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放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ@新刊2月中旬発売!
第三章 京都府京都市
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第一話 四条河原町

 

 東西にまっすぐ伸びる大通りを、多くの車と人々が行き交う。東の果てに見えるのは、朱塗りの門を構える八坂(やさか)神社。西はどこまでも道が続き、その両脇には百貨店や商業施設などが建ち並ぶ。


「はぁー。やっぱり良いねぇ、四条河原町(しじょうかわらまち)祇園祭(ぎおんまつり)のときはここを山鉾(やまほこ)が通るんだよなぁ」


 うっとりとした目で辺りを眺めているのは、二十代半ばほどの優男だった。薄墨色の着流しに濃紺の帯。彫りの深い顔立ちに色素の薄い瞳。ほのかに異国の血を思わせるその容姿は、周囲の観光客、特に女性客の注目の的である。


「えっ。ちょっ。あの人かっこよくない?」

「ほんとだー。モデルさんみたい」

「彼女とかいるのかな? いなければワンチャン……?」


 にわかに黄色い声が上がり始めるが、当の本人は特に気にした様子もなく人混みに紛れて東へ進んでいく。

 八月の半ば。夏の盛りで足元のアスファルトからは熱気が立ち上り、全身から流れ出る汗が肌を伝う。体の熱を少しでも逃がそうと男が着流しの胸元をはだけさせると、「きゃー!」という歓声が遠くで上がった。


「お」


 と、不意にスマホの着信音が響く。男が着流しの袂から取り出して見ると、画面には『璃子(りこ)』の文字が表示されていた。いつもなら躊躇(ためら)うところだが、今日は存外気分が良い。迷うことなく応答ボタンを押すと、


「あら? 今日は意外とすんなり電話に出るんですね、天満(てんま)さま」


 スピーカー越しに、意外そうな声が飛んできた。まだ幼さの残る少女の声だった。


「まあね。俺だってたまには機嫌の良い日もあるさ」


 そう能天気に言った天満の言葉に、璃子はあからさまにムッとした声で返す。


「こっちはあなたの放浪癖のせいで振り回されっぱなしなんですけど。毎回毎回、行き先も告げずにふらふらと出歩くのはやめてください。で、今どこにいるんですか?」


 天満は「うーん」とマイペースに辺りを見渡すと、


「今ねえ。橋の上にいる」


「それだけでわかるわけないでしょう」


 東西にまっすぐ伸びる四条通(しじょうどおり)。そこへ南北に走る鴨川(かもがわ)が交差する。川の上に架かるのは四条大橋(しじょうおおはし)で、天満の足はそこに差し掛かったところだった。

 橋の欄干(らんかん)に上半身を預けて下を覗いてみると、鴨川沿いの河川敷には学生の集団やカップルなどがあちこちに腰を下ろしている。


「周りは学生とカップルと観光客だらけだな。活気があって良い所だよ」


「ですから。そんな曖昧な情報じゃなくて、はっきりとした地名をください。自分は機嫌が良いとか言っておきながら、人をイライラさせるのはお手のものなんですね」


 棘を含んだ少女の物言いに、くすりと控えめに笑ったのは、天満のすぐ隣に立つ女性だった。天満がちらりとそちらに目をやると、女性は上品な物腰で口元を隠す。

 すらりとした長身の、中性的な美人だった。年はちょうど天満と同じくらいで、二十代の半ばほど。白地に薄墨色の柄が入った着物に、男物の黒い羽織を肩から掛けている。瞳の色は薄く、どこか異国の血を思わせる。手入れのされた長い黒髪は後頭部で縛っており、凛とした佇まいをしている。

 天満はそれらを一通り眺めてから、


「……ああ。あとねぇ。いま右京(うきょう)さんと一緒にいる」


「右京さん?」


 スピーカー越しに、璃子は数秒ほど考え込むような間を空けてから、再び口を開いた。


「右京さんって、あなたの叔母(おば)さまと同じ名前ですよね」


「そうそう。その右京さん。俺の叔母で、親父の妹の」


「その右京さまと、いま一緒にいるってことですか?」


「そういうこと」


「何を寝ぼけたことを言っているんですか」


 電話の向こうで璃子の戸惑っている様子がありありと伝わってくる。彼女はわずかに語気を強めて、(いぶか)しげな声で言った。


永久(ながひさ)右京さまは、二十年前に亡くなられているでしょう」

 

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