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放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ@「京都先斗町のあやかし案内人」発売中!
第五章 オーストラリア QLD ブリスベン
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第二話 グリフィス大学

 

          ◯



 永久(ながひさ)天満(てんま)は探偵業を生業にしている……わけではない。

 ついでに言えば探偵でも何でもない。しかし表向きは探偵であるフリをしなければならない。というよりも、そういうことにしておいた方が何かと都合が良いのである。


「さあて。今回の問題児とはどうやって接触しようかなっと」


 璃子から送られてきたプロフィールをしげしげと眺めながら、バスに乗って南を目指す。都市部を囲む川を渡り切ると、道は住宅街へと入っていく。


 写真に写っていたのは一人の男子大学生だった。マッシュヘアに涼しげな目元の青年で、片耳にピアスをしている。語学留学のために日本からこちらに来ているようで、名前は坂上(さかがみ)(ごう)というらしい。


(留学生か。となると、問題が発生したのは日本を離れてからってことか?)


 バスは坂道に差し掛かると、小高い丘をぐるぐると登っていく。やがて五分ほどで見えてきたのは、丘の上に建つ広々としたキャンパスだった。


 グリフィス大学ネイサン校。坂上青年が通う英語学校である。在校生は一万人以上、そのうち留学生は二千人ほど。

 老若男女、多国籍の生徒が集うその場所では、天満のような日本人が着流し姿で歩いていても何ら不思議ではない。おかげで学校の関係者でも何でもない彼が敷地内へ足を踏み入れたところで、警備員に止められたりする心配は一切なかった。


 時刻は午前十一時。どうやらちょうど昼休みが始まったようで、あちこちの教室から学生がぞろぞろと出てくる。学内にあるカフェのテラス席は一瞬で埋まり、独特な(なま)りのある英語が辺りで飛び交い始める。


「うーん。意外と東洋系の留学生が多いなぁ。これは見つけ出すのも一苦労かもねぇ」


 周囲を見渡しながら、天満は唸る。外国人だらけの中に紛れた日本人を捜し出すのはそれほど難しくないと考えていたが、同じ東洋系である中国人や韓国人の数が想像以上に多い。パッと見ただけでは日本人と区別がつかない留学生が大量にいるので、これは骨が折れそうだと肩をすくめる。


 とりあえず、しらみつぶしに捜すしかない。ついでにオーストラリア名物・ミートパイが売っている店があればちょっと寄っていこうかな、と腹の虫が鳴り始めたところで、


「Hey, Goh! Look! That bird is so big! Haha!(おい、豪。見ろよ! あの鳥でかいぞ!)」


 豪、という名前がピンポイントに耳に飛び込んできて、天満はすかさず声のした方を見る。

 するとそこには、二十歳くらいの東洋人男性が二人、道の脇にあるベンチで仲良く腰を落ち着けていた。


 声の主はソフトモヒカンの髪と陽気なオーラを持つ青年で、英語の訛り方からすると日本人ではなさそうだった。

 対する隣の青年は、マッシュヘアに涼しげな目元。片耳には見覚えのあるピアスと、一目であの写真の人物と合致する。


(ありゃ。意外とあっさり見つかったなぁ)


 坂上豪、その人である。

 天満は内心ほっと胸を撫で下ろし、それとなく彼らの方へ歩み寄った。さすがにいきなり声を掛けると怪しまれそうなので、スマホを見るフリをしながら隣のベンチに腰掛けて様子を窺う。


 二人の青年は楽しげに談笑しながら、数メートル先に降り立った一羽の鳥を見ていた。黒く長い(くちばし)に白い羽毛を持つオーストラリアの野鳥・クロトキである。隣の青年が先ほど言っていた通り、その体長はかなり大きい。


 鳥に限らず、虫や他の野生動物、野菜や果物など、この国のあらゆるもののサイズ感は日本のそれよりも大きなものが多い。

 ソフトモヒカンの青年はそのスケール感を心底楽しんでいる様子だったが、件の問題児の方はどちらかというと、目の前の鳥の迫力に若干引いているようだった。

 

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