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第93話 王都凶来・詐謀の正体

 渦中にあるミクセス王国・王都の南門付近にて。


 稲田と桐本と松永は、愕然とするより他になかった。

 特に、稲田と桐本の驚き具合は、直前に大関が殺されたということもあり、ひどく激しかった。


 その三人の視線の先で、逢坂おうさか雄斗夜おとやは、待ちくたびれて退屈そうな顔をして、堂々と立っていた。

 数日前、槙島の襲撃の際、真っ先に銃殺されていたはずの彼が。


「で、もう一度聞くが。思い出したか、光、輝明?」


「ああ、何度も言わせるな雄斗夜!」


「当たり前でしょ、友達……だろう雄斗夜!」


「だったらもっとスパっと答えてくれよ、水臭いんだろ……して、光。テメーさっき俺に『なんでこんなことしたんだ?』と聞いたな?」


 桐本はいつになく真剣で、そして悲し気な目をして、

「うん、それで、何でこんなことをしたんだ!?」


 逢坂はにやりと笑いながら即答する。

「面白れーからに決まってんだろ」


「面白いから、だと……!?」


「そうだ輝明。じゃあ今度は俺が質問する……お前ら、十束とつか貴史たかしを知っているか?」


「……!」


 十束貴史――その名前を耳にした途端、二人の後ろにいる松永は無言でひどく狼狽えた。


 そんなことはつゆ知らず、稲田は答える。

「ああ、俺だって知ってるぞ。九年前に役所に突撃して大勢の人を殺したクソ野郎だろ?」


「そうだ、でもって俺の憧れの人だ」


 この一言に桐本と稲田が引いている間、逢坂は語る。


 彼の父親は大手新聞記者であり、文章校閲も兼ねて、逢坂に出来立てホヤホヤのニュース原稿を渡していた。そのことから逢坂は、幼いながらニュースに関心が高い子どもであった。


 特に世間をひどく騒がせるようなニュースについては、あたかも漫画を見るようにのめり込んでいたという。


 中でも彼が、今までで最も興奮したニュースは、十束が起こした大量殺人事件と、以降に連続して報道された関係するニュースだった。


 職を失い、妻も失い、そして社会的な価値を全て失った男が、たった一人で必死に抵抗した末に、多くの人間の感情を『誘爆』させ、社会をここまで混乱させた。


 逢坂はこの時、自分が何故ニュースに惹かれるかを察した。

 犯罪に手を染めなければならないほど困窮し、崖っぷちに立たされた人間が最後に放つ、愚かにもまばゆい、ドス黒い『尊厳』の輝きに、魅了されたのだと。


 そして、『自分もこのように、たった一人で大勢の人間の感情を『誘爆』させたい』と、逢坂は思った。


 しかし、彼は普通の家庭で育ったので、頭の中には最低限の道徳と常識がきっちりとある。

 ついでに彼は頭の回転が早い部類の人間なので、やわな細工では世の中を荒れさせることはできないと把握している。重要犯罪の検挙率は九割を超えることももちろん知っている。


 だから十束に憧れつつも、彼は決して同じように大胆な犯罪を行うことは『難しい』し、『リスクが大きい』し、『二番煎じでつまらない』とし、積極的にやろうとは思わなかった。


 なお、彼は普段、非常識的な奇行を連発しているが、こちらは本能的にウケを狙って奇人を演じているだけである。


 そうして逢坂は年齢を重ねて、十束の事件への関心と憧れは薄れていった。


 だがある日、彼の『騒乱への渇望』は再燃した。

 校外学習で山登りに行った日。兼、一年二組が『大陸』に来た時。


 彼の奇妙な思考がこの運命を引き寄せたのか、一年二組が大陸に降り立ったや否や、彼はすぐに【神寵】に目覚めた。


 余計な注意を引かないように、神寵の副次作用で変わった髪色を『自身の能力』で誤魔化しつつ、彼は直感的に思った。


 ここならば、自分の思い描いた、居合わせた全ての人間が本性を露呈する絶景を創れると。


 以来、逢坂は親しい久門と石野谷の下にいながら、徐々に自分の目指す理想郷の方針を練り、周りに気づかれないように大なり小なり陰謀を仕掛けていた。

 

 トリゲート城塞にて、クラスカースト最底辺の槙島と畠中を絶体絶命の危機に追いやり、復讐鬼に変貌させる(後者は臆病すぎてそうならなかったが)。


 真壁の思惑通り冤罪を被せられ、国中で追跡されていた有原を、久門邸に招き入れて焦らせる。そして久門に対面させてボコボコにさせる。


 海野たち反乱軍と真壁が対峙する様を視察をしていた石野谷と梶の存在を、真壁に漏らす。


 ファムニカ王国のエスティナ姫を襲撃しようとしていたフラジュ一行を見逃し、間接的にミクセス・ファムニカ間の戦争を引き起こす。


 などなどの『悪戯』をふっかけ、有原、真壁、久門、石野谷、槙島らを意図的に激突させ、騒乱させようとしていた。


 しかし運命とは塞翁が馬。これらの悪戯は彼の思うように誘爆しなかった。


 とはいえども、彼もこの程度の悪戯は『できたらいいな』くらいの感覚で行っていたため、そこまで期待はしていなかった。


 そして情勢は移り変わり、真壁と久門という【勇者】の同志が敗死すると、彼は、いよいよ、予め撒いていた『火薬』を再利用しつつ、自分を騒乱の起爆剤とすることを決めた。


 まず、ミクセス王国とファムニカ王国の和睦後の宴の時。


 二国の将兵が集う場所の空中を飛び回っていた際、槙島がこちらに接近していて、今最も恨みを抱いている石野谷を狙撃しようとしているのが見えた。


 その後、逢坂は突拍子もなく石野谷と有原と肩組みしながら揺れるという普段の彼らしいおふざけを行った。

 これで彼は石野谷と有原を庇いつつ、槙島の【英霊エインヘリャル】シモ・ヘイヘが撃った弾丸を『わざと受けた』。


 自前の氷魔法で脳天に放たれた弾丸を器用に受け止めつつ、彼は自分の【神寵】の能力を使って、あたかも本当に自分が狙撃されたように『偽装』した。


 これで彼は死んだ人間扱いとなり、周りから疑いの目をかけられなくなり、行動の幅が大きく広がった。


 それから彼は本格的に、騒乱へ向けての『二仕上げ』を始めた。


 今後の争乱のために必要な復讐の亡者・槙島を生かすため、足止めの役割を超して彼を打倒しようとしていた梶を自身の手で爆殺した。


 その槙島の仲間だったオリヴィエや『神々たち』を殺害し、彼の憎悪を膨らませた。


「で、そのついでにこんなに素晴らしい力も手に入れたんだよ」


 逢坂は漆黒の宝玉を野球ボールのように握って見せびらかす。


「何だ、そのいかにも闇のアイテムっぽいボールは!?」


「いいとこに目をつけたな、桐本……これの名前は【邪神珠】。

 あの『邪神』を呼び出すアイテムだ。が、『本来の持ち主』曰く、内蔵エネルギー不足でそれはできないという。

 サブ機能に『生み出した邪神獣を操る』能力もある。しかしそちらでも『アバウトな命令』しか出せないし、相手が凶暴過ぎて『実行確率もアバウト』という欠点がある。

 だからついさっきまでいた邪神獣十三体は俺の【神寵】の応用……」


「うるせえええ! いいからさっさと死ねえええ! このゲスがああああ!」


 色々と耐えかねた稲田は大槍を携え、かつての友にして友殺し、逢坂へと殺気をもって迫る。


「オメーのいい加減さは嫌いじゃあないが、ここばかりは最後まで聞いておくんだったな」


 いざ稲田が攻撃を繰り出そうとする前に、逢坂は敵三人の視界から瞬く間に姿を消した。


 稲田はキョロキョロと周りを見渡して、

「ど、どこ行きやがったんだアイツ……ッウ!?」


「こーなるから、最後まで聞いとけって言ったんだよ。馬鹿め……」


 いつもながら一挙手一投足が大げさなせいで、狙いが外れちまったじゃねぇか。とつぶやきつつ、再び姿を現した逢坂は、稲田の右脇腹に突き刺した長剣に冷気を込める。


 さっきの大関のように氷にされて木っ端微塵になることを予想するのは、稲田でも容易だった。


 彼は両拳で長剣の刀身を殴り、それを破壊して冷気が流れるのを遮断した。

 

 稲田は自分の身体から折れた刀身を大出血を承知の上で引き抜き、そして逢坂を激しい怒りで睨みつけながら、再び逢坂へ迫る。

 槍を地面に突き刺し、それを支えとしつつ、

「食らえええ! 【アドラ撃砕拳】!」

 高熱を帯びた渾身のパンチを放つ。


 逢坂は左手で逆手に持った短剣の身を向けて、それを簡単に受け止めた。


 稲田は右腕に力を込めて、逢坂を短剣もろとも殴り飛ばそうとする。だが相手はびくともしない。


「これで刺し違えるのは、ちと自分を過大評価しすぎじゃあないか?」


 逢坂は折れた長剣の柄を手放して、

「【神器錬成:レーヴァティン】」

 虚空から生成した、陽炎のようにうねり曲がった刀身を持つ長剣――神器【レーヴァティン】を新たに握り、すぐさま稲田めがけ振ろうとする。


「【天穂日あめのほひかり】!」

 その前に、桐本は炎を帯びた天叢雲剣を逢坂めがけ一文字に振るう。


 逢坂は振りかけた長剣をすぐに桐本の太刀筋にあてがい、そちらの攻撃も防いだ。


「雄斗夜! どうして君は平気で昇太や晴幸を殺せるんだ! 少しは友達だっていう気持ちはなかったんだ!」


「あるには『ある』さ。だからこそ殺したんだ。名前も趣味も性格も知らん奴に殺されるよりも、信頼していた仲間に殺される方が感慨深いじゃあないか」


「……雄斗夜ぁッ!」


 稲田と桐本はもう一度彼へ義憤を込めた一撃を放つ。その寸前、彼はまたしても姿を消す。


「無理しないでよ、輝明」

「バッカ野郎……こんなの……かすり傷だ……」


 さっきのような不意打ちはさせない。その気概から二人は背中合わせで逢坂の襲撃を警戒する。


 すると逢坂は王都南門の方から全速力で真っ直ぐ走ってきた。

「今度は真っ直ぐ来るか、野郎ッ! 今度は貴様をぶっ潰してやらぁッ!」


「待て輝明! 雄斗夜がこんな単純な攻め方をするはずがな……!」


 すかさず稲田も彼に向かって突撃し、槍を地面に突き立て、棒高跳びの要領で勢いづけた、高熱を帯びた跳び蹴りを放つ。

「【アドラ裂空脚】ッ!」


 そして彼は爆炎に飲まれ、大ダメージを被り、地に伏せた。


 直後、逢坂は空中で再び姿を現して、

「オイオイ輝明ぃ〜! 【格闘家】の癖に魔法に真正面から突っ込んでくとは、つくづくお前の蛮勇には痺れさせられるなぁ〜ッ!」


「て、輝明ッ!? おい、返事してくれよ輝明ッ!?」


 桐本の呼びかけに、稲田が答えることはなかった。

 

【完】

今回の話末解説はございません。

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