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第29話 飛来する襲撃者たち

 所在地不明の山にて。


 例のごとく、有原は修行の一環としてグレドと一対一の試合をしていた。


 それは文字通りの『真剣勝負』だった。

 以前邪神獣【叛逆のディアジンギ】を倒した後、

「もはや木刀では緊張感が足らんじゃろう。なあに安心せい、薬の蓄えはあるから大丈夫じゃ」

 と、グレドが提案してのことだ。


 最初はグレド相手では自分が怪我をしてしまうのではと危惧した有原だが、いざ本気で立ち会ってみると、それは杞憂だった。


 有原にはあまり自覚はないようだが、三スキルの会得やディアジンギとの戦いを経て、技術面でも心身的にも劇的に成長し、グレドと同格の強さを身につけていたのだ。


 故に、双方の試合は、どちらかの剣が相手に当たることはなく、ひたすらに剣戟を繰り返す拮抗した試合となった。

 何度試合をしてもこれこその『負け』らしい場面も起こらなかった。


 なので試合が終わる時はどちらかが疲れ果てるかか、

「ああっ、また……」

 有原が持っている剣が折れるか、だ。

 

 元々の有原の得物だった篠宮の剣は、真壁との戦いで破損し、ついには混沌とした状況の中、どこかでなくしてしまっている。

 なのでこれまで有原は、グレドから毎度剣を貸し与えられて戦っていた。

 しかしグレドが保有する剣のほとんどは安物や古物。

 魔物や邪神獣くらいの敵との戦いならどうにか持ってくれるが、達人同士の戦いでは持ってくれないのである。


「あれま、だいぶ熱くなっていたところだったんじゃがな……」


「す、すみません……」


「謝らんでもいい。むしろオンボロ剣を渡した儂が謝りたいくらいだ」


「そうですか。てっきり『武器を壊すのは腕のない証拠! 達人ならどんな武器でも一級品のように扱うべし!』とか言ってくれるのかな。って思ってましたけど……」


「それは一時期道場に入門しまくってた頃に言われたのう。ま、それは一理あるんじゃが、儂としては普通に戦ってるだけで壊れたら『ついてこれん武器が悪い!』って感じじゃな」


 グレドは自身の愛刀を、刀身が地面と平行になるように持って、有原へ見せる。

 鍔に簡素な意匠が彫られた以外は一切飾り気のない、鉄色一式の剣だ。


「だからこいつには散々お世話になったな。こいつは一生ものの剣にするため、三十年前に『とにかく頑丈でよく斬れる剣を作れ!』と言って作らせたものじゃ。で、実際今もこの通り手入れを欠かさなければ無事使える。ありがたいことじゃよ。という訳でやはり、『道具は選ぶべきもの』じゃな」


 なるほど。と、有原は頷いてから、グレドの性格と傾向から、彼の台詞を先読みして言う。

「けど、武器の強さに頼り……」


「じゃが、武器の強さに頼りすぎるのもよくないからな!」


「やっぱりそうですよね」


「そうじゃ。お主も余裕が出来て、しっかりと自分の剣を持つ時が来たら、そのことを忘れるなよ」


「はい!」


「それでよし。では……というよりもうそんな感じになっておったが、しばらく休憩じゃ。その後また粗悪品の剣をぶち壊すとしよう!」


「目的、違くなってません?」


 二人は椅子に腰掛け、適当に用意したお茶を交えて休憩を始める。

 その最中、グレドは有原に質問する。


「なあ祐。お主はこれまでの特訓を経て、無事、かつての汚点を――誰かを助けたいのに、そのための力がなかったこと――を変えられたと思っておるか?」


「そうですね……やはり真壁さんと会ってみないと、という部分があるのでハッキリとは答えられませんが、概ね出来たと思います」


「そうか。『概ね』か……まだ何か納得いかない部分があるのか?」


「はい。未だにグレドさんには勝てていないことと、それに最終奥義『虚剣』もまだ会得できてないことなどですかね……」


「ああ、そうか。そういえば『虚剣』がまだじゃったな……祐」


 グレドは普段のひょうきんさを押さえて、真剣な面持ちで有原へ顔を向ける。

 そしてグレドは頭を深く下げた。

「すまん。実は、『虚剣』というスキルは……存在しない」


「え……」


「儂がお主のモチベーションを上げるためにと、何か修行のゴールのようなものがあればいいと思って……それが名前だけの最終奥義『虚剣』じゃ。だからお主は勿論、儂でも『虚剣』を使うことはできないということじゃ」


「……そうでしたか」


「すまん。せっかく期待しておっただろうに、こんなしょうもない嘘をついて……」


「いえ、いいんです。グレドさんなりの配慮だっていうのなら、それはそれで嬉しいです。それになんか、そういう最終奥義! みたいなものに闇雲に頼るのもよくない感じがするので……」


「そうか。であれば良かった……ということにしよう」


「それでいいんです。とにかく今は、グレドさんから教わった三つのスキルと、剣術を極めて、まずグレドさんから一本取りたいと思います」


「そうか……すまん祐、もう一つ、あまり前向きではないことを言っていいか?」


「もし儂との修行が無駄だったとしたら、儂のような老いぼれなど、いくらでも貶して構わないからな」


 有原は微笑んで言う。

「そんなことしませんよ。グレドさんとの修行の日々は決して無駄じゃないですから……根拠はないですけど」


「そうか、ありがとう……祐。では、それの根拠が出来るように、そろそろ試合再開といこうか!」


「はい!」


 休憩を終えて試合を始めるべく、二人は椅子から立ち上がる。

 この時、


「ちょっと待て!?」


「はい、あ、やっぱりまだ休憩を……」


「違う祐、何か面妖な気配がする!」


 そうグレドに言われた有原は四方八方へ目をやりつつ、耳を澄ましつつ、その気配の源を探る。


「!? あれですか!?」

 有原は十数メートル上空で飛行する、高貴な光を湛えたグリフォンを指さした。


「間違いない、あれじゃ! あの魔物、邪神のそれとは気配の類が違う!」


「た、確かにあれは魔物の邪悪さというよりも、そこはかとなく神聖さが……はっ、あの人は!?」


 グリフォンは有原とグレドのいる場所へと、ゆっくりと高度を落として飛んで来る。

 そしてグリフォンは着陸すると、


「ごきげんよう。お久しぶりですね、有原級長」

 自然と先が巻かれた、高貴な雰囲気の紺色の髪を持つ、目鼻の整った美少女が、その背から優雅に降りた。


「祐、何じゃこいつは」


鳥飼とりかいかえでさん。僕と一緒にこの大陸に来た三十六人の一人で、あの真壁さんの仲間です」


 鳥飼とりかい かえで

 真壁グループ創業メンバーの一族であり、彼の父親は先祖と社長一族の関係を現在まで受け継ぎ、真壁グループ現社長の右腕として活躍している。

 その関係を受け継ぎ、彼女は真壁一派の核としてクラスでは知られている。


 鳥飼は食い気味に言い、有原の言葉を訂正する。

「違います。真壁様から一番の信頼を得る誉れ高い腹心でございますわ。周りからあたかも都築つづきがナンバー2のように思われていますが、家柄と付き合いの長さは都築を遥かに上回りますわよ」


 グレドは一瞬後ろ――ディアジンギの邪結晶を保管している家――を向いて、

「そうか。前にお主が言った通りになったのか」


「恐らく。あれを探知して来たのでしょう……」


 有原は鳥飼へ向き直し、

「鳥飼さん、貴方はどういう目的でここに来たんですか?」


「『どのようなご用事でいらっしゃったのですか?』……せめてこう尋ねてくださいませ。貴方とわたくしとでは、どれほどの立場の差があると思っているのでしょうか?」


「なんか、高飛車な娘じゃのう……」

 鳥飼はどこからともなく取り出したナイフを、無礼者への制裁として投げつける。


 グレドがナイフを剣で斬り落とした後に、鳥飼は『やれやれ』と言わんばかりにため息をついてから、さっきの有原の問いに答える。

「その程度のこともわからないのでしょうか? 一ヶ月も老いぼれの介護をしていたから、頭が回らなくなったのでしょうか? それは勿論『あなたの抹殺』ですよ」


「……やっぱりそれですか。結果的にですが、僕がミクセス王国から去って、今頃軍の実権を手にしてるはずなのに、それでもまだ僕を殺したいのですか?」


「言わずもがな、ですわ。真壁様は一度誤った人間は徹底的に処罰する、道徳心溢れるお方ですので。特に、重い重い罪を犯したものは、ですね……!」


 鳥飼は二度手を叩いて合図する。

 と、グリフォンから純白のローブを羽織った何者かが降りてきて、鳥飼の真横に立つ。


 刹那、鳥飼はローブの人物の顔面を肘でどつく。


「無礼者! 下僕が主の前以上に許可なく立たないでくださいませ!」

 

 ローブの者は素早く三歩後ろに引いた。


「御託はここまでにいたしますわ。私は一秒でも早くミクセス王国に帰り、有原の首を真壁様に届けたいので……よろしく頼みますわ」


「……」


 鳥飼はローブの者の背に蹴りを入れて、

「返事しなさい! このグズが!」


「……はい」

 と、返事した後、その者はローブを脱ぎ捨てる。

 そして少女は鎧で武装した小柄な身体と、栄光を帯びたように煌めく青銀色のショートヘアーと、何もかもに絶望して淀んだような瞳を、有原とグレドに見せる。


 グレドは少女を見てまず、青銀色の髪などから放たれる不思議な雰囲気に触れる。

「あの娘も奴の仲間か?」


「はい……『武藤むとう 永真えま』さんです。見ての通り背は小さめなんですけども、運動神経が並外れて高い人、そして無鉄砲でとても明るい人です……なのに」


 有原は武藤の佇まいから発せられるものから察した。

 武藤は自分がいない間に、大変な苦難を味わい、絶望した。と。


 故に有原は構えた剣を目一杯握った。この時点で真壁への義憤を燃やさずにはいられなかった。


 その有原の義憤に燃える様を鼻で笑った後、鳥飼も鳥飼なりに有原を分析する。

「多少発される圧が強くなったような気がしますが、【神寵】にはまだ目覚めてないようですね。やはり負け組はいつまでたっても負け組なのでしょう……さ、あんな愚民、さっさと殺してください、武藤」


「……はい」


 武藤は右手を握って前に突き出し、

「【神器錬成:クラウ・ソラス】」

 無から広い身幅の刀身に幾何学的な文様が刻まれ、そこから青銀色の光を放つ剣――【クラウ・ソラス】を錬成して手に取る。

 そしてすぐ、鍔の下部から光属性エネルギーを噴出し、その勢いで有原へ突進する。


「何故ぼさっとしているのです? あなたも戦いなさい」

 同時に鳥飼からの指示を受けたグリフォンも、有原めがけ滑空する。


 武藤とグリフォン、二方からの同時攻撃が有原へ迫る。

 その最中、グレドは尋ねる。


「祐。今こそ『誰かを助ける人』になるべきだと思っておるか」


「ええ、そのために僕はここまで来たんです!」


「なら、あの魔物と後ろの高プライド小娘は儂に任せろ! お主は……武藤を助けてやれ!」


「はい、ありがとうございます!」


「その意気や良し! では、期待しておるぞ、お主の集大成がここに実ることをな!」


 グリフォンが振り下ろした前足の爪を、グレドは剣で受け止め、軽々と押し返す。


 その時、有原は、

「【疾槍】ッ!」

 足裏から魔力を噴射し、武藤との間合いを一気に詰める。


 武藤は刃をコーティングするようにクラウ・ソラスから光属性を放った状態で、

「【トゥアハ・グローリー】!」

 剣の大きさを物ともせず、豪快に有原へ振り下ろす。


「はァッ!」

 だがそれよりも早く有原は武藤の胴に剣を叩きつけ、彼女を押し飛ばした。


「ボクの剣が遅れたッ!?」


 神寵に覚醒し、相応のステータスが向上している自分が、無覚醒の有原に負ける。

 その事実に驚きを隠せない武藤へ、有原は言った。

「……鳥飼さんの言う通り、僕はまだ神寵に覚醒していない。けれども、それに追いつくだけの腕はここで身につけてきた! だから安心して……今なら貴方も助けてあげられるから!」


【完】

話末解説


【第29話】

■詳細説明

【武器について】

 大陸においての武器は、装備と同様に格式張った枠があるわけではない。物理的に可能な限りは好きなように装備できる。当然、自身のジョブなどの適性に合わせて武器を選ぶ必要はあるが。

 また、こちらも装備と同様、各武器に『攻撃力10%アップ』というような補助効果は基本ない。

 ただし、【神寵】覚醒者が得るスキル【神器錬成:〇〇】などで錬成できる武器など、一部の武器には一風変わった効果がある場合もある。

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