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放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ
第六章 静岡県伊豆市
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第四話 悪夢

 

 毎晩、同じ夢にうなされて飛び起きる。


 本人は別に大したことではないと言いたげだが、兼嗣からすればそれはどう考えても異常事態だった。


「毎日同じ夢を見るんですか? その、夢の内容っていうのは一体どういう……」


「殺される夢」


 妃頼はきっぱりと、まるで何でもないことのように言った。


 問題児の口から発せられた物騒なワードに、兼嗣は目を細める。


「殺される夢、ですか? それを毎晩?」


「そ。侍みたいな人たちがいっぱい来て、あたしを殺すの。刀とか、薙刀(なぎなた)みたいな物を持ってね」


 侍に殺される。

 まるで時代劇のワンシーンのようでもあるが、


「それは……。そういう夢を毎晩見るっていうのは、さすがに珍しいんとちゃいますか? 家島さんは、それで怖くなったり不安になったりはしないんですか?」


 自分が殺される夢を見る。

 それも同じ内容のものを毎日。


 さすがに普通ではない。

 何か精神的に追い詰められているか、あるいは呪いの力が働いているとしか思えない。


 しかし彼女は、


「怖くなんかないし!」


 と、急にムキになって声を荒げた。


 これには兼嗣も驚いて、思わず目を丸くして彼女を見つめ返す。

 すると彼女はハッと我に返ったように、どこか気まずそうに視線を逸らして続けた。


「……別に、怖くなんかないよ。そりゃ、殺される瞬間はびっくりするけどさ。でも、怖いとか不安とか、そういうのはないよ。この夢はそういうものだってわかってるし」


 そんなものだろうか。


 たとえ夢でも、自分が死ぬ瞬間を何度も味わうなど、けして気持ちの良いものではないだろう。


 それに、先ほどの彼女の反応。


 怖くない、と頑なに主張する彼女の態度は、どこか強がっているだけのようにも見える。

 心の底からそう思っているというよりは、そうであると自分自身に言い聞かせるかのような。


「本当に、何とも思ってないんですか? あいにく、私にはそうは見えへんのですが」


「だから問題ないって言ってるでしょ。おじさん、しつこい」


「おじ……」


 毎晩同じ悪夢を見るなど、怪異以外の何ものでもない。

 それも自分が死んでしまう場面を何度も目の当たりにすることになるのだ。


 それを怖くない、と意地でも言い張る彼女の姿を見て、兼嗣はある仮説を立てる。


(もしかしてこの子は、うっすらと希死念慮があるんか?)


 ふと、そんなことを思った。


 自分が死ぬことを、うっすらと望んでいる。

 けれどそれを実行に移すほどの決意はまだない。

 そんな彼女の深層心理が夢という形で表れているのではないだろうか。


 そこへさらに呪いの力が加わって、毎晩のように悪夢を見る結果となってしまっているのかもしれない。

 

 だとすれば、今はまだ生死の狭間で揺れている彼女の心を、呪いの力が後押ししている可能性がある。


 このまま放置すれば、彼女の心はいずれ自らの呪詛に飲み込まれてしまうかもしれない。


「とにかく、あたしは問題ないから。ママから何言われたか知らないけど、これ以上関わってこないで。せっかくの聖地巡礼が台無しになるし」


「あ。待ってください。家島さん!」


 兼嗣の呼び止めも無視して、彼女は再びスロープを渡って元の道へ戻っていった。


「……『聖地巡礼』、か」


 その場に一人残された兼嗣は、彼女が最後に放った言葉を反芻(はんすう)する。


 どうやらこの修善寺という観光地は、何かの聖地でもあるらしい。


 精神的に不安定な問題児が、わざわざ遠出してまでやってきた場所。

 そこに何か意味があるのではないかと、兼嗣は睨む。


 この場所が何の聖地であるのかがわかれば、彼女の動機も見えてくるかもしれない。


「とりあえず、璃子ちゃんに連絡やな」


 スマホを操作して璃子に電話をかける。

 情報収集が得意な彼女なら、きっとすぐに答えをくれるだろうと思った。

 

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