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第48話 日没からの再出発

 久門くもん将郷まささとと他三人の仲間が死んだ。


 その悲劇から数時間後、石野谷たち、久門一味残党の六人は、ヒデンソル王国の境を越えて、ミクセス王国に戻ってきた。

 町一つを壊滅に追い込んだため、これ以上いれば御用にされかねないと判断されないし、そもそもリーダーが死没した場所に居続けるほどの精神的余裕がなかったからだ。


 特に石野谷は、あれだけ慕っていた久門の死による喪失感が人一倍大きく、拭い難い悲愴な気持ちに潰されそうになっていた。


 道中、六人は食料調達のため、とある農村の付近の草原で立ち止まる。


 そこで石野谷は逢坂へ、暗い面持ちで頼む。

「俺たちみたいな訳わからん奴らがぞろぞろ入ってくると目立つから、雄斗夜、お前が代表してなんか買ってこい」


「え、俺ェ? なんでだよ陽星?」


「お前が比較的元気がありそうだからだ……」


「そうか、そうだよな。わかった、なんかオーダーとかある……」


「腹が膨れりゃなんでもいい……」


 逢坂は石野谷以外の顔色も伺う。他の四人も同じく、『今はそれどころじゃない』様子だった。


「りょーかいしました」

 

 そして逢坂は村へ買い出しに行き、残りの五人は芝生に腰を下して彼を待つ。


 その最中、膝を抱えて激しく落ち込む石野谷へ、桐本は尋ねる。

「陽星、君、これからどうする気なのかな?」


「わかんねぇよ……もう」


 続いて稲田は、石野谷の沈みっぷりに薄っすら苛立ちながら尋ねる。

「復讐とかする気はないのか? 久門さんをぶっ殺した犯人を殺す気はよ?」


 梶が現場検証したところ、久門と式部と塚地は槍のような鋭利な武器で身体を貫かれたのが致命傷いなっていたという。

 これを受けて梶は、四人は邪神獣ではなく、何者かの『人間』の手によって殺された。と、断定した。


 直情的な稲田はこの犯人を探したくてうずうずしているのだ。


 けれども石野谷は、

「……ないよ。『槍っぽいもので殺された』以外証拠がないってのに、それだけで探し回ってもキリがないんだから……まさか世界中の槍持ちを尋ねて回るわけにもいけないし」


「……陽星いいッ! お前久門さんにどれだけお世話になったのかわかって言ってるのかああッ!?」

 この情けない石野谷の態度によって、彼特有のユルユルすぎる堪忍袋の緒が切れた稲田は、拳に熱を帯びさせて突き出す。


 石野谷はそれを片手で受け止めてから、なるべく顔から悲しさを出さないようにして、稲田と向き合う。

「それはわかってる。けど、ろくな手がかりもなしに闇雲に探し回るのは違くないか……」


 梶も石野谷と同感である。

「陽星の言う通り、今それをするのは無茶がありすぎる。だいたい、あの四人を倒せるくらいヤバい奴が血眼になったくらいで見つかるはずがない。仮に見つかったとしても……」


「昇太まで……お前ら、それでも久門さんのダチか……!?」


「まぁ落ち着け、輝明」

 大関は憤る稲田を力づくでどかし桐本に託した後、石野谷へ言った。

「陽星、しばらくは当分お前の気が向くままに行動しよう。そのうちきっと有益な情報が入ってくるだろうから……だが」


「だが?」


「久門さんと式部さんがいない今、今の俺たちのリーダーはお前だ、陽星。その自覚は持っていたほうが良いぞ」


「晴幸……」


 この瞬間、石野谷は数秒前の自分を蹴りたくなった。

 大関の言う通り、久門と式部がいない今は、この友達五人は、昔から先導役を担っていた自分がやらなければならない。

 だからそんな自分がクヨクヨしっぱなしになっていては、五人までもダメな方へ沈んでしまう。


 だから石野谷は一度両手で自分のほっぺたを叩いた後、普段通りの明るさを引き出して、お大関へ返した。

「ああ、わかった! お前らだけは何としても引っ張りぬいてやるぜ!」


「そうかい、じゃあ、知恵袋は僕に任せてくれよ」と、梶。


「頼りにしてるよ、陽星」と、桐本。


「いいか、いずれは仇を取ってくれよ陽星!」と、稲田。


「ありがとよ、そして、頑張ってくれよ」と、大関たちは揃って石野谷を激励した。


「おおい、食い物買ってきたぜッ! ……って、何してんの?」

 そして逢坂が買い物から戻ってきた。



 それから久門一味残党改め、石野谷一味は農村付近から再び歩き出し、六人全員、紙袋いっぱいのポップコーンを持って西から東へ歩いていた。


 しばらくは六人は何も言わないでいた。

 しかしポップコーンの味に飽き始めた頃になってようやく、桐本は逢坂に尋ねる。


「なあ雄斗夜、なんで、ポップコーンなの?」


「え……そりゃあ、『安いわりに量が多かったから』だぜ」


「だとしてもお腹ふくらましたい時にこれ食べるかな?」と、桐本。


「しかも水の管理が重要になる旅の途中で、水がやたらと欲しくなるもの買うなよ」と、石野谷。


「そうだぞ雄斗夜! こればっかりは面白くないぞテメェ!」と、稲田。


「はいはい、メンゴメンゴ」

 この三人の集中砲火を受けて、逢坂は雑に謝った。


「「「メンゴじゃねえよ!」」」

 そしてますます三人に怒られた。


「あひぃー!?」


 若干距離をおいてそれを見つつ、梶はポップコーンを摘まみつつ、ふと思う。

「ていうか、この世界にポップコーンあるんだな。珍しい」


 この梶のつぶやきに反応した逢坂は、そちらへすがる。

「だろォ~? 俺が立ち寄った店の姉ちゃんが『居候が勝手に作物くすねてわけわかんないものつくった』って話だから、きっとこの世界じゃあポップコーンは『レア』なんだぜ」


「ま、だからってお前のセンスが良いとはお世辞でも言わんけど。しかも俺が言った『珍しい』ってのは、こういうファンタジー世界感的にっていう意味だし」


「「「そうだぞ、雄斗夜!!!」」」


「はひーッ!」

 こうして逢坂は四人にボロクソ責められた。


「味付けがアバウトだがうまいな」

 その一方で、大関は何も文句を言わず、ポップコーン一袋を完食していた。


 十数分後。色々ありつつも食事を済ませた石野谷一行は、引き続き東へ進む。


 その最中、梶は石野谷に聞く。

「ところで陽星、お前これからどこ行くつもりよ?」


「え……特に考えてないけど?」


「へぇ、だったら王都に戻ってみるのはどうかな?」


 王都。その二文字を聞いた途端、石野谷は不自然に背筋を伸ばし、不自然な笑顔を見せる。


 それを気にせず梶は続ける。

「久門さんがいない今、自分たちは無闇に各所を巡り歩いて邪神討伐をする必要はない。やっぱりミクセス王国という地盤の上でしたほうがいいと思うんだ」


 梶の提案に逢坂と大関と桐本はうんうんとうなづく。

「そうだな。情報が集まりやすい王都ならば、久門さんを殺した犯人も見つかりそうじゃあないか」

「一度離反した件については有原級長に誠心誠意謝ればなんとかなるだろう。多分」

「無茶は禁物だ。ここは王都に戻って有原さんたちと協力しよう。僕も、個人的に謝りたい人がいるしさ……」


 一方、稲田はこの後歯医者に行かされる子供のような嫌悪感を顔からはっきりと出す。

「えええ、王都かよ……! なんだ陽星、お前有原に頭下げに行くのか?」


「ま、ま、まぁ……一応、そんな感じ」


 梶は改めて尋ねる。

「一応、そんな感じ……つまりそれ、『王都に戻る』っことで、決定でいいんだね?」


「お、うん、それでいいかもしんない……うん」

 と、石野谷はあちこちを見渡し、しどろもどろになりながら答えた。


 ふぅん。と、梶は相槌を打った後、彼の意向に従うことにした。


 かくて一行は、リーダー石野谷が進む方へとついて行く。


 道中、一行は分かれ道に差し掛かる。


「多分、左に曲がれば王都につくと思う」


「そっか、ありがとよ昇太」

 と、梶に言って、石野谷は右に曲がった。


 数分後、一行は別の分かれ道を目の前にする。

「こっちは確か、右に曲がれば王都の近道になった気がするよ」


「ふぅん、ありがとうな光」

 と、桐本に感謝しつつ、石野谷は左に曲がった。


 さらに数分後、一行はまた別の分かれ道の手前に着く。


「これは『左』に曲がるべきだッ!」


「なるほど、ありがとよ雄斗夜」

 と、逢坂に礼を告げた後、石野谷は右に曲がった。


 ……というように、仲間が勧めた道の反対を行くことを、石野谷は一夜と一日繰り返し、一行はミクセス王国の王都を通り過ぎ、東の国境付近に着いていた。


「……陽星いいッ! 王都からだいぶ遠くなっちまったじゃないかよおおッ!」

 

「オイオイオイオイ、なにしてんのよ陽星リーダー、『王都に行く』んじゃあなかったのかよ」


「ご、ごめん、輝明、雄斗夜……でも、何も考えないでこうしたんじゃなかったんだよ……」


「やっぱり有原級長の元に帰るのが嫌だったんだよね、陽星」

 と、桐本は石野谷の図星を思い切り突いた。


 故に石野谷は白状する。

「……そうだ。お前たちの言う通り、王都に戻るメリットも十分に理解してた。けど、王都に戻るのはなんか嫌だった」


 大関は尋ねる。

「やはり、有原級長に謝ることへ抵抗があったからか?」


「半分外れ半分当たり。有原に謝ることそのものには抵抗はないんだ。さっき晴幸が言ってた通り、多分状況とアイツの性格的に許してもらえるだろうからな。

 ただ、それだと、これまで久門さんに必死についてきた自分たちをあっさり蔑ろにして捨ててしまうような気がするんだ。

 無軌道な感じなのはわかってる……けど、やっぱ俺としては、有原へ戻ることはできないんだ……」


 そう白状した石野谷はうつむいたまま、歯を食いしばる。

 この後稲田あたりから情けないリーダーへの鉄拳制裁が飛ぶことを予測して、受け入れる体勢を取ったのだ。


 しかし、いつまで経っても石野谷の身体はどこも痛まなかった。


「ハハハ! なあんだ、だったらさっさと言ってくれよお前!」

「ウヒヒ、つくづくお前らしいな、陽星!」

「全く、『水くさい』じゃあないか、陽星」

「そうだよ陽星! そんな無理してるんだった正直に言ってもらったほうが俺らも助かったって!」

「本当、いつもお前は見栄っ張りだな、陽星」


 稲田たち五人は友達として、彼を笑って許したからだ。


「そ、そうか……悪いな、皆……ハハハ」

 杞憂で終わってよかった。と、石野谷は胸をなでおろした後、顔を上げて、しばらく友達と一緒に笑いあった。


「で、この後マジでどこいくの?」

 そして梶は石野谷を現実に引き戻した。


「ごめん、マジで何も考えてない。少なくともヒデンソル王国と王都には居られないから、どっかしらの町で情報を待ちつつ……」


「早く考えてくれよ陽星。でないと俺らはここであの旅人みたいになっちまうぜェ〜」

 

 自分の遥か後ろで、何か『大きいもの』を失ったような様子でとぼとぼと歩く、やつれた男を指さして、逢坂は言った。


 梶はその旅人を眼鏡越しに凝視して、ハッと驚く。


「待って! よく見ろお前ら! あの旅人……ゼッテーどっかで会ったことあるぞ!」


 どれどれと言いながら、五人は百メートルほど離れたところにいるその旅人をじっくり見る。

 彼らの視線を感じ、その旅人は六人の方へ首を回し、目をパチクリさせた。

「き、貴様らは……確か久門の仲間たちでありますか!?」


 この声により、六人はこの旅人の正体を確信する。

「「「「「「お前は、フラジュ!?」」」」」」



 ミクセス王国最南端に位置する、トリゲート城塞にて。

 

 有原はハルベルトに同行し、現在の城塞の主であるゲルカッツの、二国への入国交渉の現状を聞きに行っていた。


「早速ですがゲルカッツさん、その交渉は今はどの段階でしょうか?」


 ゲルカッツは答える。

「ヒデンソル王国は『検討中』という返事が続いている。ファムニカ王国は『自国のみで何とかする』と、国王からの返答書が返っている」


「なるほど、でしたらまだ入国は出来なそうですね……」


「本当に申し訳ない。我もかなり努力しているのだがな……おかしいな」

 

 ゲルカッツは、何かが腑に落ちていなかった。


 その様子を有原は感じ取って、

「ゲルカッツさん、『おかしいな』とはどういうことでしょうか?」


「それを聞いてくれてありがとう、有原殿、我は丁度それを話したかったところだ。ファムニカ王は隔たりなく人々に耳を貸し、自他国構わず困り事があれば速やかに対処する、協調性のある賢王として、大陸中にその名声が伝わっている。

 だからこの危機に際して『自国のみで何とかする』と言って、こちらの救援を跳ね除けると思えんのだ……」


「そうですか。何か事情があるのでしょうかね?」


「わからん……とにかく今は何度も説得を続けるしかあるまい……」


 有原とゲルカッツは交渉の停滞に頭を抱えた。


 一方その頃。

 石野谷一味は、件のファムニカ王国の王都を目指していた。

 その案内人はフラジュ――先日、真壁に加担して国賊となり、ミクセス王から暇を与えられた元・騎士団長である。


「ファムニカ王の一族と我輩は遠い遠い親戚であるから、きっと我輩に居場所を与えてくれるはずです」

 と、フラジュは六人に理由を語った。


 すかさず梶は尋ねる。

「遠い遠い親戚って、どれくらいですか?」


 フラジュは首を傾げて少し考えてから、

「えっと確か……遠い遠い親戚ですよ」


「そんなアバウトな血筋の人間助けてくれますかね?」


「大丈夫ですよ。ファムニカ王はアイツよりもうんと優しい人物でありますからね」


「縁切られたとは言え、こんな早くに元君主をアイツ呼ばわりしていいんですか……?」


 梶がフラジュの話し相手を務めている中、大関は石野谷の耳に口を寄せ、小声で尋ねる。


「いくら手近な目的が見当たらないとはいえ、わざわざこいつに同行する必要はあるのか?」


 石野谷もフラジュに聞こえないように小声で答える

「俺らだって安心して帰れる居場所が欲しいからだよ。ヒデンソル王国ではほぼお尋ね者だから住めない、ミクセス王国はさっきの通りだ。じゃあもう残ったまともな住処といったらファムニカ王国ぐらいしかないだろ?」


「だとしても、よりによってあの沈没しかけの泥船みたいな男についていかなくてもいいんじゃないか?」


「アイツは国に入国するための理由だよ。『ただの旅人です!』っ言うよりも『アイツの護衛です!』って言ったほうが話が進むだろ。仮にアイツがなんだとしてもよ」


「それなら筋が通っているかもな……細い筋だ」


「おお! あの門は……間違いない、ファムニカ王国の都だ!」


 遥か遠くに堅牢な白色の門が小さく見え、フラジュと石野谷一味は歩く速度を上げて、その側までやってくる。


 そして七人は、その手前で絶句した。


「なぁ、フラジュさん。ここ本当に、ファムニカの王都なのか?」


「ああ、間違いない。この白色の門こそ、ファムニカ王国の繁栄の象徴であったのだから……」


 七人の眼前にある白い門は、左半分が崩れて無くなっていた。

 その向こうに広がる町並みも、瓦礫の海と化していた。

 活気はおろか、人の気配も、まるでなかった。


 ――ファムニカ王国の王都は、見るも無惨な有様となっていた。


【完】

話末解説(※今回と直接関係はありませんが)


【第48話】

■詳細説明

【槙島のスキル【英霊顕現ヴァルハラ・アドヴェント】のルール】


 ① 当スキルで創生できる【英霊エインヘリャル】は【神寵】覚醒者に匹敵する力を持つ。

 ② 【英霊】は原典に則った硬派な容姿ではなく、ある程度元ネタを反映しつつもファンタジックに盛られた容姿で創られる。

 ③ 【英霊】の能力は元ネタに沿いつつも、魔法を使えたりするなど、異世界らしい補正が入る。ジョブの概念はない。

 ④ 【英霊】は喋ることはない。主・槙島の意志のままに従順に戦う。

 ⑤ 【英霊】のレベルは槙島と同じ数値になる。

 ⑥ 【英霊】を同時に出せる人数は、現時点で『三人』。

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