第68話 戦後仕置
事件の真犯人、邪神獣【下劣のゲルビタ】は有原・石野谷の合体奥義に敗れた。
故に、邪結晶が地面に落ちた時、ミクセス・ファムニカの両軍はこれまでのいざこざを忘れ、入り混じって大喜びするのだった。
「そ、そんな……!」
そこから大幅に離れた場所。
ゲルビタが正体を表した途端に一目散に逃げ出していたフラジュは、ゲルビタの敗北を見て、両軍とは対象的にひどく焦燥していた。
ゲルビタが敗れた以上、次に追及を受けるのは、実行犯を操った自分なのだから。
「と、とにかく今は逃げねば!」
その追求から逃れるべく、フラジュは正面を向き直し、再び逃げ出す。
しかし、その前の道に、一本の矢がピンと突き刺さる。
「そうはいかんぞ、フラジュ殿……いや、今はフラジュでいいか!」
「こ、この声はまさか!」
そしてフラジュは後ろから襟元を掴まれ、思い切り地面に叩きつけられる。
直後、フラジュの目に入ったのは、あからさまに不愉快なハルベルトとゲルカッツの顔だった。
「な、何をするのです! ハルベルト、ゲルカッツ! 吾輩を誰だと思っているのでありますか!」
ゲルカッツは途中、フラジュの一発顔面に蹴りを入れて言う。
「騎士団長筆頭、フラジュ殿……とでもいうと思ったか! この極悪人が!」
ハルベルトはゲルカッツに『気持ちはわからなくもないが……』と、注意した後、フラジュを転がしうつ伏せにして、腕を組ませて、
「まさか財産を奪って無一文にした上で国外追放してもなお、このような問題を起こすとは私も思いませんでしたよ、この下衆め」
「なんですと! おい貴様ら、そもそも何故吾輩が犯人の一人だと言い切れる! ただあの占い師に扮した邪神獣と一緒にいただけではないか!?」
「それが貴様の疑惑の中で一番調べ上げるべき問題なのだ!」
「もう既に何人かの兵士などから、貴様たちが共に行動していたことは聞いている! もうしらばっくれても無駄だぞ、フラジュ! ひとまず一度、貴様が迷惑をかけた方々と顔を合わせてもらおうか!」
「ひぃぃぃぃ!」
こうしてフラジュはハルベルトとゲルカッツに取り押さえられ、縄でぐるぐる巻きにされた。
そしてフラジュは二人に引きずられ、ゲルビタ撃破に喜ぶ界訪者たちと、エストルークとエスティナの元に連行される。
「皆様、無事もう一人の犯人を確保いたしました」
「ありがとな、ハルベルト、ゲルカ……」
ここでエストルークはルチザに、こっそりと足を蹴られて言い直す。
「あ、ありがとうございます、ハルベルト、様、ゲルカッツ、殿……!」
そしてエストルークはエスティナと共にまずフラジュを一度蹴る。
「ぐへぇっ! おいこらこの馬鹿王族ども! いくら容疑者とは言えこんな乱暴はしてはいけないのではありませんか! せめて一通り裁判を終えてから……!」
「うるせぇ! お前に正論を放つ筋合いはねえだろ!」
「そうだ! 兄貴の言う通り、貴様なんか有無を言わず即刻有罪だ!」
と、怒鳴り返すエストルークとエスティナを見て、ルチザは思う。
(お二方、『馬鹿王族』には触れないのですね……?)
即刻有罪。この四文字を聞くや否や、フラジュはわかりやすく狼狽える。
「ゆ、ゆ、有罪ッ!? 待ってください! これは後ろの騎士団長どもにもいいましたが、一体吾輩が何をしたというのです!」
ここでエストルークの隣に梶が現れて、淡々とフラジュの罪状を述べる。
「一、ゲルビタと同行していた。
二、実行犯となったミクセス王国の兵士と一緒にいたのを雄斗夜に目撃された。
三、実行犯が持っていた宝石と似たような宝石をゲルビタが使っていた。
四、ゲルビタが正体を表した途端、真っ先に逃げ出した。
っていう証拠がある。
あ、あの占い師の正体に気づかなった。っていう言い訳は通じないからね。奴の悪巧みに乗っかったことが悪いんだから」
しかしフラジュは往生際悪く、自分の罪を認めない。
「違います! それは貴様らの勝手なこじつけであり、まだ確定するに値する証拠はありませんでしょう!?」
それに一同は金輪際耳を貸さず、フラジュの処遇について話し合っていた。
「で、どういう処罰にする……あいや、どういう処罰をすればよろしいでしょうか、ハルベルト様、ゲルカッツ様?」
「それは貴方たちに委ねます」
「我らとフラジュとの関係はもはや過去のもの。今のこいつはファムニカの者だから、ファムニカの長たる貴方が裁くのが筋だ」
エストルークはルチザの無言の蹴りで促され、騎士団長二人に感謝の礼をした後、隣のエスティナへ尋ねる。
「じゃあ、どうしよっかエスティナ?」
エスティナは即答する。
「死刑だろ死刑! こいつはオレの右目を奪いかけた罪と、桐本様への贈り物を台無しにした罪がある! 二つ合わせて死刑だ!」
「だな! それもとびっきり痛いやつで大っぴらにやろうぜ!」
「だねだね!」
「ひぃぃぃぃ!?」
エストルークとエスティナがフラジュの処刑方法を出し合って盛り上がる中、フラジュは迫りくる恐怖から逃れるべく、辺りをキョロキョロ見渡す。
(何かないか、何かないか、何かないか……あった!)
そしてフラジュは、尋問の模様をずっと見学していた有原へ呼びかける。
「有原様ー! あなたはどう思いますか!?」
「はい、何でしょうかフラジュさん?」
「いくら二国の関係を悪化させかけた張本人であるとはいえ、今、案が上がっているように惨たらしく処刑されるのは人道的にいかがなものかと思いませんか!?」
真壁のような人物でさえも最後まで救おうとしたほどの優しさを持つ有原なら、きっとあの横柄な兄妹にも待ったをかけて減刑してくれるはず――フラジュはその浅はかな希望に賭けた。
「確かに、あまりにも酷い処刑方法をするのは良くないと思いますね。一応お二方に言ってみます」
「あ、ありがとうございます! 有原様ー!」
フラジュが激しく喜ぶ中、有原はエストルークとエスティナの元へ行って、
「盛り上がっているところ失礼します、エストルーク王子、エスティナ姫」
「急にどうしたおまイダッ……どどどうしましたか、有原さん?」
「他国の決議に口を出すのはよくないのは承知の上で……フラジュさんの処罰の件ですが、あまりにも残虐な手法を使うと、後々国民の皆様などから怖がられてしまうので、できるだけ控えめにしたほうがいいと思うのですが……」
「えー、こいつに限っては全身グチャグチャにしてもいいと思うんだけどなーオレ」
「やはり僕は他国の人なので、『必ずして』とは言えませんが、多少なりと頭に入れて貰えると嬉しいです……」
「そう言われるとなんか嫌だなぁ。ねぇどうする、兄貴?」
「うーん、何かこいつ、ミクセス王国でもなんかやらかしたらしいんだろ? だったらある程度酷ったらしく殺すべきだと思うんだけどな……」
「いや、わざわざ殺しもしなくていいと俺は思うぜ」
と、有原に続いてやって来た石野谷は言う。
「石野谷、お前もか?」
「えっ、何で何で?」
王族兄妹の問いに、石野谷はこう答える。
「確かにコイツは二国にとってしちゃいけないことをしでかした。けど、こいつには、俺たち六人と、王子たちのファムニカ王国を繋げたっていう功績もある。もしこいつがいなければ、俺たちはずっとミクセス王国の周辺をウロウロしてたし、ファムニカ王国は仙台の王が作った『殻』を破れず本当に滅んだかもしれなかった」
「そう言えばそうだな。俺と石野谷と……」
「オレと桐本様が出会えたのは、一応このドクズのおかげだったか」
「そうだ。だからそれとこれを足し引きすれば、少なくとも殺すまでじゃあないと思うんだが? どうよ、エストルーク?」
「確かに、俺と石野谷一味が出会うきっかけを作ったことはデカいな。だがよ、ここでコイツを生かせば、また何か悪さをするかもしれないぞ?」
「だったらこいつを生かしつつ、二度と余計な真似ができなくなるくらい重い罰を与えてやればいい」
「「例えば何??」」
石野谷は梶に作ってもらった、何の変哲もない鉄の棒を二人へ見せる。
「これで百回ぶっ叩けば心折れて二度と悪さできなくなるんじゃないか?」
「「おー、それいいかも」」
王族二人が納得するや否や、フラジュは激しく身体を揺らしジタバタして抗議した。
「いや良くないでありますよ! いくらなんでも死にますよそれは!」
そこで梶は一言。
「安心してください。もし死にそうになったら僕が回復しますよ」
「むしろ不安になりますよそれ!?」
フラジュがツッコんだ直後、石野谷は試しに一発、その鉄の棒でぶん殴りつつ、彼へ怒鳴る。
「ごちゃごちゃうるさいなあお前! ろくなことやってない分際のくせにいつまでも自分を甘やかすんじゃねえよ! 贅沢言わずに死なないだけで幸せだと思え!」
「ひぃぃぃぃ!」
フラジュは石野谷の威圧と厳罰から逃れるべく、有原と目を合わせて、
「有原様ぁぁぁ……あれだけ言ってたのにちっとも酷さが下がってないのですが……そこのところなんとかしていただけませんかぁ……?」
有原はしゃがみ、フラジュと目線の高さを合わせてから、
「フラジュさん、流石に反省するべきところはしてくれませんと、いくら僕でもどうともできません」
と、正論をもってしてフラジュを突き放した。
「そ、そんなぁぁぁぁッ!?」
「よく言ったぞ祐」
と、石野谷は有原の公私混同を避けた正論を褒めてから、斜め後ろにいる稲田に頼む。
「じゃあ輝明! カウント係はまかせたぞ!」
「あいよお! バッチリ千数えてやるぜええ!」
「ま、待ってください! 貴様さっき『百回ぶった叩く』って言ってませんでした……!」
「いーちッ!」
「ぎゃあああ!」
ここから、石野谷による懲罰が始まった。
フラジュは次々と振りかざされる鉄の棒により、身体のあちこちで苦痛を味わう。
何度も発される悲鳴は、周りにいる者たちの鼓膜を破るくらい激しかった。
「二十一! 二十二! 二十三! ……えーっと輝明、今俺何回叩いた?」
「三だったと思うぜ」
「じゃあ四! 五!」
「おいこら輝明! 貴様しっかりカウントしなぁぎゃあぁぃたぁぁぃッ!?」
「落語の『時そば』かよ……」
と、梶はつぶやきつつ、世界で最も優しくない回復魔法をフラジュへ与える。
(そうだ、回復魔法で思い出した! まだ優しい馬鹿がここにいた!)
「う、内梨さまぁぁぁ! 吾輩こんなひどいいじめを受けていまぁぁぁす! 助けてくださぁぁぁい!」
この時、内梨は三好と武藤に連れられ、遠くで回復中の飯尾のお見舞いに行っていた。
勿論これは内梨の良心が裏目に出ないようにするための予防である。
「なんでお前が内梨さんを頼るんだよ」
と、その予防を施した主犯、海野はフラジュへツッコんだ。
「おい石野谷! お前ばっかり叩いてると疲れるだろ! 俺たちにもやらせてくれ!」
「オレもオレも! 梶、棒ってまだある?」
「ええ、存分にありますよ、王子、姫!」
エストルークとエスティナも刑罰に加わったことで、フラジュは三人がかりで棒で叩かれる。
稲田は引き続き、『石野谷が』叩いた回数をアバウトにカウントし続けていた。
「ぎゃあぁぁぁぁ! もう勘弁してくださぁぁぁい!」
そしてフラジュは鉄の棒で想定を大幅に上回る回数で叩かれ、ボコボコにされた後、
「梶殿、それは何ですか?」
「空飛ぶ棺桶。名前に反して殺す気はないんだけど」
梶が作った空飛ぶ棺桶――人一人が入れるくらいの小さなロケットに乗せられる。
「そんじゃあ、二度と僕たちにその汚いヅラ見せるなよ!」
梶はそれのジェットを起動させて、フラジュを飛ばす。
「この外道どもがぁぁぁぁあ!」
そしてフラジュは、両国の人間たちによる『ざまーみろ』の大合唱が行われる中、遥か彼方へ消えていった。
*
一瞬、昼間にも関わらず、流れ星が見えた。
とても、不自然な流れ星であった。
その流れ星は昼間にハッキリと見えているのと、地平線から空へと動いたのだから。
しかし、これの真の正体が何なのかを考える余裕は今はなかった。
何故なら今、頭の中は『その流れ星の出所』でいっぱいなのだから。
「あの不自然を起こせるような存在は、この世界じゃあ俺と同じ界訪者ぐらいだろう……」
そして少年は八本足の氷の馬を駆る。
流れ星の出所は、己の制裁対象であるのかを確かめるべく。
【完】
話末解説
■用語
【合体奥義】
界訪者が二人以上で力を合わせて発動する新概念。
既存のスキルに似た動きを重ねて行うという性質上、限りなくスキルに近いが、わからないことだらけでそう言い切ることは現時点でできない。【合体スキル】と改名することも保留中。
確定しているのは、界訪者が協力して放つ技ということで、より先の次元に達した威力を持つことのみ。




