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第46話 無法の勇者、邂逅

 ヒデンソル王国北東部、とある町にて。


 王国の高官であるネイサンと一悶着繰り広げた後、久門一味は十人が集まっても十分に泊まれるくらいの広い部屋がある宿を探し、そこに泊まった。

 町内で悪名が伝わっているため、半ば脅してではあるが。


 夜遅く、久門一味は邪神獣【堕落のジェナフォ】の討伐に向けて、作戦会議を行っていた。


「この辺を通りかかった商人からの情報なんスけど、どうやら邪神獣は今、『ここから二キロ先の西らへんを飛んでいた』らしいっス」

 と、石野谷は、町中で収集していた情報を報告する。


 続けて、石野谷とは別行動して情報を集めていた桐本きりもとひかるは言った。

「陽星と別の人も、『三キロ離れた西方面にいた』って言ってたね。一キロくらい誤差があるけど、歩いてる人もいちいち距離はかってるわけないから仕方ないよね」


 二人の報告を聞いて、大関おおぜき晴幸せいこうはふと思い出す。

「俺は邪神獣の目撃情報は聞かなかった。ただ、『西辺りに魔物の群れをみつけた』とか聞いた。これ邪神獣に関係してるんじゃないか?」


 その通りかもね。と、梶は大関にうなづいてから、自分の推察を述べる。

「とりあえず、今の段階では『邪神獣はここから西にたむろしている』と考えていいでしょう。近辺にいる魔物の群れは邪神獣の護衛とかでしょう」


 相変わらずの勘の良いこと。と、梶に感心した後、久門は一味のリーダーとして、仲間に今回の作戦を告げる。

「作戦はこうだ。明日、俺たちは二手に分かれて、片方は外が明るくなってからすぐに西へ行ってコウモリをこの町に追い立てる。もう片方はここで待機して、奴が町に食いついたところで一気に仕掛ける。どうだ、言いたいことあるならいっていいぞ?」


 九人全員反論無し。久門の方針をすんなり受け入れた。


「じゃあ次は班決めだな」


「そうっスね、式部さん。まず飛行能力がある人は偏らないようにして……」


 式部と石野谷が話し合う中、久門は一言。


「いや、ここは前やってみたみたいに『中学別』でいこう」


 中学別。文字通り、十人それぞれが通った中学校で二班に分かれることだ。


 式部はすぐそれに賛成する。

「それいいな。それは手っ取り早くていい」


 しかし石野谷はそうはいかない。

「けどそれ、前も言ってたような気がするけど、バランス悪くならないっスか?」


 久門と同じ中学出身なのは式部、塚地、五十嵐の三人。残りは全員、久門と別の中学出身だ。

 この分け方では四対六と不均等になってしまい、戦力差が生じてしまう。というのが、石野谷の危惧しているところであった。


 しかし式部と久門は、石野谷の不安を笑い飛ばす。


「大丈夫だって石野谷! 久門さんは俺ら三人分くらいの力があるんだから、むしろこっちのほうが均等だろ!」


「そうだぜ石野谷! お前、あのワニ野郎のこと思い出せよ! あの時もこの班分けで勝ててただろ!?」


「それはそうっスけど……」


 ワニ型の邪神獣【狂乱のオーラルス】。

 久門たちはそれを例の六対四の班分けで挟撃し、倒したという実績がある。


 ただ、そんな都合よく二度あることは三度あってくれるのか――と、石野谷は久門たちにもう少し慎重になってもらうように願おうとした。


 その直前、久門は石野谷に自信満々な笑みを浮かべつつ言う。

「それに、お前ら六人だけの戦いっぷりは見てて心地いいからな」


「そ、そうスか……?」


 石野谷、梶、桐本、大関、逢坂、稲田――中学生からの仲良し六人の連携っぷりは、具体的に言語化しようとすると気恥ずかしいが、とても痛快なものであった。と、久門は考えている。

 しかしその評価は絶対に適切だと久門は思い、石野谷へもう一言告げる。

「だからこっち四人、そっち六人のほうが絶対いいだろ。な、石野谷」


 こうも久門に背中を押されたら仕方ない。と、石野谷は腹をくくって答えた。

「わかりました……! 俺たち六人で頑張ります!」


「ああ、しっかり追い込み頼んだぞ!」


「はい! ……あ、俺たち六人が追い込み担当で、久門さんが待ち伏せ担当なんスね」


「もちろん、奴は俺が倒したいからな」



 翌日。日の出間もない時間帯。


 梶は久門に自分のお手製の筒を赤青二本ずつ渡した。

 梶は同じものを持って、久門に説明する。


「じゃあ、俺たちが『邪神獣の誘導に成功したら』青い狼煙を、『ダメそうだったら』赤い狼煙を上げますんで、それで動いてください」


「あいよ、梶。こっちもこっちで、『邪神獣を倒した』とか良いことがあったら青を、よくないことがあったらこの赤い筒に火をつければいいんだな?」


「そうですね。前の【狂乱のオーラルス】と一緒です。ああそうだ久門兄さん、あの時みたいに自分の火魔法で着火しないでくださいね。兄さんの火力だと中の薬剤が一瞬で全部反応して、煙が空に昇らず、ただの煙幕になってしまいますから。ちゃんと引っ張れば丁度よく火が付くギミックも付けてるんですし」


「はいはい、あんときは煙たくしてごめんな。次は気を付けるよ」


「それじゃあ、追い出し行ってきまーす!」


「おう、なるべく早くよこしてこいよ!」


 石野谷たち六人は、ジェナフォを追い込むため、町から出発した。


 久門たち四人は宿に滞在し、邪神獣襲来の知らせが来るまで待機する。


 その最中、

「なぁ、久門」


「お、どした式部」


 式部はベランダで雲行きを眺めながら、床でゴロゴロしている久門に尋ねる。


「そういや聞いてなかったんだがよ、今俺たちは邪神獣狩りに集中してるが、もし全部の邪神獣を倒し終わったら、久門は何をするつもりなんだ? やっぱ親玉の邪神を倒すつもりか?」


「特には考えてない。少なくとも邪神を倒す気はからっきし無い。そしたら後はただクソ窮屈な現実に逆戻りするだけだからな……やっぱり、有原に勝負を挑むのが今元王の最終目標ってところかな?」


「へぇ、やっぱりですかい」


「アイツは、学級委員の立場だけを使って俺たちを何度も懲らしめようとしてたからな。だからアイツも真壁と同じく『敵』だ」


 式部はその日、二階から聞いていた久門の激昂っぷりを思い出して吹き出しかけてから、

「ミクセス王国の時の屋敷に助けてもらいたくて来た時も、思い切りボコボコにして追い返したぐらいだもんな」


「そうだな。今思い返すと、殴ることでさえ生ぬるいと思うな。あん時のアイツの情けなさは」


「けど、奴が真壁を倒して王国に返り咲いた今、久門さんは再び出会ってどう思いますかね? ただ単に『戦いたい』で済むかもしれないしれないですし……」


「さぁ、どうかな? どっちみち俺たち不良にとっては、嫌な奴なのには変わらなそうだがな」


 そして久門は大あくびをしつつ、おもむろに起き上がりつつ式部へ言った。

「とにかく今は明日なんて考えずに、邪神獣を気ままに倒そうぜ」


「ああ、それがいい」

 と、式部は嬉しそうに相槌を打った。


 直後、塚地と五十嵐が慌ただしくドアを開けて、ドタドタと部屋に入ってきた。


「久門さん! 見えましたよ青い狼煙が!」


「それどころが、小さくですけどあのデカコウモリも見えました!」


「ほう、石野谷もコウモリもやることがはやくて助かるな……ようし、今日こそはぶっ殺してやる!」


 久門たち四人が宿から町へと出ると、憎きジェナフォの姿が西にあった。

 ジェナフォはあと数十秒ほどでこちらにつくと思われる速度で、この町一直線に飛来して来た。


 町の住民たちが次々と逃げ出す中、四人はこの町に立ち留まり、高速で迫りくるジェナフォを正面に見据える。


「梶の読み通りこの町に食いついてきたな! さぁお前ら、構えろ!」


 ジェナフォは町から五十メートルほどの高さの位置で停止すると、口から超音波を発し、町全体を攻撃する。

 木々はへし折れ、建物はボロボロと崩れ、神寵覚醒者である四人もひるんだ。


 この時、四人は一斉に『チャンス』だと思い込んだ。


 久門は体勢を直し、ジェナフォを睨みつけて、

「式部! アレ頼むぞ!」


「あいよ、『護衛』しろ! 【イシェド・ビット】!」


 式部にはがきサイズくらいの葉っぱを五十枚ほど自分の周囲に浮かばせて貰った後、


「【ホルアクティ・ライジング】!」

 炎の羽を背中から生やし、ジェナフォめがけて飛び上がる。


 式部が展開してくれた葉っぱを盾に超音波をしのぎ、久門はジェナフォに接近し、

「【シュー・エクスプロージョン】ッッ!」

 ジェナフォの右の羽に爆炎を浴びせ、ズタズタにした。


 これにより、ジェナフォは安定して滞空できなくなり、地上の三人でも攻撃が届くくらいの高度まで降下した。


「さぁ行け! 式部、塚地、五十嵐! 今のうちに痛めつけろ!」


 この久門の一声の直後、三人はジェナフォへ畳み掛ける。


「『強烈』に食らえ! 【イシェド・ビット】!」

 式部は葉っぱ二十枚を強烈な勢いを込めて放ち、


「やれ、お前ら! 【セラピス・コマンド】!」

 塚地はゾンビ兵の大軍団を召喚して突撃させ、


「うぉぉぉ! 【ウアス・タイフーン】!」

 五十嵐は豪快に回転し、自身を中心にして砂嵐を巻き起こしながら突撃し、ジェナフォにありったけの暴力を与えた。


 こうして飛来して早々に半殺し状態となったジェナフォへ向けて、その真上に留まっていた久門は、処刑執行人の如く大剣を上空へ持ち上げ、

「これで終わりだ! 【ゲブ・ディザスター】ッッ!」

 業炎を纏わせた大剣を、重力を味方にしつつ振り下ろす。


 その途中、久門めがけ矢が五本ほど射られる。


 久門は攻撃を中断し、それをサッと大剣で払って落とす。そして久門は、

「何だテメェ、ここでもやる気か?」

 大勢の兵士でジェナフォともども自分たち四人を包囲している、昨日の傷がすっかり治っている様子のネイサンを見下す。


「慮外者へ制裁を下すのは当然の責務である」


「そいつは見張ってろ」

 と、仲間三人にジェナフォの動向を警戒させてから、久門はネイサンに、

「だとしてもタイミングってものがあるだろ、今俺は国民を苦しめる邪神獣を倒すところだったんだぜ」


「そのタイミングを決めるのは、北東護候、ネイサン・エクリプスの務めであ……」


「もういい、【シュー・エクスプロージョン】」

 ネイサンとその周辺にいた兵士は爆風に飲まれ、消し炭と化した。


「何度でも言ってやる……俺はテメェみたいな権力だのかんだの理屈で威張り散らす、中身のない人間が死ぬほど嫌いだとな!」



 約九年前、某市。


 十束とつか貴史たかしによる連続殺人事件はそこで起こった。

 

 負傷者十八人、死者九人という類を見ない犠牲者の数から、この事件は瞬く間に全国に広がり、どのニュースでも取り沙汰された。


 日が経つにつれて、各種メディアは徐々に十束容疑者の素性について報道した。


 中でも注目された事項は『彼が地方財閥クラスの建設会社・真壁グループから解雇されたこと』と、『それから約三年に渡って無職になり、娘一人との生活が困窮していたこと』だった。


 ここからメディアは徐々に、この事件の原因は『真壁グループ』もしくは『福祉を行う行政』に問題があったのでは。という憶測を連続して展開し、世論もこの二者へ冷たいまなざしを向け始めた。


 すると真壁グループは、そのような報道が出始めてから一週間も経たたない内に記者会見を行い、『十束容疑者は素行不良で解雇した』という事実など、世論が疑問に思っていたことを全て理路整然かつ誠心誠意で全て回答し、疑いを晴らした。


 ところが行政側は職務性質故のフットワークの重さと、事務所本部などからの意向があり、事件発生から約一か月後になってようやく市長――佐藤さとう武郷たけさとが表の場に立った。


 しかし、ここでの対応においても事務所本部の意向などの様々な原因があり、佐藤市長は真壁グループとは対照的に『回答を控える』ことが多く、某市自治体は『積極性がない』と世論からの反感を買ってしまった。

 特に佐藤市長に至っては一番矢面に出てしまったということもあり、世論や市民からは『愚鈍な政治家』とレッテルを張られるなど、多大なる非難を被ってしまった。


 事件発生から一ヵ月半頃、十束容疑者の証言から、行政の不手際が凶行に及んだ理由ではないと判明した。

 だが、それでも行政と佐藤市長の批判は十分に過熱してしまったため、世論と市民からの誹謗中傷は当分止むことはなかった。


 約九年経った現在も、市内に対立候補がいない関係で、佐藤市長は現職であり続けている。


 だが、やはりあの一件により評判を大きく落としてしまった。

 なので現在、佐藤市長は真壁グループからの後援を得ながらその地位を保っている。


 そんな佐藤武郷市長――本名、久門くもん武郷たけさとの姿を、久門は『情けない父親』と思って見ていた。



(自分以外の顔色を伺って、自分以外の力に頼ってる奴なんざ死んで当然だ!

 アイツが特に良い例だ……アイツは市長でも父親でも何でもない、本部と真壁グループの『マイク』だ。

 しかもそのマイクの役割を年がら年中俺に継げ継げと言って、なすりつけようとしてきやがる……そのためなら俺の悪さもなかったことにするように頼むくらい、強引に……)


「だから俺はテメェらみたいなガワだけの人間が死ぬほど嫌いだ! だから、全員、俺を自由にさせろ! 【ヌト・カタストロフィー】ッッ!」

 

 久門は己の怒りを表すように、空から無数の巨大な火炎の玉を、流星群の如く降り注がせ、ジェナフォとネイサンの兵士を焼き尽くすと共に、町の半分を火の海へと作り変えた。


「「「や、やっぱすげぇ……」」」

 仲間三人は、久門がさり気なく作った安全地帯からこの圧巻の光景を目の当たりにした。

 そして三人は、ただただ久門の力に圧倒された。


 そんな彼らの傍に、久門は翼をゆっくり羽ばたかせ着陸し、さっきの鬼の形相から一転して笑顔を見せ、

「よし! ジェナフォは無事倒したから、後は青い狼煙を上げて、石野谷たちを待つか!」

 と、言った。


 久門らしいさっぱりとした切り替えの早さに驚きつつも、

「「「あ、ああ!!!」」」

 三人は威勢よく返事した。


 久門は懐にある青い狼煙の筒を取り出して、梶の注意を脳裏に浮かべつつ、自分で付けた町の火災に気を付けながら、狼煙を地面に置く。

「こんだけ燃え盛ってるけど無事上がってくれるかなぁ、狼煙……」


 その最中、久門ら四人はまるで突然極寒の海に放り投げられたような悪寒を覚えた。


 そして久門はその悪寒の源を察知し、背中に納めていた大剣を素早く引き抜く。

「な、か、な、か……重いじゃねぇかこの一撃ッ!」


 久門は自身の背後から迫ってきた、刃にルーン文字のような文様が刻まれた槍を弾き返す。


「俺に不意打ちを仕掛けるとはいい度胸してるじゃねぇか! 一体何様のつもりだテメェ!」


 久門は槍が戻っていく方向へ視線を向け、その槍の主へ怒鳴り散らした。同じように他の三人も踵を返す。


 直後、式部、塚地、五十嵐は、リーダーを襲った張本人の姿に面喰った。

「え、アイツ、まさか!?」

「なんで、こんなところに!?」

「ていうか……なんで生きてやがるんだ!?」


 また、久門も遅れて、その張本人の存在に愕然としつつ、彼の名を呼ぶ。

「お前は……槙島か?」


「俺の名前をそんな軽々しく呼ぶんじゃない」

 と、暗黒の髪を持つ少年――槙島まきしま英傑ひでとしは、かつての根暗さを一切感じさせないほど、堂々として返した。


【完】

【堕落のジェナフォ】

 レベル:48

 主な攻撃:超高速飛行からの突撃、超音波


 コウモリ型の邪神獣。

 超高速で飛行することが可能であり、衝動のままに各所へ飛び回り、超音波攻撃で弱者を一網打尽にすることを好む。


【狂乱のオーラルス】

 レベル:41

 主な攻撃:ノコギリ状の鱗を押し付ける体当たり


 ワニ型の邪神獣。

 既に久門に倒され、その邪結晶を回収した真壁が自分の手柄として喧伝した。

 四肢と背と尻尾にチェーンソーのように動く鱗があり、ひたすら暴れまわってそれを押し付けることで敵をボロボロにする。

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