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第55話 個々の決意

「俺は決めたぞ! ようやく隣国にこの国の本当の現状を、良いことも悪いことも包み隠さず伝えるとな!」


 祝宴内の演説の最中、エストルークが堂々と表した決意。

 それに参加者一同は当然の如く騒然とした。


 他国と共倒れにならないよう、他国にファムニカ王国の現状を伝えず、静かに自ら離散する。

 このただならぬ配慮の念がこもった先代国王の最後の勅命を、はっきりと覆すような発言だったからだ。

 

 辺りがざわつく中、高官たちの内、使命感と先代国王への忠義が強い者がエストルークに尋ねた。


「殿下! 貴方は先代陛下のお言葉を忘れたのですか!?」


「忘れたわけあるか! その意図から何まで覚えている上で俺はこう言ってるんだ!」


「であれば何故その意向に反するのです!?」


「俺たちファムニカ王国の民たちの幸せのためには、そんなのに従う必要がないからだ!」


「……確かに、先代陛下の遺言――滅びを迎えるという決断によって、苦しめられた人は大勢いると思います。ですが、それはより大勢の人の無事を祈ってのことです! それをわかったからこそ、幸せと思う民たちも大勢いるんです! それを、次代の国王たる殿下が蔑ろにしているという自覚はないのですか!?」


「ねえよ! 結局自分の国が平和で豊かなのが一番の幸せだからよ!」


「殿下……であれば……」


「おっと! こっからお前らの言いたいことはよく分かるぜ! 『今から殿下は、自分の国の平和のために、他国を巻き込むつもりですか?』って感じのことだろ!? それは心配するな! だって今の俺たちには……」


 エストルークはステージの裏で、次にする自分の演説の内容を考えている石野谷へ向いて、手を叩いて合図する。

 

 結局何も思い浮かばずぼーっとしていた石野谷は、その意図を十数秒の変な間を空けてから読み取って、

「俺たちがいるもんなァ!」

 

 ステージに上り、エストルークの隣に堂々と立った。

 

 この様を石野谷一味のリーダー以外は、ステージ下で他の来賓に混ざって見ていた。


「おい、俺たちも行くぞ」


「だね。陽星は『俺たち』って言ったもんね」


 遅れて、彼の友達五人も続々と登壇し、ステージ上に石野谷一味が集結する。


「俺の親父……先代国王は『この国の不幸が他国に及ばないようにしたかった』から、他国との交流を遮断したんだろ? じゃあ今はどうなんだ!?」

 エストルークは指さして、宴会参加者一同をある一方向へ向ける。


 彼の指の先には、祝宴会場のど真ん中に設置された、この祝宴の表向きの理由『邪神獣討伐』の証拠となる邪結晶があった。

 そしてエストルークは己の手が示す先を右隣――石野谷一味に変えて言った。


「この突然駆けつけてくれた救世主のおかげで、ここをボロボロにしたシシリュエオスも倒せた!

 今ここで他国に助けを求めたところで迷惑になるか!? ならねぇよなぁ!? だって今のファムニカ王国は、不幸でも危機でも滅亡寸前でもないんだからよ!?」


「そうだ! そのとおりだ兄貴!」

 と、エスティナは桐本が食べかけたクレープを口に入れたまま、大声で兄を応援する。


「ありがとよ、エスティナ!」

 エストルークはそれに勝るくらいの声量で返した。


 この時、さっきまでエストルークに反論していた高官たちは、二の矢をどうするか迷っていた。

 エストルークの考えは先代国王の遺言に逆らっていた。

 しかし、彼の発言そのものは『正しい』。


 ファムニカ王国の危機を絶望的ではないくらいまで退けた今、ここで他国と連携しないで、大陸の災の根源を断たない理由は、どこにもないのだから。


 会場は相変わらずどよめいたままだった。しかし、エストルークとやりとりする者は現れなくなった。


 その間に、梶はエストルークに尋ねる。

「王子。なんで今になって、先代国王の言葉を覆そうとするんですか? ああ、目的じゃなくて、『どういう感情で』っていう質問です」


「どういう感情で……それはもちろん、ずっと前から思ってたようにこの国を守りたいからだ。あとは……」


 エストルークは一瞬石野谷を見て、

「石野谷。お前がしたことは偉いってしっかり教えてやりたかったんだ。お前の『仲間を守りたいって』意思に自信を持ってほしかったからだ」


 この答えを聞いて、梶は二重の意味で腑に落ちる。

「そうですか……わかりました」

(なるほど、さっき話してたのは、あの話だったんだな……)


 エストルークは会場の騒然とするばかりの様子を一瞥してから、

「……まだ誰も反論しそうにないな。じゃあ今度はこちらも質問していいか、石野谷、梶、逢坂、桐本、稲田、大関」


「「「「「「いいとも」」」」」」


「ありがとよ。今更なんだけどさ、図々しいかもしれないんだけどさ……お前ら、しばらくはこの国に居てくれるよな?」


「さっき僕たちがいること前提の話をしていたのに、本当に今更ですね。まあ、答えは『はい』ですけど」と、梶。

「当たり前だろそんなこと、もう俺たちの居場所はここしかないんだからなあ!」と、稲田。

「俺もまだ居るつもりですよ。一難ははねのけたものの、例のカラスがまだいますからね」と、大関。

「はい、俺もまだ滞在するよ。君とエスティナ姫が心配だからさ」と、桐本。

「ええ、喜んで居させてもらいますよッ!」

 と、逢坂は答えてから、石野谷を脇目で見て、

「……ま、リーダーが『違う』というなら、俺たちも『違う』なんですけどね……」


 他の四人も逢坂と同じように、一味のリーダー石野谷を見つめて、返事を待つ。

 その時、石野谷は、クスクスと笑ってた。


「何がおかしいんだよ、石野谷」


「……だって、マジで今更過ぎるんスもの……だって俺たち、仲間でしょうよ……!」


 するとエストルークもつられて笑う。

「ああ……そうだな……じゃあ、ごめんな、こんな意味のない質問して……」


 そして石野谷は、ほとばしる感情を発散するように、会場に集うみんなにこう宣言する。

「みんな、もう何も遠慮するな! もう王様の言葉は程々に忘れて、ドカンと行こうぜ! なんてったって今のファムニカ王国には、魔物や邪神獣さえものともしない最強の守護神、石野谷一味がついているんだからな!」


 この瞬間、会場にいるファムニカ王国の臣民たちの心は一つになった。


 国王の遺言は、申し訳ないが今は従わなくてもいい。臆病になるための理由でしかなならないと気づいた。

 今自分たちがすべきなのは、ファムニカ王国の復興と、エストルークと石野谷一味を信じることだと気づいた。


 故に、会場にいる者たちは、天を突くように、エストルークと石野谷一味を称える言葉を各々叫んだ。


 この光景の中にいたエスティナは

「よかったな……兄貴!」

 兄が過去一番に国民に慕われている瞬間を喜び、


 ステージの裏で主君の勇姿を見ていたルチザは

「いい友達をもちましたね……殿下……グスッ」

 一歩進みだしたエストルークと王国の姿に感動した。


「……はぁ、本当に腹が立ちますな」

 そして、祝宴の隅で酒をあおっていたフラジュは、このムードを至極不愉快に思い、ひっそりと会場を抜け出した。


 それからフラジュは人通りの多い露天が立ち並ぶ街道を憂さ晴らしに歩きつつ、

「石野谷一味がここに来た理由は吾輩なのですよ。だから吾輩も奴らと同等に持てはやされるべきなのです。なのに、誰一人吾輩のことを見向きもしないで……」

 と、酔った勢いも乗せてぶつぶつと文句を言った。


「さぞかしお悩みのようですね、貴方」


 最中、フラジュの目の前に一人の女性が現れる。

 カラスの羽を編んで作った羽織物を纏う、黒紫色の髪を持つ妖しげな雰囲気の女性だ。


「誰でありますか? 急に吾輩に話しかけてきて?」


「それはごめんなさいね。私はルヴィタ。占いを生業としていまして、各国を旅して、困っている人を導いております」


「そうか……じゃあつまり、貴様は吾輩が困ってそうだから、それを助けたいと」


「左様でございます。貴方は今、周りからろくに評価されないことでさぞかしお悩みのようですから」


「よくわかりましたね……貴様、相当な腕前のようでありますな」


 本当はさっきからブツブツつぶやいていたことで知ったのだが、ルヴィタはそれを伏せて、

「はい、でないと占いでは食っていけませんから。さて折角のご縁ですから、ここは一つ、占いでもいかがです? 貴方の悩み具合は目に余りますので、今回は慈悲としてタダでやらせてもらいますよ?」


 フラジュは神々や占いなど、存在がはっきりしていない理屈を好まない。好むのは名族のち筋などの確固たる権威である。

 しかし今の彼にはそれがなく、他にすがる先がないので、

「タダと言いましたな。その言葉、後から無しにしないでくださいよ」

 躊躇なく、ルヴィタの誘いに乗った。


「ええ、わかってますとも」


 フラジュはルヴィタについていき、祝祭の出店に混ざって設置された、彼女の占い館代わりのテントに入り、机を挟んでルヴィタと向かい合って座る。

 ルヴィタは机の中央に置かれた水晶玉に手をかざしつつ、

「念のため確認いたしますが、あなたのお悩みは『周りから評価されない』ことですね?」


「その通りでございます! この国を救った英雄、石野谷一味をここに連れてきたのは紛れもなくこの吾輩だというのに、誰一人として吾輩に見向きしないのです!」


「では占うのはやはり……」


「ええ! 『どうすれば吾輩が奴らに準ずる名声を手に入れられるか』であります!」


 ふうん。と、うなりつつ、ルヴィタは水晶をゆったりと撫で回す。そして一言。

「話を根本から覆すようなことを言ってしまいますが、貴方の願望はこれくらいでいいのでしょうか?」


「え、ええ、これでいいですよ」


「貴方、本当はもっと規模が大きいことをしたいのではないでしょうか? 例えば、『自分の権威を消した者たちへの復讐』とか……」


「!? な、何故それがわかるのです!?」


「当たり前ですよ。私は占い師ですもの。だから貴方の考えていることも、この先どうすればいいのかもはっきりとわかります……」


 そうルヴィタが言った途端、フラジュは机に両手を突いて前のめりになり、

「そうだ! 今の吾輩にとって権力は二の次でしか無い! まず復讐がしたい! 吾輩をこの国の日陰に追いやった石野谷一味にも、ミクセス王国で吾輩を蹴落とした有原たちにもだ! だから……もしよろしければその方法を教えていただけませんか?」


 するとルヴィタは一本の短剣と、宝石がぎっちり詰まった箱を水晶の横に置いて、

「はい、こちらを使っての方法を教えて差し上げますよ」

 と、不敵な笑みを浮かべて返した。


 この二つのアイテムを見て、フラジュは彼女の目論見を察し、同じように怪しく笑った。


【完】

今回の話末解説はございません

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