目でアリマを見る。
「アリマ兄様は……もう少し気持ちを前に出しなさい」
少し悲しそうにアオイはそう言い。何かを思い出してポケットに入れていた手紙を取り出す。
「アリト兄様からの伝言よ。『自分を優先して大切にして下さい、兄様。私は優しい兄様が病弱の私より先に逝く事を許しません』だって。アリト兄様が長くて400歳までしか生きられないのは知ってるわよね?」
アリマは無表情ながら微かに深刻そうな表情を浮かべで俯いた。
「知っている、当たり前だろう。余の双子の弟だからな。それより今は意識が無いフラブ君の手当てと世話役を頼むぞ、アオイ」
アリマはそう言いながら、アオイの返事を待たずしてドアから部屋を出た。
「……昔から変わらないわね。アリマ兄様」
アオイは悲しそうな表情を浮かべながらフラブを一度地面に降ろして大きい荷物を開ける。その大きい荷物にはフラブ用の衣服やタオルが入っていた。
「にしてもフラブちゃん、可愛いわ……」
アオイは目をキラキラ輝かせて右手でフラブの頬を優しく触る。
そしてアリマは部屋を出て階段を降り始めた。すると階段下で座って話してるタナカとカケイが居て、タナカとカケイがアリマの方を振り向く。
「アオイは余の妹だ。念には念をでフラブ君が戦ってる時に通信機で呼んだ。意識がないフラブ君の世話をしてくれる」
「そうですか、大体わかりました」
タナカはアリマの方を見ながら頷き、タナカの右横に座っているカケイが口を開く。
「フラブさんはいつ目ぇ覚ますんですか?」
カケイはアリマを見て真剣な表情で問うも、タナカは疑うような目つきでアリマを睨む。
「ちゃうやろ、アリマさんはフラブさんのあの状態を知っとったんやろ? 何でなる前に止めへんねん」
「確認をしたかったんだ。190年前、処刑課にフラブ君の家族が殺されたのは知っているか?」
少し悲しそうにも見えるアリマは階段をゆっくり降りながら淡々と冷静にタナカに問う。
「知っとる、あんたが説明しとった」
「だがその処刑課を殺したのは誰だと思う?」
その問いにタナカは何かを察したように少しだけ目を見開く。
「フラブ君だ。彼女は190年前、7歳だから非力だし魔法を使えるワケが無い。そしてフラブ君はその時のことを一切、記憶に残ってない」
アリマは少しだけ俯いて悲しそうな表情を浮かべて言葉を続ける。
「余は幼くも暴走したフラブ君を止めた。フラブ君は余が処刑課の人間を殺したと勘違いしているがな」
そしてそう言いながら階段を降り終えて、タナカの左斜め前で立ち止まる。
「待って下さい、それならフラブさんは二重人格なんですか?」
タナカは冷静に真剣な表情でアリマを見て問う。
「否。あれは二重人格と呼ぶには拙くドス黒過ぎている。あれもフラブ君そのものであり、推測すると何かがトリガーとなって出て来てる」
淡々とアリマは深刻そうな表情をしながら少し俯きなかまらタナカとカケイに説明する。
「だからヨヤギさん……俺とフラブさんが処刑課と戦ってる時、フラブさんが力尽きるのを待ってたって……」
アリマはその問いに「ああ」と単調に答えながら軽く頷いた。
「それに厄介なのは自分や親の魔力も得意魔法も倍以上の量と威力にして使ってくる。詳細が分からない以上、底が見えないことが怖いんだ」
カケイはその話に呆然としてアリマ方を見る。
「ほんまかいな。……聞いた事あらへん、そんなもん。でも否定出来んわ、俺ですらアレを前にして怯えてたんよ」
「……余が本邸に帰るのにフラブ君を連れて行こうとしたのは見張る為だった。180年前は兎も角、処刑課に指名手配されたフラブ君が、余の留守の時にアレになれば其れこそ最悪な状況に成りかねない」
アリマは腕を組んで少しだけ暗い表情を浮かべて俯いている。
「じゃあ、俺も強くならねぇとだな! 友達が困ってんだ、手放す訳にはいかねぇよ!」
アリマやタナカとは対にカケイは太陽の様な笑顔でそう言い。それにタナカとアリマがカケイの方をみて少しだけ目を見開いた。
「ん? んでそんな驚いてんだ?」
カケイは不思議そうにして小首を傾げる。
「そうかそうか、確かに友達やな。カケイ君の友達は俺の友達でもある、やったら俺も頑張らな」
タナカは笑いながらもアリマの方を見て「な?」と問い、それにアリマは軽く頷いた。
「まだアレが存在すると確信した以上、アレの詳細が分かるまでフラブ君は常に余の側に置く。それが被害を最小限にする最善だ」
「それやとフラブさんに好きな人が出来たらどうするん? 女の子やろ?」
「……其れ迄に理解したい所だが、その者が6段以上のなら余は関与しない」
「フラブさんが好きなのは俺だ! だって友達だからな! 任せとけ!」
そう元気良く言うカケイはあまり意味がわかってなく太陽のような笑顔でアリマの方を見る。
「カケイ君は癒しやなぁ、な? アリマさん」
タナカは微笑みながらカケイの頭を優しく撫でる。
「ああ。昼ご飯なら多めに作り置きしてるから台所が有る部屋の冷蔵庫にある物を勝手に食べておけ」
アリマは右側の廊下の奥にある台所を指差す。
「マジか……凄いなぁ、アリマさん」
「な! 行こうぜ、タナカ!」
カケイは立ち上がり、台所の部屋に向いながらタナカの左腕を引く。タナカはカケイに引かれながら立ち上がり、その部屋に向かった。




