表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/124

第十三話 永遠

 

 彼女と二人で、永遠の時を過ごせる。

 なんて甘い響きなのだろうと、天満はその未来を想像する。


「右京さんと、一緒に……」


「そうだ。お前もそろそろ疲れただろう? 永久家の呪いは、その血が絶えない限り未来永劫続いていく。いくら呪詛返しを行ってその場を凌いだところで、根本的な解決にはならない。馬鹿馬鹿しいとは思わないか? ここにいれば、そんな面倒なことはしなくていいんだ。だから天満。私と一緒に、ここに留まらないか?」


 右京は細い両腕を天満の背中に回して、優しく、けれど力強く抱きしめる。

 あたたかい、彼女の温もり。

 このままずっとこうしていたい、と思う。けれど、現実はそれほど甘いものではないということを天満は知っている。


「……あーあ。これが本物の右京さんだったらどんなに良かったか。でもまあ、あの人がこんなこと言うわけないしねぇ」


 はぁ、と溜息を吐きながら、天満は苦笑して彼女の両肩を掴み、ぐいと引き剥がす。


「天満? どうしたんだ?」


 無理やり抱擁を解かれて、右京は目を丸くする。


「一瞬でも騙された自分が恥ずかしいよ。本物の右京さんはそんなこと言わない。呪詛返しの旅が馬鹿馬鹿しいとか、血縁者の人生そのものを否定するようなこと、あの人が言うはずないもんな」


 掴んでいた肩を軽く突き飛ばすと、彼女はバランスを崩して後ろへよろける。そうして固い石畳の上へ倒れ込もうとした瞬間、まるで水が蒸発するようにして姿を消してしまった。


「やはりお前には効かないか」


 どこからともなく、しわがれた声が届く。天満が辺りを見回すと、先ほど通ってきた鳥居の下に一人の老人が立っていた。

 焦茶色の着物に身を包み、杖を突いた禿頭の男性。伸び放題の顎髭は白く、深いシワの刻まれた口元はへの字に曲がっている。

 その顔を見て、天満はにやりと笑みを浮かべた。


「やっと顔を見せたな、爺さん」


 永久時治。(いかめ)しく眉根を寄せた鋭い眼光の奥には、本家特有の色素の薄い瞳が覗く。


「三男坊の天満、か。お前は強い子だと、右京も言っていたな」


「さっきの右京さんの幻は、あんたが創り出したのか?」


 天満が物怖じせずに聞くと、老人は手にした杖を突きながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


「左様。あれしきの幻を見破れぬようなら、生かしておく価値もないと思ったが」


「ほんと趣味が悪いねえ。さすがは一族全員で心中しようなんて考える頭の持ち主だ。それで、兼嗣や他のみんなの魂はどこへやったんだ?」


 老人は天満の数メートル手前で歩みを止めると、懐から何やら白い物体を取り出してみせた。手のひらサイズの、ボールのようなもの。つるりとした表面は光沢を持っている。


「皆の魂はこの玉の中に封じ込めてある。解放したくば、(わし)の呪いの源を探し当てることだな」


「呪いの源……。呪いの発生原因を突き止めろってことか」


 いつもの呪詛返しの流れである。『問題児』が呪いを生み出した決定打を見極めることができれば、あの玉に閉じ込められている血縁者の魂を救うことができる。


「やってやろうじゃないか。あんたがなぜ一族全員に呪いをかけたのか、その謎を必ず暴いてやる」


「ふん。何も知らない小童(こわっぱ)が、生意気なことを言いよる。これだからあの娘も……右京も所詮は無駄死にだったというのだ」


 その発言に、天満はぷつりと自分の中で何かが切れるのを感じた。


「……無駄死にだと?」


 無意識のうちに、顔から表情が消える。


「まことに哀れな娘よ。一族がそろって無知であるがゆえに、全く無意味な死を迎えることになろうとは」


「撤回しろ。その言葉、彼女を侮辱しているにも程がある」


「侮辱しているのはどちらだ。何も知らないくせに、知った気になりおって」


 老人はツバを飛ばしながら吐き捨てるように言った。


「冥土の土産に教えてやる。お前たちがどれだけ無知で、盲目で、仮初の平穏に生きてきたか。目に見えるものだけが、この世の全てだと思うな。その思い上がりを、あの世で恥じるがいい」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ