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異能馬券師ケンタロウ!  作者: キョウシロウ
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第1章 たくらみの夕暮れ 1

予知能力を持つ馬券師ケンタロウ

だがその能力はあまりにも儚い……

第1章 たくらみの夕暮れ


(1)


 2023年も残すところあとわずかだ。このあとの勝負に敗れたらもう新年を、2024年を迎えることはないだろう……。

 つくづく人間の運命とは儚く、くそ面白くもないものだ。これまでの38年の人生を振り返るでもなく、ただなんとなく断片的に思い出してはため息のような白い息を吐いて、ケンタロウはたった今外れた第9レースの結果をS競馬場の中央に設置されたモニター画面で確認した。

 ケンタロウは財布の中の残金を確かめた。ここまで152800円のマイナス。第一レースからこれはというレースを8つほど買い、当たったのは第7レースの3連複1780円のみ。それも均等15点買いだからほんの少しのプラスであり、焼け石に水といったところだ。そして残った現金は47200円のみ……ただ唇を噛み締めるしかなかった。

 今日最後の競馬勝負のために、もうどこからも借入の出来ぬ本当の最後の最後、カードキャッシングで用意した20万円の8割方がすでに融けてしまっていた。いたたまれないほどの閉塞感がギュっと、こぶしで握るかのようにケンタロウの胸を締め付けていた。

 真剣勝負に没頭していたため昼飯を食うのも忘れていた。今日最後の勝負、メインレース有馬記念までにはまだ1時間ほどの時間がある。ケンタロウはS競馬場の入り口横にある通称鉄火BAR、飲食店が立ち並ぶコーナーへと足を踏み入れた。

「エビ天ソバ」

 立食い蕎麦屋の前で600円を差し出してケンタロウが注文すると、蕎麦屋の親父が言う。

「すいません。もう全部売れちゃって」

仕方なくケンタロウは月見蕎麦を頼んだ。

蕎麦の上に行儀よく乗っかっている生卵が己の罪を見透かしたかのようににらみつけてくる。

ケンタロウは生卵を箸でかき回した。というよりは卵を親の仇であるかのように思い切り搔き乱した。己の不甲斐なさと世の中への憎しみとが入り混じったかのように力を振り絞っていた。

 しかしケンタロウにはわずかながらの勝算があった。

 彼には特殊な能力があるのだ。それが彼を競馬の世界へといざなった、と言っても過言ではないだろう。

 彼には予知能力があるのだ。

え?それならいくらでも勝てるのではないのか、と思われるだろうが、世の中そんなに単純ではないのである。彼が予知できるのは最大でも1分半後の結果なのだ。当然ながらそれではいくら結果が事前にわかったとしても馬券で勝つことはできない。結果が分かる頃には当然、馬券購入は締め切られているからだ。それでも彼はこの能力を一途に信じ、少しでも能力を伸ばそうと努力を惜しまなかった。この10年である程度には能力は進化していたのだ。当初は1分後までしか予知できなかった能力がこの10年で30秒ほど伸ばすことに成功した。だからいつかはこの能力で一財産、いや莫大な財力を築けると信じていたのだった。

しかし、1年で3秒ほどの進捗ではいつまで経っても予知能力で儲けるのは難しい。どんなに短い距離のレースであっても馬券発売締め切り後からゴールまでには最低でも4~5分はかかるだろう。つまりこの能力がこれまで通り順調に進化していったとしても、活用出来るまでにはおそらくあと30年以上は掛かるであろう。

 さらに言うと、この能力は競馬のみに発揮され、そのほかの分野では全く何も予知することは出来ないというまるで役に立たない能力なのだった。

 ただ、永年の経験則により能力の有効活用が可能な唯一のあるパターンがあった。その時がようやく迫って来たのだ。それは……いったい?

 

   

続く

 


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