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第77話 解せ、栄光の遺跡を

 攻略した者は超越した成長を遂げることが出来る、伝承に伝わる試練場【栄光の遺跡】。

 さらなる力を得て、槙島の暴走を止め、邪神の暴威を断つべく、有原、内梨、海野、三好、武藤、石野谷はここに挑みに来た。

 

 そして今現在、彼らは門前の地に開いた穴に落ちていた。


「くっそぉぉぉ! まだ十分に休めてないってのにぃぃぃ!」


「なんで始めっからこんなピンチになるのぉぉぉぉ!?」


「きゃあああ! た、助けてくださぁぁぁい!」


 海野、三好、内梨が絶叫しながら落ちていく中、飛べる手段を要する他三人はそれを発動する。

「【須勢理すせり翔矛しょうむ】ッ!」

「【イカロス・ライジング】!」

「【神器錬成:クラウ・ソラス】……出力全かぁい!」

 

 有原は内梨を、石野谷は海野を、武藤は三好に掴まってもらい、そこから地上へ這い上がるべく高度を上昇させる。

 が、その瞬間、上に開いていた穴がバタンと閉じた。

 こうして、下だけでなく上も真っ暗となってしまった。


「そ、そんな……ここからどうすればいいんだ……!」


「そんなの決まってるだろ祐!」


「昇って駄目なら、落ちてみろってことだーっ!」


 これで地上に復帰するのは無謀だ。と、感じた石野谷と武藤は、ヤケ気味に下へ広がる暗黒へと降っていった。


「え、ちょ、武藤ちゃん! まだ心の準備がぁぁぁあ!?」

「せめてゆっくり降りろよ石野谷ぁぁッ!」

 掴まっている相手へ相談せずに。


「……祐さん。私たちも降りましょうか。ひょっとしたら普通に落ちるのが正解かもしれませんので」


「……ですね」


 二組に続いて有原と、彼に掴まる内梨と一緒に、なるべくゆっくり目に降下した。


 暗闇へ暗闇へと降っていくと、六人の目に、周囲に発光する鉱石が散りばめられた池が映る。


「見た感じ結構な深さの池だな……」


「どうやら落下するのも正規ルートだった感じだね」


 飛行可能な三人は濡れるのを避けて、掴まっている相手と共に、池の周りの地面に、急速落下した反省の意を込めて優しく着地する。


 するとすぐに有原は辺りを見渡して、

「あれ、ハルベルトさんはどこに……」


 内梨は無意識に目を見開き、口を両手で塞いだ。

「ま、まさかこの池で溺れて……!?」


 一方、海野は【ルルイエの掌握】で冷静に周囲を調べる。

「いや、それはないよ内梨さん。そもそもこの辺にハルベルトさんは居ないから。多分別なところにいるんでしょうよ」


「なんだ、よかったぁ……」


 さらに海野は指さして言う。

「あとついでに調べたけど、この辺に敵の反応はないから、とりあえず今は何も気にせずあっちに進むべきだと思う」


 六人が落下する予定だった池から、二十メートルくらいの、均等な間隔で鉱石が散りばめられ、適度に明るくなった石壁に挟まれた一本道が伸びており、その先にはわかりやすく『入ってこい』と言わんばかりの扉があった。


「でしょうね。多分あの先に行ったらいよいよ試練スタートなんだろうね」


「だよなー。だってそこしかいくとこないもんな」


 と、話しつつ三好と石野谷は先にその扉の方へ歩いていった。


「お前らいつの間にか仲良くなってんな……てか、おいこら、勝手に行くんじゃない」


「隆景、さっき『今は何も気にせず』って言ったような気がするんだけど……」


「です、ね……」


 そして六人は扉の前に集まり、

「てなわけで一気にドーン!」

 武藤が勢いよく押して開けた。


 扉の先にはそこそこの広さの部屋があった。

 古代遺跡らしく、床と天井と壁は詳細不明の謎の石材で構成されている。

 そしてそこには、同じく謎の石材製の一人用の机と椅子が六つ並んでいた。

 その広さも相まって、まるで元の世界にあったような『教室』のようだった。


 この中世ファンタジー風の世界観の試練場とは思えない光景に、六人は呆然とする。


 するとその時、部屋の中央にいきなり男が現れ、六人へ歓迎の意を示す。

『皆様、ようこそ【栄光の遺跡】へ』


 そして六人はますます固まった。


 何故ならその男の姿が、六人にとって既視感しかないもの……一年二組の担任、木曽先生そのものだったからだ。


「木曽、先生……ですか?」


『木曽先生……ああ、この姿の元の人物の名前ですか。申し遅れました、私は単なる試練者の「案内人」でございます。私は挑戦者の皆様の記憶を読み取り、皆様にとって親しみのある人の姿を真似ているのです』


「だとしたらもっとマシな人間にしてくんない?」と、海野。

「そっそ、アタシ木曽先生と全然いい思い出ないし」と、三好。

「俺も嫌いなんだよ木曽先生。挙動と存在全てがうざいし」と、石野谷。

「しかも授業つまんないんだよ! 何度もボクたちに教科書読ませようとして……」と、武藤。


 こうして四人は、揃いに揃って案内人の姿のチョイスを、木曽先生ディスりと並行して非難した。


「あ、あの……皆さん、そんなことを言うと祐さんが……」


「……いいよ美来さん……僕は気にしてないから……さ……」

 その時有原は、自分の命の恩人をバカにされたことで内心傷ついていた。


「「「「ご、ごめん……」」」


 閑話休題。六人は案内人の方へ向き直る。

 すると案内人は六人に机へ座るように言ってきたので、彼らはその通りに一人ひとり席についた。


『では皆様、これより第一試練・智慧の試練を始めます』

 案内人は六人の席を一つ一つ周りつつ、彼らの机に一面真っ白の一枚の紙と鉛筆を置く。


「なにこれー? もしかしてテストー?」

 武藤は純粋な興味でなんとなく、渡された紙をめくろうとする。


『おっと武藤様。まだ裏返さないでください』


「あ、ごめんなさい……あ、そんなこと言うってことはまさか本当に!?」


 武藤が試練の内容について察した直後、答え合わせをするかのように案内人はその説明を始める。

『皆様には三十分の間、この紙に書かれた問題に解答を記入して頂きます。そこにある全二十問の内十六問以上正解すれば、この試練は成功となります』


「ほら、やっぱりテストだ! えー、ボクこういうの苦手なんだけどー」


 そう武藤が文句を言っている最中、海野は自分の机をバシンと平手で叩いて、

「武藤さん、ちょっと黙ってくれないかな……!」


「ご、ごめんなさい海野さん……」


「流石海野、やっぱ勉強好きらしくテストへの向き合い方がヤベーな」


「アタシたちの中じゃ一番の頭脳派だから、そういうとこでみんなを引っ張ってきたいんだろうね……」


『ちなみに皆様はそんなことしないとは思いますが、うるさくするなどの妨害を行ったり、答えを覗くなどの非常識な行動を取った場合は即試練失敗、お帰りいただくことになっております……では皆様、心の準備はよろしいでしょうか?』


 案内人の質問に六人は無言でうなずいて返事し、

『わかりました。では今から三十分間、全力を発揮してくださいませ……それでは始め』

 この合図の直後、六人は紙を表にして、そこにある問題に取り掛かった。


 そして部屋が静まり返ってから三十分後。案内人は六人の答案を回収する。


 案内人は一枚ずつ目視して答えをスキャンし、パパっと採点を終わらせ、すぐに合否発表へ入った。


『えー、残念ながら皆様……全員〇点でしたので、全員試練失敗です』

 と、案内人が言った途端、試験会場は大いに荒れた。


「そりゃそうだろ! こんなのわかるわけないだろうが!」

 と、海野でさえも案内人に対して怒鳴りつけた。


 それもそのはず、出題された問題は『ヨノゼル王国の建国年は?』、『ミクセス王国五代目国王の名前は?』など、この大陸の知識に精通してなければ答えられない問題ばかり。

 比較的、ここに来てから日が経っていない六人にとって、この問題は一問たりとも答えられるはずがなかった。


『ですが、ここに挑むからにはそういった準備もしていただけたと私も思いまして……』


 海野はますます憤り、案内人へ怒鳴る。

「んなわけあるか! さっき俺たちの記憶読み取ったって言ったよな!? だったら俺たちがこの世界の知識が浅いことくらいわかってたよな! だったら俺らの知識に合わせたテストを用意しろよ! そんな誰得なモノマネする暇があるんならよ!」


(僕は多少得してるんですけどね……モノマネでも久々に木曽先生に会えたので……)


 これに三好、武藤、石野谷も賛成して、声を張り上げる。

「「「そうだそうだー!」」」


 六人の中で温厚よりな有原と内梨は言葉こそ発しないものの、海野の言い分にうなづいていた。

(僕もこれは意地悪だと思う……)


 これに案内人は参り、

『わ、わかりました。では今のはお試しということで、今度は皆様の知識に合わせた問題を出題します……』

 彼らの圧力に負けた案内人は、速やかに新しい問題用紙を作り、六人へ配り直す。


『では、始めてください』

 

 今度こそは合格してやる。という気概を持って一同は紙をめくった。

 刹那、海野は吹き出しそうになったのを両手で押さえた。


 用紙の冒頭にある問題――『問一 □の中に入る言葉を答えなさい。 「水素+酸素→□」』を見て。


(何だこれ……アイツ難易度調整下手かよ……?)


 最初の方は簡単にして、後はきっちりとした内容になっているだろう。と、海野は信じてテストの内容を斜め読みする。

 それで海野は、全問題が中学生くらいでも解ける難易度だったことを把握し、また吹き出しそうになった。


(やっぱ難易度調整下手だったな……しかも学校に出てくる問題どころか、小学生が好きそうななぞなぞとか、マッチ棒パズルまで混じってるし)


 そして海野は小さくクスクスと笑いながら、素早く全問題を解き終えた。もちろん全問正解だ。


『海野様。もう終わったようでしたら、こちらを回収してもよろしいでしょうか?』


「ええどうぞ。もう解きませんので」


 案内人が解答用紙を回収した後、もはやカンニングの疑いは掛けられないということで、海野は仲間の様子を見る。

 三人、順調に解けているようだった。


(だろうな、そうでなくちゃな……)


 しかし武藤は顔をこわばらせながら、鉛筆を持っている手をガタガタ震わせていた。

(え、なんだっけ……『北を向いた時右にある』のは『東』だっけ『南』だっけ……?)


 またその一方、石野谷は目を見開いたまま、鉛筆を握る手を含めて全身硬直していた。


(けどアイツらは、ヤバそうだな)

 それから海野は両手を組み、武藤と石野谷が無事合格してくれることを必死に祈った。


(実物で試しながらやらせて欲しいなこのマッチ棒パズル……)

 なお、石野谷が硬直しているのはマッチ棒パズルのためだけであって、この時彼は他の問題は全て解けていた。彼は梶が度々勉強を教えてくれていたので、どこかの柔道の人ほど馬鹿ではないのだ。


 三十分後、また案内人は六人の答案を回収し、スキャンし点数をつける。

 その間でも海野は祈りを止めなかった。


(頼む、合格してくれ……!)


『では結果発表です。まず有は……』


「あ、ちょい待って? さっきツッコミそびれたんだけど、皆の前で一人ひとりの点数言うの止めてくんないかな? 普通にデリカシーないよそれ」


『すみません三好様』


 改めて、案内人は合格発表をする。


『それでは結果発表です……』


(頼む、全員合格してくれ……!)


 試験会場の部屋に張り詰めた空気が立ち込め、六人がいい結果を願う中、案内人はついに結果を言い放つ。


『皆様、合格です!』


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 刹那、海野は大げさに両手でガッツポーズをした後、勢い余って後ろに倒れた。


 するとすぐに石野谷と武藤は彼を心配して駆け寄って、

「だ、大丈夫かよ海野!?」

「海野さんも、そんなに合格するかどうかギリギリだったの!?」


「んなわけあるかよ……ったく!」


 本気で二人を心配しすぎたばっかりに、下手すると普通のテストを解くよりも神経を使い、心身が疲れていた海野であった。


【完】

今回の話末解説はございません

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