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放浪探偵の呪詛返し  作者: 紫音みけ
第二章 兵庫県神戸市
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第一話 有馬温泉

 

 山の斜面を緩やかに流れる川。その周りを取り囲むように、老舗の旅館や土産物屋が建ち並んでいる。


「はあー。やっぱり良い湯だったなぁ、有馬(ありま)温泉・金の湯。日頃のストレスが洗い流される」


 川に沿って舗装された道を、一人の優男が歩いていく。

 年は二十代の半ばほど。薄墨色の着流しに濃紺の羽織。彫りの深い顔立ちに色素の薄い瞳。ほのかに異国の血を思わせるその容姿は、周囲の観光客、特に女性客の注目の的である。


「えっ、やば。あの人めっちゃ格好良くない?」

「ハーフっぽいよね。誰か声掛けてみてよ」

「無理! あたし無理!」


 にわかに黄色い声が上がり始めるが、当の本人は特に気にした様子もなく川の流れを眺めている。途中、朱塗りの手すりのある橋が架かっており、男は心底満足した様子でそこを渡っていった。


「お」


 と、不意にスマホの着信音が響く。男が羽織の袂から取り出して見ると、画面には『璃子(りこ)』の文字が表示されていた。

 これはもう見なかったことにするか、と再び袂の奥へ戻そうとしたが、男は暫し逡巡(しゅんじゅん)し、やがて溜息を吐きながら仕方なく応答ボタンを押す。


「いま無視しようとしたでしょう」


 スピーカー越しに、恨めしげな声が飛んできた。まだ幼さの残る少女の声だったが、感情が滲み出てドスが利いている。

 男は悪びれた様子もなく、


「なんでわかったんだ? そっちには見えてないはずなのに。もしかして俺、監視されてる?」


「あなたの反応なんて確認しなくても想像がつきます。それで単刀直入に聞きますが、今どこにいるんですか?」


「ええ……。それ答えなきゃダメか?」


「当たり前でしょう。ただでさえ行き先も告げずにふらふらと出歩かれて、私たちは迷惑してるんですよ」


 男が押し黙っていると、ちょうど前を通りがかった店の中から従業員の声が響く。


「炭酸せんべい、いかがですかー!」


 威勢の良い呼び込みの声は見事にスマホのスピーカーを通り抜けていった。


「炭酸せんべい? ということは、神戸の有馬温泉ですね。ちょうど良かった!」


 銘菓の名前から居場所を把握し、途端に上機嫌になる璃子。男は嫌な予感がした。


「実はすぐに向かってほしい所があるんですよ。神戸の中心地の方なので、そこからでしたら電車で三十分ほどですね」


「断る権利は?」


「ないです。今回問題になっている人物の写真と名前、住所は後で送ります。ちなみに本日は二人一組となって行動していただきますので、詳しくは()()()に聞いてください」


「あの人?」


 オウム返しに聞いた直後、男はある人物に思い当たって「まさか」と青ざめる。そんな彼には構わず、璃子はやけに優しげな声で激励を送った。


「名探偵の出番です。永久(ながひさ)家の未来のためにも、しっかりと呪いを返してきてくださいね。天満(てんま)さま」

 

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