第八話 運命
どうやら彼女は自分の身の心配よりも、このコスプレのキャラクターへの執着心の方が勝るらしい。
「その……。なんでそこまでして、その衣装にこだわるんです? その格好、源頼家のものですよね?」
彼女の機嫌を損ねないよう、兼嗣は恐る恐る聞く。
すると彼女は、
「えっ。頼家さまのこと知ってるの!?」
と、瞬時に目を輝かせて食いついてくる。
どうやら様付けで呼ぶほどのお気に入りキャラらしい。
「え、ええ。まあ」
ここは話を合わせた方が良いと考え、兼嗣は曖昧に頷く。
「へぇー! 意外と男の人も見てるんだ、『鎌倉あやかし絵巻』。ちなみに誰推しなの?」
「えっ? と、それは……」
まさかの質問が飛んできて、兼嗣はしどろもどろになる。
「も、もちろん、源頼家ですよ。かっこいいですからね、彼」
「かっこいい? んー、そうかなぁ? どっちかというと美しいとか、儚い感じのキャラだと思うけど」
そうなのか……と思いつつ、兼嗣は冷や汗をかく。
このまま質問を重ねられると、いずれはこちらの嘘を見抜かれてしまうかもしれない。
「そ、そういう家島さんはどうなんです? やっぱり頼家推しなんですか?」
なんとか風向きを変えようと、今度はこちらから質問する。
すぐさま肯定の返事があると思いきや、しかし彼女から返ってきたのは意外な反応だった。
「推し……とはちょっと違うかなぁ。頼家さまは、あたしの運命の相手だから」
運命の相手。
もはや『推し』を通り越して『運命』とまで豪語してしまうほどの崇拝ぶりに、兼嗣は内心たじろぐ。
「運命の相手、ですか。そりゃまた壮大なご関係で……」
「岡部さん、あたしの言うこと信じてないでしょ」
「えっ」
どこかムッとしたような彼女の態度に、兼嗣は再び冷や汗をかく。
「あ、いえ。別に信じてへんとかそういうわけじゃ」
「いいの。まだ証拠を見せてないし。でも、あたしの話を聞けば納得してもらえると思う。あたしと頼家さまが運命的な関係だってこと」
そう言って、彼女は着物の袂からスマホを取り出した。
画面を操作し、メモを開いてそこに文字を打ち込む。
「ほらこれ、見て。あたしのフルネーム」
彼女に差し出されたスマホの画面を、兼嗣は言われるまま覗き込む。
そこには『家島妃頼』と、彼女の名前が書かれているだけだった。
「あなたの名前……ですよね。これが何か?」
「名前の中に、『頼家』の字が入ってるでしょ? ほら、妃頼の『頼』と、家島の『家』で、頼家」
確かに文字は入っている。
けれど、それくらい別に大した偶然ではないのでは——と兼嗣が怪訝な顔をしていると、
「ま、まだあるんだからね! 頼家さまとの共通点。あたしの誕生日、頼家さまと同じなの。九月十一日!」
そう、彼女はどこか勝ち誇ったようなドヤ顔をして言う。
自分の推しとの共通点がそこまで誇らしいのだろうか。
「な、なるほど。確かに誕生日まで同じってなると、運命を感じることもないこともない……ですかね……?」
もはや話を合わせるのにも疲れてきた兼嗣が引き攣った笑みを浮かべていると、
「そう、運命なの。だから……——パパが死んじゃったのも、仕方がなかったの。あたしたちは、そういう運命なんだから」
彼女はそう、わずかに瞳を伏せ、どこか寂しげな声で言った。




