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第53話 色々ありまして

 夕方頃、石野谷一味含む救出軍は、ファムニカ火山から王都に帰還した。


 目的通り、作戦の対象である姫を『連れ戻せ』たからだ。それも邪神獣【絶望のシシリュエオス】を討伐したという大きすぎるおまけもつけて。


「あーあ、あのカラスも倒したかったのになぁ」

 道中、エスティナは周りに文句を撒き散らす。

 邪神獣二体の巣窟にいたのにも関わらず、それくらいの余裕があるくらい彼女は至って健康であった。


 側に居た執事のルチザは姫を質す。

「無茶言わないでください、エスティナお嬢様」


「無茶じゃない! もっと時間かけて探せたら絶対倒せてたから!」


「そうだぞルチザ! エスティナの行動はまだしも、強さまで否定するな!」

 この反論に兄のエストルークも加勢してきた。


「否定……いや、注意されて当然だと思いますけどね……」


 こういった具合で三人が軍の列の先頭で口論する中、彼らの後ろでは、今回の件のきっかけとなった報告をした例の兵士が石野谷一味に何度も頭を下げていた。


「すみません! すみません! 私が事件の詳細を説明しなかったばっかりに!」


 調査隊が火山内を探索していたところ、遠くに巨大なカラス――邪神獣【下劣のゲルビタ】がいるのを発見した。


 しかし、距離的にはこちらが余程刺激しない限り襲ってこないだろうと考え、調査隊は慎重に別の道を歩んだ。


 ところが兄に似て血の気の多いエスティナ姫は脇道へ反れて、ゲルビタに挑みに行ってしまった。


 調査隊たちはすぐに姫を追いかけた。

 しかし、エスティナは全力で逃げるゲルビタを全力で追い回していたため、すぐに見失ってしまった。


 ……というのがこの兵士が本当に伝えたかった事件の詳細だ。彼は色々(※主にエストルークの聞く耳のなさ)あってこれを伝えきれなかったのだ。


「いいんスよ、別に。結果お姫様は助けられたんですから」と、石野谷。


「そうですって。実際『危機』だったのには変わりないんですし」と、梶は言った。


 すると前を歩いていたエスティナが梶の元にやってきて、

「全然危機じゃないから! だってオレ強いんだよ!?」

 と、言い返してきた。


「わざわざ来るのかよ……」

 と、梶はぼやいた後、


「ですけどあのカラスは邪神獣ですから、どうなったかわかりませんよ? シシリュエオスみたいに第二形態もあったかも知れませんし」


「だとしてもオレは勝ったって! あのライオンを倒したみたいに勝てたって! アイツの分身クソ雑魚だったんだから多分本体もそんなだろ! ああもう、マジでもっと戦いたかったー! なんなら今からもっかい火山行かせろ!」

 と、駄々をこねるエスティナを見て、石野谷と梶は同時に思う。


((めんどくさい姫様だなぁ……))


 一方で、桐本はエスティナの元に歩み寄って、

「あと一歩のところで邪魔が入って届かなくなった。その『悔しい』っていう君の気持ちはよくわかるよ。けど、君がここにいることで『嬉しい』って思ってくれる人も沢山いるからさ、そんな人たちの思いにも応えてあげなよ、ね」

 と、求めた後、爽やかに笑って見せた。


 するとエスティナは一瞬にして駄々こねをやめて、

「は……はい、わかりましたっ!」

 と、顔を赤くして言った。


「好みは割とベタなんだな……」

「やっぱイケメンってすげぇな。そしてムカつくな」

 と、石野谷と梶は、二人にぶつぶつ言った。


「おいこら桐本! テメェ俺の妹に何しやがった!」

 そしてエストルークは、エスティナの恋心というものがわからず、桐本に殴りかかろうとした。



 その日の夜。

 ファムニカ王国の王都で、王子エストルークの主催により、大規模な祝祭が開かれていた。


 国民たちには『シシリュエオス討伐成功を祝って』と、この祭の目的を伝えた。

 だが、実際の目的は『妹が帰ってきたこと』と『石野谷たちが来てくれたこと』のお祝いだ。


 もっとも、感情を隠すのが下手な王子のすることであるから、その真の意図は全国民からガッツリとお察しされていたが。


 当然ながら、今回の事件のMVPである石野谷一味も、祝われる対象として、会場である王都内の広場に来ていた。


 梶はその祝祭の賑やかさと華やかさを見てこう一言。

「次代の国王がこんな私情にまみれたイベント催して大丈夫なのかよ?」


 すると側にルチザが現れて、

「それはご心配なく。あなたたちのご活躍は既に国中に広まっていて、もうかなりの尊敬を集めています。喜んでこの祝宴に乗ってくれていますよ」


「そうですか。じゃあ楽しみまさせてもらいます。ただ、これが愛想の切れ目にならないようにそれなりの節度は保ちますよ」


「そうだぞ輝明! いくら俺たちが歓迎されているからって派手にするな!」

 と、大関は、両手で抱えないと持てないくらい大量の料理を持って歩く稲田へ注意した。


「あ、これ食うか晴幸?」


「勿論食べるぞ! もったいないからな!」


「言ってることはごもっともなんだけどタイミングが悪すぎるっての晴幸……あと、他に注意しなければならないのは、あの二人か」


 梶はまず、桐本へと向かった。


 桐本は普通の長椅子に腰掛けていた。

 その隣には、夕方からすっかり彼にハートを奪われつつあるエスティナがいた。


「ね、ね、ねぇ、桐本? 何か食べたいものとかある?」


「特にはないかな。逆に貴方は、何が食べたいの?」


 エスティナはますます顔を赤くして、

「わ、わ、わた……オレは特に何も……」


「じゃあとりあえず、なにか買いに行こうか?」


「は、はい……!」


 二人は立ち上がり、仲良く手を繋いで屋台へ行こうとする。

 その目の前に梶は現れて、


「おい光、相手はこの国の姫ってことを忘れるなよ?」


「え、どういうことかな?」


「僕たちの評判を下げるような軽率な行動は取るなよ?」


「それはわかってるよ、昇太。じゃ、行こっか、姫様」


「は、はい!」


 そして二人は梶の横を通り過ぎて、屋台へ行こうとした。

 その途中、エスティナは梶の耳元に『余計なこと言うな』とささやいて、彼の足を彼女基準で軽く踏んづけてやった。


「いぎッ! ……はぁ、マジでしっかりしてくれよ光」


 続いて梶が向かったのは、城前に特設されたステージ。

 今から三十分後、エストルークからの演説が行われるまでの間、音楽隊が祝祭のBGMを奏でていた。


「……あれ、これどうやって音鳴らすんだっけ?」

 その中に逢坂が混ざっていた。予備のバイオリンを勝手に借りて、キーキー鳴らしてせっかくの演奏を崩壊させていた。


 梶は一言『すみません』と言ってからステージに上がり、逢坂の元へと歩んで、

「おい雄斗夜、何でお前がここにいるんだ」


「わたしはドヴォルザークのような音楽家になりたくて……」


「だとしても音楽隊に混ざってそんな音鳴らすなっての」


「えェ? 祝祭だから『最低限の節度』を守ればハメ外していいんじゃないのかぁァ!?」


「お前は音外して迷惑かけてるんだよ! ほら、さっさと降りやがれ!」


「へいへい」

 逢坂は今日一番の不快で大きな音を一つ鳴らしてから、バイオリンを片づけてステージから降りる。


「ところで雄斗夜、この辺で陽星を見なかったか?」


「見てないなあ? あ、まさか陽星にも目をつけてるのかよ?」


「もちろん。アイツもなんかしてそうな感じがしているからね」


「ふーむ、だったらもう『既にしてる』ぜ?」


「何をだ?」



 一方その頃。


 祝宴のため最低限の兵士を残し、ガランとなった訓練場の中で、石野谷とエストルークが、それなりに手を抜きつつ殴り合っていた。


 さっきの石野谷一味の戦いを見て生じた熱がまだ冷めないというエストルークに、石野谷が快く引き受けて始まった、いわゆる『スパーリング』である。


「やっぱつえーな陽星!」


「王子こそ、【神寵】持ちの俺についてこれてるなんてすごいっスよ!」


 そういった具合で二人は互いを絶賛しながら、互いを殴り合う。

 そしてある程度試合が盛り上がったところで、


「よし、今日はこの辺にしておこうか……」


「そっスね。祝祭のメインキャストが傷だらけで出てくるとあれっスから」


 流石の二人も自重して、スパーリングを止めた。

 ここから二人は祝祭の会場に向かう……前に、喉が乾いたし疲れたので、二人は訓練場の土に腰を下ろし、お互い水筒を何度か口につける。


 最中、石野谷は一言。

「お前、妹のことが好きなんだな」


「え、急に何だよ……」


「あの時真っ先に助けに行こうとしたのもだし、あのお祭りを開催したのもきっとそれなんだろうなーって、今ふと思ってよ」


 エストルークは即答する。

「あったりまえだろ! 家族なんだから! 特に、お袋は幼い頃に死んで、親父はあんな性格だから、唯一自分と親しい家族はアイツしかいなくてな……」


「そっか、やっぱそうだよな……普通」

 と、言った後、石野谷は一瞬、悲しさを顔から漏らした。


 エストルークは戦友として、これを決して見逃さなかった。

「何だよ? 今のシケた面は?」


「……あ、バレてたか? ごめんな、ちょっと前の世界の家族のことを思い出しちまって……」


「前の世界の……ああ! そういえばお前、この大陸以外のどっかから来た界訪者って奴だったな。それでホームシックになったってことか?」


「ホームシックじゃないな。むしろ、俺は家に帰りたくないんだよ……」


「え、家に帰りたくない……のか!? 家だぞ!?」


「そうだ。家に帰りたくないんだ。色々ありまして……な。とにもかくにも俺の家はお前の家と勝手が違うんだよ」


 それから石野谷は、お祭りに行く前に気分を悪くさせたくないから。と、これ以上は話そうとしなかった。

 しかしエストルークが何度も『聞きたい』とせがんできたので、


「自分でも話してて気分の悪くなる話だ。それでもいいか?」


「ああ、遠慮なくかかってこい!」


「わかった。じゃあ後で文句言うなよ……ざっくばらんに言うと、これは俺が家族から除外されるまでの話だ」

 

 石野谷は仕方なく、そうなるまでの過去を、重い口を開いて紡ぐ。


【完】

話末解説


■登場人物

【エストルーク・ファムニカ】

 レベル:55

 ジョブ:【格闘家】


 大陸の住民。ファムニカ王国の王子で、次期国王候補。

 石野谷たちと同年代らしく、感情に振り回されがちな熱血漢。

 特に、妹に危機があったら居ても立ってもいられない。

 戦闘能力はかなり高く、神寵覚醒者をある程度あしらうことも可能。


【エスティナ・ファムニカ】

 レベル:55

 ジョブ:【格闘家】


 大陸の住民。ファムニカ王国の姫で、エストルーク王子の一つ下の妹。

 兄とよく似た性格で、衝動的な戦闘狂。

 ただし男性の好みはわりとベタ。

 戦闘能力はかなり高く、状況が味方すれば邪神獣も倒せなくはない。


【ルチザ・メテル】

 レベル:24

 ジョブ:【暗殺者】


 大陸の住民。ファムニカ王国に代々仕えている執事の男性。

 エストルーク王子とエスティナ姫のブレーキ役ではあるが、二人が奔放すぎるので、止められないことが多々ある。

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