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放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ@「京都先斗町のあやかし案内人」発売中!
第五章 オーストラリア QLD ブリスベン
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第七話 水

 

 天満は応答ボタンを押すと、不機嫌さを隠しもせずに言う。


「何だよ。いま忙しいのに」


「追加情報です」


 璃子は怯む様子もなく淡々と答える。

 何か新しい情報が入ったらしい。これを聞かない手はないので、天満も大人しく耳を傾ける。例のホストファミリーのことで何かわかったのだろうか、と期待していると、


「坂上豪がオーストラリアに来るのはこれが二度目だそうです。一度目は幼少期に家族旅行で来たことがあるそうで」


 そんな予想外の返答に、天満は思わずコケそうになった。


「……追加情報って、それだけか? あいつの旅行が何回目だとか、そんなことはどうだっていいんだが」


「どんな些細な情報でも、思わぬ結果に繋がることだってあるでしょう。それに、入手したのはこれだけではありません」


「例のホストファミリーから何か聞き出せたのか?」


「もちろんです。親類縁者の情報網を舐めないでください」


 そう言って、彼女は坂上青年がホームステイ先を変更することになった経緯を語り始めた。それによると、どうやら非があるのは全面的に坂上青年の方らしい。


「鏡を割ったそうですよ。家の中にあった鏡を、拳を叩きつけて砕いてしまったそうです」


「鏡?」


 今から三週間ほど前のことである。それまで特にこれといった問題行動を起こさなかった坂上青年が、ある日突然、狂ったように悲鳴を上げて暴れたのだという。


「当時は坂上豪とホストファミリーの他に、家の中には誰もいなかったそうです。けれど、坂上豪はしきりに、家の中にモンスターがいると叫んでいたそうなんです」


「モンスター……ね」


 坂上青年が家の中で見たという怪物(モンスター)。おそらくは先ほど大学内のトイレで目撃したものと同じだろう。


「……うわッ!」


 と、天満が電話の声に集中している間に、坂上青年がまたしても短い悲鳴を上げた。

 見ると、彼はショッピングモールの一角に設置された水槽を凝視していた。砂と岩とが敷き詰められた長方形の枠の中で、色鮮やかな魚たちが優雅に泳いでいる。その様子を、恐怖に見開いた目で彼が見つめている。


「Goh, are you OK?(大丈夫か、豪)」


 すかさず、隣のソフトモヒカンが声をかける。半ば放心していた坂上青年は、その声でやっと我に返ったようだった。


 また、何かが見えたのだろうか。

 大学ではトイレで、そして今度は水槽の前で。三週間前には、ホストファミリーの家のどこかで。


(鏡のある場所……もしかして、洗面所か?)


 彼が怪物(モンスター)を目撃した場所。そこに何か共通点があるとすれば、


「……水か?」


 トイレも、水槽も、洗面所も、どれもが水に関係する場所である。


 水を介して、この世に現れる怪物。

 あと少しで何かが掴めそうだと、天満は己の勘に手応えを感じていた。

 

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