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第34話 真壁vs久門

2023/1/22 えげつない矛盾が存在したので修正しました。

 海野たちと真壁たちが王都大広場で対面した時からさかのぼること、数時間前。 


 ミクセス王国・王都から南西に約三キロメートルほど離れたところ。名前もなければ生物の気配すらない、ごくごく普通の荒野。

 真壁は部下九人と精鋭兵士千人を統率してやって来た。


 彼女たちの標的は逃げも隠れもしないでそこにいた。

 真壁と双璧を成す一年二組の支配者の片割れ――久門将郷が。


「よう、久しぶりだな、だいたい三週間強くらいか?」

 久門は九人の仲間を背に、真壁へ気さくに挨拶した。


「何故貴方たちはここにいる?」


 相変わらず、目的最優先の機械的な態度を取る真壁に久門は舌を打ってから、

「なんかたまたま立ち寄った村で『この辺に邪神獣がいる』って聞いたからだ。けどそいつはいなかったけどな。別にここに来たっていいだろ、王都から結構遠いところなんだし」


 今度は久門が問いかける。

「で、真壁、貴様らは何故ここに来た?」


「貴方は自分が今、ミクセス王国ではどう扱われているのかわかっているのか?」


「うわ出やがった、真壁秘伝の質問返し……はいはい、わかってるぞ。俺たちは『国の功労者、真壁理津子に従属しない極悪人』。で、お前らが来たのは『無法集団・久門一味を討滅する』ため……だろ?」


「では早く全員手を上げてこちらへ来い。枷の準備は出来ている」


「やっぱそう言うと思ったよ。いっつもお前はそうやって、現人神であるかのように傲慢不遜な態度取って、人を自分の思い通りに動かせると思い込みやがって……」


 久門は踵を返して、後ろにいる仲間たち九人へ向かって言い放つ。

「おいテメェら! これまでの旅路で伸ばした力と、好き放題言って俺たちを追放した真壁への恨みを、この一瞬に全部ぶつけてやれェェッ!」


 直後、真壁の仲間たち九人は応と一斉に叫んで返事した。


 この一ヶ月弱の中で久門一味も全員【神寵】に覚醒している。

 それ故に満ち溢れる自信と、真壁の横暴に対する反発が、長の激励によってますます増幅され、彼らの士気は天を衝くほど高まっていた。


「……全く、これだから不良は嫌いですわ。しゃにむに動けばなんとかなるという発想が獣臭くてたまりませんわ」

 と、鳥飼はハンカチで鼻から下を押さえつつ言った。


 都築は鳥飼に忠告する。

「……鳥飼さん。その油断でまた足元をすくわれても知りませんよ」


 真壁は都築に同調して、

「都築の言う通りだ。先日、たかが手負いの有原のために武藤を失ったことは無駄使いだ」


「で、ですが、どっちみち有原は倒せたので……」


「それでも『武藤を失った』という事実は変わらない。その上、貴方は有原の死の証拠も持ってこなかったという失態もある」


「はい……わかりましたわ」


 鳥飼への説教を終えた後、真壁は久門がいる場所へ槍先をかざし、

「では皆……ミクセス王国の秩序を守るため、我々の悲願への障害を除くため、悪逆久門とその一味を打ちのめせ!」


 真壁の軍は久門一味へ進撃する。

 その先頭を担っていたのは、真壁一派が誇る切り込み隊長、桜庭さくらば依央いお

 桜庭は軽装の突撃兵百人とともに、勇猛果敢に久門一味へ突撃する。


「うっしゃあああああ、ぶちかましてやらああああ!」

 太陽フレアのような黒味が強い赤色のツーブロックヘアーをした、いかにも短気そうな風体の少年――久門一味の一人『稲田いなだ 輝明てるあき』が、約三メートルの長大さを誇る大槍を振り回しながら、桜庭に抵抗するように単騎突撃を仕掛けた。


 二人の先駆けはちょうど二軍との中間地点で出会い、

「【アロアダイ・コリジョン】ッッ!」

 桜庭は両手に持つ高速回転させた槍を押し付け、

「【アドラ破砕脚】ッッ!」

 稲田は槍を地面に刺し、それを支えに高熱を帯びた右足を突き出す。


 両者の一撃の威力はほぼ互角……二人は数秒ほど火花を散らして静止した後、お互い後方へ数メートル吹っ飛んだ。


「もう一度だ! 【アロアダイ・コリジョン】!」

 桜庭は再び二槍を高速回転させて突撃する。


「望むところだあああ!」

 稲田は頭上で槍を振り回して威圧後、桜庭に合わせて自分も駆ける。


 その瞬間、神寵【ヘルメス】の覚醒者、つじ利乃りのが、稲田の背後で透明化を解除。稲田を貫き仕留めるべく、刀で突きを繰り出す。


「【金竜昇進こんりゅうしょうしん】!」

 最中、辻の眼前に、真昼の太陽のように鮮やかな白銀髪を後ろで結った、縦幅も横幅も大きい図体の少年――『大関おおぜき 晴幸せいこう』が瞬く間に現れる。

 大関は辻の刀を胸筋で受け止め勢いを殺してから、辻の襟元を掴んで真壁の方へ放り投げた。


「気をつけろぉ輝明! そんな無鉄砲な立ち回りで真壁一派から生きながらえると思うな!」


「わりいな晴幸! この恩は敵をボコして返すぜえ!」


「我々界訪者同士の質はほぼ同じか……ならば、皆、兵数で圧倒してみせろ」


 真壁は界訪者十人に加えて連れてきた千人の兵士へ号令を放ち、足並みを揃えて進撃させる。久門一味を人数差で圧殺する作戦だ。


「舐めんじゃないぞ真壁!」

 雪崩のごとくこちらへ接近する大勢の兵士を見据えて、久門は激怒した。

 自分たちが物量作戦ごときで破られる程度の存在とみなされたことに憤りを感じているのだ。


 そして久門は思う。目には目を、歯には歯をと。大軍には塚地をと。


「おい塚地! アレを放て!」


「それを待ってたぜ久門さん! 得と見やがれ俺の真骨頂……【セラピス・コマンド】!」

 細身と細目、それと生い茂る植物めいた深緑の髪が特徴の男子――『塚地つかじ 優大ゆうだい』。

 彼は神寵【オシリス】で得たスキルを用い、自軍の周囲にゾンビの兵士千体を瞬時に召喚。そしてすぐさま真壁の兵士へ進撃させる。


「死体の軍勢があんな一瞬で現れるだと!?」

「ひぃぃぃ、おっかないよぉ! 助けてくれ!」

「も、もう俺は無理だ! ここは逃げる!」


 真壁の兵士はミクセス王国出身のごく普通の生身の人間の兵士。塚地が呼び出した異形の兵士に恐れおののかざるを得なかった。その恐ろしさから脱走者も続出した。


「【アルゲス・ショット】」

 すると真壁は彼らの怯え切った背中を次々と雷で撃ち抜いた。


 そして真壁は全軍へ冷徹に号令を放つ。

「皆聞け。敵に背を向けるような軟弱者は有原と同じだ。見つけ次第、久門の兵より優先して殺せ」


「「「ひぃぃぃ!」」」

 真壁軍の兵士は、ゾンビ兵よりも真壁の苛烈さに恐怖し、感情を殺してゾンビ兵と戦うことにした。

 しかし、いざ戦ってみるとゾンビ兵は頑丈さこそピカイチだが、動きが愚鈍で単調なため、並の兵士でもコツを掴めさえすればどうにかなった。


 だが、

石野谷いしのやかじ! お前らはいつも通り後ろから援護しろ!」


「了解っス!」

「ああ、まかしてくださいよ!」


「残りの連中は……いつも通り目に入った奴全部ぶち壊して突き進め!」


 ゾンビ兵に混ざった神寵覚醒者はどうにもならなかった。


 久門一味の神寵覚醒者は、まさに鎧袖一触に真壁の兵士をなぎ倒していく。


「全員飲み込まれやがれ、【ウアス・タイフーン】ッッ!」

 プロレスラーじみた巨体と剃った眉毛、それから砂嵐を彷彿させる茶髪が特徴の少年――『五十嵐いがらし 康平こうへい』は、回転する自身を中心に巨大な砂嵐を作り、百人を纏めて巻き込んだ。


「悪いねみんな、せめて楽に終わらせてあげるから。【神器錬成:天叢雲剣】」

 元々の容姿端麗さが神寵に覚醒してからますます磨きがかかった、日差めいた淡い金髪の美少年――『桐本きりもと ひかり』は、幻想的な光を湛えた刀を流れるように振るい、敵兵を次々と斬り結んだ。


「オラオラオラオラオラオラオラーッ!」

 隼の翼のような焦茶色の髪になった少年――『逢坂おうさか 雄斗夜おとや』は空中に立ち、火の玉を五月雨のように落として敵兵を火の海に沈めた。


 その他、稲田や大関なども個々の能力を生かして、敵兵の数を溶かすように減らしていった。


 これに待ったをかけるのはやはり、同じ真壁軍の神寵覚醒者たちだった。


「このゾンビ兵は魔物にカテゴライズされているようですわ。でしたら……【ユノ・ヴェンジェンス】」

 鳥飼は近くにいたゾンビ兵を強化しつつ自分の手駒にし、逆に久門一味へ差し向けた。


「これ以上勝手な真似はさせるか! 【トリトーン・バスター】!」

 都築は眼前で吹き荒れる砂嵐に水を纏わせた槍を叩きつけ、その衝撃で砂嵐をたちまち止ませると同時に、中心にいた五十嵐をはるか彼方へ飛ばした。


 このように真壁軍の神寵覚醒者も個々の才能を最大限活用し、久門一味の横暴を阻んだ。


「うォォォォッ! どいつもこいつも消えやがれェェェ!」


 だが総大将、久門は、簡単には止まらない。


「【アロアダイ・コリジョン】!」

「【ハルパー・ストライク】」

 同時に迫る桜庭の突撃と辻の剣閃を、


「【テフヌト・フラクチャー】!」

 目前で水蒸気爆発を起こし、彼女たちを弾き飛ばすことで無効化する。


「【ホルアクティ・ライジング】!」

 背中から炎の翼を生やし、敵陣へと飛行する。


「Complete……【オリオン・ブレイカー】!」

「【ライフ・サプライズ】ですよぉ」

「【ディオメデス・ジャベリン】!」

「【アイトーン・グレネード】!」」

「【イカリオス・バブル】」


 矢野やのが射る強矢、小清水こしみずによる回復魔法を変換したダメージ、衛守えもりが魔法で生成された光の投槍、豊本とよもとが育てて放ったカボチャの爆弾、酒井さかいの紫色の水泡五発――真壁配下五人の一斉射撃を、飛行途中に纏めて受けても、


「……効かねぇよそんな子供だましッ! 【ヌト・カタストロフィー】!」

 久門は墜落も怯みもしなかった。それどころか逆に豪炎の雨を降らして報復した。


「あ、あのままでは真壁様が! 貴方たち、前へ!」

 鳥飼は久門が低空飛行をした途端に、その進路に強化ゾンビ兵を配備し、彼を待ち受けた。

 そして強化ゾンビ兵は久門の体当たりであっけなく消し炭になった。


「でしたら、【スピード・カース】!」

 鳥飼は兵士の中に紛れて潜伏しつつ、自分の得意分野である素早さを下げるデバフを久門にかけた。


 しかしこれでも久門の勢いは止まらなかった。久門のステータスが元より高すぎるあまり、そのようなデバフは焼け石に水としかならない。


 天賦として備わった高ステータス。

 剣と魔法を両立した希少なジョブ【勇者】。

 天災級の破壊力を持つスキルを会得できる神寵【ラー】。

 そして彼自身の決して縛ることのできない衝動。

 これらが噛み合うことによって、久門はこの別次元の境地に至ったのである。


 そして今、彼が目指しているのは他でもない、己と比類する強さを誇る天才――真壁まかべ理津子りつこだ。


「さぁ、どちらが最強か今ここで決めようじゃないか、真壁ェェッ!」

 久門は翼で轟々と風を切り、真壁へ迫る。


「……私はそのような大仰な肩書には興味はない。都築」


「はっ、ここは俺にお任せください」


 真壁はその場を都築に託し、自分は都築の後ろに下がる。

 

 都築は慣らし程度に槍を振り回し、久門の視界のど真ん中に堂々と仁王立つ。

「お前は理津子さんに指一本たりとも触れられない。俺がお前の邪道を阻んでみせる」


「弁慶みたいに出来る忠臣ぶりやがって……調子に乗るんじゃねぇ! 【シュー・エクスプロージョン】!」


 久門は虚空から爆炎を引き起こし、それを都築にぶつける。

「【ラオメドン・ガード】」

 都築は前方に水の障壁を生成し、いとも簡単に爆炎をしのいだ。


「お前の得意技は火属性。俺の得意技は水属性。生憎この対決は俺が有利だ」


「そんな理屈で勝った気でいるのなら……こちらにも対応策がある! やれ、式部しきべ!」


 久門の呼びかけに応じ、叡智と繁栄を連想させる若葉色の髪を持つ少年――『式部しきべ 時宗ときむね』が彼の傍に馳せ参じた。


 そして彼はすぐに、

「『多勢』で舞え! 【イシェド・ビット】!」

 と、詠唱し、周囲に約百枚、はがきくらいのサイズの葉っぱを作り出し、都築へ向けて撃ち出す。


「【ラオメドン・ガード】」

 都築は再度水の障壁を生成した。が、全ての葉っぱはそれを貫通。幾分か威力を削られたことにより浅かったが、都築に無数の切り傷を与えた。


「どうだ見たか! 『久門くもん将郷まささとのスーパーサブ』と呼ばれる俺の力を!」


 その時、都築の隣に立った真壁が、

「【ステロペス・パニッシュ】」

 槍を突き出し、式部へ一筋の雷光を放つ。


「【シュー・エクスプロージョン】!」

 久門はその射線の途中で爆炎を作り、相殺して打ち消した。


「都築、あちらが二人で来るというのなら、こちらも二人で相手するのが道理だ」


「承知しました。そして先程は見苦しい失態を……」


「すぐに巻き返せ」


「はっ、仰せのままに」


 真壁と都築、久門と式部、一年二組を二分する実力者とその右腕は、お互いの心の底で相手の最大限の実力を恐れ、出方を伺い、無言でにらみ合った。

 ――そして、先に動いたのは、真壁と久門。


「【ゲブ・ディザスター】ッ!」

「【絶対至敗】」


 神寵【ラー】の権能由来の業火を纏いし大剣、神寵【ゼウス】で掌握した雷を圧縮した槍、二つが衝突した時、名もなき荒野の大地は揺れ、この地で戦っている者たち全員は、二人を中心に放たれた衝撃によって震えた。


 互いのスキルの威力が弱まった後、二人は互いの得物を操り、相手を攻撃する。

 真壁は豪快に振るわれる大剣を、巧みに槍を操っていなす。

 久門は的確に突き出される槍を、力任せに弾いて防ぐ。


 スタンスこそ真逆ではあるが、二人の実力はやはりほぼ互角であった。

 故に二人はこのままこれを続けることの無意味さを悟り、一時後方へ下がる。


「やっぱ真壁は強いな。だったら、アレを使っても申し分はないだろう……式部、やれるか?」


「ああ、そっちの決意次第ですぐに出来るぜ!」


「よし、じゃあ行くぞ式部!」


「OK!」


 久門は地面に切先が向くように大剣を持ち、それに力を込める。

 すると周囲の空間が、文字通り赤く染まり、高熱を帯び始める。


「久門め、一体何をする気だ?」


「わからん。だが、今奴から発せられる気迫からして、これは危険だ……!」


 久門の目論見を打破すべく、真壁と都築は彼へ警戒しつつ接近する。


「来たか……さぁ、やれるもんならやってみろ!」


「ま、この時点で久門さんと俺の勝利は確定だがなぁ!」


 真壁と都築が最大級の攻撃が繰り出される。

 久門と式部の破滅の計画が発動される。


「ちょーっと待ってくださいっ!」


 その二つのどちらかが現実になる寸前、二人の少年が四人の間に割って入った。


 片方は、肩にガッツリ掛かるくらいの長さの、燃え盛る太陽のような橙色の髪を、右側頭部のところだけ結んでいるという独特な型にしている少年――久門一味の『石野谷いしのや 陽星ようせい』だ。


「おい石野谷ッ! テメェなんてタイミングで現れてるんだよ!」


「決して私は久門に肩入れするつもりはないが……死にたいのか貴様?」


 四人に睨まれた石野谷は四方向にペコペコ頭を下げ、

「いやー、お取り込み中のところマジでごめんなさい。けどマジで緊急で伝えとかないとヤバい用事があるんです……かじが」

 一緒に四人の死闘に割り込んだのは、鉄のように鈍く重い灰色の髪と、ここにいる六人の中でぶっちぎりで低い身長が目立つ眼鏡少年――『かじ 昇太しょうた


 石野谷は彼に話を回し、安全を確保するため数歩下がった。


 ざっついパスだなぁ、陽星。と、梶はぼやいてから、四人へ話す。

「皆さんだいぶ苛ついてますでしょうし、続々と兵士が死んでいますので、ざっくり結論からお話すると……『お二人共、嵌められてますよ』?」


「嵌められている……だと? どういうことだ、梶!?」


「そもそも久門さん、あの噂話を聞いた時、なんか変だと思いませんでしたか? こんな行ったら真壁さんと一悶着起こらなそうで起こりそうなピンポイントな位置に邪神獣がいるなんて?」


「別にいるんじゃねーの。あいつら野生の動物みたいなもんだし」

 と、式部が言うと、梶は違う違うと指を振る。


「それがいないんだ、本当に。だって双方がドンパチする前、ここには『巨大な何かの足跡』とか、『自然の力以外で地形が変化してる痕跡』とか、邪神獣がいた証拠が全くなかったんだから。今はすっかり荒らされてるけど、その前は普通の荒野だったじゃんか」


 式部は梶の発言に『そう言えばそうだな』とうなづいてから、

「じゃあつまり、あの噂話は久門さんをおびき寄せる餌って訳か?」


 すると久門は大剣を引きずって真壁へとドシドシ歩もうとする。

「なるほど。つまり真壁! お前は、俺たちをここでぶちのめそうとして……」


 その前に石野谷は立ちふさがって、

「あのー、久門兄さん、さっき僕、『嵌められてるのは両方』的なこといいましたよね!?」


 石野谷は続いて、真壁へと首を回して、

「……どうせ敵なんで正直に答えてくれないのは承知ですけど、その噂を流したのは貴方がたでは無いですよね。真壁さん?」


「そうだ。我々は久門たちを誘導していない。余程の『危機』、あるいは『好都合』でなければ、我々は久門らをどうするつもりもなかった。最優先すべきなのは邪神の討伐だ」


 続けて都築も、

「俺たちが総出でここに来たのは、その両方に該当していたからだ。して、梶、俺たちが嵌められたと言い切る理由は何だ?」


「これは結果ありきの考察になりますけど……今回の『黒幕』は真壁さんたちが王都を留守にすることを望んでいたからですよ」


「……なんだと!?」

「……その考察、もっと詳しく聞かせてくれ、梶」


「ヒヒヒ、頼りにしてもらって光栄です……事実をつなぎ合わせて足りないパーツを埋めたら真相が見えてたんですよ」


 まず、久門に偽の邪神獣の居場所を流してここに誘導する。

 それを受けて、真壁は王都の危機、もしくは久門を制裁する絶好の機会を生かすべく、そちらへ進軍する。しかも相手が相手なので部下九人も連れて行かなければならなくなる。

 すると王都内の警備は、界訪者視点では『とても薄くなる』。

 そして偽情報のリーカーである『黒幕』は――その詳細までは読めないが――王都内でやりたいことがやりやすくなる。


「って言うのが俺の考察ですよ」


「そうか。予め言った通り、『結果ありき』の考察だな。これがもし何者かの陰謀だとすれば、あまりにも出来が良すぎる」

 真壁は梶の考察を眉唾物と決めつけた。


 すると梶はニヤリとほくそ笑みつぶやいた。

「……僕は実際、何者かの出来のいい陰謀だと思いますよ。『真壁さんに心の底から忠誠を誓っていない』、『久門さんや真壁さんですら騙すくらい頭の切れる』、『真壁さんたちの留守中にやりたいことがありそうな』、『訳のある』人間のね……」


 それを聞いた真壁は、戦闘中の味方に対して命令する。

「皆、この戦いは終わりだ。一刻も早く王都へ帰還する!」


 すると久門は、たちまち激高して大剣を構えて、戦闘続行の意を示す。

「おいこら待て真壁! こちとらお前の事情なんか知ったこっちゃない! そっちがこの戦いを切り上げようってなら、こっちは逃げるテメエらを容赦なくぶちのめすぞ!」


 すると梶はその大剣へ手のひらを向けつつ、説得する。

「久門兄さんが本気でそうしたいっていうなら止めはしないですけど、僕としては、真壁さんにそんな勝ち方しても、気持ち的によくじゃないですか?」


 梶の言う通りだった。

 先程の迅速な撤退宣言からして、今の真壁は自分との戦いを二の次に置いている。

 明確に真っ向から戦う気のない真壁を倒してもそれは、『敵の背中を突いて倒した』ようなものであり、達成感も感じられず、これまでの屈辱も晴らせないだろう。


「……」

 久門はしばらく沈黙し、自分たちには目もくれず撤退の支度を進める真壁たちと、大将の指示を待って棒立ちする仲間を見た後、

「納得いかない奴もいると思うが……今日は『おあいこ』にするぞ、お前ら」

 ついに大剣を背負った。


「ぼへぶっぅ!?」

 そして石野谷のみぞおちに拳を入れた。


「こ……これ何です……久門さぁん……」


「すまん。さっき【セクメト・アポカリプス】の邪魔をされた怒りが収まらなくてな」


「な、なんだ……ならよかった……かも……」

 と、石野谷はジワジワ来る苦痛で顔を歪ませて言った。


 式部はそれへツッコむ。

「どこがいいんだよ。思い切り痛がってんじゃんかよ……おい梶、気持ち回復魔法かけてくれないか?」


 梶は式部の呼びかけに応えず、手際よく撤退する真壁軍を、黄昏れているかのように眺めていた。


(あんだけ平穏を望んだお前がどうしてこんなことをしようと思ったのかは知らないが……残念だったな、隆景たかかげ


【完】

話末解説(※登場人物紹介は初登場してすぐされるわけではなく、話の流れを考えて掲載しています)


■登場人物

塚地つかじ 優大ゆうだい

 レベル:46

 ジョブ:【呪術師】

 神寵:【オシリス】

 スキル:【セラピス・コマンド】など


 一年二組の男子生徒。久門一味の一人。

 久門のシンパらしく性格は悪質。

 神寵【オシリス】に覚醒して得たスキル【セラピス・コマンド】でゾンビ兵を大量召喚し、久門一味の戦闘員を大幅に補填できる。

 ホラー映画が好きだが、ゾンビものは何故か気に食わない。

 オシリスとは、エジプト神話の農耕神であり冥府の王。



五十嵐いがらし 康平こうへい

 レベル:46

 ジョブ:【格闘家】

 神寵:【セト】

 スキル:【ウアス・タイフーン】


 一年二組の男子生徒。久門一味の一人。

 久門のシンパらしく性格は粗暴。

 神寵【セト】に覚醒して得たスキル【ウアス・タイフーン】で砂嵐と化し、大軍を一掃することができる。

 筋肉を鍛えているのは夏に派手に遊ぶためという理由が大きい。

 セトとは、エジプト神話の戦争と嵐の神。

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