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第122話 王たちの進撃

 邪神を倒すため、そして槙島の暴走を止めるため、ミクセス・ファムニカ王国連合の邪神討伐軍と共にヒデンソル王国王都へ攻め入った有原ら界訪者たち。


 その行く手を阻み、復讐を果たすため、中央部の王城で待つ槙島は八体の【英霊エインヘリャル】を召喚した。


 その内の二体、徳川家康とエイブラハム・リンカンが、有原と海野に撃破されたのと同時刻。

 

 八つある、王都第三層から第二層へと通じる門の一つ――真北側にある門の付近にて。


「【トゥアハ・グローリー】!」


 武藤は視界に広がる暗黒兵の大軍めがけ、光を帯びて刀身が伸びた剣――神器【クラウ・ソラス】を右から左へ一文字に薙ぐ。

 暗黒兵は次々と光の刃を受け消滅し、武藤の視界から黒が消えていく。


 だがその漂白の最中、光の刃は武藤の視界の中央で止まった。

 

 赤いマントに綺羅びやかな王冠と、高貴に満ちた出で立ちの王――【英霊】アーサー王が、腰に佩いた剣の鞘より円形の光のバリアを展開し、武藤の光の一刀を受け止めたのだ。


 やがて【トゥアハ・グローリー】の勢いが衰え、クラウ・ソラスの刃が元の長さに戻る。

 その時、アーサー王はゆるりと腰の剣を引き抜く。


 その刀身は太陽の光を吸い取り増幅したかのように、自ら激しく煌めいており、鍔や柄の黄金色の豪華な装飾も相まって、まさしく『王の剣』にふさわしかった。


 アーサー王は腰をひねって王剣を後方に回して力を溜め、横薙ぎに振るう。


 王剣は聖なる光を帯びており、刃が何倍にも延長されていた。先程の武藤の一撃の鏡写しどころではすまされない力がその一刀に宿っていた。


「負けるかー! 【ヴァハ・ガード】!」

 武藤は迫る王剣へクラウ・ソラスの刀身を向け、これから光属性エネルギーを噴出してバリアを成す。


 直後、王剣の光刃は武藤の光のバリアにぶつかる。バリア越しでもなお、凄まじい衝撃が武藤に伝わった。

 彼女は全身を震わせ体勢を崩しかけ、バリアの展開を止めてしまいそうになる。


「ぐぐ……【アガートラム・エンハンス】!」


 もう少し後まで温存したかったが、武藤は右腕に装甲めいた光のオーラを纏わせ、自らの力とクラウ・ソラスの光の出力を向上させる。


 これにより武藤はアーサー王の一撃が止まるまで、バリアを展開し続けられた。


 横薙ぎを止め切られた直後、アーサー王は周囲の暗黒兵へ無言で命じ、武藤へ突撃させる。

「次だ、次こそは倒してやる! うりゃー!」


 対して武藤はクラウ・ソラスの鍔の下部から光を噴出させて猛加速し、こちらも突撃する。


 近づく暗黒兵を草を刈るように撃破して、アーサー王との間合いを詰め、武藤はクラウ・ソラスを振り落とす。


 だがアーサー王は腰の鞘から再び円形のバリアを展開して、武藤の一撃を受け止める。


 武藤の攻撃はまだ終わらない。

 突進からの攻撃が防がれるや否や、武藤はクラウ・ソラスの光属性の噴出で空へ舞い上がり、


「【トゥアハ・グローリー】!」

 光の長大な刃を纏わせたクラウ・ソラスを、アーサー王の頭上から一気に振り下ろす。

 しかしこれもまた、アーサー王のバリアを突き破ることはできなかった。


 バリアの中で、アーサー王は王剣を握っておらず空いている左手から、光の槍を作り出す。

 アーサー王は光の槍を顔をしかめている武藤へ、バリア越しに押し付ける。


 するとバリアより武藤へ極大の光線が放たれ、彼女はダメージを負い、勢いよく地面を転がった。


 付近で暗黒兵と相手していた兵士が武藤を心配し、声を掛ける。

「だ、大丈夫ですか、武藤殿!」


「だいじょーぶ!」

 武藤は軽やかに立ち上がり、その兵士が戦っていた暗黒兵を軽々とクラス・ソラスで突き飛ばす。


「こんなのじゃまだまだボクはへこたれないよ……だってまだ有原さんの夢を叶えられてないから!」

 

 武藤はクラウ・ソラスを構えつつ、光のバリアの中にいるアーサー王を見据える。

 アーサー王は左手に光の槍を作り出し、再びレーザーを撃とうとしていた。


「次で最後だ……結局有原さんの【虚剣】はボク一人じゃできなかったけど、ボクはボクで覚えた『とっておき』を見せてやるッ!」


 武藤は右腕の装甲状の光を輝かせ、クラウ・ソラスの鍔の下部から光属性エネルギーを猛烈に噴射させて突進する。


 アーサー王は光の槍を真正面から迫る武藤を狙い、バリアに押し当てる。

 その寸前に武藤はアーサー王との間合いを可能な限り限界まで詰めた。そこから武藤はクラウ・ソラスを下段で構えて、地面を裂きつつ一気に振り上げる。


 クラウ・ソラスの強烈な振り上げが当たった途端、光のバリアはガラスのように破片を散らす。当然レーザーも中断される。


 武藤は無防備となったアーサー王へ、この勢いのまま斬り上げる。

 アーサー王は王剣に光を纏わせ、足元から迫る光の剣を受ける。


 武藤の攻撃の強烈さからアーサー王の剣は上へ持ち上がっていく。しかしアーサー王は不屈の精神をもってして、王剣にさらなる輝きを放ち、武藤の攻撃を押し返す。


「こっちだって……絶対諦めないぞぉーッ!」

 だが武藤の不屈の意地はそれを遥かに上回った。

 武藤のクラウ・ソラスの光刃はより剛烈に煌めき、アーサー王の防御を剥がしていく。


 武藤の渾身の一撃を受け続けた王剣は、激しい相克に耐えかね、無情にもへし折られる。


「これがボクの本気だぁーーッ! 【カラドボルグス・ヴァリアント】!」

 

 そして武藤はアーサー王を空中へと持ち上げ、そこで縦一閃に光の剣で両断して撃破したの。



 ヒデンソル王国王都。第三層と第二層を区切る防壁の、北西門付近にて。


 そこは他の地点とは違い、戦場らしい兵士たちの雄叫びよりも、そこにあった建物の倒壊する音の方が轟いていた。


 その原因はここに放たれた【英霊】にあった。


 隆々とした筋肉を湛えた、通常の馬の倍近い図体を誇る荒馬『ブケパロス』に跨り、一帯を縦横無尽に走り回り、二本の槍を傍若無人に振り回し敵味方問わず破壊の限りをつくす、勇猛にして苛烈な王ーー【英霊】アレクサンドロス三世によって。


「あんな奴ほっといたらこの戦いが全部おしゃかになる……そんなことさせないっての!」


 その近辺にいた三好は被害を食い止めるべく、建物の壁を連続して蹴ってアレクサンドロスを追う。


「【ヴェーダ・ジェネレート】!」

 最中、三好は闇属性エネルギーで鎖鎌を作り出し、一端についた鎌をブケパロスの鎧に食い込ませる。そして鎖を縮小させて一気に乗り手の王へ接近する。


「【ガルーダ・ストライク】!」

 アレクサンドロスを目前とした時、三好は右足に闇属性エネルギーを纏わせ、相手の首めがけ跳び蹴りを繰り出す。


 アレクサンドロスは二本の槍を同時に振るい、怪力によって三好を逆に吹っ飛ばす。


 だが三好の手にはまだ鎖鎌がある。彼女はそれを延長しながらも掴み続け、ブケパロスの暴走についていく。


 三好は再び鎖鎌の鎖を短くしてアレクサンドロスへ最接近する。

 激突の直前、三好はアレクサンドロスの両側面にそれぞれ一体ずつ、闇属性で作った分身を作り出し、

「【アヴァターラ・ブリッツ】!」

 三方向から一斉にアレクサンドロスを強襲する。


 しかしアレクサンドロスは勇猛ながらも冷静に一対の槍を振り回し、二体の分身へ反撃を与えて消滅させ、三好本人へ向かって二本の槍を振り下ろす。


 三好はこれを空中で体をひねって巧みに回避しつつ、強引気味にアレクサンドロスの方へ飛び込み、ブケパロスの背上に乗る。


 そこで三好は予め持っていた左手の闇属性製の短剣に加えて、右手にも短剣を作り出し、

「【ターンダヴァ・フューリー】」

 五月雨の如き勢いで一対の短剣で乱れ切りを繰り出す。


 だがこれもアレクサンドロスは防いだ。一対の槍をかざしたのと、自身の計り知れない強靭な肉体を信じて。


「うっそ、こんな至近距離であの連撃を……ッ!」


 アレクサンドロスはブケパロスの背を一度蹴る。

 その合図を受けた荒馬ブケパロスは加速して、さらに王都内を暴走する。


 これによる激しい振動で、ブケパロスの背上に立つ三好は足元をふらつかせる。


 そこへアレクサンドロスは一対の槍を、彼女をハサミで両断するかのように左右から振るう。


 三好はそれを避けるべく、地面を蹴ってブケパロスから降りる。

 しかしブケパロスのまさしく荒馬らしい凄まじい走りにより、三好は結果、馬上から投げ出されるような形となって、地面に身体を強く打ち付けてしまった。


 アレクサンドロスはブケパロスへ合図し、巧みにUターンし、その進路を三好の倒れる地点へと重ねる。言うまでもなく、三好を蹄跡にするためだ。

 

「クッソー、こんなことになるんだったら飯尾さん辺りから受け身くらい習っとくべきだったなぁ……」

 落下の衝撃による全身の痛みを堪えつつ、三好は両手を地面に突いて、ゆっくりと立ち上がる。


 そして轟々と足音を立てて迫り来る荒馬を見るなか、三好は突然と首を横に振った。

「いけないいけない。アタシったらそんなしょうもない後悔なんかして……」


 三好は思う。


 自分が今こうして勇敢に戦えているのは、かつて真壁への反抗を決めた時、『いい結果も悪い結果も受け入れていく』と覚悟したからだった。


 しかし今は少し違う。


(あの時はただがむしゃらにそうするしかないくらい弱虫だったけど、今は背負っているものと、蓄えたものが違う! 今のアタシは、友達のためにも自分のためにも、悪い結果を減らして、いい結果に変換するんだ!)


 と、心中で叫んだ三好は、アレクサンドロスの進路に堂々と立つ。


 そこで三好は両手から闇属性を放ち、右手側には三叉の槍を、左手側には直径五十センチほどの刃の輪を生成して側に浮かせる。


 戦車を引く荒馬ブケパロスを怯えさせるほどの威圧を放ちながら、三好は両横に浮かぶ武器を嵐の如く回転させつつ、アレクサンドロスへ駆けて迫る。


 ブケパロスは主人を守るべくさらに加速して、両前脚を上げ、三好を踏み潰さんとする。

 しかし三好は軽やかに跳躍してブケパロスを飛び越し、その後頭部を思いっきり蹴って、その乗り手であるアレクサンドロスに迫る。


 アレクサンドロスは両手それぞれに持った槍を、戦車の車輪の如き勢いで回転させて、三好に押し付ける。

 だが一対の槍は、三好よりも前に、両脇に浮かんでいた三叉槍とチャクラムと激突する。

 

 するとアレクサンドロスの二槍は、三好の二つの武器と相打ちで砕け散り、その反動で当人の両腕も傷つく。


 刹那、三好は両手それぞれに構えた短剣に、未来を創造する希望と、友情を維持する意思と、困難を破壊する覚悟、それらをまとめて詰め込むように、強く強く握り、

「【トリムルティ・ディザイア】!」

 怒涛の如くアレクサンドロスへ無数の切り傷を刻みつけた。


 三好がブケパロスの背上から降りた直後、彼女の背後からブケパロスの悲しげないななきが響いた。

 こうしてアレクサンドロスは破壊された街の中で、愛馬諸共消滅した。



 第三層と第二層に通じる真西門付近にて。


 数多の獣の毛皮を縫い合わせて作ったマントを羽織り、斧と剣の変則二刀流で構えるヴァイキング――ラグナル・ロズブロークは、狂戦士そのものに衝動的に暴れまわり、ミクセスとファムニカの兵士を傷つけていた。


「【ライフ・グレイス】!」


 そこに居合わせていた内梨は負傷兵を次々と直し、一切の犠牲を出さないように努めていた。


「ありがとうございます、内梨様!」

「これならまた戦える! いくぞ!」

「皆どんどん行けー!」


 これ以上ラグナルに暴れさせないため。この真西門付近を制圧するため。そして内梨を守るため。数十人の兵士たちは次々とラグナルへ挑んだ。


 さらに、

「そろそろいけますね……【神器錬成:勝利の剣】!」

 内梨は、自立行動する赤い剣士の鎧――神器【勝利の剣】を召喚し、兵士たちの護衛とラグナルの撃破を命じる。


 ラグナルは剣と斧を効率性など一切考慮せず、乱暴な太刀筋を次々と描く。

 それでも一撃一撃の威力に関しては十分どころか非常に強烈であり、向かってきた兵士は次々とダメージを受けて、紙切れのようにふっとばされた。


「【ライフ・グレイス】!」

 内梨は素早く回復を行い、傷ついた兵士たちを次々と癒やす。


 最中、ラグナルの相手を、勝利の剣が引き受ける。

 勝利の剣は繊細で力強い剣技を繰り出し、ラグナルを攻める。


 しかしラグナルは力一辺倒な攻撃を連打し、それを超えていく。勝利の剣はじわじわと損傷し、劣勢に追い込まれていた。


「そ、そんな、内梨様の神器でも敵わないなんて……」

「俺たち、もうダメなのかな……!」

「ごめんなさい内梨様……俺たちがお役に立てず」

 

 勝利の剣の劣勢模様に比例して、内梨に集まり回復魔法を受ける兵士たちの中から弱音を漏らすものがちらほらと現れる。


「諦めてはいけません!」

 そこで内梨は勇気をもって大きな声で叫ぶ。


「たとえ勝てなくても、私たちは負けないようにすればいいんです! そうすればきっと祐さんや護さんや隆景さん……とにかく誰かが途中で駆けつけてくれるはずです!

 だからそれまで、私たちはあの人を食い止めましょう!」


 一人の兵士は言う。

「そうか、まだその手があったか! けど、俺たちなんかでそこまで耐えきれるかな……」


 内梨は自信満々に返す。

「安心してください、私がいます! 私が何万回でも回復して皆さんを回復してあげますので……あ、でも、それは……すみません、それだとひょっとしたら皆さんお辛くなりますよね……」

 そして途中で自信をなくしてうなだれた。


 すかさず兵士たちは次々と、内梨へ威勢よく言った。

「いえ、大丈夫です! 内梨様が諦めないからには、僕たちも簡単には死ねませんから!」

「守るべき人の盾となって戦う……それが俺たち兵士の努め! 辛いもクソもございませんのでご安心を!」

「それに、回復する回数も百回以下で収まると思いますよ! だって内梨様のお味方は優秀ですから!」


「み、皆さん……わかりました! ではお言葉に甘えて……助けが来るまで頑張りましょう!」


 その時だった。ラグナルの相手を引き受けていた勝利の剣は半壊状態で内梨の方へと蹴飛ばし返却された。


「一人で頑張らせてすみません、勝利さん。一旦休んで大丈夫ですよ」


『ありがとう、美来さん……』


 勝利の剣は内梨の傍らで、剣を足の前に突き刺しつつ棒立ちし、一時機能停止する。


 そして内梨は辺りにいる兵士数百人へ言い放つ。


「では皆さん! あと数十分、数十分だけお願いします! 私の仲間が来るまで、あの人を押さえてください!」


「「「おう!!!」」」

 と、兵士たちは一同に返事した後、勇敢にラグナルへと突撃する。


「いいや、一分もいらねえよ!」

 刹那、才気と初々しさ溢れる少年が兵士たちとラグナルの間に着地し、

「【裂空脚】!」

 すぐさまラグナルへと跳び蹴りを放つ。


 ラグナルは咄嗟に剣と斧を交差させて防御。そして数メートル後ろへ押し退かされる。


「こんだけじゃ甘いよ! 【旋刈脚】!」

 その先で、横から血気盛んな少女の回し蹴りを受ける。


 こうしてラグナルは右にあった建物の壁にめり込んだ。


 兵士たちがどよめく中、内梨は驚喜を押さえきれないまま言う。

「あ、あな、あなた……エストルーク王子とエスティナ姫!」


「「そうだ!!」」

 エストルークとエスティナは、ひとまず内梨の元へ駆け寄った。


「こんな私を助けに来てくださるなんて……ありがとうございます、王子、姫!」


 エスティナはドッと笑って、

「いいんだよ別に! むしろこうできて嬉しいぞ! 片目を直してくれた恩をやっと返せてな!」


 エストルークは妹の言葉にうんうんうなづいて、

「俺もだ。本当は陽星のところに助太刀したかったが……やはり妹の恩返しをするほうが大事だからな!」


「そうですか、ならなおさら、ここに駆けつけてきてくれてありがとうございます、王子、姫!」


「あと私もいますよ」

 と、ファムニカ王族兄妹の執事、ルチザは、内梨の傍らで立つ勝利の剣のそのまた隣から言った。


「あ、ありがとうございます、ルチザさん!」


「どういたしまして……あ! それと相手が体勢を立て直しております!」


「えっ!?」

「「何!?」」


 建物の壁から抜け出したラグナルは、すぐさま内梨たちに突進する。

 エストルークとエスティナは内梨の前に出て拳を構え、ラグナルを迎え撃とうとする。


 その時、駆けるラグナルへ三本の矢が勢い良く飛んでいく。

 ラグナルは一時停止し、毛皮のマントをひるがえし、矢をそれで防御する。


 ラグナルは矢を放った射手――内梨たちの後方に現れたミクセス王国の騎士団長、ゲルカッツを睨む。


「なかなかいいタイミングであったな。なぁ、ハルベルト?」


「そうですね……ファムニカの皆様、気をつけてくださいよ」

 と、ゲルカッツの隣にいるもう一人の騎士団長、ハルベルトは言った。


「「は、はい……」」


「ハルベルトさん、ゲルカッツさん! お二方も助けに来てくださったんですね!」


 ハルベルトは内梨の元に歩みつつ、

「その通りだ、内梨殿。騒ぎを聞きつけてすみやかに来た次第だ」


 同じくゲルカッツも内梨の側に行きつつ、

「流石に直接戦闘には長けていない内梨殿に、あの【英霊】を任せるのは非情過ぎるからな」


「そうですか……ありがとうございます、ハルベルトさん、ゲルカッツさん!」


 やはり仲間を信じてよかった。と、内梨は自分の勇気を心の内で褒め称えた。


 こうして内梨の元に、ミクセスの騎士団長二人と、ファムニカの王族兄弟と執事、それから数多の兵士という心強い布陣が出揃った。


 ハルベルトは内梨にこっそりと助言する。

「では内梨殿、ここは景気づけとして、貴方から一つ号令を……」


「は、はい! では皆様! 今度の今度こそ、あの英霊を止めましょう!」


「「「「「おーッ!!!!!」」」」」


 内梨の周りにもとよりいた兵士たちは、ラグナルへと大挙する。

 ラグナルは以前と同じく、力任せに剣と斧を振り回して、兵たちへ反撃する。


 やはり英霊の力には勝てず、兵たちは次々と傷ついた。しかし、


「【ディフェンス・グレイス】ッ!」

 内梨が振りまく防御力強化の補助魔法と、その内梨の行動による士気の上昇により、先程のようにあっさりと負傷せず、退かず、ラグナルを襲い続け、何度も軽傷を刻む。


 最中、長弓を構えたゲルカッツは、最前線で戦う兵たちに叫ぶ。

「皆、後方に気をつけろ! 今から矢が来るぞ!」

 

 ラグナルはそれを聞いた途端、より激しく得物を振り回して、まとわりつく兵士を追い払う。再びマントをひるがえし、矢の防御を狙った。


 直後、兵士と兵士の隙間を縫うように、ハルベルトはラグナルへ駆けて、

「【ライトニング・ソード】!」

 迅雷の如く剣を振るい、ラグナルのマントを切り裂く。


 ラグナルは反撃として左手の剣を振り下ろすも、ハルベルトは同時に後ろに跳んで離れる。


 すかさずゲルカッツは弦を引く手を離し、

「【アロー・ブレイカー】!」

 強烈な一矢がラグナルへと放つ。


 ラグナルは咄嗟に左手の剣を振るって矢を受ける。

 これこそゲルカッツの狙いだった。矢が当たった地点はちょうど、エストルークに蹴られて傷ついた部分。この一矢によってヒビが広がり刀身は半分に折れた。


「畳み掛けましょう! 【アタック・グレイス】!」


「サンキュー内梨さん!」

「ありがと内梨様!」


 刹那、内梨から攻撃力強化のバフを受けたエストルークとエスティナが、ラグナルへと突撃する。

 二人が迫った瞬間、ラグナルは残った右手に持つ斧を、二人めがけて振るう。

 その寸前、斧はラグナルの右手から離れた。


「今です、エストルーク様、エスティナ様!」

 と、ルチザは鎖を引っ張り、その先に絡めた斧を回収しつつ叫んだ。


 そして得物を両方失ったラグナルを前に、二人は同時に力を溜め、同時に拳を突き出す。

「「【剛衝拳】!!」」


 ラグナルは二人の拳を無防備のまま食らい、後ろへとふっ飛ばされた。

 その先で、ラグナルは踏ん張り立ち続ける。逆襲のため、拳を握り、とにかく誰か敵へと駆けようとした。


 その時、ラグナルの前に内梨と勝利の剣が現れ、

「もう誰も傷つけさせません。あなたはここでおしまいです……勝利さん!」

『了解です!』

 ラグナルは勝利の剣に一閃され、ついに塵となって消えた。


 そしてミクセス王国とファムニカ王国の一同は、この勝利を引き寄せた内梨の慈愛と勇気を褒め称え、大歓声を放った。


【完】

話末解説(あるいはただの雑学)


英霊エインヘリャル

【アーサー王】


 光を放つ王剣と、鞘から展開するバリアで攻防一体の戦闘を行う高貴な英霊。

 元ネタは5世紀後半から6世紀始めにいたとされるブリテンの王。

 いくつかの史実性を証明する証拠は点在するが、伝説の人物であるというのが現状定説。しかし現代においても王としての存在感は凄まじく、紛うことなき英雄には変わりない。

 物語に寄って細部は異なるが、

 1.「引き抜いた者は王となる」と伝承されていた『聖剣エクスカリバー』を引き抜いたこと。

 2.優秀な騎士の集いである『円卓の騎士』を結成したこと。

 3.配下の騎士『ランスロット』に妃を奪われたこと。

 4.不義の子『モードレッド』に裏切られること。

 などのエピソードがよく知られている。


【アレクサンドロス3世】


 荒馬ブケパロスに跨り、二本の槍を振り回して敵味方もろとも破壊する覇道の英霊。

 元ネタは紀元前四世紀にいたマケドニア王国出身の人物。

 アジアから北アフリカまで及ぶ大規模遠征を行い、ギリシャ・メソポタミア・エジプトなどの当時の世界の主要部を全て手中に納めるという偉業を成し遂げた紛うことなき英雄。

 その基礎にはアレクサンドロス本人の指揮能力と、部下の忠誠心、兵士の装備の改良があったとされている。

 なお、ブケパロスもアレクサンドロスの愛馬として知られている。


【ラグナル・ロズブローク】


 獣の毛皮のマントで矢玉を弾きつつ、剣と斧によって暴虐以外の何物でもない猛攻を仕掛けるヴァイキングの英霊。

 元ネタはヴァイキング時代のサガ(古ノルド語による散文作品)に記述されているヴァイキング。イングランドやフランスの各所を侵略・支配したと言われている。ヴァイキングの王として、後世において紛うことなき英雄として認められている。

 彼のした行動は史実に残っているものの、全ての出来事をつなぎ合わせることは困難。

 それ故に様々な人物を混ぜて作られた伝説の人物であるという説まである。

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