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放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ@新刊2月中旬発売!
第五章 オーストラリア QLD ブリスベン
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第九話 アボリジナルの伝承

 

 土産物屋の入口から、二十代半ばほどの女性がこちらに熱い視線を送っていた。


「あらぁ。お兄さんイケメンね! よかったらうちの店でお土産を見ていかない?」


 流暢な日本語を話しているところを見ると、どうやら日本人らしい。肌の露出が多いカラフルな服を身にまとった彼女は、天満の腕に絡みついてぐいぐい店の方へと引っ張っていく。


「あ、いや。悪いけど今は時間がなくて」


「うーん、近くで見るとますますイケメン。お兄さん、もしかしてモデルさんか何か?」


 強引な彼女はこちらの話を全く聞かずにマシンガントークを続ける。グロスが光る口元からはアルコールのにおいがするが、まさか酒を飲んで店番をしているのだろうか。


「こんな異国の地にまで来て着物を着てるなんて、お兄さん結構目立ちたがり屋でしょ? うちの店は奇抜な商品も置いてるから、きっと気に入ると思うよ」


「いや、別に目立ちたいとかそういうつもりじゃないんだけど……」


 この格好は別に人目を引くためのものではなく、かつて憧れの人がいつも和装だったからそれに倣って……という弁明も彼女のマシンガントークにかき消されてしまう。


 その後も途切れることなく続く彼女の話を聞いていると、どうやら彼女はワーキングホリデーでこの国へ来ているらしい。

 ワーキングホリデーというのは、海外に滞在しながら就労もできるビザ制度のことである。主に十代後半から三十歳程度の若年層に対して国が適用するもので、申請の条件などもあったはずだが、酒気帯びで仕事をするような人間でも問題はないのだろうか?


「ほら、こんなのとかどう? アボリジナルのブーメラン! 模様のデザインも独特で刺激的でしょ?」


 言いながら、彼女は壁に飾られた木製のブーメランを指差す。長さが四十センチ程ある()()()型で、表面には無数の点で描かれたイラストがある。これはドット・ペインティングと呼ばれる技法で、オーストラリアの先住民・アボリジナルの伝統的なアートである。


「最近は例の怪物のニュースもあったし、タイムリーでしょ。せっかくだから一つ買っていかない?」


「……怪物?」


 それまで女性のマシンガントークを流し聞きしていた天満だったが、彼女の発した『怪物』というワードに意識が向く。


「あら、知らないの? ほら、アボリジナルの伝承に出てくる怪物。『バニヤップ』だっけ? なんかUMAっぽい扱いなんだけど、最近サウスバンクの方で目撃情報があったらしいよ」


 ほらこれ、と女性は近くの棚にあった本を手に取り、ページを開いて天満に見せる。

 挿絵としてそこにプリントされていたのは、水辺から這い上がってくる恐竜のような生き物だった。牛のような胴体に太く長い尻尾、尖った耳と鋭い牙を持ち、獰猛そうな目で獲物をまっすぐに睨んでいる。


「水辺の怪物……」


 天満は思わず呟いていた。


「まあ、さすがに本当に存在するとは思わないけどね。でも、アボリジナルの呪いとか、今でもたまに話題になるし。エアーズ・ロックの登山だって、最近は禁止されたでしょ。あれはアボリジナルにとって神聖な場所だからって。そうやって先住民の文化も見直されてる今だからこそ、こういうお土産にも価値が出てきてると思うの。ってことで、ブーメラン買っていかない?」


 酒に酔っても商売っ気は抜かりない彼女に、天満は感服した。と同時に、貴重な情報を提供してくれたことに心から礼を言う。


「ありがとう。でもさすがにブーメランは邪魔になるからいらない。代わりにこの本を売ってくれる?」


「まいどありー!」


 天満が購入を決めたところでやっと、彼女はそれまでしがみついていた腕を放した。

 

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