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第47話 獄炎への復讐

 久門たちの待機地点である町から西にある、名もなき土地にて。


 石野谷たち六人は魔物の群れと戦っていた。

 ジェナフォが彼らの思惑通り西へ逃げた途端、奴は魔物の群れを呼び寄せ、石野谷を足止めさせたのだ。


「くっそー! さっさと久門さんたちのところに合流したいのによー!」

 石野谷はがむしゃらに矢を放ち、魔物たちに怒りをぶつける。


 稲田いなだ輝明てるあきも、さっさと大将の元に戻れない怒りを晴らすように大槍を乱暴に振り回して、同じように魔物を八つ当たり目的半分で倒していく。

「だよなあ! マジであのコウモリうぜえよなあ! 普通に早いんだからこんな妨害いらねえよなああ!?」


「けど『チームプレー』していて、イイことじゃあないか。俺たち六人みたいによ」

 と、逢坂おうさか雄斗夜おとやは空中で横になりながら言った。


「「お前は連携してないだろ」」

 と、石野谷と稲田はすかさずツッコんだ。


 すると逢坂は起き上がり、

「オラオラオラオラオラーッ!」

 地上へ火の玉を連射し、一気に五十体もの魔物を焼き払って、


「ほら、したじゃん」


「「今さっきじゃんかよ」」


「はいはい、悠長にやってないで早く突破口あけてくれよお前ら」

 

 戦闘中の五人から離れた位置で、戦局を監視していた梶は二人へ催促する。


「あいよ、昇太!」

「おう、やってやらあ!」

「へいへい、任せとき!」


 こちらには特にツッコミは入らなかった。彼がチビであり、ジョブが【祈禱師】で戦闘に不向きなことを、五人は友達として理解しているからである。



 土地の半分が燃え盛っている町にて。


 その張本人、久門と仲間三人は、一ヵ月前とは明らかに様相が禍々しくなり、発される殺気も異様に高くなった槙島と邂逅していた。


 いじめっ子といじめられっ子。この二方の久々の再会は、当然決して喜ばしいものではない。


「おう、槙島。元気にしてたか?」


 槙島は何も言わず、傍に浮かばせていた槍――神器【グングニル】を、久門へ放つ。

 

 迫りくるグングニルへ、久門は大剣を振りかざし、これを打ち返した。


「なぁ、槍じゃなくて答えを返せよ、槙し」


 槙島は食い気味に言った。

「貴様、今自分がどういう分際なのか解っているのか?」


 久門はその時の槙島の目の色――大樹の葉を彷彿させる碧眼の中に滾る『憎悪』の感情を覗く。

「……ああ、わかってるとも。ただ、俺は『優しさ』でこうして接してるんだぜ?」


 久門は一瞬、後ろにいる仲間三人へ振り返った後、不敵な笑みを浮かべて、

「……たかが【神寵】に覚醒したくらいで、俺たち四人に復讐できるなんて無茶するんじゃない」

 四人揃って臨戦態勢となり、言葉を交わすことなく戦闘を開始した。


 まず行動したのは塚地つかじ優大ゆうだい

「【セラピス・コマンド】!」

 神寵【オシリス】で得たスキルを発動し、半分焼け野原と化したこの町に百体のゾンビ兵を召喚し、すぐさま命令を放つ。


「行け、生意気な陰キャを食いちぎれ!」


 それらしい散漫で凶暴な歩みで迫るゾンビ軍団。

 それを前にした槙島は、かつての彼とは違い、一切合切物怖じせず、

「【兵霊詔令ミズガルズ・サモン】」

 側の空間にグングニルを突き刺し、鍵を回すように九十度回転させる。

 するとそこに暗黒に繋がる円形のゲートが現れ、そこから全身が影のような暗黒に包まれた兵士が続々と現れる。その数、ゾンビ兵と同じく百人。


「征け」

 この簡潔極まりない槙島の命令に従い、暗黒兵たちは突撃し、ゾンビ軍団とぶつかる。


 そしてゾンビ軍団は瞬く間に減っていく。

 塚地のゾンビ兵はそれらしく動きは散漫である。

 一方の槙島の暗黒兵は、さも長い年月を戦場で過ごしていた熟練の兵士のような無駄のない動きを見せつけた。

 

 ゾンビ兵十人を暗黒兵一人で倒す。そのくらい二者の手勢の練度には差が開いていた。


「ちっ、だが俺のゾンビ兵は際限なく召喚できる! このまま数で圧して……」


「待て塚地! ここは俺が一旦地ならししてやる!」

 

 暗黒兵の軍勢はゾンビ兵を掃滅し、久門たちへと突撃する。

 これに対し、五十嵐は四人の最前に立ち、


「【ウアス・タイフーン】!」

 高速回転する自分を中心として砂嵐を巻き起こし、暗黒兵へ突っ込む。


 流石に【神寵】覚醒者相手には敵わないか。暗黒兵は空中に舞い上がり、飛び交う砂で身をヤスリにかけられたように削られ、次々と消滅すた。

 暗黒兵が半減したところで、槙島はゲートからグングニルを引き抜き、それを砂嵐の中心、五十嵐へと放つ。


 だが勢いで勝る五十嵐は、容易く腕で弾いて防御した。


「どうだ、お前の自慢の兵も槍も防御してやったぞ! 万事休すだな、雑魚が!」


「お前らはいつもそうだ、人の感情を勝手に決めつけて馬鹿にしやがる……透視能力もテレパシーも使えないくせに、さも自分が俺たち陰キャより上位の生物であるかのように……」


 槙島はグングニルを右後ろに突き刺し、向こう側が金色に輝く円形のゲートを開く、

「見せてやる。これが俺の神寵の真価だ……【英霊顕現ヴァルハラ・アドヴェント】」

 そしてそこから、金色の鎧、一対の触覚のような長い羽飾りがついた兜、それと方天画戟を携えた大男が悠然と姿を現す。


「あれは、誰だ……」

「何かの武将だったか?」

 と、久門と式部は突然現れた男に首を傾げ、


「りょ、りょ、呂布だー!」

 塚地はその姿を見て腰を抜かして仰天した。


「呂布? ああ、三国志だかに出てくるむちゃくちゃ強い武将か?」


「そういえばそんなのスマホゲームにいたな。で、何でそいつがここにいるんだ?」


「俺に聞かれてもどうとも言えねぇよ。久門、式部! ただ、何かアイツ、纏ってるオーラがさっきの黒い兵士と比べて桁違い過ぎる!」


「うるせぇ塚地! 俺の馬鹿力に比べたらどうてことねぇよ!」

 五十嵐は砂嵐を起こしたまま、槙島をすり潰そうと彼に接近する。


 だがその前に呂布らしき男が立ちふさがり、砂嵐に飲まれながらも一切怯まず足も浮かせず、方天画戟を砂嵐の中心へ振る。


「が……ぁっ!」

 そして砂嵐は止み、槙島と呂布らしき男の前には、胴体へ袈裟に刻まれた深い傷から大量の血を流し、力なく倒れる五十嵐がいた。

 

「五十嵐ッ! 嘘だろ、五十嵐を……!」

 と、久門が怒りを露わにした直後、


「う……あ……!?」

 塚地の胸の中心を、グングニルが一閃した。


 グングニルが槙島の元に戻った時、塚地もまた倒れた。


「なっ、塚地まで……!」


「この程度で、この程度の実力で今まで俺を見下し、虐げていたのか。さぞかし運が味方してくれたようだな、久門、式部」


「ちぃ……付いてこい式部!」


「もちろんだ久門!」


 五十嵐と塚地の仇を取るべく、久門と式部は槙島へ突撃する。


「【シュー・エクスプロージョン】!」

 久門は槙島めがけ、虚空から爆炎を引き起こす。


 槙島は前方でグングニルを柄の中点を軸として回転させ、爆風をかき消し、

「【兵霊詔令】……潰せ」

 暗黒兵百体を召喚し、久門と式部へ差し向ける。


「【テフヌト・フラクチャー】ッ!」

 久門は眼前で巻き起こした水蒸気爆発で兵の半分を消し飛ばし、


「『多勢』で舞え! 【イシェド・ビット】!」

 式部は数百枚の葉っぱを吹雪のように飛ばし、もう半分を蹴散らした。


 直後、彼ら二人に呂布らしき男が襲いかかる。


「『強烈』に食らえ! 【イシェド・ビット】!」

 式部は葉っぱ二十枚を勢い良く射出した。


 呂布らしき男は巧みに方天画戟を振り回し、全ての葉っぱを叩き落とす。


 しかしこの間、久門は呂布の頭上に飛び上がり、剣を振り上げていた。


「これでくたばれぇ! 【ゲブ・ディザスター】!」

 そこから久門が重力を味方に、業火を纏わせた大剣を振り下ろす。


 対する呂布は方天画戟を渾身の力で振り上げ、大剣を受け止める。だが、

「テメェなんかに……槙島なんかに負けたままでいられるかぁ!」

 久門は屈辱をバネにさらなる力を引き出し、方天画戟ごと呂布を焼き斬る。


 重大なダメージを受けた呂布は光の粒子となり、散り散りになって消滅した。


 刹那、火の妖術と、矢と、聖剣が一気に二人へ襲いかかる。


「【テフヌト・フラクチャー】!」

「『護衛』を成せ! 【イシェド・ビット】!」


 これら全ての攻撃を吹き飛ばした後、二人は槙島を睨む。

 彼の周りには、どこかで見覚えのある、陰陽師と義賊と騎士がいた。


 槙島の神寵【オーディン】。その特徴は主に三つ。

 一つ、自分の意志で自由自在に宙を舞う神器【グングニル】の錬成。

 二つ、高い練度を持つ暗黒兵の大量召喚。

 そして三つ、前の世界の歴史・伝承に存在した偉人・英雄を元に、神寵覚醒者にも匹敵する力を持つ戦士【英霊エインヘリャル】を最大三体(※現時点)まで創り出す。


 今、二人の目の前に立ちはだかるのは安倍晴明、ロビンフット、ローランを元にし創られた【英霊】だ。


「俺の【英霊】は何度でも呼び出せる。何度でも、貴様らが自分の罪を認めて、その命で償うまで……」


 式部は槙島へ怒鳴る。

「罪だと! ふざけるな! 俺たちは何をしたと言うんだ!」


「しらばっくれるんじゃない……俺は全部覚えている。足を引っ掛けて転ばせたのも、弁当のおかずを全て持ち去ったのも、体育の時間のドッジボールでわざと顔面にボールをぶつけたのも、宿題のノートを抜いてあたかも忘れたように工作したのも……あの山登りの時、荷物持ちをやらせたのも……そして、お前らがトリゲート城塞のときに何から何まで好き勝手した余波が俺に……」


「そんなの覚えてねぇよ。だいたいあったとしても、そんな細かいこと気にすんじゃねぇよ」


「うるさいッ!」

 槙島は魂の底から怒号を放ち、式部を威圧し黙らせる。


「いいから死ねよ人間以下共がッ!

 不都合があったら暴力を返すのがお前ら不良の流儀なんだろ……だったら、俺だって嫌なことされたことに対して報復すべきだろうが! お前らが俺を今まで好き勝手オモチャにしたんなら、俺だってお前らを好き勝手やってもいいだろうが!

 なぁ、さっさと『はい』か『いいえ』で答えやがれよ、人間以下じゃない、まともな知恵を有しているのならよ!」


「人間以下、だと……口答え……!」

 式部が言い返す直前、久門は彼の前へ手を伸ばし、彼を制す。


「もういい式部、ああいう奴は何を言っても無駄だ……だから、もうアレでさっさとカタをつけるぞ」


「アレか……そうだな、どうせアイツが何度でも偉人を呼べるって言うなら、それが一番良い!」


 こうして意を決した二人は、槙島を葬り去る準備に移る。


 久門は地面に切先が向くように大剣を持ち、力を込める。

 彼ら三人の周囲の空間が奇怪に赤く染まり、高熱が宿る。


「無駄なあがきをするな! 征け!」


 槙島は久門から距離を取りつつ、英霊三人を久門へ突撃させる。


「久門の華の最終奥義から逃げることは、この俺が許さない!」

 式部は胸の前で両腕をX字に交差させ、

「奥の手を見せてやる! 【ジェフティ・タイム】!」


 そして自分と久門以外のものの動きが全て止まった。


 五秒間、自分が認めたもの以外の時間を停止する。

 それがスキル【ジェフティ・タイム】の効果であり、神寵【トト】の覚醒者、式部の奥の手とも言える魔法である。


 これにより槙島の動きが封じる間、久門が最終奥義のための力を万全の状態で溜めていた。


「今のうちにしっかり力を溜めてくれよ久門! そうして五十嵐と塚地のかた……」

 

 しかし時間停止は僅か二秒で中断された――時間停止下にも関わらずグングニルが動きだし、式部の心臓を穿ち、即死させて。


「俺のグングニルは、いかなる魔法の効果を受けず、俺の味方をし続ける……例え時を止めようが、魔法である限り俺とグングニルを縛ることはできない」


「……そうか、だからどうした!」

 この時、久門の準備は完了していた。式部の努力に報いるべく、全身全霊で力を溜め、その時間を短縮したのだ。


「ありがとよ、式部。それと五十嵐、塚地……このお前らの遺志がこもったスキルで槙島を黙らせてみせるッ!」


 久門は紅蓮に煌めく大剣を地面に突き刺す。

「これは何にも、お前の槍でも破れはしない……俺の最強にして最凶の技だ! 【セクメト・アポカリプス】!」

 

 まず突き刺さった大剣を中心に熱波が波紋の如く伝わり、一体の大地が揺れ動く。

 これにより槙島たちはよろめき、範囲外に出損ねた。


 次に、大剣の刃からカブトムシを象った炎が何千何万と現れ、町全体を飛び交い、触れたものを絶えず焦がしていく。

 槙島はグングニルを周囲で旋回させ防御する。だが彼を警護していた英雄三人はこれを防ぎきれず焼死した。


 仕舞に、町の天空は暗黒の雲い覆い尽くされ、大地には赤色の線で邪悪な文様が刻まれ、

「さぁ……これがテメェの死に様だッ!」

 大地から遥か上の黒天へ、町全てを飲み込むほどの規模を誇る、一本の獄炎の柱が突き上がった。


 それが止んだ時、久門の胸にグングニルが突き刺さり、彼は数百メートル後方の石壁に磔にされた。


「その程度か、【勇者】久門……!」

 と、槙島は、何事もなかったように、円形のバリアの中から言った。


 スキル【極氷神楯アースガルズ・シールド】。

 その絶対零度の氷の円形バリアには炎は通じず、彼は無傷のまま久門の最終奥義から逃れていたのだ。


 槙島はバリアを解除し、勝利者然として、復讐の一つを果たした故に、すこぶる清々しそうに、悠然と久門へ歩む。


「真壁と久門に復讐する……ようやくその願いの片方が叶う時が来た。この神寵に目覚め、トリゲート城塞内の幾多の魔物を殺してレベルを上げて、自分のスキルを使いこなせるように努力しつつ、貴様らの居場所を探し続けた……俺はこの日を待っていた……俺の人生を暗く染め上げた元凶共をこの手で屠ることを……!」


 対して久門は一度、血反吐を吐いた後、彼を嘲笑った。

「ハハハ! 色々残念だったなテメェ! 真壁はとっくに死んでるし、この槍は貴様が慌ててたせいか急所に刺さってない! ハハハ、こんなんで体たらくで復讐する気あるのかよ!」


 槙島は嘲笑に耳を貸さず、久門へ尋ねる。

「六人はどこにいる?」


「あ、六人ってなんの話だ?」


「お前らにはあと六人、仲間がいるだろう? 石野谷陽星、梶昇太、桐本光、逢坂雄斗夜、稲田輝明、大関晴幸……この六人はどこにいる? あいつらだって俺の『対象』だ」


 六人の名前を淡々と述べたことから、久門は槙島の復讐を完遂するという執念を感じ取りながら、口を開く。

「ああ……そうか、アイツは……」


 久門は懐にある、外装の赤を、血により赤黒く上塗りされた狼煙の筒に手をかける。

 何かそちらでまずいことがあれば、元から付いた機構で着火して狼煙を上げろ――梶からの説明を脳裏に浮かべながら、


「知るかよ」

 赤い狼煙の筒を懐から取り出すや否、自分の火魔法で着火し、二人の間に叩きつける。


 すると赤い煙が辺りに立ち込め、お互いの姿が見えなくなる。

 さらに、槙島の元にグングニルが帰ってきてしまう。

「この……つくづく外道な真似を……」


 槙島が自分の勘を頼りに、磔から脱した久門を探す。


「つくづくテメェは甘いんだよ、何でもかんでも他責にしては、自分の短所は一切顧みない……だからこんなわかりやすい攻撃も読めないんだよお前は!」

 その声の方向は、ベタなことに背後であった。


「【ゲブ・ディザスター】!」

 久門は槙島の背中めがけ、業火を帯びた大剣を振りかざす。


 槙島は咄嗟に踵を返し、グングニルを正面に回すも、一歩遅かった。

 久門の大剣はグングニルの防御を押し切り、槙島の胴体を縦一文字に切りつけた。


「……この、貴様のような狼藉者が無駄な抵抗をするな!」

 槙島はすぐさま久門をグングニルで貫き、地面に打ち付ける。


 そこから槙島は、これまでの鬱積を全て晴らすように、自身の傷の痛みすら忘れて、久門の身体に、何度も何度も執拗にグングニルを突き刺した。


 自分の身体が穴だらけになり、絶え間なく聞こえる刺突の音が徐々に遠くなり、視界がぼやけてゆく。

 そんな中、久門は最後の祈りを捧げるように、心の内でこうつぶやいた。

(石野谷、梶、桐本、逢坂、稲田、大関……しばらくは俺のことで死ぬほど悲しくなるだろうが……これはお前らのためだ……

 俺みたいな、好き勝手やったあげく破滅した奴のせいで、お前らの道を狭めることはあっちゃいけない……

 どうかこれから……俺の意思をほどよく継いで、お前たちのしたいことをするんだぞ……)


「クソッ! クソッ! クソッ! ……最後まで俺を苦しめやがって……クソッ!」


 しばらく経って、槙島はようやく自分の胴の痛みを、久門の最後の一撃により刻まれた傷を心配をし始めた。


 この燃え盛る町で回復するのは危険が大きすぎる。なので槙島は安静な場所で手当をするべく、

「【神馬疾駆スレイフニル・ライド】ッ!」

 氷魔法で馬を作り出し、それにまたがり、町から撤退した。


 かくて、この町に生きているものはいなくなった。

 


「いやぁ、やっぱすごいよなぁ久門さんの【セクメト・アポカリプス】は」


「つい昨日まであれだけ栄えてた町が、ほぼほぼ原型なくなってるからねぇ。やっぱ久門兄さん側について正解だったよ僕」


 町中の火が消えた頃、ジェナフォの手下の魔物の群れを突破した石野谷と梶たち六人が、ようやくここに戻ってきた。


 稲田は首をかしげて言う。

「しっかしよお、なんでもうとっくにコウモリ死んでるはずなのに、赤い狼煙あげてくれなかったんだろうなあ久門さん?」


 大関はすかさず訂正を入れる。

「逆だ輝明。戦いが無事終わったら青い狼煙を上げるんだ。赤い狼煙は『ヤバかったら』って意味だぞ」


 桐本は町の跡地に立ち、辺りの気配を探る。とりあえず一通りそれを終えると、彼は首をかしげる。

「いくら町中焼け野原にしたとはいえど、何でこんなに静かなんだろう?」


 逢坂は余った狼煙三筒でジャグリングしながら、

「だよなぁ、まるで『お通夜』みてーだよな。誰だよ邪神獣なんかの葬式開いた奴」


「おーい! 久門さーん! チーム石野谷でーす! 今きましたー! 遅れてすみま……」


「ん、どした陽星。そこまで来たなら『せーん』も言っちまえよ?」


「んなこと言ってる場合じゃ……ないだろ……逢坂……だけじゃなくてみんな! ……あれ、あれ見ろよ……」


 石野谷は顔を真っ青にしながら、遥か前を指さした。

 刹那、残りの五人も同様に気が動転する。


「ま、まさか……そんな! そんなのありえないぞ!」


 きっと宿の質が悪くてよく眠れなかったから、連戦が続いて疲れたから、最低な見間違いをしたんだ。

 石野谷はそう自分に言い聞かせながら、誰よりも早く、さっき自分が指さしたそれを確かめに行った。


 そして彼は、

「そ、ん、な……!?」

 魂を抜かれたように、瞬く間に膝から崩れ落ちた。


「嘘、だろ……」

「どうして、こんなことに……」

「おいおいおい! なあ、こんなのあってたまるかよこんなの!」

「どうやら、俺たちは一歩遅かったかもしれない……」

「ああ、今日は厄日だな」


 遅れて駆けつけた五人も、この現実に呆然とした。


 どうか悪い夢であってくれ……そう六人は何度も何度も念じた。数時間にわたって祈り続けた。

 石野谷に至っては、滝のように涙を流しながら、言葉をかけ続けた。


 けれども、久門は無惨にも殺された姿であった。


【完】

話末解説


■登場人物

式部しきべ 時宗ときむね

 レベル:61

 ジョブ:【魔術師】

 神寵:【トト】

 スキル:【イシェド・ビット】、【ジェフティ・タイム】など


 一年二組の男子生徒。自称『久門のスーパーサブ』

 久門の右腕らしくその性格は明快かつ残酷。

 神寵【トト】に覚醒し、詠唱前に言った言葉をある程度反映し(※例えば、前に『死ね』と言っても必殺効果はつかない)、追加効果が発生する草魔法スキル【イシェド・ビット】を使い、攻撃や補佐をまんべんなく行える。

 また、隠し玉として五秒間、自分が認めた者以外の時間を五秒止めるスキル【ジェフティ・タイム】も保有し、自称の名前に恥じない活躍が出来る。

 将来の夢はラッパーになること。そのための教養を身につけるため、現在早くも大学受験の準備を進めている。

 トトとは、エジプト神話の知恵の神。時の管理者でもある。


久門くもん 将郷まささと

 レベル:84

 ジョブ:【勇者】

 神寵:【ラー】

 スキル:【ゲブ・ディザスター】、【セクメト・アポカリプス】など


 一年二組の実質的支配者の一人。市内屈指の不良。

 父親の悪い影響で、理屈や権力に頼ってばかりの中身のない人間を嫌い、自分が自由であることを追い求めている。

 その巨体と怪力を有効活用した大剣による戦闘と、爆発的破壊力を誇る火魔法で戦場をかき乱す。

 神寵【ラー】に覚醒して以降は、より破壊力を持ったスキルを多数会得し、厄災のごとき存在と化した。

 嫌いな者に対しては容赦はないが、自分が気に入った者へは多少乱暴でありながらも、大切に接する。

 ラーとは、エジプト神話の主神格にして太陽神。ラー・アトゥム、ラー・ホルアクティなど、他の神と習合したりされたりする経歴が多い。


槙島まきしま 英傑ひでとし

 レベル:50

 ジョブ:【魔術師】

 神寵:【オーディン】

 スキル:【神器錬成:グングニル】、【英霊顕現ヴァルハラ・アドヴェント


 一年二組の男子。

 クラス内では悪い意味で有名な陰キャ。卑屈で内向的な性格で、常日頃久門たちからいじめられていた。

 トリゲート城塞奪還戦で死亡していたと思われていたが、奇跡の復活を果たした。

 神寵【オーディン】に覚醒し、空間上で自在に動かせる槍【グングニル】を錬成し、狙った敵を仕留めることと、強靭な兵士の召喚などで、多数の敵を相手にしても打ち勝てるほどの力を手に入れた。

 中でも、『前の世界で伝承されている英雄を元に、神寵覚醒者に比類する闘士を創る【英霊顕現】が、様々な場面で対応可能で強力。

 『世界中の偉人が多数登場するゲーム』が好きで、偉人に詳しいことが、それに活きている。

 オーディンとは北欧神話の主神。戦争と知恵の神。

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