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第十六話 呪詛返し

 

「……よく出来ました」


 か細い声で天満が囁いた、直後。裂傷でズタズタになった彼の全身が、青い光を放つ。それは炎のように大きく燃え上がり、目の前に立つ怪物をも飲み込む。

 オオオオ、と雄叫びを上げ、怪物は苦しげに暴れ出した。満身創痍の天満はかろうじて動く右手を持ち上げ、前へと伸ばす。

 そして、


「これで終わりだ。永久流・呪詛返し!」


 呪文のごとく唱えるのと同時に、青い光が瞬時にして爆発を起こす。ドッ、と腹の底に響く衝撃が辺りに広がった。一陣の風が部屋を駆け抜け、壁際のインテリアや絵画などが吹き飛ばされる。陽翔は小さく悲鳴を上げ、兼嗣の胸にしがみついた。

 やがて風がおさまってくると、陽翔は無意識のうちに閉じていた目を恐る恐る開けた。照明の消えた薄暗い部屋の中には、怪物の姿も、サターンの椅子ももうどこにもなかった。


「やっつけたの?」


 そんな彼の疑問に答えるように、兼嗣がくしゃりと頭を撫でてやる。天満は盛大な溜息を吐き、その場に尻をついた。


「はあぁー。本気で死ぬかと思った」


 痛かったなーと体のあちこちを摩る。そんな彼のもとへ、陽翔は小走りで駆け寄った。


「お兄ちゃん、大丈夫なん? いっぱい怪我して、血が出てたけど」


「おっ。心配してくれてんの? ありがとー。でも大丈夫」


 ほらこの通り、と天満は両腕を回してみせる。つい先程まで全身が鮮血に塗れていた彼の体は、今は傷一つなかった。陽翔は少しだけ不思議そうにしたものの、すぐにホッとした様子で、初めて彼らの前で笑ってみせた。それから背後の兼嗣を振り返り、


「おじちゃんも、ありがとう!」


 と、満面の笑みを咲かせて言う。


「おじ……」


 少なからずショックを受けて固まった兼嗣を見て、天満は吹き出した。


「おじちゃん、か……。まあええわ。無事に呪詛返しも終わったことやし、一件落着や」


「じゅそがえし?」


 ぽかんとした顔で陽翔は首を傾げる。兼嗣は膝を折って彼に目線を合わせると、困ったように笑って言った。


「なあ陽翔。これでわかったやろ。願い事ってのは自分で叶えるもんなんや。周りの誰に何を言われたって関係ない。やからこれからはもう、あのクソガキに振り回されんなよ」


 陽翔は一瞬だけ目を丸くして、迷いの表情を露わにした。けれどすぐに、何かを決心したように口を真一文字にして、「うん!」と力強く頷く。

 途端に彼の全身は真っ白な光に包まれて、空気中に溶けるようにしてゆっくりと消えていった。天満は「ええっ!?」と目を剥いて大声を出す。


「お、おい。どこ行ったんだ!? まさかまた別の場所に迷い込んで……」


「心配すんな。陽翔の意識は現実に帰ったんや。今ごろはあの病室で目を覚まして、俺らが気絶してるの見てびっくりしてるで」


「な、なんだ。そうなのか。って、俺たちも早く帰らないとまずいんじゃないのか? 騒がれたらすぐ誰かが部屋に来るだろ」


「ああ。やからさっさと終わらすで。二人おれば帰るのは簡単やからな」


 言い終えるが早いか、兼嗣はさっさと歩き出して玄関の方へと向かう。天満も慌てて立ち上がり、全身のあちこちを摩りながら彼の後を追った。

 

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