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第62話 兄弟弟子戦争

 今度は自分たち『二人』で戦う。と、石野谷と梶が宣言した途端、飯尾は思わず吹き出しかけた。


「……何が面白いんだよ、飯尾さん」


 梶の問いに、飯尾はこう返す。

「いやぁ、だって、クソエイム【狙撃手】と、チビメガネ【祈祷師】だぞ。あからさまに後ろの四人より弱そうじゃんかよ」


 武藤はこれに同調して二人を小馬鹿にする。

「そーそー! 人数も半分以下にまで減ってるし!」


 そして海野は二人の軽率さに呆れ、思わず鼻で笑う。

「……お前ら、開始直前に言ったこと忘れたのか?」


 海野は念のため、仲間全体に注意を促す。

「お前ら気をつけろよ。あの梶が考え無しにこんな無謀なことするはずがない。絶対何らかの策を考えているはずなんだから……」


「そうとも隆景!」

 と、梶は返事した後、両手を思い切り地面に叩きつける。


「土下座で油断させようってつもりか?」


 梶は大地を掴むように両手を握りつつ、海野たちを見上げて睨む。

「そんなわけあるか……もっともっと僕がするに相応しい策だよぉッ!」


 梶の鉄めいた灰色の髪が、熱されたそれのように赤く光る。

 地面に押し付けた両腕も同様に赤く輝く。うっすらと蒸気を放ってもいる。


「ヒヒヒ、見せてやるよ、僕とお前らがいる次元の違いをッ! 【エトナ・クリエイション】、最高出力!」


 その詠唱後、梶のいた地点から、溶けた金属が噴火の如く突き上がり、当人はそれに飲まれた。


 海野は梶の目論見を潰すべく、水の弾丸を乱射する。

「させるか……【スコール・ガトリング】!」


 だが、その金属の噴流が放つ熱は、着弾前にそれを蒸発させた。


「アタシも手伝うよ! 【ルドラ・ブラスト】!」


 海野に続いて三好も闇属性エネルギーを射出する。

 これの破壊力もあって、柱の一部分をえぐることはできた。だが、肝心な梶にそれは届かない。えぐった部分もやがて地中からさらに吹き出た金属に埋められた。


「海野でも三好さんでも駄目なら俺が……」


 柱めがけ殴りかかろうとした飯尾を、海野は制して、

「それこそ駄目だ。あれは……迂闊に手を出していいものじゃない」


「そうだぞ飯尾さん! 今はまだ手を出さないでくれ! もうすぐで完成させるからねぇぇえ!」


 地中深くに眠っていた金属資源を必要分集めきり、その中にいる梶は、いよいよ制作過程に入る。

 溶けた金属の柱はみるみるうちに形を成していく。変形性を失い、硬度と確固たる形を得る。


 そして、ミクセス王国とファムニカ王国の両軍の間に、全高三十メートルほどの鋼鉄の巨人が現れる。


 梶の神寵は【ヘファイストス】。

 最大の長所は金属を自由自在に加工するスキル【エトナ・クリエイション】。

 これによって梶は、鉄橋からスナイパーライフルまで、数々の道具を作り上げてきた。


 そして今、この戦場に現れた、ところどころ丸みを帯びた荒削りなデザインの鋼鉄の巨人は、彼の技巧と叡智の結晶。名付けて……

『完成、【プロテクト・メサイア】だァァァ!』


「な、なんだあの大きすぎる鎧は!」

「失礼だが、あれだけ小柄だった梶殿があのような巨体に変わるとは……!」

 というように、ゲルカッツとハルベルトのように、この大陸の住人たちは、突如梶と代わって現れた全身金属で出来た巨人という、異物中の異物に仰天する。


 一方で、界訪者――特に有原チームは、

「すごい、ロボットだ……」

「か、梶さん……あんな元を作れるんですね」

「ヤッバ、天才かよあの人!?」

「すっごーい、かっこいかっこいー!」

「……海野、なんかあのロボット、ダサくないか?」

「うん、昭和のっぽいよな」

「……」

 などなど、ロボットの存在を知ってる上で、そこそこ驚いた。


 さらにその一方、プロテクト・メサイアの後ろにいる石野谷は、

「どうだ見たか! これが俺たちのブレーン、かじ昇太しょうた様の真の実力だ!」

 と、誇らしげに言った。


(さっき、『僕もなんとか戦える』とか言ってたけど、こういうことだったんだな。ほんとすげーよ昇太)

 なお実際は、石野谷も梶がこんなことを出来ると知らなかっため、内心すこぶる驚いていた。


「機械作れるのはわかってたんだがよお……」

「あんなことまでできるんだね。すごいね昇太」

「流石は俺たちの昇太、考えることが大胆だな」

「まさしく、『最高知識の結晶』であり『誇り』、だな」

 

 勿論、後方で休息中のメンバー四人も同じく初見である。


 一通り驚き終えた後、飯尾は首をかしげる。

「ところであれ、ちゃんと動くのか? ただの脅しのための鉄像とかじゃないのか?」


「そんなわけあるか……よく聞け。ずっとあそこからウィンウィン言ってるし……」


 きっちりと動くぜ。そう言わんばかりにプロテクト・メサイアは右足を一歩前へ踏み出し、有原チームのいる大地一帯を揺らす。そこから左腕を振り上げ、拳を握り、飯尾と海野めがけ落とす。


「見ての通りガッツリ動いてるじゃねえかよぉッ!」


「うげぇ! マジで動きやがるのかコイツぅ!」


 そう驚きつつも、飯尾は怯まず、迫りくる拳に対して、

「食らえっ! 【裂空脚】!」

 力強く上へ跳躍し、プロテクト・メサイアの左拳を蹴る。


 直後、飯尾の足に反動の衝撃が響き、

「かっ、たぁぁぁぁ!?」

 あえなく彼は落下した。


「手荒だがすまん。【アクア・スフィア】!」

 そこへ海野は水の球をなるべく威力を落として放ち、飯尾を左横へふっとばす。


 それと同時に自分は右へと全力で走る。


 プロテクト・メサイアの左拳が、ついさっきまで二人のいた地点に叩きつけられたのはその三秒後だ。


『流石に初撃は読まれるか』

 と、梶はつぶやいた後、プロテクト・メサイアの左拳を引っ込める。

 拳を打ちつけた跡地には、はっきりと拳とわかる穴が刻まれていた。


「【アガートラム・エンハンス】!」

 武藤は自分の右腕に装甲を象った銀色の光を纏わせ、その手で神剣クラウ・ソラスを握りしめる。その刃からおびただしい量の光が放たれる。


 そして武藤はプロテクト・メサイアの胸部へと飛び込み、

「【トゥアハ・グローリー】!」

 光属性で大幅に延長された刃を持つクラウ・ソラスを、全力で振るう。


 だが、そこに切り傷はつかなかった。

「そ、そんな……ボクの全力が効かないなんて!」


「内梨さん! アタシにバフ魔法ちょうだい!」


「は、はい! 【アタック・サプライズ】!」


 内梨から攻撃力強化のバフを受けた三好は、武藤と入れ替わるようにプロテクト・メサイアの胸部に接近し、

「【ターンダヴァ・フューリー】!」

 闇属性を帯びさせた一対の短剣で、幾度と連続攻撃を仕掛ける。


 神寵【シヴァ】由来の闇属性エネルギーの効力もあり、こちらは浅い切り傷をつけることができた。


『【レムノス・リペア】』

 だが内側にいる梶によって、一瞬にして新たな鉄で塞がれた。


「えっ、そんな……!」


 この時、プロテクト・メサイアの両腕は、胸部の前で拍手するような形――三好を両手で挟み潰すような形になっていた。


 三好は、これ以上の攻撃は危険と思い、

「【危機跳躍】!」

 プロテクト・メサイアの胸部装甲を蹴り、有原たち仲間の元へ後退する。


『どうしたんだお前ら。もっと本気でかかってこい……さもないと!』

 梶はプロテクト・メサイアを数歩踏み出させ、その巨体を豪快に有原たちへ寄せて、

『こうだ!』

 彼らめがけ何度も殴りかかり、巨大な鉄拳の雨を降らす。


「みんな……とにかく逃げてください!」

 この規格外の攻撃を止められる術は今の有原チームには存在しない。彼らは虫のように逃げ回り、必死に拳を避けた。


 その最中、飯尾は大声で嘆く。

「くっそー! まさかあんなチビがこんな古クサスーパーロボットに変身するなんて! そんでもって、ただ硬くてデカいだけのロボットがこんなにも強いなんて! 思っても見なかったぞ俺!」


 たまたま側に居た海野はそれを肯定する。

「今回は心の底からお前と同感だよ! 能力示板ステータスウィンドウを見た時点で『鉄でなんか作れる』のは把握してたんだが、まさかあそこまでのオーパーツを作れるとは思ってもみなかったっての!」


 そんな二人へ狙いを定め、プロテクト・メサイアの後ろに隠れる石野谷は弓に矢を二本掛けて、炎の矢を射る。

「俺もいることを忘れるなよ! 【ピュートーン・ブレイカー】、二連!」

 やるときはやる――その自称の通り、この二本の矢は、見事に二人へと向かっていく。


「そういやいたなお前! 【撃砕拳】!」

「俺は知ってたけど、確かに影が霞んでるなお前! 【アクア・スフィア】!」


 拳と水魔法。この二つの攻撃により、炎の矢は相殺された。


 そしてこの時、二人の頭上にはプロテクト・メサイアの右拳が間近に迫っていた。


「うっしゃ、陽動成功だぜ! やれ、昇太!」


『たいへんよくできました、陽星! さぁ、お前らはここでお終いだ!』


「げえっ、しまった……とでも言うと思ったか! これくらいならどうにかなるっての!」

 海野は魔導書を左手でペラペラめくりつつ、右手をプロテクト・メサイアの右拳へかざし、


「【イソグサの円環】!」

 水の丸鋸を音速に等しい速さで放ち、右拳の勢力をある程度削る。


 これに呼応して飯尾は右拳めがけ跳躍し

「俺も手伝うぞ! 【撃砕拳】!」

 渾身のパンチを叩き込む。


 この二つの攻撃により、多少なりともプロテクト・メサイアのパンチは押し戻される。だが、元のそれがあまりにも法外故に、それでも完全防御にはまだ足りない。


「ぐぉぉぉ! やっぱり硬ぇぇぇ! そして止まりそうもねぇぇぇ!」


「だろうな! だが安心しとけ、今仕上げが来る!」


 その時、二人の後ろから風が吹き荒れる音がする。有原が纏う竜巻の音だ。


「護、海野さん! 今助けるよ!」

 プロテクト・メサイアに近づくや否や、有原は全身を覆っていた風を全て剣に集中させて、

「【天羽々斬虚剣あまのはばきりきょけん】ッ!」

 その右拳へ全身全霊で剣を振るう。


 この威力に負け、プロテクト・メサイアの右拳は半壊した状態で押し戻された。

『【レムノス・リペア】』

 もっとも、破損はすぐに修復されていくのだが。


「大丈夫、護、海野さん!」


 ああ。と、飯尾は簡単に返事したあと、瞬く間に元通りになるプロテクト・メサイアを見て、

「あの真壁に競り勝った技でもあんな簡単に直されるのかよ……」


「確かに、あれを見せられたら自信なくすよ……さっきは溜めの時間が足りなくて、比較的早く出せる【天羽々斬虚剣】でやったけど、【八岐殺やまたごろし虚剣きょけん】でいけば、せめて半壊は……」

 と、言いつつ有原はそれの初動の構えを取る。

 

 しかし、海野はその前に手を伸ばして、

「確かに、それで半壊はできて、修理も間に合わなくなるだろう。けれども、それは俺たちの最善の手じゃない」


「ええっ、あの真壁を倒した技ですらもか!?」


 驚く飯尾の隣で、有原は技を中断して、海野へその訳を尋ねる。

「どういうことですか、海野さん?」


「もっと楽に勝てる方法があるからだよ」

 と、言いながら海野は、プロテクト・メサイアの背後で、次の狙いに迷っている、一味のリーダー、石野谷を指さして、

「あのリーダーを倒して、戦意をくじいてやればいい」

 と、堂々として答えた。


 有原はキョトンとして、

「え、あの【狙撃手】の石野谷さんを……」


「ああ、そうだ……わかってる、アンタの戸惑う気持ちはわかってる。『剣で斬り掛かったら一方的に倒してしまえそうだから申し訳ない』ってことはな」


「はい。ですが、『この戦いを早く終わらせるためにはやむを得ない』ということもわかってます」


「流石だ、察しがいい。じゃあ、行けるか?」


「はい、わかりました……海野さん」

 と、言って有原は【湍津たぎつ疾槍しっそう】を使い、プロテクト・メサイアを越そうとする。


 その前に、海野は彼へ一言。

「あのさ、ここでこういうわがまま言うのも何だけどさ……そろそろ俺のこと、下の名前で呼び捨てていいよ。隆景たかかげって」


「そうだよね。もう長い付き合いだからね……わかった、じゃあ今度こそいってくるよ、隆景」

 と、海野に言ってから有原は、


「【湍津ノ疾槍】ッ!」

 足裏から風を連続で噴出し、修理中のプロテクト・メサイアの横を通り過ぎ、石野谷へ向かう。


「さてと、じゃあ俺たちはコイツの相手だ。いいな、飯尾」


「おう! ……俺は名字呼びのまんまなのか」


「お前はまだ気分が乗らないんでな」


 内梨たちなど、逃げ惑っていた仲間が周りに戻ってくる中、海野はプロテクト・メサイアを修理中の梶にこう問いかける。


「いいのか昇太? 祐がリーダーの方へ行ったってのに、それを看過しちゃってよ」


『別にいいとも。たとえ陽星が倒れようとも、僕が勝てばそれでいいし……そもそも、アイツは負けない。これは断言できるさ』


 梶はプロテクト・メサイアの修理を終えた後、気兼ねなく海野に尋ねる。


『今度はこちらが聞く番だ。さっきお前、さも「有原さんの技が完全に僕に通用する確信がないから、陽星と戦ったほうが手っ取り早い」という風に言って、有原さんを行かせたが……これ、本音じゃないよな?』


「ああ、半分違うな……」

 そして海野は目の色を変えて、彼にしては珍しく声をやや荒らげて叫ぶ。


「その残り半分は、あの将棋クラブの時のリベンジのためだッ! 昇太、次こそはぐうの音も出ないほどギッタギタにしてやる!」


『ヒヒヒ、その言葉を待ってたんだよ僕は……いいじゃないか、やろうじゃないか、兄弟弟子戦争をなぁッ!』


「そっちも同感だったか! それはほんと助かったよぉッ!」


 こうして海野と仲間たち、梶とプロテクト・メサイアによる、因縁の戦いが始まった。



 一方その頃。プロテクト・メサイアの巨体の背後では、


「【湍津ノ疾槍】ッ!」

 有原は高速移動を繰り返し、石野谷へ迫った。


「来たか、有原チームのリーダーさんよ!」

 と、言いつつ石野谷は有原へ矢を一本射る。


 有原は難なくその矢を斬り落として、

「はい、来ましたよ。石野谷さん……そして、覚悟してください!」


 石野谷との距離を詰めきった有原は、剣を刀身の面が当たるように最上段で構え、二割ほど手加減を加えた上で、石野谷へ振り落とす。


「……やっぱ、そういう認識になるよな」

 石野谷は弓を腰に掛けてしまった後、こちらからも有原へ迫り、

「【ピュートーン・ブレイカー】ッ!」

 左拳に炎を纏わせて、有原の懐にストレートを打ち込む。


「えっ、それは……!」

 弓矢で行うスキルを拳で行う――その異常に驚かせる隙を与えず、石野谷は右拳にも炎を纏わせて、

「【ダフネ・バースト】ッ!」

 立て続けに、有原の懐へアッパーカットを食らわせ、彼を火柱で炙りながら空へと打ち上げた。


「わりーな有原。俺はそこいらの【狙撃手】とは得意分野が違うんだよ」


【完】

話末解説


■詳細説明

【一年二組内の新入生テストの順位・後半】

19. 石野谷いしのや 陽星ようせい※梶との猛勉強の賜物

20. 大関おおぜき 晴幸せいこう

21. 黒磯くろいそ 初生うい

22. 今川いまがわ 咲希さき

23. ひいらぎ 結和ゆいな

24. 槙島まきしま 英傑ひでとし

25. 御崎みさき かなで

26. 佐伯さえき つむぎ

27. 三好みよし よすが

28. 桜庭さくらば 依央いお

29. 畠中はたなか あらた

30. 武藤むとう 永真えま

31. 飯尾いいお まもる

32. 塚地つかじ 優大ゆうだい

33. 五十嵐いがらし 康平こうへい

34. 稲田いなだ 輝明てるあき

35. 逢坂おうさか 雄斗夜おとや※回答の三割くらい大喜利をしていた

36. 久門くもん 将郷まささと※テスト当日に欠席

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