第60話 爆熱、石野谷一味!
本当は一話でおさめたかったです。
ミクセス王国とファムニカ王国の国境間際の土地にて。
ハルベルトとゲルカッツのミクセス王国軍。
エストルークとエスティナのファムニカ王国軍。
この二勢力に見守られながら、有原チームの七人と、石野谷一味の六人は熾烈な争いを繰り広げていた。
「【トゥアハ・グローリー】!」
大関の相手を引き受けた武藤は、自分の愛刀クラウ・ソラスを光属性エネルギーで延長し、彼めがけ横へ薙ぐ。
「【金竜急襲】!」
大関は炎を帯びた掌底突きを放ち勢いを殺す。
大関がもう片方の手を引いて力を溜めるとするのを見ると、武藤はすみやかに数歩後ろに下がり、体勢を整えてる。
「あちゃー、またダメだったか!」
対する大関も構えを取り直しつつ、
「今は目論見通り俺を仲間に接近させないようにはできている。だが、それ以上に踏み込めていないぞ」
「それはあなたが頑丈すぎだからだよ!」
「それはすまない。だが、このままでいいのか?」
「よくないね! どうせだったらあなたをコテンパンにしたいね!」
「そうか、その意気や良し。だったらこちらは、その目標に価値を与えるためにも、もちろん陽星たちのためにも……いささか心を鬼にさせていただく!」
大関は両足を開き、右足を高く横へ上げてから、力強く地面を踏む。
「【金竜怒闘】!」
刹那、大関は全身に金色の炎を纏いつつ、【金竜昇進】を上回る速度で武藤に接近し、
「え……!?」
「遅いッ!」
武藤に掌底の連打を与えて痛めつけて突き飛ばし、彼女を十数メートル後方まで転がした。
「俺たちの界隈では『相撲は立合いが九割』と意見する者がいる。立合いというのは平たく言うと『はっけよい、のこった』の直後のことだ。つまりその言葉の芯は『最初から油断せず、一歩でも優位に立て』ということだ。
武藤さん、貴方は相撲とは無縁だからこんな身の程事情を持ち込んでも困ると思うが、『油断するな』という心得はせめて参考にくれないか」
「【アガートラム・エンハンス】!」
そう言っている合間に、武藤はいつの間にか立ち上がっていた。彼女は右腕に、神秘的な装甲を象った銀色の光を纏わせる。
武藤はその右腕でクラウ・ソラスを強く握り、その刀身をさらに輝かせる。
そこから武藤はクラウ・ソラスの鍔の下部から光エネルギーを噴出し、その勢いで大関に急接近し、
「【トゥアハ・グローリー】!」
巨大な光の刃を帯びさせたクラウ・ソラスで大関を叩き、体格差をものともせず、彼を十数メートル後方へ押し飛ばした。
「どうだ! ボクだってまだまだ強くなれるんだぞ! 油断するな、大関さん!」
「そうだ……それでいいのだ!」
*
武藤と大関が一対一で戦っている一方、桐本と三好もまた一騎打ちの真っ只中であった。
「【ルドラ・ブラスト】!」
三好は突き出した両手から闇属性エネルギーを噴出する。
これに対して桐本は右腕に盾のように装備した鏡の神器【八咫鏡】を向けて、
「【天津日の守】!」
そこから炎のバリアを展開し、闇属性エネルギーをそっくりそのまま三好に跳ね返す。
「【危機跳躍】!」
三好はこれを高くジャンプして回避。
彼女が元いた地点に闇属性エネルギーが被弾する。そしてそこにはスコップか何かでくり抜いたような穴がいともたやすく出来上がった。
その穴と闇属性エネルギーの威力に目もくれず、桐本は目の前の相手に集中する。彼は地面を強く蹴って、宙へと逃れた三好にへ迫り、
「【活津日の昇】」
下から上へ、左手に握った刀の神器【天叢雲剣】を振るう。
「【ガルーダ・ストライク】!」
三好は地面に向かって飛び蹴りを繰り出す。今度は技同士の激突はせず、桐本とすれ違いで素早く地面へ落下し、斬撃から逃れた。
桐本は何もない空間へ虚しく刀を振り上げてから、空中で三回ほど縦に回転し、三好と距離を置いて彼女の前に着地する。
「すごいよ三好さん。前よりもうんと立ち回りが良くなっているね」
「え……い、いやぁ……それは、色々ありましたから……」
今は敵ではあるものの、元よりそれなりの好意を寄せていた桐本に褒められて、三好はガッツリ照れた。
「【アクア・スフィア】」
そんな三好と桐本の間の地面に、水の球が着弾する。
そして海野は遥か後方にいる三好を叱る。
「浮かれるなよ三好さん。奴は倒すのに時間をかけてはいけないタイプの敵だから」
桐本の神寵は【アマテラス】。主な能力は三種の【神器錬成】。
切れ味に優れた刀【天叢雲剣】。
敵の飛び道具を反射する鏡【八咫鏡】。
ステータス全てを二割向上させる勾玉【八尺瓊勾玉】。これがその内訳である。
そして桐本はこれら三種の神器を同時に装備した時、それぞれの神器は共鳴し、桁外れの戦士となれる。
ただし、これらの神器は一気にまとめて装備することはできない。
一つの【神器錬成】を終えると、十分のインターバルを挟まなければ次の【神器錬成】を行えないからだ。
逆に言うと、最低でも二十分以内に桐本をどうにかしなければ、三好の勝機は薄くなるということだ。
「わかってるよ! 今、桐本様が二つ目の神器【八咫鏡】を錬成してから五分が経過しているから、あと五分でなんとかしなきゃいけないんでしょ!」
「そうだよ三好さん! けれどそれだけじゃな……」
この瞬間、石野谷一味の後方にいる軍師役の梶が、得物の杖を自身の【神寵】で改造して作ったスナイパーライフルの引き金を引く。その狙いは三好だ。
「【アクア・スフィア】!」
海野は梶の放った弾丸を水の球で相殺してから、三好へ向かって、
「それだけじゃなくて、こういうこともあるんだからな。だから悠長にやるな!」
「はい! ごめんなさい!」
と、海野に謝ってから、改めて三好は、
(うわっ、やっぱいつ見ても眩しい……)
桐本と向かい合う。
「……君のとこの軍師さんはキツイこと言うね」
「まぁ、アタシのことを思ってのキツさだから、別にいいんだけどね……それに、今のアタシの居場所はここだから、あれくらいの細かいことなんて気にしてられないしさ!」
友達三人を殺めてしまった先へ進むため、有原たちと共に戦い抜く――その覚悟を瞳に宿しながら、三好は両手の短剣を構え直して、
「だから……今からあなたを本気で倒しにいきます!」
自分の左隣に、闇属性エネルギーで分身を作り、
「【アヴァターラ・ブリッツ】!」
それと共に突撃し、桐本を横から挟み打ちにしようとする。
「【天穂日の狩】」
桐本は両足を軸に、フィギュアスケーターさながらに鮮やかに回転し、全方位を天叢雲剣で斬り払う。
それでまず、三好の分身が消滅した。桐本の得物の天叢雲剣が湛える幻想的な光は、闇属性エネルギーの威力を中和してしまうからだ。
間髪を入れず桐本は前へ踏み込み、天叢雲剣の刃を三好へかざす。
「負け……ないからっ!」
三好は気合を入れ、左手の短剣だけでそれを受け止める。
直後、三好は右手を桐本へ向けて、
「【ルドラ・ブラスト】!」
彼の右腕を伝うような軌道で、闇属性エネルギーを放つ。
桐本は攻撃を中断し、地面を転がり闇の放射から逃れる。
だが、これでも三好の目的は果たされていた。なんせ桐本の右腕に装備していた八咫鏡を破壊できたのだから。
「やっぱりね。その鏡、見た目的に正面からなら跳ね返せるんだろうけど、側面は無理っぽいんだね」
桐本は首を縦に振ってから、にっこり笑って、
「当たりだよ。しかも、これで僕の完成を遅らせられたんだからさ、すごいね、三好さん」
その笑顔によって三好はお手本のように照れた。
「えへへ……気づいてたんですね、桐本様ぁ〜……」
途中、三好は思わず振り向く。
そこにはやる気のない味方への怒りと、途方もなく得体のしれない敵意を込めて冷たい目線を向ける海野の姿があった。
これを目の当たりにした途端、生存本能的に三好は照れるのをやめ、桐本へ敵として向き合う。
「じゃあ引き続き、アタシと付き合ってください!」
「いいよ……君には悪いけど、僕もみんなのために負けられないけどね!」
*
桐本が三好と激突している間、彼の仲間の一人、稲田は飯尾と交戦していた。
「【アドラ撃砕拳】ッ!」
「【撃砕拳】ッ……がぁ!」
稲田の高熱を帯びた拳は、飯尾のパンチを楽々と押し返し、彼の胴に命中する。
このようにして、稲田は飯尾を真正面から圧倒していた。
「どうだあ、もうわかったかバカああ! お前は俺に勝てないとなあああ!」
飯尾は多少ふらつきながらも立ち上がり、稲田を睨みつけて、
「声がいちいちデカいんだよテメェ。しかも何度もそれいいやがってよ……」
「【アドラ撃砕拳】ッ!」
稲田は飯尾の言葉に耳を貸さず、彼の顔面へ高熱を帯びた拳を叩き込み、彼を殴り飛ばした。
「【ライフ・ミラクル】!」
直後、内梨は倒れる飯尾へ回復魔法を掛け、
「……【遅鈍の結界】……」
松永は飯尾と稲田の間の地面に、素早さダウン効果のある結界を展開し、稲田の追撃を遅らせる。
「いいなあ飯尾! 女子二人に優しくされながら戦えてよお! 死ねよ!」
もう大丈夫。と、内梨にやさしく言ってから、飯尾はスッと起き上がり、
「死ぬかボケェ!」
と、稲田へ言い返した。
「うるせえ死ね! 神寵未覚醒のお前なんかがそんなに介護される必要ないだろ!」
「申し訳ないけど……神寵未覚醒だからなおさら介護されてるんだよこのバカ! だいたいテメェ、さっきから自分が神寵に覚醒してることでマウント取ってるけど、お前の能力そんなすごくないじゃねえかよ! 殴る蹴るするときに手足をアッツくするだけでよぉ!」
「う、う、うるせえ! うるせえ!」
と、稲田はわかりやすく動揺した。
稲田の神寵は【アドラメレク】
能力としては、自分の攻撃に高熱を帯びさせられることである。以上。
「そっちこそうるせえよ! さっきから神寵覚醒者の代表みたいなヅラしやがって! そんくらいの能力しかないのにイキるんじゃねえよ!」
と、飯尾はさらに稲田を言葉で責め立てた。
「……だからうるせえっつってんだろうがああ!」
稲田は顔を真っ赤にして激昂した。そして稲田は、松永の結界があることを感じさせないくらいの速さで飯尾に接近し、
「【アドラ剛衝拳】」
右拳を後ろへ引き、思い切り力と熱を溜めてから、彼のみぞおちをぶん殴った。
「うごぁ! ……ッ!」
稲田の想定外の速さと攻撃力の高さ故に、まるで受ける態勢が取れず、飯尾はこの殴打の威力をそのまま食らう。そして大ダメージ故に地に伏せる。
「……確かに俺の能力はアイロンみたいなショボい能力かもしれねえがなあ! 六人の中じゃ合計のステータスが一番高えんだよおお! 素の強さなら一番なんだよおおお!」
稲田の言う通り、彼のステータスの伸びはやたらと良い。
神寵【アドラメレク】は特殊能力が控えめな分、覚醒した際のステータスの強化率が、平均的なものと比べて倍近くあるのだ。
「お前みたいな数字弱そうな奴がステータスを引き合いにするのかよ……」
「なんか言ったかテメエ!?」
「言ってませんよ! 何も言ってませんよ!」
飯尾がさらに稲田の怒りをぶつけられないように、内梨は彼の悪口を誤魔化してから、
「【アルフヘイム・ブレッシング】!」
飯尾に妖精三体を付き添わせ、彼を急速に回復させる。
「……美来ちゃん、【勝利の剣】はいつ出せるんだ?」
勝利の剣――内梨が一定量回復をすると錬成できる、剣を携えた騎士鎧の神器のことだ。
「あ、あともうちょっとです! あともうちょっとで飯尾さんと一緒に戦えるようにできます……」
「そうか! なら俺は俄然踏ん張らないとなあ!」
そういって飯尾は、まだ半分くらいしか傷が癒えていないにも関わらず、さも全快したように軽々と立ち上がった。
「お前……もう死んだんじゃないのかよお!」
「じゃあさっきの失言は何だってんだって話になるだろバカ! ああそうか、言い忘れてた、俺は頑丈さが売りなんだよ! 真壁の【絶対至敗】を二、三発立て続けに食らってもピンピンしてられるくらいなぁ!」
「だから何だってんだよおおお!」
「そのまんまの意味だろうがぁぁぁ!」
「そのまんまの意味がどうしたんだよおおお!」
稲田は三メートルの大槍を振り回しながら、今度こそ飯尾を仕留めるべく、彼へと迫る。
「……【遅鈍の結界】……」
その途中、松永は健気に稲田の進路に結界を張った。
稲田がそこに踏み入った途端、彼の速度は目に見えて落ちた。
当然稲田はますます苛立った。
「……チッこれマジでうざいなああ! さっさと俺にボコらせろよおお!」
と、辺りに喚き散らした直後、大槍の石突近くを握り、長く持つ。
そこから稲田は大槍を持ち上げ最上段で構え、
「邪魔なんだよテメエエエ!」
飯尾……の斜め後ろにいる松永めがけ力一杯振り下ろす。
「なっ、そっちをだと!?」
ジョブ【呪術師】である松永はそれを防ぐ手立てがなく、その先端の刃で肩から腰までを深く傷つけられた。
【完】
話末解説(※一時期ド偉い誤植をしてごめんなさい。しかもそれが直ってなくてごめんなさい)
■登場人物
【桐本 光】
レベル:56
ジョブ:【戦士】
神寵:【アマテラス】
スキル:【天照光燐】、三種の【神器錬成】
一年二組の男子生徒。石野谷一味の一人。高身長かつ高顔面偏差値の完璧超人。
同じイケメンの篠宮とは一年二組の女子人気を二分していた。こちらは性格に少々の毒気があるのが魅力だとのこと。
ジョブは【戦士】。名刀【天叢雲剣】、飛び道具反射効果を持つ鏡【八咫鏡】、ステータス強化の勾玉【八尺瓊勾玉】。この三つの神器を場面を見て錬成して、『石野谷一味のオールラウンダー』として活躍する。
さらに三種の神器が揃った際は、それらが強化され、その強さは別次元に達する。
サッカー部に属しており、MFを担っている。プレイ中の一挙手一投足のたびに観客席から黄色い声が上がるため、時折うるさいからという理由でやむを得ず交代されることがある。
アマテラス(天照大神)とは、日本神話の主神にして、太陽を司る女神。ツクヨミとスサノオの姉にあたる。




