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第44話 新たなる宿命

 むせ返るほど清々しい晴天の下。

 少年は焼き焦げた石畳を歩き、時折煤だらけの瓦礫を飛び越えて、禍々しい輝きの元にやって来た。


 その源は自分の背丈の半分くらいの大きさの結晶。かつての居場所では、皆はこれを【邪結晶】と呼んでいたのを憶えている。


「これがあるってことは、あの後……」


 その予想は正解だったとすぐにわかった。邪結晶から五歩ほどあるいた先に、見覚えのある剣の柄が灰に埋もれて落ちていた。


 少年はせめてもの鎮魂となるように、それを掘り返し、邪結晶の側にそっと置いた。

 本当は突き刺すのが墓標らしくていいと思ったが、この剣は刃がほとんど折れているため、それはできなかった。


 少年は邪結晶の輝きをじっくりと見つめた。

 しかし、詳細な意味は教わっておらず、彼にはただの点滅にしか見えなかった。


 予め聞いておけば、きっとより早く目的を果たせるだろうに。と、少年は過去の自身の怠惰さに後悔した。

 

 けれども立ち止まっている暇はない。

 どれだけ時間をかけてでも自分の宿命を果たす。と、少年は決意し、その場を後にしようとする。


 刹那、何十体もの魔物が群れを成して彼を包囲した。


「邪魔するな……俺はもう、貴様ら如きじゃ止まらない……!」

 

 少年は魔物を睨みつけつつ、右手を空に掲げて、

「【神器錬成:グングニル】」

 刃にルーン文字の如き文様が刻まれた槍――【グングニル】を、虚空から呼び出す。


 グングニルは彼の魔物に対する嫌悪感に応えるが如く、自律して彼の周囲を高速で飛び回り、魔物たちを貫き殺していく。

 そして魔物の群れは一分もたたぬまま全滅した。


「もう並の魔物では歯が立たない、か」

 と、彼はつぶやいた後、グングニルの実体化を解除した。


 刹那、他の魔物と比べて微かに狡猾であったフクロウ型の魔物が、音を立てず、彼に接近する。

 しかしこの魔物は、彼の護衛者の方天画戟で両断された。


「……さて、じゃあここはおさらばだ」


 ここにいた魔物全てを殺し尽くした少年は、この忌々しいトリゲート城塞から外に出る。


「待っていろ、真壁まかべ理津子りつこ久門くもん将郷まささと……貴様たちの罪は、俺が裁いてやる……」


 そして、世界の終焉に表れるような暗黒の髪を持つ少年――槙島まきしま英傑ひでとしは、復讐の道を歩みだす。



 ミクセス王国の内乱から三日後。

 王城内の講義室にて。


「それじゃあ、あれだけ大きいことがあって忘れてるかもしれないから、俺から改めて説明するからな」

 という出だしから、海野は仲間たちに『邪神討伐作戦の現在の状況』について説明する。


 今までに倒した邪神獣の数は九体。現在、大陸で確認されている邪神獣の数は十三体であるため、かれこれ半数以上を倒したことになる。


「そっか。なんだかんだいって半分超したのか。じゃあもうそろそろ帰れるかもしれないね」

 有原は期待し胸を躍らせて言った。


 すると海野は申し訳無さそうに首を大きく横に振る。

「ところがどっこい、今の状態だとそうもいかないんだよ」


 

 残る邪神獣はたったの四体。

 しかしそれらの居場所は、現時点で一体たりとも把握できていない。

 どれだけ邪結晶の共鳴現象を利用して探知しても、まるで反応しないのだ。


「内一体はあのトリゲート城塞奪還戦で好き放題暴れて帰った【邪悪のテラフドラ】だから、それは仕方ないとも言える。けど、残り三体はマジでどこにいるか全然わからないんだ」


 海野の隣に立つハルベルトは補足する。

「邪結晶の反応がまるでないのだ。九個もの邪結晶を共鳴させ、その力を増幅させて探知を試みているのにも関わらずだ」


「そんな、せっかくあと少しで帰れるかもしれないというのに……」

 と、内梨はここでの行き詰まりに不安を感じる。


 それとは対照的に、チーム有原いちの度胸の持ち主である飯尾は眠たそうに、

「多分、邪結晶じゃ探知できないくらいの圏外まで逃げてるんじゃねぇの? あのドラゴンならどこまでも飛んでいけそうだし」


「ちょうどその可能性について説明しようとしてたんだよ俺。まさかお前にごときに気づかれちまうとは思わなかったぞ、飯尾」


「え! 当たってたの俺! うっわ、今日の俺冴えてるなー!」


 三好は喜んでいる飯尾の気分を害さないように、

「冴えてないでしょ。また海野さんに馬鹿にされてるの気づけてないもの」

 と、小声でツッコんだ。


「残り四体の邪神獣はもっと遠く……つまり、他の国にいる、それが今の俺たちの考察だ」


 現在、大陸に残存している国は三つ。

 有原たちがいる『ミクセス王国』。南西に隣接する『ヒデンソル王国』と、南東に隣接する『ファ厶ニカ王国』のことだ。


「今まで散々見てきた通り、あんだけ獰猛で嗜虐心の強い奴らが人気のない土地でまったりしてるとは思えない。だから残り四体はその二国のどっちかにいる可能性が高いんだ。根底の『邪神獣は計十三体』っていう部分が間違ってなければの話だが」


 武藤はビシッと手を上げて、海野へ尋ねる。

「しつもーん! じゃあボクたち、今度は外国に行くってことですかー!?」


「そうなるな。ただ、すぐじゃない」

 

 いくら邪神を倒すためと言っても、一方的にこちらが国境を跨ぐのは、外交的礼儀としてよろしくない。

 故に現在、騎士団長ゲルカッツが三国の国境付近に位置するトリゲート城塞を拠点とし、その辺の交渉を行っている。

 一行が他国へ遠征に行くのは、それが片付いてから。と言う訳だ。


 海野の解説の中に出てきた『トリゲート城塞』というワードを耳にし、有原は神妙な面持ちをして言う。

「そうか……もうトリゲート城塞は僕たちのものに戻ったんだね」


「ああそうだ祐。胸糞悪いが、お前がいなくなってた間に、真壁がもう一度攻め込んでな……」


「正確には、魔物が一体もいなかったらしいから、ただ『入った』らしいけどね。ということで今はフラジュの願い通り他二国との接続拠点にしている」


「フラジュさん……そう言えばあの人の提案であそこに攻め込んだのでしたね……」


 海野は白い目で仲間を見て、こう苦言を呈する。

「……なんか、真壁とかフラジュとか、過去の敗北者の話が多くてテンポが悪いなぁ」


「ご、ごめんなさい、海野さん……」


「いいよ別に。じゃあ一旦話をまとめると、『残り四体の邪神獣は他二国にいると思うから、ゲルカッツさんの交渉が終わったらそっちに行く』。とりあえず邪神討伐関連の話はそんなもんだ」


 続いての海野の話は、残った一年二組のクラスメートについて。


「今生存している一年二組は『十九人』。久門一味の十人と、俺たち七人、それと投獄中にして絶賛俺たちに投降拒否中の都築と鳥飼だ」


 それを聞いた武藤は、指折りをしてぶつぶつと何かを数える。

 それが終わった時、武藤はハッと驚いた。


「え、十八人でしょ!? だってボクたち六人だよ?」


「いや七人だろ。ちゃんと数えたかお前」


 武藤と同じく、飯尾も生き残っているだろうクラスメートの名前をぶつぶつ言いつつ指折りしていた。

 それが終わった途端、まるで名探偵に真犯人を聞かされた者のように驚き、海野に物申す。

「いやいや六人だろ! 祐、美来、三好さん、武藤さん、そして俺とお前。六人だろ!」


「そうだよ! 六人だよ海野さん! あなた頭良いんだからこんなケアレスミスしないでよ!」


「武藤、お前もか」

 と、海野は飯尾の同類がいたことを嘆いてから、講義室のはじを指差す。


 飯尾と武藤とそちらへ振り向き、

「「あ、いた」」

 自分たちとは離れて、講義室の端の席に座っている、心配になるくらい痩せ身の少女――松永まつながみつるの存在に気づいた。


「まぁ、かくいう俺も一時期忘れてたときがあったけどさ……あんだけ強烈なことしてたってのに」


 数日前、海野たちが、療病先という名の軟禁場所から、ミクセス王を救出しようとした時、松永充は、真壁からそこで国王の世話係を任されていた。


 それと同時に、松永は真壁から『万が一の口封じ』の役目も任されていた。なので国王が海野たちに連れ出されようとした瞬間、彼女は国王を刺殺しようと短剣を向けた。


 だが飯尾のファインプレーによりそれは未遂に終わった。

 そして彼女は『これ以上何かやらかさないように』と、適当な柱に縛り付けられた。


 それから有原と真壁の激闘など、様々な重大なイベントが重なった。

 その衝撃から、賢く記憶力もある海野でさえも、彼女の存在を忘れてしまった。

 結果、松永は丸一日そこに縛られっぱなしとなってしまったのだ。


「本当にごめんなさい松永さん。学級委員かつ副団長なのに貴方のことを忘れてしまって……」

 と、有原は今一度松永に謝った。


「……」

 すると松永は有原から目を背けるように、明後日の方向を向いた。


 それを見て飯尾はため息をついてから、

「本当失礼だよな……祐が真壁に殺されかけたのはアイツが始まりだってのに。せめてうんかすんか言えよ」


「きっとそのことをまだ気にしていて、どう話せばいいのかわからないだけだと思いますよ、護さん」

 と、内梨はなんとか松永をフォローしようとした。


 武藤も松永を信用しきれていないらしく、

「だとしてもせめて一言いったほうがいい気がするなぁ。なーんかまだ真壁からの命令に従ってるのかもしれないし」


 三好は手を振って強く否定する。

「それはないって。あれからアタシ、松永さんと喫茶店行ったりとか、一緒にいるけど、普通に付き合ってくれるし……ただまあ、あまりにも無口過ぎるのは確かだけど」


 そして有原は仲間たちがああだこうだ言っている間に、松永に会釈して謝る。

「ごめんね松永さん。みんながひどいこと言っちゃって。少なくとも、僕はもう松永さんに怒ってないから」


 しかし松永は有原から目を背けたまま、黙り続けた。


「……とにかく、松永はひとまず『味方』ってことにしてくれ。でないと話がどんどん脱線するから」

 

 海野は仲間六人に頼んで、話を久門一味について戻させる。


 現在、ミクセス王国は久門一味の居場所を掴めていない。

 真壁との一戦が終わってから、奴らも斥候について警戒し始めたのか、それが潜伏しにくいような場所を移動するようになったからだ。

 勿論、今の彼らの目的はまるでわからない。


「まどうせ不良なんて無計画と衝動の塊みたいなものだから、大したことは考えてなさそうだろうけど。

 こないだも、なんか石野谷が謎に王都にやってきて、矢野を尖塔もろともぶっ潰すとかいう急にわけわかんないことしてたしな」


 ここで武藤は再び手をびしっと挙げて尋ねる。

「しつもーん! イシノヤって何ですか?」


 この質問は、学級委員としてクラスメート全員のことを知っている有原が拾った。

「『石野谷いしのや 陽星ようせい』さん。久門さんの仲間で、ノリが良くて明るい人です」


 海野が続けて言う。

「もっと平たく言うと『久門の太鼓持ち』だ。矢野がいた尖塔を爆破したのは『矢』。久門一味の矢を使う奴はジョブ【狙撃手】の石野谷しかいないから、多分あの時来たのは奴で確定ってわけよ。

 それからもう一人、石野谷の側にいそうな奴を俺は知っているが……これは別に今説明しなくてもいいか

 ま、とにかく、奴らの目的は何一つわからないんだよ」


 それから海野は有原の方を向いて尋ねる。

「さて、この通り好き勝手やって俺たちの悩みを増やしているアイツらだが、そんなアンタは久門も助けたいんだろ?」


 有原は即答する。

「ああ、久門さんたちだって僕たちのクラスメートだ。このまま大陸に置き去りにして帰るなんてことはできない」


「だよな……だが、奴らを探すのは骨が折れるから、今のところはアンテナ立てとくくらいにしておけよ」


「ありがとう。海野さん」



 一方その頃。


 肝心の久門一味は、ミクセス王国の国境を越えて、ヒデンソル王国に入国していた。


 彼らが睨んだ先にあるのは、遥か遠く、遥か高くを飛ぶ巨大なコウモリ――邪神獣【堕落のジェナフォ】だ。


【完】

話末解説


■詳細説明

【この時点での一年二組の生存者リスト】


○ミクセス王国・有原の仲間たち

 ・有原ありはら たすく 神寵【スサノオ】

 ・飯尾いいお まもる 神寵未覚醒

 ・内梨うちなし 美来みらい 神寵【フレイ】

 ・海野うみの 隆景たかかげ 神寵【クトゥルフ】

 ・三好みよし よすが 神寵【シヴァ/ヴィシュヌ?】

 ・武藤むとう 永真えま 神寵【ヌアザ】

 ・松永まつなが みつる 神寵未覚醒


○ミクセス王国・真壁一派(※投獄中)

 ・都築つづき 正義まさよし 神寵【ポセイドン】

 ・鳥飼とりかい かえで 神寵【ヘラ】



○ヒデンソル王国・久門一味

 ・久門くもん 将郷まささと 神寵【ラー】

 ・式部しきべ 時宗ときむね 神寵【???】

 ・石野谷いしのや 陽星ようせい 神寵【???】

 ・五十嵐いがらし 康平こうへい 神寵【セト】

 ・塚地つかじ 優大ゆうだい 神寵【オシリス】

 ・かじ 昇太しょうた 神寵【???】

 ・桐本きりもと ひかる 神寵【???】

 ・大関おおぜき 晴幸せいこう 神寵【???】

 ・逢坂おうさか 雄斗夜おとや 神寵【???】

 ・稲田いなだ 輝明てるあき 神寵【???】


○ミクセス王国・ウェスミクス村(※周りからは死亡扱い)

 ・畠中はたなか あらた 神寵未覚醒


○所在地不明(※周りからは死亡扱い)

 ・槙島まきしま 英傑ひでとし 神寵【???】


 ――以上、計21人


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