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第82話 革命指揮の槙島

 ふざけるな。

 槙島が発したこの一言で、『楽園』内にいる元奴隷たちは驚愕、そして畏怖した。


 それに一切構わず、槙島は続ける。

「こんな薄暗い場所で閉じこもったって、貴様らはいつまでたっても報われない。なのに、なぜそんなかりそめの幸せにすがろうとする」


 元奴隷たちの中で、イスラはようやく口を開き反論した。

「だって、仕方ないだろう! 表に出たらお縄にかかって、後は始末されておしまいなんだからさ!」


 槙島はイスラへ問い返す。

「ならばここで明日があるかどうかもわからない過酷な日々も受け入れられると?」


 ニックは多少戸惑いながらも答える

「そ、それは俺たちの感覚と思うぜ」


 続いてデイビスも、槙島に対して萎縮しつつ、

「少なくとも、上でこき扱われるよりは遥かにマシですから……」


 その二人の言葉を受けてから、槙島は言った。

「何度でも言ってやる……ふざけるな」


「ふざけてなんかいません、私たちは……」


 反論しようとしたオリヴィエを、槙島は一瞬睨みつけて制す。

 そして槙島は彼女にはっきりと言い放つ。


「ふざけていないのなら何なんだ。はっきりとした形のある不条理が貴様らを束縛しているのにもかかわらず、打開しようとも脱出しようともせず、それどころか『逃げ隠れて貧しく生きる』という、結局それに従順となって……これこそ同じく不条理だと思わないのか?」


 ここにいるほとんどの人々はうなだれた。けれどもオリヴィエは何とか彼に言おうとした、

「そ、それはわかっています……ですが」


「仮に滅ぶとしても、何もせずに朽ち果てるよりも、せめて一矢報いて後に火種を残す方が有意義だと思わないか?」


 ついにオリヴィエは、槙島に何も言い返せなくなった。


 この隙に、槙島は奴隷たち全員に演説めいて雄弁に語る。

「かつて、俺は当時の居場所で多少力を握った奴らから、正当な理由もなくいじめられていた。そして挙句の果てには、絶体絶命の危機に追いやられ、敗死しかけた。

 しかし、俺は奇跡的に名誉挽回の火種となる力を得て、努力の末に大火に育て上げ、いじめた連中への復讐を果たした。

 そういう風に、貴様らも邪悪な権力者を打倒したいと思わないのか?」

 

 ここでしばらく黙っていたイスラが叫ぶ。

「……アタイだって、偉い連中をぶっ潰して、明るい場所で暮らしたいさ! けど、アタイらにはアンタに怒ったような奇跡なんて起こりはしない! だからこうやって地味に暮らしていくしかないんだよ!」


「やっと本音が出たな……」

 と、槙島はつぶやいた後、四人へ堂々と言う。


「奇跡なんてほど御大層なものじゃないが……勝ちたいというならば、俺がいる」


「貴方が……ですか?」

 と、声に喜びを微かににじませて言ったオリヴィエを、槙島は一瞥して、

「ああ、俺がいる。もし、本当に現状を変えて、日の当たる場所で明日を迎えたいというのなら、俺は喜んで手を貸してやる」



 ヒデンソル王国の王都は内側にある壁二枚により、三重丸のように三層に分かれている。

 一番外側にある第三層は、来国者や地位の低い国民が集まる区域。

 第二層は、国内で名の知れた商人や職人、それから国軍の下部にいる兵士などが暮らす区域。

 そして、第一層――王城のある王都中央部には、王族と貴族が住まう区域だ。


 今宵、突如として蜂起した元奴隷たちの反乱軍が真っ先に暴動を起こしたのは『第二層』だ。


 元奴隷たちの人数は百人。第二層に駐在していた兵士一万人相応の相手では到底かなわない……はずだった。


 今宵は、元奴隷の指揮官に、槙島が就いていた。


 槙島は【兵霊詔令ミズガルズ・サモン】暗黒兵四百体を召喚し、戦力の差を補った。

 暗黒兵は訓練された並の兵士すらも上回る戦闘能力を持ち、単なる数合わせだけでなく、質においても反乱軍を支えた。


 しかし、暗黒兵によって逆に元奴隷たちの活躍が霞むことはなかった。


 槙島はさらなる戦力補強のため、【英霊顕現ヴァルハラ・アドヴェント】で旗を掲げた騎士の少女――【英霊エインヘリャル】ジャンヌ・ダルクを召喚していた。


 ジャンヌは『存在するだけで一定範囲内にいる仲間のステータスを五割上昇させる効果』を持つ。

 これで槙島は全体的にまともな戦闘経験のない元奴隷たちでも訓練された兵士以上の実力を発揮できるようにした。


 暗黒兵と強化された元奴隷たち、この二戦力を率いる槙島は、敵兵を駆逐し、王都第二層区域を徐々に制圧していった。


 第二層に在留していた将校は内外二層から援軍を呼び、この劣勢を覆そうとした。

 だが、その二区域に通じる門全てが槙島の魔法により氷で塞がれ、もはや第二層に逃げ場はなくなった。


「さぁ、総軍、尽く敵を踏み潰し、復讐を為せ!」


 そして槙島たち反乱軍は密閉された第二層を蹂躙した。

 その後に残されたのは、炎上する建物と、わずかな捕虜と、誰一人欠けていない反乱軍だった。


 ひとまず第二層を制圧した反乱軍は、早期決着のため、次なる攻撃先を第一層――特に王城と定めた。


 第一層と第三層の人々が援軍、あるいは反撃をしようと、氷で塞がれた門を砕こうとした。が、その氷は硬く、彼らの努力が実を結ぶことは無情にも決してなかった。


 その無様さを嘲笑いながら、反乱軍は万全の体制で第一層に攻め込むべく、略奪した食料や物資で備えを整えつつ、休息を取っていた。


 その時、第三層を囲う分厚い壁の先にある王城を見据え、槙島は物思いに沈んでいた。

 そこに元奴隷たちのリーダー四人が来るや否や一斉に頭を下げた。


「槙島さん、今日はありがとうございました!」と、デイビス。

「まさか俺たち何かが王国に勝てるなんて夢にも思わなかったぜ!」と、ニック。

「さっきはいきなり襲うような真似してごめんよ、槙島さん」と、イスラ。

「こんな奇跡を起こしてくださって、ありがとうございます、槙島さん!」と、オリヴィエは彼へ感謝した。


 槙島は彼女たちを一瞥して、

「いいんだよ、別に……それに、まだ前哨戦に勝ったぐらいで感謝されるのはまだ早い……」

 再び王城へと目線を移した。


 四人は『気が早かった』と自省しつつ、彼と同じく王城を見つめた。


「よっぽどあの王城が気になるのかい、槙島さん?」

 と、イスラは槙島に尋ねた。


「ああ、あの内部でどう戦うべきか考えていてな……」


「アタイはあんなの真剣に見たって、ただただ『ムカつく』のが先に来る思うけどけどね。しかもあの王城は、アタイたちのご先祖様が血を流して命削って築いた負の遺産だしさ」


「それも思っていた。ミクセス王国のそれと比べても三倍近く大きい荘厳な城、残酷なくらい弱者からの搾取したという忌々しいオーラが伝わってくるからな」


 デイビスはそれに頷いて、

「ですね。あんな権力者の欲がにじみ出てるものなんて、ね……」


「俺もだ。ま、オリヴィエほど嫌でもないけ……」

 と、ニックが言う途中、イスラは彼の口をふさぐ。


「こらニック、アンタ、それはデリカシーがないでしょうが!」


 ニックはハッと目を見開いて、自分の発言を悔いた。

 イスラが口を塞いだ手を離してすぐ、ニックはオリヴィエへ向いて謝った。


「ごめんよオリヴィエ! 嫌なこと掘り返すようなことを言って!」


 しかしオリヴィエは微笑んで、

「大丈夫ですよ。あまり気にしていませんから」

 と、声をかけた。


 そのやり取りを見て槙島はオリヴィエに尋ねる。

「何があったんだ、オリヴィエ?」


「……やっぱり気になりますよね」


「答えたくなければ無理に答えなくてもいいが」


 しかしオリヴィエは首を横に振って、

「いいえ、せっかく私たちを救ってくれた方ですから、やれることはちゃんとやります」


「そうか、じゃあ改めて聞かせてくれ、オリヴィエ」


「はい、喜んで」


 それからオリヴィエは、反乱軍の前にそびえ立つ王城に関する因縁を、そして悲劇を槙島たちに語った。



 オリヴィエ――本名、オリヴィエ・ヒデンソル。


 現ヒデンソル王国国王の弟の娘、つまり姪にあたる人物である。


 彼女は父親とよく似た幼いころから王族としての気品を持つ少女だった

 王族としての才気も、二歳上の者が読むような本を平然と理解し、剣技においても年長者に勝るなど、非常に優れていた。

 だから彼女は両親だけでなく、王国の臣下からも愛されていた。


 それを国王は疎ましく思った。

 彼女の威光が自分の息子よりも信奉を集め、やがて後継者となりうるかもしれないと考えていたからだ。


 故に、国王はオリヴィエ一家の抹殺を目論んだ。


 ただし、いくら国王とは言えど、肉親へ危害を与えるような真似をすれば、国民からの反感は避けられない。

 仮に適当な罪をでっち上げてたとしても、人徳溢れる弟にそれを着せては、『不自然』だと言われかねない。


 なので国王はせめて権威を削ぐことにした。

 王族の後継者を明確にするという目的で合意の元、弟を臣下とすることで王族から離脱させ、オリヴィエが王位を継ぐことを防いだのである。


 だが、それでもオリヴィエの信奉はやむことは無く、国王の耳には『もし王子に問題があれば、オリヴィエ様が支えるようにすれば……』などという失言も聞こえてきた。


 もはやなりふり構っていられない――国王の嫉妬と危機感はついに爆発した。


 そして三年前――オリヴィエが十二歳の頃、王国に『オリヴィエの一家が旅行中に行方不明になった』というニュースが流れた。


 しかしこれは完璧な偽り。オリヴィエ一家はしっかりと生存していた。

 ただし、国王の刺客に捕らえられた状態で。


 国民がオリヴィエ一家の消息を心配し、哀れむ中、当のオリヴィエ一家は、大量の奴隷たちが働いている、王都から遥かに離れた街の建設場所に連れていかれ、そこで有無を言わず過酷な労働を強いられた。


 オリヴィエ一家は理不尽に奴隷へと零落させられたのだ。


 二年後、オリヴィエの両親は過労によって死亡した。息絶えたのは作業中であり、それを見た監督は二人を廃棄物置き場に投げ捨て、追加の人材をすみやかに補填した。

 その酷薄な現実によって、ついにオリヴィエの堪忍袋の緒が切れた。


 そして彼女は、僅かな監視の隙をついて職務から脱走した。

 その後、数日に渡る逃避行の末、彼女は王都の地下にある『楽園』と合流したのだった。


【完】

話末解説(※だいぶ前の話と関係のある解説です)


英霊エインヘリャル

【シモ・ヘイヘ】

 銃による精密狙撃を得意とする英霊。

 元ネタはWW2期に活躍したフィンランドの軍人。世界戦史最多とされる射殺数を誇るスナイパー。通称『白い死神』。


【土方歳三】

 神妙たる剣さばきを誇る英霊。

 元ネタは幕末期から明治初期に活躍した侍。京都の治安維持組織・新選組の副長。最期は旧幕府軍に組みし戦死したとされる。


【ナポレオン】

 暗黒兵の強化と砲弾サイズの火弾を放つ英霊。

 元ネタはフランス革命期の軍人。後に皇帝。

 卓越した軍事手腕でほとんどの戦争で勝利を収めた戦術家として知られる。また、近代的な価値観を取り入れた通称『ナポレオン法典』の制定に関与している。


【ベオウルフ】

 脅威の怪力と耐久力を持つ英傑。

 元ネタは八〜九世紀に成立したとされる叙事詩の主人公。

 戦士として、巨人グレンデルとその母と戦った第一部。老王として、火を吐く竜と戦い相打ちとなった第二部。この二つの物語が現代に伝えられている。

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