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第二話 出雲そば

 

          ◯



 兼嗣の到着は夕方になるとのことで、暇を持て余した天満は当初の予定通り出雲大社周辺を散策する。

 駅舎を出て目の前の大通りに立つと、南を向けば 宇迦橋(うがばし)の大鳥居。北を向けば、緩やかな坂を登った先に出雲大社の正門が見える。


「とりあえずは腹ごしらえかねぇ」


 大通りの左右には蕎麦処や甘味処などが並び、店の前に立つ(のぼり)には『出雲そば』の文字が目立つ。

 

「出雲といえば出雲そば。これを食わずして何とやらってね」


 天満は迷うことなく近くの蕎麦処の暖簾を潜る。昼時とあってテーブルはそこそこ埋まっていた。なんとか窓際の席を確保し、三色割子(わりご)そばを注文する。

 ほどなくして運ばれてきたのは、三つの椀に分けられた冷たい蕎麦だった。それぞれ薬味とともに温泉卵、とろろ、揚げ玉と、別々のトッピングが載っている。

 さていただこう、と手を合わせたとき、出鼻を挫くようにスマホが振動した。見ると、先ほど兼嗣の言っていたデータとやらが届いたようだった。


「はいはい。永久家の責務は忘れてませんよっと」


 渋々データを開くと、そこには一人の老人のプロフィールが記されていた。添付された写真はカラーではあるが色褪せており、かなり古いものであることが窺える。その下に書かれた氏名は、『永久時治(ときじ)』とあった。


「永久……ってことは、本家と近い血筋か?」


 永久時治。どこかで聞いたことがある気もするな、と頭を巡らせながら、ずるずると蕎麦をすする。風味豊かな香りが鼻を抜けていく。


 ——まだ詳しいことはわからん。けど、一つだけ心当たりはある。


 先ほど兼嗣が口にした言葉が脳裏で蘇る。


 ——巻き込まれた被害者の数がこれだけ多いってことは、今回の呪いはおそらく事故で起こったことやなくて、故意的に行われたものや。誰かが、俺たちに呪いをかけてるんや。


 彼の言う通り、今回のことが本当に事故ではなく誰かの意思によって行われたものだとすれば、一体誰が、なぜ呪いをかけたのか。


 ——こんなことができる人間は、俺の知る限り一人しかおらん。


 誰がなぜ、という謎のうち、誰がという部分はわかっているらしい。おそらくは今データで送られてきたこの老人がそうなのだろう。


「永久時治、時治……。誰だったかなぁ」


 温泉卵をつるりと口に含んで咀嚼(そしゃく)しながら、スマホの画面をスクロールしていく。すると、そこに書かれていた老人の経歴とともに、天満自身との繋がりがやっと判明した。


(ああ、そうか)


 どこかで聞いた名前だとは思っていたが、ついにその正体に気づく。


「永久時治。……ひい(じい)ちゃんの弟か」


 天満にとっての曽祖叔父(そうそしゃくふ)。それが、今回の『問題児』の正体だった。

 

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