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第78話 戦え、栄光の遺跡で

 栄光の遺跡内部にて。


 第一試練・智慧の試練を合格した有原一行は、案内人についていき次の部屋に来た。


 先程の試験会場と同様、詳細不明の石材の壁に囲まれた、六人が動き回っても手狭ではないくらいの広さの部屋だ。

 その中で目を引くのは、程々に間隔を開けて地面に設置されている、三×三で区切られた正方形のパネル六つ。


『こちらでするのは第二試練・対処の試練です。まず皆様、一人ひとつずつ、これらのパネルの上にお立ちください』


 六人は言われた通りパネルの上に立つ。


(あれ、これどっかで見たことあるぞ……?)

 その時、石野谷は何らかの既視感を感じていた。


 六人が配置についてから間もなく、六枚のパネルの真上部分が輝く。


 そこから六人の前に立った案内人はこの試練のルールを説明する。

『今からだいたい三分の間、そのように皆様の付近に光が現れます。皆様はそれを踏むなどして、素早く叩いてください。

 そうすると点数を獲得できます。できるだけより早く叩けば叩くほど加算される点数は大きくなります。

 そうして制限時間内に定められたノルマを達成できれば、この試練は合格です』


「なるほど、反射神経を試す試練ですか」


『その通りです有原様。それと注意事項ですが、現れます光は道具や魔法を使わず、自分の身体を使って叩いてください。でないと主旨がズレますので……では皆様、準備の方はよろしいでしょうか?』


「「「「「「はい!」」」」」」


『では、始めます!』


 と、案内人が言った瞬間、室内に何やらテンポの激しい音楽が流れると同時に、六人の足元のパネルがきらびやかに点滅し始める。


「ええっ、こ、こんなに絶え間なく出てくるんですか!」


「ちょっと待ってそこまで心の準備できてないんだけど俺……!」


 運動が得意ではない方の人間である内梨と海野は、連続して足元に現れる光へ、必死に追いつき、それを踏んでいく。


 その光の出現速度は凄まじく、順当に動けるタイプの有原と武藤ですらだいぶ苦しそうに対応していた。


「ところで何なんですかね、この音楽!?」


「たぶんボクたちに本気を出させるためのBGMだよ、級長!」


 そして石野谷と三好は黙々と、足元に現れる光をテンポよく踏んでいった。


(これ、やっぱアレだよな……)


(間違いない、ゲーセンのダンスのアレだ……)


 元いた世界の経験を生かして。


 そして一分半後。一行はこの試練の内容に慣れていき、運動できないコンビもなんとか光に追いつけるようになった。


 その時、案内人はこう宣告する。

『それでは後半戦に入りましたので、少しパターンを変えて参ります!』


 直後、今まで足元のパネルにしか現れなかった光が、個々人の前後左右と頭上にまで現れ始めた。

 この急激な変化に、試練に慣れ始めた六人はさらなる対処を強いられ慌てふためく。


「うぉい! こんなの聞いてないぞ俺ぇぇぇ!?」


「ちょっ、これはやってないんだけどぉぉぉ!」


 これはさっきまで難なく出来ていた石野谷と三好も例外ではない。

 なぜなら、元いた世界でやっていたソレは足元しか叩く場所がないのだから。


 そうして六人揃ってヒーヒー言いながら踊ること一分半。光の出現と音楽が止まった。


『集計しました……ただいまの結果、まず有原様は……』


「だから一人ひとりの点数言わないほうがいいって!」


『申し訳ございません三好様。ただいまの結果、全員合格です!』


 案内人は六人の健闘を称えて、盛大な拍手を送る。

 が、六人は揃いに揃ってパネルの上にへたり込み、あまり反応しなかった。喜びよりも疲れの方が勝っているのだ。


「はぁ、マジで疲れたんだけどこれ。前の世界で依央たちと何度も遊んだことあるってのに……」


「あの変転ヤバいってマジで。久門さんたちと一緒にやってたのと似てる前半部分は楽勝だったのによ……」


 そして類似ゲームの経験者の二人は、お互い見合って、

「「それなー」」

 と、言った後、急に暗い気持ちになった。


「依央、ねぇ……」

「……久門さんたち、とな……」


 桜庭さくらば依央いお久門くもん将郷まささと――前の世界で遊んだゲームと類似の試練を経験したのをきっかけに、この世を去った友達のことを思い出してしまったのだ。


「もう、何なんだろうねこれ。せっかく合格出来たってのに後味悪いよね……」


「あの案内人が祐の恩人の木曽先生の姿とってるのも含めて、この試練の裏テーマって『人の心の傷を抉ること』だったりしてな……」


「……感傷に浸ってるところすまいが、流石にそれはないだろ」

 と、海野は二人へツッコんだ。



 それから六人は案内人についていき、遺跡内をどんどん進んでいく(現在地が不明なのでそう言い切るべきかはわからない)。

 

 転がる岩や、迫りくるトゲ付き天井など、ベタな遺跡探索アクション映画に出てきそうな仕掛けが満載の道を進んでいく『第三試練・疾走の試練』。


 制限時間内に遮蔽物の多い、入り組んだ広い部屋の中で全てのマトを見つけて破壊する『第四試練・捜索の試練』。


 頑丈な鉄球を出せる力の限り遠くへ飛ばす『第五試練・強撃の試練』。


 これらの試練を試行錯誤しながら突破していった。


 そして六人は第六試練へ挑むため、六人は案内人についていき、石壁に囲まれた道を歩き続ける。


 その道中、石野谷は有原に話しかける。

「……なぁ、祐」


「ん、何かな陽星?」


「ここ、本当に栄光の遺跡なのか?」


「い、今それ聞くんだ。案内人さん、ここは栄光の遺跡ですよね?」


『はい、ここは紛れもなく栄光の遺跡です』


「だってよ」


「……そうだよな、やっぱりそうなんだよな……」

 しかし石野谷は未だに腑に落ちていない。


「……だとしたら、これ、そんな言うほど難しいか?」


 栄光の遺跡に来る前に、ハルベルトから『突破者は百人中一人』、『【神寵】使いですら失敗するかもしれない』などなど、ここの難易度の高さは山程伝えられていた。


 しかしいざ挑んで見れば、難易度調整がアバウトなテストだったり、ゲームセンターのそれをいくらか盛ったものだったりと、それほど試練感を感じられない代物だった。

 さらに内容に関しても、疲れたり大変だったりすることはあるが、決して失敗しそうになるほど過酷なものはなかった。


 なので石野谷はここで成長するのかどうか怪訝に思い始めたのである。


「まぁ、確かに今はそうかもしれないけど、多分今は序盤の方だからそう感じるだけで、ここからは徐々に……」


 ここで案内人が二人の方へ振り返って、

『すみません説明し忘れました。残り試練は次の物含めてあと二つです』


「ありがとうございます……もう終盤に差し掛かってましたね」


「マジで大丈夫なのかこの試練……」


「そうだよな。思ってたのと違うよなこれ……」

 と、海野はしれっと二人の話の輪に入ってきた。


「やっぱり海野も同感か」


「ああ。特に俺はここに来る直前に聞いたハルベルトさんの言葉が引っかかってるんだよ」


 山登りの途中、海野は用心して試練の内容についてハルベルトに尋ねた。


 しかしハルベルトは『答えられない』と答えた。

 ただし『試練の意味が半減するから』というわけではなく、『教えても意味がないから』ということでだ。


「この内容なら、一試練の内容くらいとか、『結構身体使う』とかざっと上辺くらい教えてくれてもいい気がするんだが」


「だよな。教えても心の準備が出来るとか、意味あるよな?」


「さぁ、そういう方便だったんじゃないのかな?」


「「だといいんだけどなー」」

 と、二人は拭いきれない不安を揃って口にした。


 その様子を見て、有原の側にいた武藤は一言。

「気にしなければいいのにねー」


「ですよね。二人とも強いのですから……」


 そして案内人は扉を開けて、六人を次の試験会場へと案内した。

 

 遮蔽物は何一つない、半径一キロメートルはくだらないほどの広さを誇る、シンプルな円形の空間がそこにあった。


「いかにもボス戦じゃんこれ」


『続いては、第六試練・征伐の試練です。ルールは至って単純明快。ここに現れる敵の大軍を、皆様で協力して六千体倒せば合格です!』


「ろ、六千……そんなにですか!」


「平均して一人一千……まさしく一騎当千ってことですね」


『ええそうです有原様。なお、これまで通り「致命傷相当のダメージを受ける直前、失格扱いで入口に戻す」ルールは適応されますので、ご心配なく……では、皆様が最後の試練まで来ることを願っております!』

 と、言って、ここまでどんな時でも連れ添って案内してくれた案内人は、ついに六人の前からパッと消えた。


 その直後、六人の周りに、謎の鉱石で全身が構成された人型の兵士が無数に現れた。


「ざっと数えて千体か……これはキツイかもしれないかも」


「けど、やっとこさそれっぽい試練が始まって、俺ワクワクすっぞ!」


「だね、陽星! よしみんな、ここを乗り越えれば後は一試練だけだ、気合い入れていろう!」


「「「「「おーっ!」」」」」


 自分たちを取り囲む無数の鉱石兵に物怖じせず、有原たちは士気を高め、試練に挑む。


 そこに当たっての綿密な作戦は特にない。


「皆さん頑張りましょう! 【アタック・サプライズ】! 【マジック・サプライズ】」


 これまで通り内梨が仲間全員にバフを振りまき、


「【天羽々斬虚剣あまのはばきりきょけん】ッ!」

「【ロクシアース・ノヴァ】!」

「【イソグサの円環】!」

「【アヴァターラ・ブリッツ】!」

「【トゥアハ・グローリー】!」


 それぞれの得意技をひたすら繰り出し、敵をなぎ倒す。

 これで一行は絶え間なく現れる敵兵を、草を刈るように次々と打ち倒していった。


 こうして、彼らは十分も経たない内にノルマである敵六千体を倒し切った。


『おめでとうございます、第六試練合格です!』

 その瞬間どこからともなく案内人の声がした。


 直後、六人はいつのまにか離れ離れになり、気づいたときにはそれぞれ一人、新たな部屋に佇んでいた。


 さっきいた場所と半分くらいの面積と、天井にテレビ通話の画面のように他の五人の様子が映されているのが特徴の部屋だ。


「これが最終試練の舞台か」と、石野谷。

「今までは普通に歩いて言ってたのに急に瞬間移動になるっていうね……」と、三好。

「ここからは一人ひとりでの力を試す、ということでしょうか……」と、内梨は言った。


 そしてかれこれお世話になった案内人が、それぞれ一人ずつ六人の前に現れた。


『ここまで到達していただきありがとうございます』

『こちらは最終試練・宿敵の試練の会場となります』

『ルールはシンプル。今から貴方がたの前に現れる敵を倒せば合格。これにて栄光の試練突破となります』

『制限時間はございません。好きなように戦ってください』

『それと、これまで通り致命傷クラスの攻撃を受けそうになったら、失敗とみなし、入口に瞬間移動させます』

『では有原様、準備はいいですか……!』


「はい、できています!」

 

 有原が返事した時、奇しくも他の部屋にいる五人も、同じタイミングで返事した。


 その答えはやはり言葉に差はあるが、全員『了承』の意味だ。


『『『『『『わかりました、では、健闘を祈ります!』』』』』』


 六人の案内人は目の前にいる相手から数歩下がり、一定の距離を取ったところで立ち止まる。

 ――まるで何らかの試合の対戦相手かのように。


「な、なに! まさかニセ木曽先生! 貴方がラスボスなの!?」


『いいえ違いますよ三好様。貴方の相手は私であって、私ではありません……』

 と、三好の案内人が言った後、彼の全身がノイズのような不規則な光に覆われる。


「ば、バグったの……!?」


 それが収まった時、木曽先生の姿はなかった。

 代わりに三好の前にいたのは、返り血めいた赤髪をした、二本の槍を持つ少女――桜庭さくらば依央いおだった。


「依、央……なんであんたがここ……」


『えええええ! ちょ、ちょっ、待ってくださいよぉ!?』


 天井のモニターから石野谷の驚く声が響いた。

 死んだはずの人間がいることに向き合いたいというのに――と、思いつつも、三好はどうも捨て置け無い感じがして、石野谷の部屋が映されたモニターを見上げる。


 するとそこには、石野谷の姿と、青と黒の二色のメッシュが不規則に入った金髪をした、得物の大剣と釣り合うほどの巨体を誇る少年――久門くもん将郷まささとがいた。


『な、なんで久門さんがここに……!?』


 三好はまさかと思い、他の四人のモニターも覗いた。


 内梨の前には篠宮が、海野の前には梶が、武藤の前には鳥飼がいた……そのまさかだった。


「なるほど、宿敵の試練ってそういうことか……」

 と、有原は、目の前にいる槙島と、上のモニターを交互に見ながら言った。


 ここでようやく、有原はハルベルトの『試練の内容を教えても意味がない』という言葉の意味を理解した。


 これならば事前に教えられても対処のしようがない――最後の試練の相手は、各個人の『戦いたくない敵』が現れるのだから。


【完】

今回の話末解説はございません

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