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第39話 虚

 これまで数々の強敵を打ち破り、真壁の恐怖の象徴となっていたスキル【絶対至敗】。

 それが代表的な被攻撃者の有原に防がれた。


「すげぇ、祐が真壁さんの槍をぶった斬った!」

「流石です、祐さん!」


「まさか、理津子さんのために特注した名物級の槍が……」

「そんな、【神寵】覚醒者にもなってない有原なんかに真壁様が……!」


 周囲の観戦者が驚いたのは勿論のこと、普段ならば泰然自若とした真壁も先が無くなった槍を見つめて、呆然としていた。


 特に驚いていたのはハルベルトだった。

 有原が使ったスキルと、有原が持つ無骨な剣。

 あれは紛れもなく、ハルベルトが祖国で何度も見させられたものだ。


「……全く、あの馬鹿殿め……こんなところで泣かせるな……!」

 そしてハルベルトは、有原がここに至るまで何をしていたのかを察、今は亡き国王へ涙を流しながら感謝した。


「どうですか、真壁さん……僕だって、弱いままではないんですよ」

 と、有原に言われると、真壁はさも何事もなかったかのように真顔になり、


「槍一本斬ったくらいでつけあがるな」


「それはわかってます。ただ、これで僕のことを少しでも見直してくれますか?」


 真壁は即答する。

「少なくとも【絶対至敗】に打ち勝ったことは認めよう。ただ、『それだけ』では私に打ち勝つことはできない」


 真壁は斬れた槍を適当なところに放り投げて、

「あれは自軍に与える影響を考慮して使っている『制御用』のもの。もし大事となればこちらを使う……【神器錬成:ケラウノス】」


 真壁が詠唱した直後、虚空から雷霆が現れる。

 それは大広場に集う者全員の背筋を震わせるほどの威圧を伴い、地面に突き刺さる。


 真壁がその雷霆を平然と掴むと、それは槍のような形に変わる。そして真壁は試しに有原の方へ素振りをし、広場一帯を薙ぐほどの衝撃を放つ。


 これにより、有原は五歩ほど一気に後ずさった。彼の背後にいる人々の大半もよろめきではなく、後ろへ倒れた。さらに彼らが背を向けていた建物の四、五棟の外壁にヒビが入った。


 大広場にいる全員は、真壁のいる次元の違いを是が非でも解さずをえられなくなった。


「これで、貴方は自分の過ちを改めるか?」


「過ちなら、もうたんまりと反省したよ!」


 それでも有原は真壁に立ち向かい、グレドから受け継いだ剣を構えて突撃する。


 真壁が槍を振り、前方へ電気を帯びた衝撃波を放ってくる。

「【ブロンテス・インパルス】」


 対抗して有原は、

「【崩槌ほうつい】ッ!」

 魔力の塊をつけた柄頭で前方を殴り、衝撃波の威力を相殺しようとする。

 

 だが、この衝撃波は槍を斬る以前のものより、遥かに威力・規模が大きい。

 大広場の八分の一の面積に伝わり、石畳を粉々に粉砕するほどだ。


 有原はこれに飲まれて倒れ、二十メートルほど地面を転がされた。


「【ステロペス・パニッシュ】」

 真壁は有原に槍を向け、即座に一筋の雷光を放つ。その太さは以前と比べて人一人をまるごと焼き払えるほどの直径と化している。威力も見るからに増しているようだった。


 有原は自分の現状を確かめることも兼て、極太レーザーへ向いて魔力の壁を作り出す。

「【威盾いじゅん】ッ!」


「【疾槍しっそう】ッ!」

 そしてすかさず高速移動し、レーザーの射程から逃れた。


 案の定、自分が作った魔力の壁はいともたやすく貫かれた。あそこに留まっていたら自分の命はもうなかったと思うと、身体が震えて仕方がなかった。


 だが、一息つく暇は決してない。


 真壁は天へ槍先を掲げ、

「【アルゲス・ショット】」

 と、詠唱する。


 刹那、天よりおびただしい数の雷鳴が轟き、有原の頭上より雷が落ちてくる。


「【疾槍】ッ!」

 有原は高速移動ですぐさまその場を離れて落雷を避けた。だがその避難先でも雷が落ちてくる。

 

 落雷は一つではない。有原がいた地点一帯を焼き払うかのように、無数と落ちていた。


 自身から無限の雷を生み出す神寵【ゼウス】の覚醒者、真壁。

 存在そのものが神の雷霆である神器【ケラウノス】。

 この二つが互いに共鳴することにより、真壁の雷魔法はまさしく人智を超えた存在と化すのだ。


「【疾槍】ッ!」

 有原は何度も高速移動を繰り返すなどして、落雷の雨を避け続ける。


「【ステロペス・パニッシュ】」


 勿論、真壁は【アルゲス・ショット】だけで有原を殺せると慢心はしていない。

 落雷の雨が振る中、真壁はそれに織り交ぜて極太の雷光を放つなどして有原をより苦しめる。


 有原を苦しめるのは真壁の容赦ない連続攻撃だけではない。

 単純な話だが、彼は【疾槍】などで回避を続けるだけ疲労していた。


 いくらグレドの三スキルが魔力保有量の少ない【戦士】でも多用できるほど、魔力消費量の少ない低燃費なスキルといえど、やたらと乱発することそのものは疲労に繋がる。


「【疾槍】ッ……ガァっ!」

 攻撃の苛烈さと疲労。この二因により、時が経つにつれ、有原の身体に落雷がかすり、負傷することも珍しくはなくなった。


「どうした有原。私に勝つということは『逃げ続ける』ということか?」


「違う……ッ! 【ブライト・カッター】!」

 有原は真壁に光の斬撃を飛ばした。だが真壁が雷霆の槍を軽く振るい、簡単に消されてしまう。


(駄目だ……威力が足りない! 至近距離で斬らないと今の真壁さんにはダメージを与えられない!)


 ただ、そのためには極大の衝撃波と極太の雷光の両方を乗り越えなければならない。

 しかし今の有原では、グレド秘伝の三スキルをもってしてもそれは出来ない。


 故に、有原は無数の落雷を回避し続け、徐々に傷ついていく。


 そんな有原へ真壁は冷酷な宣告をする。

「有原祐。勝つ気がないならそろそろ死ね。時間も労力も全て無駄だ」


「お断りします! 人の命よりも、時間とか労力を優先するんだったらなおさらごめんです! 真壁さん、どうしてそんな誤った価値観を押し付けようとするんですか!?」


 真壁は自身の真意を、この世の道理を説くように、威圧的に語る。

「誤ってなどいない。『早く帰りたい』と思うことの何が悪い。

 ここに囚われ、一日一日が経つほどに、私が真壁グループの経営に危機が迫っているのだ。

 私たち真壁グループが支配している地方を『未開拓地帯』と軽蔑し侵略に来るのだ。中央と業界を制圧したも同然であるスーパーゼネコンが。

 それを防ぐためには私たちは一刻も早く生きてこんな世界から帰らなければならない。だから、邪神や邪神獣は百歩譲ったとして、貴方ごときに時間を費やすことはあってはならないのだ」


 それをいい終えると、都築と鳥飼を筆頭に、真壁軍から万雷の拍手が起こった。

 

 が、それは有原の渾身の叫びによってかき消される。

「たったそれだけのために……自分の会社を守りたいからって……こんな大勢の人を苦しめていいんですか、真壁さん!」


 真壁は即答する。

「いいに決まっている。貴様の家も、通学路も、学校も、市役所も、一体どこが建てたと思っている。あの地域一帯の建築物は九割九分、真壁グループのものだ。

 行政も司法も経済も建物なくして成し得ない――だから建設業界は社会の根幹であるといえる。故に、真壁グループは地域の心臓である。

 それを、事が終われば二度と会う必要もない赤の他人の尊厳や命より優先して何が悪い。直に真壁グループの幹部となる私が自分を優先して何が悪い――これは、社会のために必要な正義だろう!」


 自分たちは全員、真壁が元の世界に変えるための足場でしかない。

 それを知らされた有原の仲間たち、国王や騎士団長、兵士たち、そして大勢の大陸の住民は、敵味方双方ともに絶句した。真壁の内に秘めた非道さに恐怖した。


「やっぱやべぇな真壁の奴。結局、『ただ自分たちが帰りたい』だけって……」


「あれだけ強引な方法で動いても、理由が立派であれば許されたかもしんないのにな。ま、アイツにとってはそれが『道理』ってこと。かな」


 離れた位置で各々の狙撃武器を構えている石野谷と梶も、ここまで聞こえてくる真壁軍の喝采をうざったらしく思いながら、真壁の思想にただただドン引きした。


 そして、真壁軍の喝采は突然鳴り止んだ。

 

「祐ーッ! もう容赦はいらねぇーッ! 奴に一発デカいのかましてやれー!」


「祐さん、頑張って!」


「級長! あんなゲス野郎に負けないでよ!」


「行け、有原さん! グエルトリソーの奇跡をもう一度思い出すんだ!」


 有原の仲間たちが真壁の覇道を押し返すべく、各々が腹の底から大声を解き放ち、有原を応援し始めたからだ。

 この仲間たちの激励を受けて、有原は真壁への恐怖を吹き飛ばした。


 有原は真壁へ尋ねる。


「真壁さん、貴方は他のみんなを『使い潰す』よりも、『協力したほう』がいいとは考えなかったんですか!? こんな大勢の人たちの反感を招くような方法じゃなくて、みんなに認められるような方法で邪神と戦えば、無駄な戦いとかは避けられたじゃないんですか!?」


「それでは遅い。不要な荷物を背負いながら戦うことと等しいからだ。そんな仲良しこよしを続けて、全力を出せないまま破滅しては元も子もないだろう」


「だからといって、クローツオさんや、武藤さんの友達や、木曽先生……大勢の人の命を殺す必要はないでしょう!」


「社会の歯車を詰まらせるような輩は早々に掃除するのが正解だ。そういう奴は生かしておけば誰かの妨げになるか、不平不満を募らせて他の誰かに危害を加えることしかできない……社会のゴミだ」


「……そうですか、わかりました」


 この時、奇しくも落雷が止み、戦場が静まり返った。

 その中で有原は大きく息を吸って吐き、意を改めて真壁に向き合う。そして有原は、

「だったらなおさら、僕は貴方に勝ちたいと思います。それであなたを助けてみせます……『会社を守ることよりも大切なことがある』って教えることで!」


「……そうか、ではこちらも、そうした世の中を錆びつかせるほど甘い正義感こそが社会を停滞させると思い知らさせてくれる」


 真壁は頭上に雷霆の槍を掲げて、

「【アルゲス・ショット】ッ!」

 再度有原めがけ雷の雨を下す。


「【疾槍】ッ!」

 有原はこれをひたすら回避しながら、真壁に勝つための糸口を探る――この日のために自分に稽古をつけてくれたグレドの言葉を思い出しながら。


(そもそも、グレドさんの教えてくれたスキルは【戦士】として、剣士としての弱点を潰すために考えたスキルだ。これが『時代遅れ』とか『弱い』とかは思っているわけではないけど……ただ倣うだけじゃ駄目だ。僕のジョブは【勇者】だから、もっと柔軟に、もっと自分にあった、もっと真壁さんに勝てる方法を考えるんだ)


「【疾槍】ッ!」

 瞬間移動を繰り返して落雷を避ける中、有原はあることを決意する。

(グレドさんが三スキルを考えたように、真壁さんが自分の【神寵】を利用して【絶対至敗】を考えたように、僕も、自分が出来ることを最大限に活かして……新しいスキルを考えるんだ!)


 有原は真壁が立つ方向へ目と剣を向ける。

 この時彼女は、自身に槍先を向けていた。


「【ステロペス・パニッシュ】」

 この体勢から、真壁は槍先より極太の雷光を放った。


 槍先にいる有原は、前に一歩強く踏みしめて、その足裏から魔力を地面に放出し、勢い良く前に飛び出した。

 

 突進の最中、有原は雷の雨に何度か打たれた。だが有原は一切傷つかなかった。止まりもしなかった。

 真壁が放った雷光に、有原は正面からぶつかった。だが、雷光は有原に被弾することなく、エネルギーは周囲に散らされた。


 そして有原は最初の勢いをほぼ落とさないまま、真壁との間合いを詰めていた。そこから有原は剣を後方へ引き、力を溜める。

 理由は分からないが、【アルゲス・ショット】の落雷も、【ステロペス・パニッシュ】の雷光も通用しなかった。故に真壁はこれを使わざるを得なかった。


 迫りくる有原に物怖じせず、真壁は雷霆の槍を両手で掴み、雷を圧縮充填するという矛盾とも言える行為をした後、それを一気に振りかざす。

「【絶対至敗】」


 それと同時に有原は、自分を包んでいた魔力のベールを全てグレドの剣に移動させて纏わせ、全力で振るう。

「これが僕の修行の集大成……【虚剣】だぁぁッ!」

 

 雷霆の槍と恩師の剣、二つの得物は激突。その余波で大広場が激しく揺れた。

 そして、二人の【勇者】の奥義の激突の果て――雷霆の槍が斬れた。


「!?」


「ごめん、真壁さん……はぁぁぁッ!」

 そして有原は真壁の胴を、刀身の面で思い切り叩いた。


 一歩踏み込み地面に膨大な魔力を流し、その魔力を前方で噴出させ魔力の分厚い壁を作る、と、同時に自身を魔力の噴出で前へ勢い良く推進する。

 この時、魔力の壁に突っ込み、自分の身体をビニールで包むように魔力の壁でコーティングし、大抵の攻撃を弾ける状態で相手に突撃する。

 そしてある程度接近したところで自身を包む魔力を剣に移動。魔力を帯びて威力が大幅に強化された剣で相手を一閃する。


 グレドから伝授された三スキル全てを、ジョブ【勇者】として持つ魔力量を利用し出力を上げ、それらをかけ合わせることによって、グレドの作り話を具現化させたスキル――それが【虚剣】だ。

 

 この有原の意思がこもったスキルを受けて、真壁はやむなく両膝を突いた。

「……これが、貴方の覚悟か……」


「やっ、やった……見たよな美来、あれ勝ってるよな?」

「はい、勝ってます……有原さんが、勝ちました……!」

「あの雷持った真壁さんに勝つなんて、もうヤバすぎでしょ! ね、海野さん!?」

「ああ……しみるぜ!」


 ケラウノスをも斬られ意気消沈とした真壁に、有原は右手を差し伸ばす。

「過ちを超えて、みんなを助ける――その一心でここまで来ました。もう『弱くて頼りにならない』と言われないように。そして今、僕はこうしています。

 ですから、少しでもいいです。今なら、僕のことを認めてくれますか?」


 真壁は一瞬苦笑してから、有原の右手をガッチリと右手で掴む。


「ああ、少しと言わずに認めざるを得ないだろう。『今の貴方は強い』と」


 そして真壁は有原に優しく引かれて、ゆっくりと立ち上がり、互いに握った右手をそのままにして揺らし、握手の体を成した。


 直後、有原の頭に矢が命中した。


「そ、そんな……まさか、こんなことしやがるなんて!?」


「真壁の性格的にやるとは思ったけど。まー、こんな時にまでやったら、流石に、ね……!」


 大広場から約百メートル離れた位置にいる石野谷と梶は、怒りを覚えた。矢を射った矢野を見て。


「そんな……ま、かべ……さ……」


「Head shot……」


「よくやった。矢野」

 と、真壁は不意打ちの実行犯の矢野に感謝した後、有原との握手を強引に解き、崩れるように両膝を突く有原を背に、自陣へと行く。


 自軍に戻った後、真壁は虚ろな目をした有原を見下しつつ、背後の部下たちに躊躇なく命令を下す。


「各自、有原へ自慢の攻撃スキルを使え、そして有原を塵一つ遺さず片付けろ」


 部下たちは二つ返事で了承した。


「【アクタイオン・ラピッド】、Fire!」

 矢野は五十本の矢を連続で放つ。


「【ハルパー・ストライク】」

 辻は迅速に接近し、迅速に剣閃を繰り出す。


「はぁい、【ライフ・サプライズ】」

 小清水はダメージ魔法に反転させた回復魔法を唱える。


「【アイトーン・グレネード】!」

 豊本は爆弾に変えたカボチャを三つ放り投げる。


「【テュルソス・エッジ】」

 酒井は杖の先に紫色の水で刃を作り、それを突き出す。


「【ディオメデス・ジャベリン】!」

 衛守は魔法で生成した光の槍を撃つ。


「【フォボス・アサルト】ッッ!」

 桜庭は槍をX字に構えて突撃し、一気に振りかぶる。


「やらせるかぁぁぁッ!」

 それら全てを、有原の前に、誰よりも早く飛び出して駆けつけた飯尾が受けた。

 

 神寵覚醒者七人の受け、神寵未覚醒の飯尾は一瞬にして大ダメージを負う。


 飯尾は激しく痛む全身を押して、部下たちの奥に隠れた真壁へ怒鳴る。

「テメェ! 『一対一で戦う』は約束はどこへやったァァァ!」


 真壁は即答する。

「その発言は撤回した。だから何が悪い?」


 飯尾は真壁の不誠実さに激昂し、

「こ、この野郎ォォォ!」

 獣の慟哭めいて叫んだ。

 

 鳥飼は両耳を塞いでそれをシャットアウトしてから、

「ああもう! ほんと貴方はうるさいですわねっ! やってしまいなさい!」

 護身用に作っておいたグリフォンを飯尾に差し向ける。


「【裂空脚】ッ!」

 飯尾は宙へ飛び上がって、グリフォンの顎を強く蹴る。

 ノックアウトされたグリフォンは、飯尾と共に地面に着地する。


「【カリュブディス・スパイラル】!」

 直後、飯尾は都築の螺旋水流を帯びた槍の突きを直撃し、有原の隣で倒れた。


「待って、いかないでください! 有原さん、飯尾さん!」

「勝手に先走って無様晒してんじゃねーよ飯尾!」

「よくもあれだけ必死に戦ってた有原級長を!」

「この……一体どれだけ罪を重ねれば気が済むんだ貴様らは!」


 もはや決闘の掟は破られた。海野たち三人とハルベルト軍は卑劣な真壁軍を罰すべく進軍した。

 

「奴らを食い止めろ。有原にこれ以上絶対近づかせるな」

 真壁の命令に従い、九人の神寵覚醒者は彼らの前に立ち塞がる。


「うるさいですよ! 勝ったほうが正しい、負けたほうが悪い! それがこの世の中の道理なのですよ!」

 フラジュ軍もそれに合流すべく進軍する。


 こうしてこの大広場にて、第二次の闘争が悲劇的に幕を開けようとしていた。


「……ごめん、祐……もっと早く気づいとくべきだった……もっと早く、俺が真壁を殴っとくべきだった……」

 

 神寵覚醒者八人の攻撃を受けて、満身創痍の体で倒れた飯尾は、このように何度も、同じく倒れた有原へ謝った。


 しかし有原の目には光がなかった。いくら呼びかけても、答える気配がなかった。


「……ごめん……本当にごめんよ……」

 そして、飯尾はただひたすらに泣いた。


「謝らなくていいんだよ、護」


「……うるせぇ、長い付き合いなんだからわかってんだろ、俺が感情の調整が不器用ってこと……ッ!?」


 やや遅れて、飯尾は違和感に気付いた。

 隣に倒れる、頭を射貫かれたはずの有原から声がしているではないか。と。


「そういうことじゃないんだ。そもそも謝る必要なんて無いんだよ。だってまだ、僕たちは終わってはいないんだから……」


「何でだよ……! どうしてだよ……! だってお前は今、真壁に……」


「ああ、確かに危ないところだった。けど、ようやく認められたんだ、僕の『助けたい』っていう信念を、とってもとっても優しい神様に」


 刹那、ミクセス王都の中央の大広場に、一つの嵐が吹き荒れる。

 そしてその中心で、一人の少年が神々しく舞い上がった。


【完】

今回も話末解説はございません。次回はどうなる

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