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第6話 宴会と不和

 ミクセス王国・王城内。大会場。

 そこは今、戦時中ということと、ハルベルトの自費により開かれているという訳もあり、多少の謙虚さもあるが、豪華絢爛な装飾が為され、来客を十分に満足させられる数の料理が点在するテーブルに並べられ、宴会場の様相がなされていた。


 有原、内梨、飯尾、篠宮、海野を連れてきたハルベルトは、ここに着くや否や、彼らの方へ振り返って、

「好きなところで集まって、料理は好きなだけ食べてもらって構わない、遠慮なく楽しんでくれ」


「「「「「はい!」」」」」


 有原たち五人は、先に来ていた真壁一派などで埋まっていないテーブルへ着こうとする。


「みんな見て見て! 篠宮様がいる!」


 その時、別のテーブルに座っていた、一年二組の陽キャ女子筆頭『三好みよし よすが』と、彼女の友達三人が、篠宮へ黄色い声を上げながら集まってきた。


「うわ本物だ本物だ!」

「やっぱ生で見ると神カッコいい!」

「赤髪似合ってるね! もう最高じゃん!」


 急な好意に戸惑いながら、篠宮は四人へ愛想笑いを返す。

「あ、ど、どうも……ってわーっ!?」

 その最中、篠宮は、ギャル特有の強引で自然な流れに乗せられ、彼女たちのテーブルに座らされた。


 取り残された四人の内、飯尾は様々な意味を込めてチッと舌を鳴らした後、

「神様様だな。感謝しろよ、篠宮よ」

 と、つぶやいた。


「飯尾さん、アンタそれ何目線でいってんの?」


「まぁまぁ、海野さん、護、それから美来、僕たちはこちらで楽しもうよ、ね」


「で、ですね……このチキンもおいしそうですし……」


「何が『ですし』かいまいちわかんないけど、まぁ、そういうことにしておこう」


「だなだな。篠宮の分も食っちまえ。てなわけでいただきまーす!」


「「「いただきます!!!」」」

 と、きちんと挨拶をした上で、四人は食事を楽しみ始めた。


 ちなみに、この宴会の料理は各テーブルで足りなくなった際、好きなだけオーダーできる様になっている。

 なので、さっきの飯尾の『篠宮の分も~』という台詞こそ『いまいちわかんないけど』だったりする。野暮なツッコミではあるが。


「失礼する、有原学級委員」


 食事の最中、有原にこう呼びかけたのは、真壁だ。


 有原は彼女の気迫により、自ずとビシッと立ち上がる。

「はい、真壁さん、一体なんでしょうか!?」


 真壁は普段通り、高圧的に、短く尋ねる。

「昨日の戦いで、どうして邪神獣から逃げなかった?」


 真壁の性格を考え、この後言われることを概ね予想して、嫌な感情が顔から出ないように気を付けて、有原ははっきりと答える。

「あの邪神獣の早さからして、まともに逃げ切れないと思ったからです。だから、せめて強いショックを与えて追い返そうとして、戦いました」


 真壁は、嘘偽りがないかを覗くように、有原の瞳をじっと見つめる。

 その威圧感を有原は、両脇で握る拳の中で汗をかきながら堪える。


(まさか、『そこは学級委員として、適当な奴を見捨ててでも逃げるべきだった』とか言わないでくれよ……)


「ハルベルト氏が邪神獣襲来の一報が出してから、実際に邪神獣が来るまでに、逃げるまでの時間は十分あったはずだが?」


 流石の真壁でもその一線は越えていなかったか、と、有原はホッとしてから釈明する。

「それは魔物の群れに囲まれてしまって、突破で時間がかかってしまったからです」


「ならばそれは貴方がたの戦局の見極めと実力そのものが足りなかったからであり、貴方がたの落ち度ではあるまいか?」

 と、真壁は電光石火に有原を問い詰めてくる。


「はい、それはごもっともです……」


 ですけど、結果的には、ハルベルトさんたちでも倒せなかった邪神獣を倒せたし、みんな無事で帰れたので……と、有原は弁解の言葉を紡ごうとしたが、これまでの傾向と、真壁の顔色を伺い、それは『無駄』だと悟って、


「学級委員というみんなの規範となる存在にも関わらず、このような無茶をして、本当に申し訳ございません……」

 有原は真壁に平謝りした。


 しかしその時、真壁は有原の元から去っていた。


 真壁が歩む先にいたのは、


「ほれほれ、槙島〜! 飲めよ飲めよ〜!」

「宴だぞ宴、楽しみやがれよ〜!」


 久門の取り巻きの二人によって、テーブルにあるだけのドリンクを頭からかけられている槙島だった。


「ううう、やめろっ!」


「遠慮すんなって! せっかく頑張って逃げられたんだからよ!」

「シャンパンファイトって知らないのか!? あれと同じもんだと思えよなぁ!」


 有原への詰問中、真壁はその乱痴気騒ぎが気に食わず、その注意をしに行ったのだ。


「やかましいぞ貴方たち。宴会とはいえ最低限の節度も守れないのか?」


 二人の内、プロレスラーめいた重厚感ある身体と、剃った眉毛が目立つ方――『五十嵐いがらし 康平こうへい』はとぼけたふりをして、

「さぁ? サイテーゲンって何ですか?」


 もう一方の、細身と細目と張り付いたようなニヤケ顔が特徴の男子――『塚地つかじ 優大ゆうだい』は真壁を上から睨みつけて、

「何だテメェ? そのまるで『オレたちが病院で騒いでる幼稚園児』扱いしてるみたいな言い方はよ?」


 真壁は一切動じずに言い返す。

「実際そう言い切っても語弊はないと思うが。そんな与えられた飲み物を無駄にするようなことをして、あからさまに大きい声で騒いで、これと幼稚園児の何が違う?」


 図星を食らい塚地はぐぬぬと唸って黙る。


 だが一方の五十嵐は、槙島の髪を引っ張って持ち上げ、

「けどよ、こいつだって悪いんだぜ。だってコイツ、昨日の戦いの最中、邪神獣が来た瞬間、陰キャ友達の畠中と一緒に一目散に逃げ出したらしいんだぜ? 同じ陰キャの海野は言うまでもないし、俺らは(久門)将郷と一緒に多少は抵抗したっていうのによ?」


 髪を掴まれた苦痛に耐えながら、槙島はその五十嵐の発言を否定しようと口を開く。

 友達の畠中が邪神獣が来た途端、一目散に逃げ出したのは確か。

 だが、自分はいくらか戦おうとした。撤退途中、海野と一緒に有原に助けられていたのがその証拠だ。


「違……」


 しかし真壁の説教が、図らずもそれをかき消す。

「かといってそれが宴会の空気を汚す理由になるものか。即刻立ち去れ」


「は、待てよ!? そりゃいきすぎだろお前! この宴会は俺らへの労いだってのに……!」


「さらに言うと俺らは将郷さんを待ってるんだぞ! あの人、俺らが宴会行くって時に、急にどっか行っちまって……あと(式部)時宗と(石野谷)陽星が後を追っかけてて……」


「そんな私情など知らん。即刻立ち去れ」


「ちっ、ほんと聞く耳の無い女だ……」


「もう何も言うな康平、むしろこんな奴と一緒にいる必要がなくなって好都合だと思おうぜ」


 真壁の融通の利かなさに辟易し、五十嵐は槙島を壁に投げ捨て、塚地は机にあった瓶一本を適当に床に叩きつけ、宴会場から去った。


 髪を引っ張られて痛む頭を擦りながら、槙島はよろよろと立ち上がる。

「あ、ありがとうござ……」

 

 その直後、真壁は真顔で槙島へ尋ねる。

「貴方はいつになったら立ち去るのだ?」


「え……なんで……?」


「自分でわからないのか? なら今後はもう少し考える脳を持て。この宴会は『昨日の防衛戦で奮戦した者達への労い』だ。しかし、貴方は昨日何をした?」


 槙島は考え、そして真壁が何を言いたいのかを、この場に友達の畠中が居ないことも含めて察した。

 ――働かざるもの食うべからず。それが言いたいのだと。

「ち、違います、俺は畠中と一緒にさっさと逃げたりなんか……」


「それは考えずともわかるだろう。昨日私が救援したのだから。私が言いたいのは、昨日、貴方はそれまでに何をした? 私が同志から聞いた限りでは、魔物数体倒してそれっきりだったが」


「そ、そ、それは……?」


「否定するならはっきりと否定しろ。貴方はこれまで何を学んできた? 自分がしたことを逐次記憶し、わかりやすく話せ。それが出来ないのなら、裏でどれだけ功績を成したとしても、無いのと同じだ」


 槙島はゴニョゴニョと返事した。

 実際、真壁の言う通り、昨日の自分の功績は、片手で数えられるくらいの体数の魔物を倒しただけで、後は頼れる人物を探して戦場をウロウロしていた。

 仕方なかった、自分のジョブは【魔術師】で、遠方の魔物を倒すことには長けていても、倒し切る前に近寄られれば、こちらが危うくなってしまうからだ。

 だから槙島はこうして、返事を濁すしかなかった。


 当然、真壁はこのはっきりとしない槙島の態度に苛立った。

「もういい。かねてからの通り、貴様も立ち去れ」


「……けど……けど……」


「立ち去れ!」


「……クソがっ!」

 槙島は宴会場を凍てつかせるくらいの声量で捨て台詞を吐いた後、ドタドタと会場を去った。


 真壁は彼の様子を横目で眺めた後、

「……有原学級委員、人に声を掛ける際は『順番』を考慮しろ」

 踵を返し、さっきから声を掛けていた有原と顔を会わせる。


「真壁さん。いくらなんでもあれは槙島さんが可哀想じゃないですか?」


 真壁は即答する。

「どこがだ?」


「五十嵐さんと塚地さんにあんな仕打ちを受けた後、誰にもなぐさめられず、二人と同様に追い出されるなんて、普通可哀想だと思いませんか?」


 真壁は即答する。

「それがどうした」


「どうしたって……さっき言ったとおりですよ」


 それから二人は無言の睨み合いをする。

 数秒後、先に口を開いたのは真壁だった。彼女はまずため息をついて、


「あのような周りの環境に甘えるばかりで、自分から成長しようとしない役立たずに肩入れしても、奴の中の過ちだらけの正当性を膨れ上がらせるだけだ。ああいうろくでなしはこう扱うのが妥当だ」


「役立たず、ろくでなし、って……いくらなんでもそれは言い過ぎじゃあ……」


「では、貴様は助けた後、『恩義を返してくる者』と『さらに助けを乞おうとする者』、どちらが役に立つと思う?」


「それは……前者ですけど……けど!」


「つまりはそういうことだ。話は以上だ。貴様も貴様で待たせている人がいるぞ」

 と、真壁は強引気味に話を切り上げて、都築ら自分の仲間が待つテーブルへ戻っていった。


「どうもギクシャクしているな、有原殿」


 有原は側に立っていた男二人の方へ向き直し、会釈する。

「ごめんなさい、こんな見苦しいところ見せてしまって、ハルベルトさん」


「別に謝らなくていいんですよ。人間色々ありますから」

 と、ハルベルトの隣りにいる、彼より一回りほど若く、穏やかに見える青年は、有原へ言った。


「そう、ですよね。ありがとうございます……えっと……」


「ああ、すみません。名乗りが遅れてしまいました。私はミクセス王国、五大騎士団長の一人、クローツオ・ラティオです。初めまして、有原様」


「こちらこそ初めまして、クローツオさん」


 有原とクローツオは挨拶を交わした後、ハルベルトはクローツオの紹介をし始める。


「クローツオ様は五大騎士団長の中で、特に魔術の研究を得意としている者だ。貴方がたをこの世界に召喚する際も、理論の修正など、様々な箇所でお世話になってしまった」


「何の、護国の為ならお安い御用ですよ。あの邪神獣の【邪結晶】の研究も喜んでさせていただいていますし……」


「媚売りご苦労さんでございますねぇ! ハルベルト、クローツオ!」


 クローツオの話を遮って、酒瓶片手にやって来たのは、無駄に良質で我の強さがにじみ出ている正装を着た男性。


「おお、これはこれはフラジュ様。既にいらしたのですか」

「気づかずにいてすみません。フラジュ様」


 誠意を込めひざまずくハルベルトとクローツオへ、フラジュと呼ばれた男は傲慢に言い放つ。

 

「謝らずともよい! 吾輩への礼儀もできなくなるほど、貴様らが異人に酔っているのが理解できたのですからなぁ!」


「……はっ、滅相もございません」


 続いてフラジュは有原の方を、蔑みの気持ちがガッツリ宿った目で見て、

「お主でありますか、ついに邪神獣の一角を討伐したという勇者は?」


「正確には、僕の友達の篠宮という方が倒しました」


 フラジュは酒瓶を一度傾けた後、

「ほーん、それはご立派ですな。ではハルベルトの妄信も、完全に無駄ではなかったというわけですなぁ」


 空の酒瓶をわざとらしくハルベルトの頭にコツンと落として、

「おめおめ忘れるでないですよ。異端な力に頼れば、いずれは大きな代償を払うことになる、とですねぇ?」


「は、骨髄に刻んでおきます」


「それでよろしいのです。では、私は陛下がいらっしゃるまで、貴様が催した宴会にいてやりますよ」

 フラジュは付近のテーブルにあった鶏肉を一つまみして、三人の元から離れていった。


 有原は立ち上がった二人にこう聞いてみる。

「あの方は誰ですか?」


 ハルベルトは苦虫を噛むような顔をして、

「……フラジュ・ペルビア様、我々と同じく五大騎士団長の一人だ。だが、あの方はこのミクセス王国の建国に携わった家臣由来の古い血統の貴族で、その存在感は我々よりも遥かに上だ」


「印象が悪い。と、思ってしまったかもですが、決して笠に着るばかりの人ではないですからね。きちんと防衛も内政も率先して行っています」


「……印象が悪いのが玉にキズすぎると思いますけどね。あ、それと、ハルベルトさん、クローツオさん。さっきフラジュさん、『陛下がいらっしゃる』と仰ってましたけど、ここに国王様がいらっしゃるのですか?」


 そう有原が問いかけた時、ハルベルトとクローツオは何かに後悔したように、顔を手で覆ったりして、 

「あ、ああ……短時間だが」


「は、はい……それと五大騎士団長のもう二方も来るとのことです」


「そ、そうなんですね……あれ、僕、聞いてはまずいことを聞いてしまいましたか?」


 二人は嘘偽りない真っ直ぐな目を作って宣言する。

「「いえ、全く」」


「そ、そうなんですか……?」



 数分後。ハルベルトとクローツオが言った通り、


「お楽しみの最中申し訳ない! 皆の衆、礼節を欠かすな! 国王陛下のお成りである!」


 この宴会場に、ミクセス王が臣下二人を伴い訪れた。


【完】


話末解説


■登場人物

真壁まかべ 理津子りつこ

 レベル:21

 ジョブ:【勇者】

 神寵:未覚醒

 スキル:【セイント・パニッシュ】、【サンダー・ショット】など


 某市に所在する大手建設会社『真壁グループ』の社長令嬢。一年二組の実質的支配者の一人。

 苛烈なほど合理主義者であり、何事も『結果』を優先している。感情や弱さを全否定し、多少の犠牲も試みない。

 得物の槍と雷属性魔法で敵を圧倒し、堅実に勝利を引き寄せる。


【クローツオ・ラティオ】

 レベル:41

 ジョブ:【魔術師】


 大陸の住民。ミクセス王国五大騎士団長の一人。

 学者肌の好青年。

 ミクセス王国の魔法研究の第一人者で、ハルベルトの界訪者召喚の手助けもした。


【フラジュ・ペルビア】

 レベル:36

 ジョブ:【呪術師】


 大陸の住民。ミクセス王国五大騎士団長の一人。

 建国時からの古い血統を持つ貴族であり、それ故にプライドが高い。

 界訪者と、それに関わるハルベルト、クローツオを快く思っていない。

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