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第23話 新スキルを会得せよ!

 グレドからスキル【威盾いじゅん】と【疾槍しっそう】を教わって以降、有原は、その出力を制御できるようになるための修行に励んだ。


 しかし、ジョブ【勇者】として『魔法攻撃力が比較的高い』という壁は思うように乗り越えられない。

 有原は何度も【威盾】の失敗で尻もちをつき、何度も【疾槍】の失敗で何度も何かに激突した。


「うーん。やはり、【魔術師】も【勇者】も、魔法がガッツリ扱えても、極限まで威力を抑えることはできんのか?」


「はい、そうみたいですね……」


「では魔法攻撃力を落として……とはできんよな。じゃあひとまず、色々試してみようか」

 

 有原はグレド監修の元、普通の魔法の練習をしてみたり、根本的に身体を鍛えてみたり、瞑想で集中力を向上させたりしてみた。


 そして一週間後。有原は盛大にコケたし、木にも激突した――いろいろ試した結果、改善は出来なかった。


 椅子に座ってその様子を見ていたグレドは、流石に一週間も時間を無駄にさせたことを申し訳なく思った。

「すまんのうたすく、あれだけ色々指図したというのに、何の成果にも繋げられなくて」


「グレドさんは、謝らなくていいんです。これは、僕が【勇者】だからこその問題ですから……」

 そうグレドに返した後、有原は【威盾】を試した。そしてまたコケた。


「はぁ、ここにきて【勇者】が裏目に出るなんて……」


 グレドは自分の隣にもう一つ椅子を用意して、

「祐、ちょっと儂の話でも聞き流しながら、休憩しないか?」


「あ、はい!」


 有原がすぐ空いた椅子に腰掛けてすぐ、グレドは彼にこう問いかけた。


「お主はジョブ【勇者】となったことに満足しているか?」


「満足……というほど腑に落ちてるわけではないですけど、嫌なわけではないです。強いていうと【格闘家】になってドッカンドッカン敵を殴り倒したいとは思ってますが」


「そうか……生まれつき定められたもので、最初に自分が何なのか知った時は不満に思うこともあるが、成長するにつれて『これで良かった』と思えるようになる。ジョブとはそういうものじゃ」


「なるほど」


「じゃから、あくまでどうともならなかったらの話じゃが。本当に無理なことはせず、他の方法を探ってみるのもまた一つの手じゃぞ」


「……わかりました。なら……」


 有原は椅子から立ち上がり、前方の広さを確認して、

「【疾槍】! ……どふッ!」

 またどこかの木に激突した。


「ほう、まだ続けるのじゃな。無理かもしれないと言ったばかりなのに……」


 有原はヨロヨロと元の位置に戻りながら、

「このスキルは元々、普通の【戦士】では出来ないスキルだった。なのに、グレドさんは出来るようになったんですよね? 不可能を可能にして見せたんですよね……?」


「ああ、そうじゃ」


「……よくよく考えれば、僕が使命にしてる『助ける』っていうことは、誰かの不可能を肩代わりして可能に変えることだと思うんです。だから、僕もそうあるために、不可能を可能にして見せます!」


「その意気や良し! じゃが、かれこれ一週間様々な特訓をしてもなお成功しなかったが、何か打算とかはあるのか?」


「『全力で頑張る。そうすればきっと道は拓ける』……この言葉の通りに頑張り続けます!」


 有原は再び剣を構えて、

「【疾槍】! ……ぐほぁ!」

 またしても木に激突した。


「何度でも、何度でも……誰かを助けられる人になるために……」


「祐……お主、生粋の勇者であるな……」


「【疾槍】! ……ぐわぁ!」

 

 グレドは何度も木に激突する有原を見て自分の若い頃を想像し、彼から希望を感じた。


「何度でも……何度でも……」


「ああ、何度でも頑張れ、祐! ……ところでじゃが、さっきの言葉は一体誰のものじゃ?」


「ハルベルトさん……っていう、ミクセス王国の騎士団長の方です! 大陸に来てからずっと、右も左もわからない僕たちを指導してくれました!」


「そうか……よくぞ覚えていたな……祐、お前もその言葉、ゆめゆめ忘れるなよ!」

 と、グレドは有原に返した後、

「……今はミクセス王国にいるのかハル坊……」

 こうそっとつぶやいた。


 グレドの言葉、ハルベルトの激励、飯尾と内梨と篠宮と海野との友情、槙島や畠中を助けられなった無念、木曽先生の献身、父親との約束――これらを繰り返し脳裏に浮かべながら、繰り返し転倒し、繰り返し木に激突した。


「もっと魔力の流れを意識するんだ、微細なところまで操れるようにするんだ。そのコツさえ掴めれば……」

 けれども有原が傷つく度に、失敗時の勢いは衰えていった。自分自身の過ちを超える……その一心が、彼を一歩一歩成長させた。


 そして、すっかり日が暮れる頃。


「おーい祐。もうとっくに晩飯の時間じゃー! 今日のは自信作じゃから冷めないうちに食べてくれー!」

 グレドがお玉二つをぶつけてカンカン音を鳴らしながらそう呼びかけると、


「はい、すぐ行きます! 【疾槍】ッ!」

 有原は瞬間移動めいて高速でグレドの元に戻り、有言実行してみせた。


 グレドは目をこすり、何度も目の前に有原がいることを確認た後、二つのお玉のどちらがボロっちいか見比べて、

「お、お、おーっと手が滑ったー!」

 片方のお玉を有原めがけわざとらしくぶん投げた。


 これくらいなら足さばきで簡単にかわせる。だが有原はこの意図を読み取り、あえて、

「【威盾】!」

 地面を思い切り踏み、魔力の壁を作って反らした。


「……お主、ついにやったのか……!?」


 有原は目頭を熱くしつつ、思い切り笑って言った。

「……はい、ようやく魔力放出量の調節のコツを掴んで……はぁいッ!」


 グレドは有原と肩を組んで、彼以上にガハハハと笑った。

「やはりやれば出来るではないか、祐!」


「よおし、言いたいことは山程あるがとりあえず今はこれだけ言わせてくれ……早く晩飯食おうか!」


 そこは『おめでとう』とかではないのですか? と、普通の有原ならツッコむべき所なのだが、今の彼は体がズタボロ、腹はペコペコの満身創痍状態なので、

「はい、ありがとうございます!」

 余計なことはせず、すんなり受け入れた。


「よし、じゃあ早く家に入れ! 今日の献立は、最近川近くの村に魔物退治に行った時に捕れた『魔物シャケのグラタン』じゃあ!」


 グレドは有原を家まで引っ張ろうとした。が、有原は、『魔物』の二文字を聞いた途端、無意識に【疾槍】を使い、グレドと距離を取っていた。


「……あの、習得間もない時に言うのも悪いが、そういう使い方はやめてくれんか? 儂悲しくなるぞ」


「ご、ごめんなさい……」



 翌日。


 有原は会得したての【威盾】と【疾槍】を活用することを念頭において、グレドと立ち会いをすることになった。


 試合開始時、今回は特別に弓を構えたグレドは、有原へ向けて三矢立て続けに射る。


「【威盾】ッ!」

 もちろん有原は魔力の壁の展開で矢をいなす。そこから有原は普通に走ってグレドとの距離を詰める。


 グレドも有原を迎え撃つため駆け出す。その瞬間、

「【疾槍】ッ!」

 有原は高速移動し、グレドとの距離を詰めた。


(ほう、タイミングをずらしての【疾槍】で油断させてきたか……やりおるの)


 グレドは駆けるために若干構えを崩していた。そこへ有原は素早く木刀を振りかざす。 


「だがこの程度じゃあ儂の隙は突けんぞ!」

 しかしグレドは有原の剣筋を一瞬で見切り、己の木刀で受け止めた。


 そこから有原とグレドは、

「【疾槍】ッ!」

「【疾槍】ッ!」

 離れ追いかけを繰り返し、立ち位置を転々とさせつつ剣戟を繰り広げた。


「ほれどうした祐! 遠慮せずにそろそろ一撃くらいくれてみせい!」


「わかってますよ!」


 どこでもいい。有原は自分の木刀をグレドのどこかに叩きつけようとした。けれどもグレドは自分の一歩先を行き、全ての攻撃を防御してしまう。


(どうにかしてグレドさんの守りを崩さないと……)

 そう有原が考え出した矢先、


「ならば手本を見せてやるぞ! 【崩槌ほうつい】!」

 グレドは強く握った木刀の柄を有原に向けて突き出す。


 有原は刀身を向けて防御姿勢を取る。

 しかし身体の前面すべてに謎の衝撃を受け、構えを崩し後方へよろめいた。

 

 グレド考案の三つ目のスキル、【崩槌】。

 柄を握る手の周囲に魔力の塊を作り出し、それを相手に押し付け炸裂させ、衝撃波を引き起こす。

 粗末な魔力の塊のため、威力はあまり期待できないが、命中時の衝撃は相手の体勢を崩すには十分である。


 グレドは両腕を開き、防御がままならない有原へ突きを繰り出した。

「【威盾】ッ!」


 有原は地面を一度踏んで魔力を地面から噴出させる。グレドの一閃はこの流れに若干取られ、数センチほど軌道が上へずれた。


 有原は腰を反らせて、眼前でグレドの刀が過ぎるのを見た後、

「【疾槍】ッ!」

 後方へ高速移動し、七メートルほど距離を空けた。


「【疾槍】!」

 グレドも高速移動で有原を追随する。


 グレドの腕前からしてこうなるとは有原もわかっていた。

 だから有原はグレドが来るまでの一瞬で構えを正し、グレドの剣を受け止めた。

 そして再び立ち位置を次々に変えながらの剣戟が始まる……と思いきや、


「【崩槌】ッ!」

 グレドの一太刀が迫る最中、有原は空けた左手に魔力の塊を纏わる。それをグレドの胴めがけ突き出し、衝撃波を放ち当人をよろめかせた。


「なっ……【疾槍】!」

 グレドは魔力を足裏より噴出し後方へ避難。その寸前に彼が立っていた位置の空間へ、有原は虚しく突きを繰り出していた。


「遅かったか……」


「……よし、一旦終いじゃ、祐!」


 試合終了を告げた後、グレドはその辺に木刀を置いて、今回の試合を統括する。


「まず、よく一度見ただけで【崩槌】の使い方を理解したな、すごいぞ!」


「ありがとうございます。なんとなく魔力がぶつかったのを感じ取ったので、そこから理屈を考えて、見よう見まねで真似してやってみました」


「流石じゃ祐! やはり魔力調節のコツを掴んだ甲斐があったな! ……じゃが、今も出力がいくらか余分な気がするな。

 それと、儂のスキルに頼りすぎるのもよくないぞ。さっき【威盾】で儂の突きを避けようとしていたが、【威盾】は近接攻撃の防御にはあまり向いておらんからの。

 だから今後は様々な面での鍛錬も忘れぬように……もっとこの三スキルを極めれば、儂の武術の集大成にして至高の奥義『虚剣』が使えるようになるからな!」


「『虚剣』……わかりました、頑張ります!」


「その意気や良しじゃ! では、休憩したらもう一戦いくぞ!」


「はい、お願いします!」


 こうして有原とグレドの修行は一つの段階を突破した。

 次なる目標は奥義『虚剣』。有原はそれを会得し、ミクセス王国への帰還を夢想する。


「……ところでグレドさん。一つ質問していいですか?」


「ああ、どんとこい」


「グレドさんの三スキル――【威盾】、【疾槍】、【崩槌】って、元は剣術の補助のために考えたものなのに、どうして全部『剣』以外の武器の名前が入っているんですか? なんだか、自分で詠唱してて紛らわしいと思ってまして……」


「あ〜、それはじゃな〜……儂の『剣こそが武器の頂点』という信念を込めたからじゃ」


「そうですか。いい意味が込もってますね」


「そ、そうじゃろ……! ガハハ……」


 若い頃に自分を打ち負かした相手への八つ当たりとして、その相手の得物をスキル名に入れた。

 そんな情けない理由は決して言えないグレドであった。


【完】

【第23話】

■詳細説明

【体力・魔力・スタミナを回復させるには】

 体力に関しては回復魔法でできる。

 三つに共通して言えることは自然経過に加えて、ポーションなどのアイテムを摂取するか、食事を摂ることでも回復できる。

 やはり手っ取り早いのは回復効率のいいポーションや薬草だが、状況に余裕がある時は食事のほうが心身面においての回復もできるのでオススメである。

 なお、料理は美味しければ美味しいほど回復量が多くなる。が、だからといって不味すぎるとマイナスの値が来るというわけでもない。つらいけど。

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