第94話 王都凶来・虚実の勇者
梶、大関、そして稲田。
逢坂の手によってさらに友達を失い、桐本は悲しむ間もなく動揺した。
最中、空中で腰掛けるようにして佇む逢坂は、左手の短剣に雷属性エネルギーを溜め、
「【轟雷を退かすヨルムンガンド】!」
蛇を象った稲妻の束を放つ。
「……【天津日の守】!」
桐本は右手に装備した八咫鏡を突き出し、炎のバリアを展開し、逢坂の稲妻を受け止める。
稲妻の威力の凄まじさに桐本は一度は押されかけた。が、意地を張って踏みとどまり、稲妻を逢坂へと反射した。
自身に帰ってきた稲妻を簡単に散らしてから、逢坂は桐本へ問う。
「光、友達が三人も殺されたんだぜ? ここまで来たなら降参するってのも清い手だと俺は思うが?」
桐本は即答する。
「……断固拒否する」
「なっ、なにィィ〜〜?」
「確かに友達三人が殺されたのは悔しいし、悲しいよ……けど、有原さんや陽星たちみたいな、守るべき仲間はまだまだいる! それを見捨てて諦められるわけ無いだろうが。なぁ、わかるよな雄斗夜!」
「……それを待っていたぜその言葉をよォーーッ! それがあるからこそ、『全滅のさせ甲斐』があるってもんだぜッ!」
「そうかい……だったら、今更な感じもあるけど、今日の君はついていなかったね。今の王都には、有原さんと陽星たちがいないんだから」
「んなこた『誤差』だよ『誤差』!
俺は用心深い方でもあるから……『サブプラン』もきっかし用意してるんだ。
まずテメーらを片付けて、外出中の六人が帰ってきたら、王都の惨状を見せつけて絶望させるッ!
そっから誰か一人をどっか見晴らしのいい場所に『紐』で縛り付けてよぉ〜〜、仲間たちが一人ひとりプチプチ殺されるのを見せつけて絶叫させるッ! こうしてどっちみち俺の楽しみは十分成し遂げられるって訳だぜェーーッ!」
「そのサブプランが叶うと良いね! そしてありがとう、これだけ話をして時間を稼がせてくれて!」
「時間……? ま、まさかッ! いやッ、や、やさかッ!?」
「そうだよ……【神器錬成:八尺瓊勾玉】!」
桐本は紐付きの神秘的な輝きを帯びた勾玉、神器【八尺瓊勾玉】を生成。首に掛けて、その恩恵を受けて、全てのステータスを上昇させる。
さらに、左手に持つ天叢雲剣、右手に装備する八咫鏡、首に提げた八尺瓊勾玉。これら三種の【神器】が共鳴し、さらなる高貴な光を帯びる。
強化された三種の神器を装備した桐本は自力で飛翔し、空中へいる逢坂へと迫り、
「【熊野忍の断】!」
全身の力を使い、豪快に剣を袈裟に振り下ろす。
逢坂は例のごとく短剣で受け止めた後、素早く彼から距離を取って、氷の斬撃波を乱射する。
「【ヘイル・ラッシュ】!」
「【天津日の守】!」
桐本は炎のバリアを展開し、数多の氷の斬撃波を全て反射する。
斬撃波を跳ね返した先には、既に逢坂の姿はない。
再び彼が姿を見せたのは間もなくのこと。
逢坂は、彼の周囲全方位に何人も現れた。すぐさま彼らは一斉に桐本へ突撃する。
(よく見ると、どれもこれも動きが散漫で隙だらけだ。デコイだ、あれは全部、雄斗夜が作った自分の幻だ……きっと闇雲に対処すれば、さっきの輝明みたいにこっちがダメージを受ける。だったら……)
桐本は天叢雲剣を後方に引いて力を溜め、その刀身に炎を纏わせて大剣に変えて、
「一気に片付ける……! 【天照光燐】!」
神々しく輝き、纏わせた炎が轟々と滾る天叢雲剣を全身全霊で振るい、周囲を何重にも薙ぐ。
桐本を囲い襲いかかった逢坂たちは斬られ、電撃を炸裂させた。桐本の予想通り、この大量の逢坂はデコイであった。
そして、逢坂の分身は瞬く間に数を減らし、神炎帯びる天叢雲剣の太刀は最後に残った逢坂へと迫る。
「これだけ強烈な攻撃が放たれながらもまだ生きている! つまり、お前が、分身に紛れて奇襲しようとした本物……そうだろう、雄斗夜ぁッ!?」
「YES! YES! YES!」
最後に残った逢坂――本物の逢坂は、レーヴァティンに力を込めた後、右から迫る桐本の太刀へ、炎を帯びさせながら振るう。
炎剣と炎剣。両者の攻撃は激突し、やがて相殺された。
防ぎきったぞ。その事実を突きつけるように逢坂はニヤリと笑って、
「……おまえの次のセリフは『何故俺の最強技が止められたんだ』という!」
纏わせた炎を解除し、通常の長さになった剣を桐本は中段で構え直す。
桐本は苦虫を噛み潰したような顔をして、
「……いいところまで詰めきれたのに、それでも一撃も与えられないなんて……!?」
「『ニアピン』ってことでいいかな……どうやらテメーの中では俺は『空中飛び回って属性攻撃しまくる奴』程度の認識でしかないようだが……生憎、それも俺の陰謀のための『演技』でしかない」
「……つまり、どういうことだよ」
「しょうがねーなぁ〜〜。けどお前はここまで一人で頑張ったし、それはそれで面白そうだからよォ〜〜……【能力証明】」
逢坂は自分の左脇に【能力示板】を表示する。
■
名前:逢坂 雄斗夜
レベル:60
ジョブ:【暗殺者】
神寵:【ホルス】
■
と、経験値を積んだためかレベルが微増していることを除けば、見慣れたステータスが表示されていた。
「お前の認識の出典はこれだろう」
「ああ」
「これが『虚偽』なんだぜェ〜〜このステータスがなぁーーッ! 【虚実を装うヨトゥン】、解除だァーーッ!」
と、逢坂がわざとらしく叫んだ途端、彼の左隣にある能力示板がひび割れて砕け散る。その内から新たな能力示板が現れる。
そして桐本は自分の目を疑い、やがて震えた。
■
名前:逢坂 雄斗夜
レベル:96
ジョブ:【勇者】
神寵:【ロキ】
■
知る限り一年二組の中で最大級のレベルを持つこと。
有原、真壁、久門以外存在していなかったはずのジョブ:【勇者】がいたこと。
そして神寵……名前以外全て見慣れていない、ありえない記載がそこにあった。
「【ロキ】はわかるか、光。皆さんご存知北欧神話の悪戯好きの神だぜ」
神寵【ロキ】。
これによって得られるものは主に二つ。
火、氷、雷の三属性の魔法。
自分の物と触れた物に、自分以外が見抜くことが完全不可能な幻影を好きなように被せて『偽装』するパッシブスキル【虚実を装うヨトゥン】。
これらの能力を秘密裏に活かし、逢坂は自身の求める騒乱のため陰謀を巡らせていたのだ。
「さぁ、この格の違いを見てもまだ清廉潔白な正義のヒーローのつもりあり続ける気か、あるいは平家物語の『源義経』みてーに悲劇のヒーローでも気取ってみるかぁ〜〜ッ!? なぁ、光さんよぉ〜〜ッ!?」
桐本は、脳裏に自分の稽古相手でもあった同志、有原の姿を浮かべて、答える。
「勝負の決め手はジョブでもレベル差でもない――俺は有原さんが実際に成し遂げて教えてくれたことを信じてる。だから、この戦いを諦める理由はどこにもない!」
「そうかい……つまり『後追い』したいってことだなァァァァ!」
逢坂は右手で順手持ちしているレーヴァティンに猛炎を蓄積する。そこから桐本へと突進する。
対する桐本は天叢雲剣を後ろに引いて構え、炎を纏わせ、刀身を延長しつつ力を溜める。
そして間合いが詰まりきった時、
「【天照光燐】!」
「【怪焔を喰らうフェンリル】!」
桐本は神威を帯びた炎の剣を、逢坂は神狼を象った猛炎を纏う剣を、同時に振るう。
二つの炎剣が相克した果てに……桐本は三種の神器を全て砕かれた状態で地上へ落下し、大通りの石畳に叩きつけられた。
地面に仰向けに倒れた桐本は、空いた左手を、上にいる逢坂に掲げて、
「嘘だろ……雄斗夜……」
逢坂は桐本の真上に移動して、レーヴァティンの切先を真下に向けて、
「残念だが、この敗北も、俺の真の実力も、紛うことなき『真実』だ」
「だからどうしたって言うんだぁぁぁッ!」
飯尾は持ち前の筋力をフル活用して跳躍し、逢坂の側まで迫る。
飯尾はすかさず手刀を上に掲げて、
「【山卦猛断拳】ッ!」
強烈に振り落として逢坂の脳天を叩き、彼を斜め下の地面へ打ち落とした。
逢坂は軽やかに起き上がり、すぐさま泣き真似に移行する。
「ど、どうしていきなり殴るんだよぉ〜飯尾さぁん!?」
飯尾は桐本と逢坂の間に三点着地して、
「シンプルにお前が桐本を殺そうとしたから! そしてそもそも、お前が王都中を大混乱に陥れたからだ!」
「何で今さっき会ったばかりのお前にそれがわかるんですかぁ〜!?」
「なんとなくだ! 死んだ奴が生きてて、危ないことしてたのと、そいつがなんか3Dメガネみたいなカラーリングしてたのを見てな!」
「ああ、そうだよ。俺は再放送が嫌いだから二度は細かく説明しないが、この騒動は俺がたった一人で仕組んだことだ!」
「やっぱりテメェか……だったら速攻ぶっ潰すまでだ!」
飯尾は迅速に駆けて逢坂に急接近し、
「【風卦撃砕拳】!」
右腕で猛烈に殴りかかる。
逢坂は飯尾の拳を、左手で逆手持ちする短剣で受け止める。
この時、半分身体を起こした桐本は叫ぶ。
「き、気をつけて飯尾さん! 今の逢坂はレベルもジョブも神寵も全部、本当の力を開放している! この前とは強さが桁違い過ぎるんだ!」
「心配無用! なんせ今の俺だって、この前とは段違いに強いんでなぁ!」
と、飯尾が啖呵を切った直後に、偶然にも逢坂は後ろへよろめいた。
「な、なんだこの発勁みてーに遅れてやってくる衝撃はッ!?」
飯尾は自分の赤く染まった髪を指さして、
「この通りだ」
「どの通りだァーーッ!?」
逢坂は体勢を立て直してすぐ、左手に持つ短剣に猛炎を纏わせる。そこから猛炎を神狼の姿に象らせながら、飯尾めがけ短剣を振るう。
「【怪焔を喰らうフェンリル】!」
しかし飯尾は神寵【フッキ】由来のスキル【八卦攻防陣】で正確に見切り、巧みに身体を反らして交わす。
刹那、飯尾は左足を上げて、
「【水卦旋刈脚】!」
逢坂の回し蹴りを脇腹に命中させて反撃した。
彼の強い攻撃には全て膨大な音属性エネルギーが付随する。
数秒後、逢坂は脇腹から遅れてきた衝撃を食らい、追撃ダメージを受けた。
しかし彼は始めのようによろめきはせず、冷静に飯尾から間合いを取った。
「どうだ、これが鬼に金棒、虎に翼、弁慶に薙刀、そして護に神寵って奴だ!」
「そうか……俺も神寵に依存したからこそここまで来たから到底言える義理は無いが……そんくらいで調子乗ってんじゃあねーぞボケがァァァッ!」
逢坂は二つの剣を眼前の虚空へ振り回し、電気を帯びた斬撃波を乱射する。
「【プラズマ・ラッシュ】!」
飯尾はそれを純粋な動体視力と瞬発能力で回避する。
それを見て逢坂はこう推察する。
(さっき見せた神がかった回避は、至近距離の攻撃には対応しているが、魔法とかの飛び道具は違うようだ。逆に言うと、安直に透明化して奇襲したら一発で見破られて蹴られたか。危ない危ない。うーむ、ならば……)
逢坂は飯尾を見据えつつ、短剣に猛炎を纏わせる。
「あれは……さっきの技か」
飯尾はこれから逢坂が猛炎を帯びた短剣を突き出して来る――【怪焔を喰らうフェンリル】を繰り出すと読み、それへ警戒しつつ逢坂へ突撃しようとする。
飯尾が一歩踏み出した時、逢坂は飯尾の方向へ短剣を握る手を突き出す。
「行け、『怪焔を喰らうフェンリル』ッ!」
「やっぱそう来た……ッ!?」
刹那、そこから蛇を象った稲妻の束が放たれる。
「なっ、炎の攻撃じゃないのかよッ!」
「残念だったなッ! さっきのも『偽装』なんだぜ〜〜ッ!」
逢坂が本当に発動したのは飛距離に長けた【轟雷を退かすヨルムンガンド】。
これを確実に当てるため、スキル【虚実を装うヨトゥン】を用い、『自分の発した声』と『スキルの予備動作』に『偽装』をかけて、あたかも【怪焔を喰らうフェンリル】を放つようにみせかけた。
飯尾は【八卦攻防陣】により、近距離にいる敵の動作を読み取ることは出来るが、魔法などの意志のない飛び道具は読み取ることはできない。
その弱点をフェイントでより鋭く突かれたことにより、飯尾は回避も防御も間に合わず、稲妻の束を直撃してしまった。
「……あぶねーあぶねー。急にあんな強キャラが湧いて出てちょっとビビったが……結局有原の付き人程度だったか」
「……そんな程度じゃねぇ、大親友だッ!」
【完】
今回の話末解説はありません。まだその時ではないのです。




