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第33話 国王救出作戦

 作戦会議から三日後。ミクセス王国の城と南門をつなぐ大通りにて。


 まだ時刻は早朝にも関わらず、その路肩は人で埋まり、騒々しいかった。

 国民たちの目的は、この大通りを精鋭千人を率いて行進する真壁の姿を拝むためだ。


「都築様、鳥飼様、桜庭様……真壁様の忠臣九人が勢ぞろいしていますわ!」

「珍しい。まるで日食を見ているかのようだ……」

「一体、何が始まるというのだろうか?」


 しかも今日の行進は特別だった。普段、表舞台では滅多に揃わない真壁の部下九人が、一同に集まり真壁に続いているのだから。

 この非常に珍しい光景に、真壁を尊敬する者たちはひたすらに驚喜していた。


「一人くらいは残すと思ったけど、まさかの全員で行くんだ」


「ものすごく久門さんを懲らしめたいんでしょうね」


「それか、久門相手に滅茶苦茶ビビってるかのどっちかだろうな」


「どっちでもいいよそんなこと。ひとまず思い通りにいったことを喜べよ」


 真壁の行進を見物する群衆に潜伏している三好、内梨、飯尾、海野の四人は、真壁の軍が南門を抜けていったのをしっかりと確認してから、いよいよ作戦を開始する。

 

 まず四人は怪しまれないように一時解散し、自分たちの行動が真壁に伝わってもすぐには戻ってこれないくらいの時間を空ける。

 次に、四人はそれぞれ別の道を使い、予め決めた国王の療病先にほど近い地点で再度合流する。

 そして四人はそこから療病先の邸宅の正面玄関の前に行き、


「おらぁ! 国王はどこにいるんだぁ!」

海野うみの隆景たかかげ様のお通りじゃあ! さっさと道開けないとワシの水魔法で溺れさせるぞワレェ!」

「どけろ……いやごめんなさい、どけてくださーい!」


 そこから四人は、自分たちを取り押さえようとする兵士をバッタバッタと退かしながら、邸宅内へ突入する。


「おっと、殺しは絶対ご法度やで! 国王やんと会うとき面子が立たんくなるからな! やったらいてもうからな!」


「へい、海野の兄貴!」


「うおー! どけてくださーい!」


「あの……」

 最中、盛り上がっているところ申し訳ないと思いつつ、海野へ三好は尋ねる。

 

 海野は嫌にイントネーションの精度が低い関西弁を維持したまま、

「何や三好、お手洗いならしばし辛抱しいや?」

 

「こんな大雑把に真正面から突入して、本当にいいの? だいぶ騒ぎになっているし、兵士の何人かが外へ報告しに出て行っちゃってるけど……」


「それは問題ない。俺も考えてやってるから」


「あ、急にスイッチ切れた。で、なんで問題ないの……前にこれ聞いた時も思ったんだけど、ふつうこういうミッションってコソコソ侵入してやったほうが安全じゃないの?」


 すると海野はまさしく本職のそれのような鋭い目をして、

「ワイが『問題ない』って言ったら『問題ない』でええんや! はよアンタももっと気ぃ引き締めて兵士退かしたれや!」


「は、はいっ! スイッチのオンオフ激しすぎるって……」


 三好が危惧するのも無理はないくらい、この国王の療病先の邸宅は混沌とした。護衛兵が全力で自分たちに大挙してくるのだ。

 だが、真壁たちを策をもってして王都を留守にさせたのが大きく、四人を阻めるものはこの場に誰一人いなかったが。


 四人は国王の護衛をあらかた無力化した後、いよいよ国王の捜索に取り掛かる。


 もっとも、海野の『一定範囲の敵の情報を察知・閲覧ができる』バッシブスキル【ルルイエの掌握】で、捜索にはあまり時間はかからなかった。

 四人は最短経路で国王のいる部屋の前に到達し、

  

「すみません国王様、海野隆景とその他大勢です」

 ここだけはある程度礼儀を正して、入室した。


 机を前にして腰掛け、読書をしていたミクセス王は四人の方を向いて、

「何だ、この騒ぎは貴方たちの仕業だったの……」


「わーっッ! で、出たぁーッ!」


「わー、こっちもビクッた……ねぇ飯尾さん! 急にでかい声出さないでよ!」


「仕方ないだろ! だって、死人がここにいるんだぞ!」

 飯尾はたった今、国王へ紅茶を持っていこうとしていた、病的なくらい痩せた少女――松永まつながみつるを指差した。


「あ、本当だ! なんで松永さんここにいるの!? アンタ有原級長に殺されたって体で真壁に殺されたんじゃなかったの!?」


「……」

 松永はしばらく四人を何か物言いたげに見つめた後、結局何も言わず、ミクセス王の前に紅茶を置く。


「……多分、事件そのものが真壁のでっち上げだったか、死の寸前に回復させたかのどっちかだったんだろ。それでその事件の信憑性を上げるため、国王と一緒に隠してた、ってことかな? ……後者は真壁の完璧主義的になんでわざわざそうしたのかは知らんけど」


「とにかく、やっぱり祐さんは無実だったんですね! 本当によかったです……松永さんも生き残ってくれて……」


「うん、それはよかったね! けど、あんまそっちに浸ってると、次段階をする時間がなくなるから……」

 突然の四人の来訪にキョトンとするミクセス王に、三好はまず尋ねる。

「陛下、お体はいかがですか?」


「お体……ああ、別に何ともない。強いて言うならば、ここ一ヶ月弱は外の空気と光を満足に浴びれていないので気分がどんよりしている。

 真壁殿より『今日、国王内の情勢が不安定につき、しばし避難のため隠遁ください』と念押しして勧められたため、やむを得ないことではあるが……」


「そうですか……こっちもだよ! 真壁の奴、また嘘ついてるよ!」


「嘘……それはどういうことだ、教えてくれぬか三好殿?」


「……ごめん、ここは説明上手の海野さんにおまかせします」


「いい判断だ。この場合、説明することはあまりにも多いだろうからな」


 というわけで海野はミクセス王に、真壁の所業について、極力簡潔に、できる限り詳しく説明した。


 それが終わるとミクセス王は神妙な面持ちをして、

「なんと……私はこの屋敷にいながらも、勅書を介して政を続けていたつもりだった。だが、それは真壁殿の手によって都合よく……」


「残念ながら……仰るとおりです。あなたのご意向はこの屋敷の外には届いていません。なので陛下、どうかここは……」


 国王は、その身分故の義憤を原動力に、年齢を感じさせないほどスッと素早く立ち上がった。

「わかっておる。幾十日ぶりに表へ出て、親愛なる国民へ告げるべきことを告げなければならない……それが王としての務めである」

 

 そして国王は四人へ決意を表した後、多大なる感謝を込めて礼をする。

「海野殿、飯尾殿、内梨殿、三好殿……騎士団長ですら成し得なかった貴方たちの勇気ある行動に感謝する」

 

「ありがとうございます、陛下」


「よかったー、てっきり国王も真壁の操り人形になってたらどうなるかと思ったぜ」


「ですね、護さん。王様も松永さんも無事でよかったです」


「そうね。じゃあ後は王様を護衛して……」


 その時、松永は国王に接近し、ナイフを心臓めがけ突きつけ……

「させっかよ!」

 ……る前に、飯尾の飛び蹴りを受けて、壁に頭を打ち付け気絶した。


 三好は宙へ舞ったナイフをキャッチして、手からうっすらと闇属性エネルギーを出し、使い物にならなくする。

「マジ焦ったしこれ……! 急に何しでかしてくれんのよアイツ!?」


「なーるほど、真壁が松永を生かしたのは『口封じ』のためだったのか。ようやく合点がいったな」


 海野は【ルルイエの掌握】で周囲の状況を確認する。

 作戦冒頭で無力化した兵士がポツポツと復帰し、こちらに向かってはいるが、その数は少ない。

 それで安心はできない。そろそろフラジュなどから刺客が寄越されてもおかしくない頃合いだからだ。


「飯尾、松永はどっか適当なとこに縛り付けて、にぃ〜どぉ〜とッ! こんな真似させないようにしておけ!」


「あいよ! お前のせいで祐が死んだことも含めて一生反省しろ! この疫病神が!」


「それは言い過ぎだと思いますよ、護さん……」

 

 飯尾が海野に言われた通り、松永を適当な柱へ縄でギッチギチで巻きつけた後、


「ではいきましょう、王様! 私たちがしっかりお守りするので安心してください!」


「ああ、よろしく頼む」


 四人は国王を護衛しつつ屋敷を出た。


「王様的にはこれからどこ行きたいとかあります? アタシたち的にはやっぱまず王城に帰って準備したいって思ってますけど……」


「……大広場に案内して欲しい、三好殿。今最優先すべきなのは、一秒でも早く、一人でも多く、国民に真実を伝えることだ」


「だって! じゃあみんな頑張っていこー!」


「了解!」「押忍! 任しとけ!」「は、はい」


 一行が大広場へ向かう間、案の定、覆面をした刺客――言うまでもなく状況からしてフラジュの手先――が現れた。

 彼らは四人を仕留める、もしくは国王を奪還しようと次々と、無言で襲いかかる。


「やめぬか貴様ら! 真の主は誰であるか忘れたのか!?」

 言うまでもなく、王の言葉すらも無視してだ。


「残念ながら言っても無駄ですよ陛下! もうこいつらの真の主は真壁に置き換わってますんでねッ!」


 だが、この刺客も界訪者にとっては無力。

 四人は共通の希望を叶えるため、使命感をもってして、出だしの勢いそのままに進む。

 

 この四人により、王は危うげなく、王都中央の大広間にたどり着いた。

 しかしここで、一同は絶句した。


「海野さん、飯尾さん、内梨さん、三好さん……そして陛下、こんなところで何をしている?」

 大広間には既に、久門一味の撃退に行っていたはずの真壁と彼女の腹心九人、それからフラジュと兵士数千人が待ち構えていたのだから。


「なっ、真壁……!?」

 これに一番驚いていたのは海野だった。

 いくらクラス内の最強格たる真壁とはいえ、久門との戦いをそんな早く終わらせられるはずがない。というのが彼の見積もりであり、この作戦の根底であったからだ。


 真壁は海野の焦燥ぶりを見て、彼の精神をより追い詰めるべく告げた。

「我々と久門たちを対峙させるように誘導し、王都を留守にしたところで国王をさらい、国王の威光を借りて我々に報復する……それが貴方の目論見か、海野さん?」


「おい、嘘、だろ……」

「そんな、そんなことありえないはずなのに……」

「全部、バレてるなんて……」


 四人は戦慄し、ますます絶望の淵に追い込まれた。


 海野は両膝をつき、地面を何度も殴りながら、湧き上がる屈辱を節操なく吐き出す。

「……クソッ、『アイツ』め! ……お見通しやがったな『アイツ』ッ!」


 

「お見通し云々の話ではない。所詮貴様らの目論見は『あがき』に過ぎず、無意味の範疇から抜け出すことはできない」

 その最中、真壁はぞっとするほど冷酷に、王一行へ告げた。


【完】

話末解説(※またしても本編とはあまり関係ありません。こちらも『忘れないうちに』とやりました)


■登場人物

黒磯くろいそ 初生うい

 レベル:28

 ジョブ:【魔術師】

 神寵:【テスカトリポカ】

 スキル:【黒豹煙吹くろひょうえんすい


 一年二組の女子生徒。武藤の友達。

 家は雑貨屋。商品を見る目に優れていて、ショッピングの際は頼りにされていた。

 神寵【テスカトリポカ】に覚醒していれば、煙風を放ち、広範囲を攻撃するだけでなく、一帯の相手の視界を撹乱するスキル【黒豹煙吹】で、友達を襲う敵を足止めできた。

 テスカトリポカとは、アステカ神話の夜と月を司る破壊神。太陽を司る文化神ケツァルコアトルとは敵対関係だったという。


斯波しば 凜音りおん

 レベル:30

 ジョブ:【暗殺者】

 神寵:【アヌビス】(未覚醒)

 スキル:【冥府祓い】など


 一年二組の女子生徒。武藤の友達。

 普段はクールだが、大好きな怪談話をするときは不気味なくらいテンションが高くなる。

 神寵【アヌビス】に覚醒していれば、得物の大鎌を餓狼の如く振り回して暴れるスキル【冥府祓い】で、友達の進むべき道を切り拓けた。

 アヌビスとは、エジプト神話の冥界の神。冥界の王神オシリスとは複雑な親子関係を持つ。

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