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第86話 絶望と凶兆の槙島

 ヒデンソル王国の王城、壁も天井も崩れ去り、開かれた空間となった最上階の大広間にて。


 槙島は目を見開き、動転していた。

 イスラの姿をした謎の人物は笑っていた。


 大広間の床には、瓦礫の山に紛れて、神々の内の七人の老人と、本物のイスラと、デイビス、ニックが、力なく倒れていた。

 そしてつい先程、偽イスラの一刀によって、その死体の中にオリヴィエが加わったのだった。


 槙島は己の動揺を湧き上がり続ける憎悪で上書きし、自我を取り戻す。

「……よ、よくも……よくもオリヴィエまでも!」


 すかさず槙島は、傍にいた【英霊エインヘリャル】――ニコラ・テスラとジャンヌ・ダルクへ、オリヴィエの仇討ちを命じた。


「【ブレイズ・ラッシュ】」

 

 偽イスラは炎の斬撃の連射でそれをサッと処理した後、ため息交じりに槙島に言った。


「槙島……やっぱテメーは弱っちいな」


「……何がだ」


「『心技体』全てだよ。特にとりわけ弱いのは『心』だ。神寵【オーディン】を得ようとも、一国の主に成り上がっても、綺麗な姫様を手に入れても、お前は何一つその性格を改めようとしない……」


「性格……」


「気づいてないというならますます酷いな。いや、そういう性格だから余計気づかんのか……しょうがねーなぁ〜〜、じゃあ一から十まで俺がキチッと教えてやるよ、この『他力懇願責任転嫁野郎』ッ!」


 偽イスラは槙島へ言い放つ。

「オメーは何もかもそうだ。不幸なことがあればそれ全部を『加害者』のせいにして、自分は何も悪くない『被害者』だと思い込む。そしてテメーは自分を正当化して、テメーの思う『加害者』を悪として裁いてスカッとする……そんなのずっと続けてるからお前はいつまでたっても『被害者』のマンマなんだよッ!」


「それの何が悪いんだ……実際に受けた被害を相手のせいにして何が悪いんだ……!」


「例えば、真壁や久門さんみたいな『確固たる信念』がある人は、『被害』を受けても自分の確固たる信念を持って相手に押し返す。これは素晴らしい。人間とは意思が宿ってこそであるから。

 一方で、例えば有原みたいな『自他への思慮』がある人は、『被害』を受けたら、相手と自分の落ち度を分け合い、自分が持って帰った分は今後の反省に活かす。こちらも素晴らしい。人間の務めは平和と成長が主なのだから。

 ……そしてテメーはどちらにも程遠い、なんせテメーは『被害』を受けたらプリンの上のさくらんぼみてーなトッピングをして、そっくりそのまま押し返して終わりなんだからよォォォッ!

 だからお前は弱っちいままなんだッ! 成長しようとしないから弱っちいままなんだッ!」


「見透かしたようなことを言うなァァァッ! 【凍裁擲槍ミーミル・ジャベリン】ッ!」


 槙島は憤怒を込めて、無数の氷の槍を放った。


「泣き喚いて勝てるのは『年少さん』の喧嘩までだぜェーーッ!」

 偽イスラは右手で順手持ちした長剣と、左手で逆手持ちした短剣を振り回し、氷の槍を全て砕いた。それから彼は辺りに転がる槙島の仲間の死体らを一瞥した後、話を再開する。


「それに、そーいう類の中で一番ヤバいのは、自分が評価されるべき人間だと思いこんでいるタイプのヤツだ。

 自分はスゴイと思い込み、手柄を挙げて評価を上げようとして、失敗する。それを誰かのせいにして、自分は何も学ばず、また一に戻る。なんていう進歩のないPDCAサイクルだこと。

 オメーのことだよ、槙島。お前はそういう思考回路をしてるから、身の丈に合わない物を持って自滅する。その自滅は関係者にも『被害』を齎し、『恨みを買う』という余計な『被害』を食らう。そうしてお前は余計に鬱積しちまうんだろ」


 黙れ。と言わんばかりに、槙島はグングニルを放つ。

 偽イスラは短剣の一振りでそれを弾き、語りを続ける。


「畠中……アイツは『被害』と真正面から向き合わないタイプの人間だが、アイツは自己肯定感がクソ低いから、あんま周りには『迷惑』かけないタイプだ。嫌なヤツってことには変わりねーけど。

 けどお前は『被害』に対する『自己保身』で周りに『迷惑』を掛けまくってるタイプだ。

 こないだオメーと有原が再会した時、アイツ、ゼッテー表には出さんけど、ゼッテー数センチくらいは『オメーをブチのめしたい』と思ってただろうぜェ〜? なんせお前はアイツの友達の篠宮の『死の遠因』なんだからよッ!」


 そして偽イスラは、大きく長くため息を吐いてから、

「俺が尊敬している『あの人』みてーに、えげつない量の恨みを抱かせればドエラいバケモノが出来上がると思ってたんだが……失敗した、素体選びに。

 畠中はビビリ過ぎて今や田舎でハードライフの真っ只中だし、槙島は成長しなさ過ぎる。

 はぁ、あの塔に細工するの大変だったんだぜ? 上にはおっかない【邪悪のテラフドラ】がいるんだからよ?」


「……塔……?」


 槙島は、記憶にある中で最も印象深い塔――トリゲート城塞を脱する寸前、自分と畠中へ倒れかかった塔を思い出す。


「……何故、何故貴様がそれを……!?」


 槙島の問いかけを、偽イスラは無視して、

「あとお前、一体いつになったら俺に礼してくれるんだ? あの時はお前の伸びしろに期待してやってやったんだけどよ……あ、まさか忘れたか? 誰が梶から助けてやったこと?」


 二日前、槙島は、有原と石野谷たちを逃がそうと足止めの役を担った梶と交戦していた。


 そこで梶は【プロメテウス・メサイア】のパワーと防御力により、足止めの務めを超えて、グングニルも、氷魔法も、暗黒兵も、英霊をも圧倒した。


 万策尽きかけ、絶体絶命となった槙島は、頭の中で敗北を拒もうとするので精一杯になった。

 しかしその寸前、プロメテウス・メサイアの胸部中心にヒビが入り、火が漏れ出し、そして大爆発した。


 この爆発に飲まれてついた傷を直し切った時既に、復讐対象が逃げおおせてしまっていた。 当然、槙島はこの時、耐え難い屈辱を感じた。これがその時最も鮮明に残っている記憶だった。


 それを今振り返った時、槙島は違和感を覚えた。

 これまで槙島は、あれは自分を仕留めるための自爆だと思っていた。


 だが、あの頭脳派な梶が、自分を倒しきれる望みの薄い技を、命を引き換えに使うのか?


 槙島はさらに激しい違和感を覚えた。それを解消するため、イスラに扮する人物へ尋ねようと口を開く。


 するとイスラに扮する人物は手を突き出し、『待った』を掛けて、

「待て待て、今予想するから。おまえの次のセリフは……『何故シモ・ヘイヘに頭を撃たれたのに生きている?』か? 『何故貴様がここにいる』か? ……それとも『貴様は何を企んでやがる』と言うか?」


 この言葉で槙島は、イスラに扮する人物が誰なのかを確信して、

「貴様、よくも俺をここまでにしてくれたなァァァァッ!」

 と、王城最上階に怒号を轟かせた後、グングニルを強く、魂を込めるように握りしめ、空へと放つ。


 グングニルは『奴』の脳天を指すようにして空中に留まる。同時に、その周りに、グングニルを模した氷の槍が、枝葉のようにおびただしい数で現れる。


「チッ、全部ハズレかよ……」


「死に果てろ、この極悪人がァァァ! 【界樹啓理ユグドラシル・オーダー】ッ!」

 と、槙島が心の底から叫んだ刹那、無数の氷の槍が降り注ぐ。


 イスラに扮する人物は、槙島の直情的な怒りに『やれやれ』とぼやいた後、

「お断りだ。【怪焔を喰らうフェンリル】ッ!」


 短剣を逆手に持つ左手に深紅の猛焔を帯びさせる。

 左手を宙に突き出すと同時に、神狼を象った猛焔が天へと駆ける。

 そして全ての氷槍はおろか、グングニルを核とし精製された極大の槍状の氷塊を半分削り落とした。


 それを見上げて、イスラに扮する人物はぼやく。

「やっぱヌルいなァ〜槙島。こんな簡単に溶けちまうのが最強奥義なんて……」


 自分の最強の魔法がここまで無力化されたことに慄きつつも、槙島は、残された極大の氷塊を落とす。

 直後、イスラに扮する人物は左手の短剣と、右手の長剣を振り回し、

「【ヘイル・ラッシュ】」

 無数の氷の斬撃を放つ。


 槙島はすかさず周囲に、氷のバリアを展開する。

「【極氷神楯アースガルズ・シールド】」


 無数の氷の斬撃により、バリアに次々とヒビが入った。

 それでも槙島は冷静に身構え続ける。

(同じ氷属性の魔法だというのにここまでの性能差があるとは……だが、今はそこで勝負などしてはいけない。今は、氷塊がここに来るまで耐え凌げば……)


 しかし、イスラに扮する人物は、氷魔法を放つのを止め、

「【海空を踏むロプト】」

 大広間から両足を離し、空中へ、氷塊に巻き込まれない範囲まで逃げた。


 槙島はバリアを自分で解除し、『奴』に少しでも近づけるように崩れかけの大広間の縁に駆け寄り、叫ぶ。

「待て、逃げるな、償え、裁かせろ……殺させろ貴様ァァァ!」


 当然、イスラに扮する人物は、それに応えなかった。


 代わりに、彼は、左手に持ったイスラの短剣を槙島へ投げつけた。


 氷魔法で短剣を撃ち落とした直後、槙島は、イスラに扮する人物から漆黒の宝玉を見せつけられる。

「なっ、それは……【邪神珠】!?」


「三日後、ミクセス王国に来い。そこでこれを取り戻したければ、『真実』を知りたくば、俺主催の『ショー』を見たければ、お前の『復讐』を果たしたければ、な」


 そしてイスラに扮する人物は遠くへと飛び去っていった。


 極大の氷塊が落下し、ヒデンソル王国の王城が上部からさらに半壊したのは、間もなくのことだった。


 槙島は【神馬疾駆スレイフニル・ライド】で生み出した氷の馬へ乗り、崩壊する王城の壁や瓦礫を駆け渡り、王都第二層に避難した。


 全て操られ、全て見透かされ、全て奪われ、全て届かなかった。

 槙島は自身に与えられた凄まじい屈辱と悲運に押しつぶされないように、そこで言葉にならない絶叫を響かせた。


 直後、近くから異空間に繋がるゲートが開く。

「ぜぇ、ぜぇ……やはり老いには勝てませんな……」

「やはり空間転移は負担が大きいな……」


 生き残っていた六人の神々が疲労困憊の体で続々と出てきた。

 刹那、彼らは槙島から放たれる異様な殺気に慄いた。


 槙島は神々を睨みつけ、言う。

「貴様ら、この国の軍を全て纏め上げろ。三日後、ミクセス王国を滅ぼしに行く」


 すると神々の内の一人の老人が、至極申し訳無く、

「……生憎ですが槙島殿、それは出来ません」


「何故だッ!?」


「あの、いつの間にか我々の一員に成り代わった何者かが我々を殺戮する前に、一報が入りました」


「『先代国王の死を知った護侯たちが、王の無念を晴らすため呼応し、各地からこの王都一点へ進撃している』と」


「だから、今は包囲陣の迎撃に徹さねばならん。さもなくば全てが無くなってしまうぞ」


「すぐに取り返したい気持ちは山々ですが、奴によって【邪神珠】も奪われた今、もはや我らの戦力は貴方しかいないのですから……ここは我慢を」


 槙島はグングニルを神々の一人に突き立てようとした。

 だがこんな奴を殺しても、自分の過去が明るいものに改変されるわけではない。

 そんな当たり前の現実を見つめ直し、槙島はグングニルを寸でのところで止める。


 槙島は踵を返し、吐き捨てるように神々に命ずる。

「……一秒でも早く終わらせるように尽力しろ」


「仰せのままに」


 そして槙島は、半壊した王城と、奴が飛び去った空を交互に見て、より一層、内に秘めた憎悪の炎を燃え上がらせた。


【完】

話末解説


英霊エインヘリャル

【ジャンヌ・ダルク】


 存在するだけで味方を強化するという能力を持つ英霊。

 元ネタは15世紀のフランス王国の軍人。通称『オルレアンの乙女』。

 神の啓示を受けフランス軍に従軍し、イングランドとの百年戦争の重要な戦いを勝利に導いたとされる。

 その貢献方法が鼓舞なのか、指揮官としてなのかは諸説分かれる。


【ニコラ・テスラ】


 広範囲に至るまで電撃を放てる英霊。

 元ネタは19世紀生まれのアメリカ人の発明家。

 現代において普遍的に活用されている交流電気方式を発明したとされる。

 発明王エジソンは元雇い主であり、直流と交流、どちらかが優れているかを争った間柄。


【項羽】


 嵐のように猛々しく剣を振るい万軍を圧倒する英霊。

 元ネタは中国・秦末期(紀元前2年頃)の楚の武将。本名は項籍。

 中国の歴史上最も勇猛と言われるほどの武勇の持ち主であったが、政略的な視野が狭く、優秀な味方を多く集める劉邦によって敗れた。

 助けがなく、周りが敵対者ばかりとなった状況を指す四字熟語『四面楚歌』は、追い詰められた時の項羽を語源とする。


【ヴラド三世】


 次々と敵を貫く槍技と、飛行能力を持つ英霊。

 元ネタは15世紀のワラキア公国(現ルーマニア)の君主。

 苛烈な戦術により、当時勢力を増していたオスマン帝国の侵攻を幾度と退けた猛将でもある。その苛烈さは国内統治ついても同じだったという。

 彼の呼び名である『串刺し公』とは、敵兵の死体の見せしめや粛清に串刺しをよく用いたことから渾名された。ついでに後世に吸血鬼伝承の元となった。


【アスクレピオス】


 治癒能力に長けた英霊。

 元ネタはギリシャ神話に登場する名医。

 優れた医術の技を身に着け、ついには死者すら蘇らせられるようになった。

 しかし、この技術よって冥府から人が減ってしまい、冥府の神ハデスを怒らせた。

 最期はハデスの頼みを受けたゼウスの雷霆によって死亡した。

 だが、功績を認められて天に上げられ、蛇遣い座となって神の一員に加わったとされる。

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