表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ
第四章 島根県出雲市
48/124

第一話 一畑電車

 

 一見して海と見紛うほどの広大な湖の側を、二両編成の列車が走っていく。青く澄み渡る秋空の下、線路脇ではコスモスの花たちが風に揺れている。


「はぁー。やっぱり良いねぇ、一畑(いちばた)電車。窓から見える宍道湖(しんじこ)の景色と、尻が浮くぐらい揺れる車体がクセになる」


 ガタゴトと地震並みに揺れる車内で、横長の椅子に身を任せているのは二十代半ばほどの優男だった。薄墨色の着流しに濃紺の羽織。彫りの深い顔立ちに色素の薄い瞳。ほのかに異国の血を思わせるその容姿は、周囲の乗客、特に女性客の注目の的である。


「あっだーん! あの人イケメンだがや」

「モデルさんかね?」

「肌も白いけん、ハーフかね」


 にわかに黄色い声が上がり始めるが、当の本人は特に気にした様子もなく車窓を眺めている。空席が目立つ椅子の上には『しまねっこ』というゆるキャラのぬいぐるみがぽつんと置いてあり、男はその隣に腰を落ち着けてたまに頭を撫でていた。


「お」


 と、不意にスマホが振動して着信を知らせる。男が羽織の袂から取り出して見ると、画面には『璃子(りこ)』の文字が表示されていた。

 さすがにいま出ると周りに迷惑がかかるからな、と正当な理由を掲げて無視を決め込む。しかし拒否ボタンを押してから数秒と経たない内に、再び彼女からかかってくる。


「ちっ。なんだよ。いまは無理だって言ってるだろ」


 男はまたしても拒否ボタンを押す。しかしすぐにまた彼女からかかってくる。

 それから降車するまでの約二十分間、この不毛なやり取りは絶えることなく続いた。やがて目的地である終点の出雲大社前(いずもたいしゃまえ)駅のホームに降りると、男はついに根負けして応答ボタンを押す。


「もしもし? なんだよ。いつにも増してしつこいなぁ」


 せっかくの旅の邪魔をされた不機嫌さを隠そうともせずに言うと、スピーカーの向こうからはいつもの少女の声……ではなく、聞き覚えのある男の声が返ってくる。


「おっっっそいねん、お前!! 早よ出ろや! こっちは急いどんねん!!」


 耳をつんざくような怒号。たまらず男はスマホを取り落としそうになった。


「その品のない声量……兼嗣(かねつぐ)か? なんでお前が。璃子はどうした?」


「璃子ちゃんは今、意識不明や。やから俺が代わりにかけとる」


「意識不明?」


 どういうことだ、と男はスマホを持ち直す。


「璃子に何かあったのか? 怪我か、病気か? それとも……」


 呪いか? という言葉は口にしなくとも、スピーカーの向こうまで伝わったらしい。兼嗣は「まあ、間違いないやろな」と肯定する。


「怪我でも病気でも何でもない。でも目は覚まさへん。眠ったままや。それも璃子ちゃんだけやないで。本家におる人間はほとんど全滅や。親父も太一(たいち)もあかん。ついでに神戸におる俺のオカンもや。この分やと、血縁者のほとんどはアウトやろな」


「全滅? 一体何が起こってる?」


 ただならぬ雰囲気に息を呑む。血縁者のほとんどが一斉に倒れた。こんなことは今まで経験したことがない。


「まだ詳しいことはわからん。けど、一つだけ心当たりはある。お前、いまどこにおるんや?」


「いまは、島根の……出雲大社の辺りだけど」


「おっしゃ。ちょうどええわ。俺も今からそっちに向かう。お前はそこを動くなよ。本家でまだ無事な奴にデータを送らせるから、それでも読んどけ」


「は? いまからこっちに来るのか?」


 本家のある東京から、わざわざ島根まで赴くとは。となれば、彼の言う『心当たり』というのはおそらくこの出雲の地に関係があるのだろう。


永久(ながひさ)家のために、ってのは腹が立つけど、今回だけは俺も一肌脱いだるわ。俺とお前で呪いを返り討ちにするで。覚悟しとけよ、天満(てんま)

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ